鋼鉄のように凍てついた扉の向こう側は、ブリキのようにかたくなった床、螺旋階段、そして壁一面が硝子板をしいたように凍っていた。天井は水面が完全に結氷して陸地のようだ。今にも落ちてきそうなほど巨大な氷柱が無数に敷き詰められていて、手すりは白粉でもふりかけたように、霜の結晶でキラキラに光った。空間全体が寒さのために凍り果てて、触れ合えば石のように音を立てる。イシュタムの凍てついた風がすべてを凍らせてしまったのだ。
「めんどくせえ妨害工作しやがって」
キョウジの七星剣がイラついたように氷柱を一掃した。これで落ちてくる心配はなくなった。
「どこまでいきやがった?」
「あそこだね、凍らせながら降りてるよ」
イシュタムを連れたダークサマナーが星命の使役する式神たちに保護された招待客たちをおいかけて螺旋階段を降っている。一階の出口に殺到しているはずの招待客たちをもろとも冥府に送るつもりのようだ。
「作戦はどうあがいても失敗なのに諦めが悪いなァ......」
手すりの向こう側で場所を補足した星命はライドウたちに知らせる。
「星命、ダークサマナーとの距離は?どれくらいだ?」
「まだ距離はあるみたいだけど、長くは持たないよ。さすがに250体も同時に使役してると精度が落ちる。トラエストを発動するには僕のマグネタイトが足りなさすぎるんだ」
さすがの星命もライドウのサポートをしながら招待客たちを脱出させる作業には限界が見え始めていたようで、止まらない汗を拭った。
「ああくそ、めんどくせえッ!」
キョウジが手すりに乗った瞬間、ライドウが懐から銃を抜いた。
ライドウが使用しているのはコルトM1877ライトニング。コルトパテントファイヤーアームズ社で製造されたダブルアクションリボルバーだ。1877年1月から1909年まで製造された、大正20年においてもかなり古い銃である。
ビリー・ザ・キッドの愛用拳銃としても有名であり、コルト社がコルトSAA(シングルアクションアーミー)の成功におごらずに、ライバルのS&W(スミス&ウェッスン)の対抗馬として開発したDA(ダブルアクション)の6連発リボルバーでもある。
引き金を引くだけで、弾倉が回転して、次弾の発射が可能になる、というリボルバーだ。コルト社の創業者であるサミュエル・コルトはダブルアクションを嫌っていたと言われているが、コルト社としては営業を考えて、このダブルアクション拳銃を開発した。
装弾数は6発。悪魔にも有効なよう特別な加工がされているものや合体攻撃に対応しているものがある。いずれも金王屋でとりあつかわれているものだ。
「来い、紅蓮属オシチ」
新たに召喚されたのは頭部は女性、身体は真っ赤な鳥という姿の悪魔だった。火炎属性に特化した相性・スキル
優秀な防御相性や愛嬌のある姿・アクションからデビルサマナーの間ではしばしば仲魔として愛好されているのだが、ライドウは明らかにその優秀さをかっているんだろうことは明らかだった。
「また会えて嬉しいでありんす、ライ様......ッ!!わちきがお慕いするのはあんさんだけでありんすぇ!」
「力を貸せ」
「ご一緒できて嬉しいでありんす。今度ご褒美に銀座でデェトしてくんなまし」
「もちろんだ」
オシチは歓声を上げて、その力をライドウのライトニングに付与する。
「火炎弾」
連射された弾丸が紅蓮の炎を纏いながらイシュタムの頭部に直撃する。背後から弱点を突かれたイシュタムはその場から動けなくなってしまった。
「よく当てたね、ライドウ」
「自分では間に合わない、キョウジ、頼んだ」
「言われなくてもわかってるっての!!」
螺旋階段の手すりに手をかけたキョウジが一気に下に降りていく。そして管を抜いた。
「ソドムゴモラ、一気に焼き尽くしちまえ!!」
七星剣が重力による支援を受けて加速度的に落下していく。
「星命」
「なんだい?」
「またキョウジ死なないか」
「さすがに呪詛返しの式神つけてあげたよ、蘇生するの面倒だもの」
「そうか、ならいい」
「ただ、代わりに僕の式神ないんだよね。だから僕はここまでみたいだ。式神の操作に集中したいから、あとは頑張って」
「わかった」
「生きて帰りなね、さすがにもうマグネタイトが限界だ」
「もちろん」
「ちょっとまって、ここからはサポートしてあげられないからここでかけてあげるよ。七星降臨護方陣」
新たな式札がライドウに加護を与えてくれた。
「これは?」
「陰陽を定める星宿の権威である北斗の七星神の力で邪を粛殺する。はやい話がライドウと仲魔の攻撃力、魔力の上昇だよ。これで物理攻撃も万能属性にかわる。ないよりはマシだろう」
「ありがとう、助かる」
「お礼は全部終わったらでいいよ。頑張って」
「わかった」
うなずいたライドウはキョウジをならって手すりを飛び越えて螺旋階段を一気に落ちていく。星命はそれを見送りながら、2人が間に合うまで式神の使役に集中すべく目を閉じたのだった。