妖刀ムラマサ。それは葛葉一族が一人前のデビルサマナーになった者に最初に餞別として渡す刀であり、魔を断つことができる力を秘めた刀だった。
俺から死神オルクスは貫通効果がない物理攻撃は通らないという話を聞いていたが、もしかしたら、という思いが14代目にはずっとあったようだ。
試したいから、と一撃いれた14代目に驚いた俺は、プラズマソードですら火傷を負わせることはもちろん傷一つつけることができなかった死神オルクスが絶叫しているのを目撃した。
「物理吸収を貫通した......ッ!?」
「どうやら妖刀ムラマサの切れ味の方が上みたいだね。これはいけそうだ」
安倍さんはそういって式札を出した。
「式将来•方相氏」
それは、古代中国の伝承に登場する鬼神、大晦日や節分に行われる追儺式、即ち鬼やらいの時に魔や鬼を払う為に先陣をきるために招来する異形の神の名だった。
また、天皇・親王・太政大臣の葬送の際には棺を載せた車の先導をも務める。
黄金で出来た四つ目の仮面を被り、玄衣(黒い衣)に朱の裳を着用し、手には鬼を斬る大きな刀や矛・盾を持ち、疫鬼等を追い払うという。
追儺会の鬼、四つ目の方相氏の霊力を借り、邪妖を討ち祓う力を14代目に付与する。これで攻撃力が上昇した。14代目は安倍さんにお礼をいうとそのまま走り出す。懐から試験官のようなものを取り出した。
あれが噂の管使いたる所以か。あの中で波打つあの蛍光色のエネルギー体そのものが14代目が使役する悪魔の構成情報であり、悪魔を再構成することで召喚することができるという。
まずは悪魔が抵抗できなくなるまで滅多打ちにして、隙を狙って管の中に封じてしまうというなかなかに強引なやり方で悪魔を入手する。
もちろん管の中では構成要素の情報ごとマグネタイトになるまで分解されてしまうため、大抵の悪魔はいうことを聞くようになるようだ。
ただ、やり方がやり方だけに最初は忠誠度が0で、寝首をかかれることもある。だがコミュニケーションをとったり、共に戦ううちに打ち解けていき、忠誠度が上がるそうだ。
そういう意味ではCOMPも悪魔を電気に変換することで保管しているわけだから管と何ら変わらないわけだが、交渉しないといけないのは一長一短かもしれないと思う。
あまりにも実力差がありすぎると悪魔から命乞いからの仲魔になるパターンを見たことがあるから、14代目はそんな感じなのかもしれない。
「来い、蛮力オニ」
管が開放され、封じられていた悪魔が姿を表した。大きな棍棒を振りまわし、悪魔は咆哮する。
「地獄より、呼ばれて オニ、参上!なんだなんだ、いきなり戦場ど真ん中じゃねえかヨォッ!水クセェなあ、もっとはやく呼びやがれッ!!」
このオニは14代目が気にいっているようだ。忠誠度もなかなか高そうである。
「力を貸せ」
14代目はそれだけいうとオニに妖刀ムラマサをみせた。にやりとオニは笑う。なにをするつもりなんだろうか。
「よし来た、お前に力をくれてやる!外すなよ!」
「無論だ」
オニから力が譲渡された力が14代目にさらなる力を付与する。
「風魔神斬ッ!!」
衝撃属性をまとった回転斬りが炸裂した。死神オルクスが今までになく大きな悲鳴をあげる。そして、吹き荒れた暴風に似たマグネタイトの斬撃はいとも容易くその結界と同化していたはずの死神を貫通した。そこからマグネタイトの蛍光色の光が溢れ出す。こちら側に流れてきた光はきえていく。
ライドウはオニと共にふたたび妖刀ムラマサで合体攻撃の耐性に入った。
「すごい......!これが14代目葛葉ライドウ......!!」
「そういうことだね。ハルアキ、まだ、余力はあるかい?ライドウを支援してやってくれないかな。サポートは僕に任せて」
「あんまり余裕はありませんが、なんとか......」
俺はCOMPを確認する。さいわい現実世界と異界が一時的に繋がっているおかげで悪魔たちの顕現に必要なマグネタイトの量がかなり小さくなっている。俺の世界にいた頃まで軽減されているようだ。おかげで一人でここまでたちまわれたわけだが、マグネタイトだって有限では断じてない。それでも戦えないことはないのだ。
「よし、もう一踏ん張りだ、ケツアルカトル」
俺はいつも制限をかけている召喚のリミッターを一時的に解除した。ケツアルカトルは完全な実体を得るまでマグネタイトが十二分に補給されていく。ケツアルカトルは驚いたように俺を見た。
「ンンッ?イイノカ、ハルアキ?コチラノ世界デ完全ニ実体化シタラ、オマエマグネタイト吹キトブゾ?」
「最後だからいいんだよ、これで倒せなきゃどのみち詰みだ」
「ワカッタッ!終ワリイヤダカラ、終ワラセテヤルッ!アオーンッ!!」
ケツアルカトルはようやく本気を出すことが出来ると笑った。
「マハザンダインッ!!」
14代目の入れた亀裂が一気に裂けていく。死神オルクスの体の一部が弾け飛び、またマグネタイトが光のように四散した。あたりが眩しい光につつまれる。八角ドーム全体が軋む。結界と一体化していたために、少なからず亀裂が入ってしまったようだ。だが、剥がれた場所さえできればこちらのものである。
ケツアルカトルが14代目とオニを乗せて飛翔する。
「これで、終いだ」
14代目は風をまとった妖刀ムラマサで死神オルクスを一閃する。八角ドーム上空が光の爆発に呑まれていく。俺は思わず目を閉じた。たってられないほどの揺れが俺たちを襲った。倒壊するんじゃないかとヒヤヒヤしたが、安倍さんが平気そうなあたり結界は無事なんだろう。それだけで安心感が違う。
俺は目眩がして、思わず膝をついた。
「えっ、ハルアキッ!?大丈夫かい?」
「あ、いや、はい、大丈夫です。ちょっと魔力を使いすぎました、あはは......」
ライドウたちが着地したのをみとどけて、ケツアルカトルを帰還させた俺はそのまま床に転がった。
「すいません、マグネタイト尽きちゃいました。もう悪魔召喚できないです......なんか気が抜けちゃったのかな、あははは......」
「無理をさせてしまってすまない、ハルアキ。ここで待っていてくれ」
「そうだね、ここから先は僕らがいってくるよ。きみのおかげでまだ余裕があるしね」
「お願いします......」
『ハルアキを1人にするのは心配だな、俺がついていてやろう。星命、あとは頼んだぞ』
「ありがとう、ゴウト。うちのハルアキをよろしくね」
「そちらこそな」
「うん、わかってるよ。もちろん。じゃあ......」
「いくか」
安倍さんと14代目が扉の向こうに向かうのを見届けて、俺は息を吐いたのだった。どうか無事でありますよう、とこの世界にいるかわからないメシア教の救世主に俺は祈ったのだった。