流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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プロローグ3-神田明神にて2

赤い覆面、赤い甲冑、赤い外套、そして赤い軍服に身を包んだ謎の憲兵が二人、こちらに近づいてくる。ゾンビーケンペイは軍刀と銃を持っているのだが、こちらの憲兵は明らかに重装備だった。

 

「我々ノ邪魔ヲスルナ」

 

それはあまりにも無機質かつ無感情な言葉の羅列だった。俺たちの行手を阻むように立ち塞がり、一糸乱れぬ同調した動きで片方は銃を構え、片方は抜刀する。

 

「今スグココカラタチサレ」

 

「タチサレ」

 

「此レハ、警告デアル」

 

「直チニ撤退セヨ」

 

「サモナクバ......」

 

赤いマスクの向こう側から抑揚のないくぐもった声が俺たちに向けられる。

 

正体不明、性別不明の憲兵たちは普通の人間一人では到底携行できないような非常に重く大型の機関銃を悠々と持ち運んでいる。そして俺を見るなり素早く三脚を展開し始める。

 

「邪魔者ハ排除スル」

 

あんなものを広域掃射されたら最後蜂の巣になるのは目に見えていた。俺はあわててソロネを引っ込めて憲兵たちの後ろにまわり、首のあたりを切りつけた。

 

甲冑のあいまを狙った。感触はあった。相手は生身だ、人間かどうかはわからないがここ数ヶ月散々掃討してきたゾンビーみたいな手応えがある。間違いない、こいつは新手の屍鬼に違いない。

 

かなり深く入ったのに血は出ない。かわりに四散するのは蛍光色の光、マグネタイトだ。反応がないあたり知性がないのか、とんでもない寡黙なのか、はたまた痛覚そのものがないのかはわからなかった。

 

その代わりに淡々と真っ赤な憲兵は反撃に転じてきた。

 

「硬いなッ!?」

 

火花が散る。ダメージは通ったようだが手応えがない。どうやら甲冑は悪魔由来のものではないらしい。貫通効果が無効にされたということは純粋に強固な金属でできているのだろう。生半可な硬さではない。これはあれか、神話に出てくるような超金属だろうか。俺は退魔刀ではなくプラズマソードを抜いた。純粋な破壊力ならこちらの方が上だ。

 

赤い尾を引いて突進してきた憲兵から

打ち下ろされた剣光をプラズマソードでうける。だが常人離れした激突の衝撃を殺しきれず、ずるずると後退してしまう。距離を取ろうとした隙を狙ってか憲兵は足を振り上げた。

 

「ぐっ」

 

強烈な回し蹴りだった。プラズマソードから激しい火花が散る。なんとか手放すことだけは免れたが、カミソリの如く重く鋭い回し蹴りだ。俺はたまらず後ろに後退した。足はプラズマソードで火傷を負ったはずだが威力が衰える気配がない。いよいよ痛覚が遮断されている気配がしてきた。

 

「うわっ」

 

味方もろとも平気で射程にいれた状態で機関銃の援護射撃が飛んでくる。俺はあわてて機関銃の後ろに回り込む。あれはだめだ、まともに受けたら俺が死ぬ。

 

機関銃の打ち合いのような絶え間ない音があたりに響き渡り、境内のあらゆるものを破壊していく。それが重機関銃も本物なのだと教えていた。そのわりに弾丸が尽きる気配がないのは理不尽極まりないが逃げるしかない。

 

味方を巻き込んでいるくせにその味方は平然と立ち回っていることから、やはり真っ赤な憲兵は異様なほどに硬い敵なのだろう。人間ではなさそうだ。

 

すぐ真横でバラバラと機関銃の一斉射撃を受けているような音が続いている。俺は生きた心地がしなかった。

 

敵は冷静にこちらを観察している。爆撃機の機関銃手のような、静かな一対の目を持っていた。どこまでも注意深く俺に標準を合わせようとしてくる。

撃った機関銃の反動で肩に衝撃が走ると同時に、乾いた音が響く。

 

すさまじい機関銃声が起こった。それはもうひとりの銃による攻撃と援護射撃が錯綜し、雹の降るように入り乱れる。

 

「ああクソ、面倒くさいなッ!!」

 

蜂の巣になっていく境内の施設に身を隠しながら、俺は相手の弱点を探るべくCOMPを探る。

 

「ケツアルカトル、来てくれ」

 

「アオーンッ!!アッオーンッ!会イタカッタゾ、ハルアキッ!!オレサマヨンダカ、ハルアキッ?」

 

「頼む、ケツアルカトル。敵の弱点を探りたいんだ。銃乱射されて近づけない。手伝ってくれ」

 

「マッカデ強ソウ!!オレサマモ強ソウ!!ドッチガ強ソウカ勝負ダッ!!」

 

やる気充分なケツアルカトルは銃撃に耐性、物理攻撃には反射があるからと壁になりながら、魔法の全体攻撃で弱点を探ってくれる。俺も呪詛や祝福属性の魔法を放ってみるがいまいち反応がないあたり、耐性があるか弱点ではないようだ。

