「いやあ、悪いね、ハルアキ君。買い置きが切れちゃって困ってたところなんだよ。ありがたくいただきます」
不二子パーラーのケーキと合うコーヒーを持っていったら、珍しく一人事務所にいた鳴海さんが喜んでくれてよかった。
「鳴海さんお一人なんですね、今日は。学校ですか、14代目は」
「んー、そうならよかったんだけどねぇ。ライドウのやつ、定期報告会があるってゴウトちゃんと一緒に葛葉の里に帰っちゃっててさあ。一週間程って聞いてるから、えーっとあと5日かァ。ライドウに用があるなら、改めてもらえるとありがたいんだけど」
「ああ、そうなんですね。14代目への用事は日を改めます。電話しておけばよかったですね、ケーキ余っちゃいました」
「まあそういうこともあるさ、仕方ない仕方ない。ライドウが不在の時の方が珍しいしなァ。ハルアキ君もそのつもりで来たんだろ?まあ、こちらで何とかするから気にしないでくれ」
「わかりました。鳴海さんへの用事だけですね」
「ええと、その口ぶりからさっするにヤタガラスの情報局からなにかお使い頼まれてる感じ?」
「はい、お察しのとおりです。端的にいうとこれについてなんですが......」
「えーっとなになに、陸軍への調査協力依頼......うわあ......勘弁してくれよ、ハルアキ君。俺たしかに元陸軍の諜報部にいたけどさあ、見ての通りむいてなくて首になっちゃった人間だぜ?しかも除隊されて数十年でもないから当時の同期や上司は昇進してると思うし、めっちゃ顔覚えられてるし。足引っ張るだけだと思うんだけどなあ」
「俺に言われても......安倍さんにいってもらえませんか、鳴海さん」
「あー、まあそうなんだけど。ハルアキ君も大変だなあ、あっちこっちにお使いお疲れさん。まあうん、それっぽいことまとめとくから、ライドウ尋ねてきたら渡すわ、資料」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「りょーかい。あ、そうそう、俺が昔陸軍諜報部にいたこと、まだライドウに話してないんだ。だからそこんとこよろしく。どーもヤタガラスに拾ってもらってから今の仕事やってるんだけどさ、ぶっちゃけライドウが始めてなんだよ、監査役。まだ手探りなとこあるんだ」
「そうなんですね、わかりました」
「そーいうわけでさ、次からは電話で是非ともアポとってほしいな。ライドウに聞かれちゃまずいこともあるだろうし」
「それもそうですね......。そこまで頭が回ってなかったです、ごめんなさい」
「いーっていーって、ハルアキ君もこっちきてまだ半年だもんな。お互い初心者みたいなもんだから、緩くいこうぜ」
鳴海さんはそういって笑ったのだが、少し声をひそめるようにして聞いてきた。
「そーいやさ、ハルアキ君」
「はい?」
「ヤタガラスの情報局ってやっぱダークサマナーが予言した災厄ってやつの首謀者、宗像陸軍少将だと思ってんのかね?」
「ダークサマナーが直接暗殺しようとした事実がありますしね......」
「だよなあ......」
「ただ、ヤタガラスは鳴海さんご存知の通り、軍と繋がりが全くないので、ダークサマナーのブラフなのかすらわからなくて困っているようなんです。帝都にゾンビーが溢れかえっているのは知っていると思いますが、あちらも被害が出ているのに原因がわからなくて困っているらしいので、どうにか情報提供の見返りに接触できないか考えているみたいですよ」
「あー、なるほどね。だから俺にまで話が回ってくるわけかあ。よっぽど困ってんだな、ヤタガラス」
「俺も安倍さんに頼まれてゾンビーの調査をしているんで、猫の手も借りたい状態なのは間違い無いですね」
「そうか、そうか。そうだよな、さすがにヤタガラスだっていきなり処罰の対象にはしないか」
「......もしかして、古馴染みなんですか?」
「昔、お世話になったことがあってさ......」
「ああ......」
「まあ、あの人にかぎってそんなことあるわけないけどな。あの人ほどこの国の事考えてる人はいないんだから。なんかの間違いであって欲しいもんだ。っつーわけで、まあ俺のできる範囲で協力はさせてもらうよ。さすがに宗像少将には顔が割れてるから調査関係は今回パスさせてもらうけどな」
のらりくらりかわしてるはずの鳴海さんが宗像少将について触れたとたんやけに饒舌になった。もしかしたら鳴海さんは宗像少将の元部下だったりするんだろうか、とふと思う。そうだとしたら、安倍さんが公式な依頼じゃなくてお願いという形で俺にお使いを頼んだ理由がわかった気がした。
「安倍さんの個人的なお願いなので、そんなに構えなくても大丈夫ですよ、鳴海さん」
「あはは、だよな。正式な依頼だったらヤタガラスの使者からくるんだっけか、悪い悪い」
あからさまにホッとした様子の鳴海さんである。もしもの事態に発展してしまったら、情報を握り潰される可能性があるなあと俺はぼんやり思ったのだった。