 

あとはケツアルカトルが引き当ててくれるのを支援するため、俺は回復に徹することにする。

 

「アッオーンッ!!狩リノ時間ダ!!」

 

ケツアルカトルの放ったマハブフダインが真っ赤な憲兵を一瞬で氷結させた。真っ白になった瞬間に全ての攻撃が停止して動かなくなってしまう。大ダメージが入ったのか、あれだけ雨あられだった重機関銃の砲撃が止んだ。

 

「しめた、氷結弱点か」

 

「オレサマゴキゲンッ!!ハルアキ、ホメロッ!」

 

「ありがとう、ケツアルカトル。さすがだなあ」

 

「アッオーン!!」

 

ようやく通った攻撃にテンションが上がったのかケツアルカトルがマハブフダインを連発しはじめる。

 

真っ赤な憲兵は二体とも固まったまま動かない。これはいけるだろうか、と俺はケツアルカトルのmpを管理してやりながら様子をうかがった。

 

遠くから足音が聞こえてくる。俺は振り返った。

 

「───────!?」

 

どこからともなく歩兵が現れ、軍刀を抜いたのだ。一人ではない、十人でもない、一心不乱に歩く軍隊の行進だった。隊列は淀みなくこちらに進んでくる。ここまでくると数は力だ。暴力的ですらある。これは過剰にもほどがある増援だということは明らかだった。

 

「囲まれたらまずい、逃げようケツアルカトル。戻ってくれ」

 

俺はあわてて不満をこぼすケツアルカトルをCOMPに戻し、アイテムを探る。氷結が溶けてしまったのか、また重機関銃の掃討が再開してしまう。俺は離脱するために地面めがけてアイテムを投げつける。

 

破裂音がする。勢いよく煙幕があたりに広がっていき、視界は一瞬にして真っ白になった。そして俺は急いで神田明神から離脱したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

必死で大通りを目指した俺は喧騒の只中に飛び込んだ。元来た道を振り返ってみるが赤い憲兵たちの姿はない。警告通り神田明神から離脱すれば見逃してやるということのようだ。上がる息を整えるために歩道の隅によると、不思議そうにチラ見こそしてくるがすぐに通行人たちは無関心になっていった。

 

「......あーよかった、助かったぁ。死ぬかと思った」

 

今回は完全にこちらの準備不足だった。まさか平将門公のお膝元である神田明神が敵の拠点の一つだなんて思わないじゃないか。この様子だと首塚あたりも怪しいかも知れない。

 

さすがに将門公の仕業ではないと思いたいが、次に乗り込むときには戦力を大幅に強化しないといけないだろう。物理無効か吸収のスキルをもつ悪魔が急務だ、あれだけの敵相手に大立ち回りするにはマグネタイトがいくらあっても足りない。

 

そんなことを考えながら息を吐く。思い切り走ったせいで無性に喉が乾いてしまった。近くのカフェーかなにかに入って休もうと看板を探す。

 

若い客で賑わっているカフェーを見つけた俺はそちらに向かったのだった。

 

「ねえ、聞いた?また出たんですって、赤マント」

 

「本当に?怖いわ、福井県から東京に逃げてきたっていう噂は本当だったのね?」

 

「そうみたい。嫌だわ......ただでさえカフェーにケーキを遊びに行くのもいい顔をされないのに、赤マントの噂がお父様の耳に入ったらこうしてゆっくりお茶することもできなくなる」

 

「凛のお父様は凛のことが心配なのよ、きっと」

 

「伽耶のいうこともわかるんだけど、このままじゃ伽耶のお誕生日も近いのにお祝いすることもできなくなってしまうわ」

 

「いらっしゃいませ、おひとりですか?」

 

「ああ、はい」

 

「申し訳ございません、ただいま店内が大変こみあっておりまして......。相席でもよろしいですか?」

 

「俺はかまいませんよ、相手が構わないならそれで」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

「あら?」

 

「あ......」

 

「ハルアキさん?」

 

「り、凛......ハルアキさん、誰かと待ち合わせしているのではないかしら。邪魔をしてはいけないわ」

 

「それはないと思うわ、伽耶。ハルアキさん、相席がどうとか話をしていたもの」

 

「もう......凛......」

 

「あれ、凛さんに伽耶さんじゃないですか。こんにちは」

 

「こんにちは、ハルアキさんもお茶しにこられたんですか?それとも誰かと待ち合わせ?」

 

「俺ですか?俺はそうですね、少し休憩でもと思って」

 

「それならちょうどよかったわ、私たちもそうなの。どうぞ」

 

「え、いいんですか?」

 

「はい。ねえ、伽耶?」

 

「あ、は、はい......」

 

「それならお言葉に甘えて」

 

俺は女学生ふたりのいる席に相席させてもらうことにしたのだった。

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