流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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消えた資産家令嬢1

使用人の女性に呼ばれて別邸の応接間にやってきた俺は、警察だとわかる身分証を提示してくるハンチング帽の男性に一礼して座るよう促した。

 

すでにコーヒーが準備してある。使用人の女性が去っていく。俺はさっそく要件を聞いた。

 

「3日前、ですか?ああ、はい。たしかに見ましたよ。というか、たまたまカフェーが満席で相席させてもらいました。二人になにかあったんですか?」

 

「そのまさかなんだよ。そん時になにか話しちゃいなかったかい?」

 

「そうですね、伽耶さんの誕生日をお祝いするんだっていってましたよ。筑土町の不二子パーラーで。あとはそうだな、桜蘭女学院が赤マントの騒動や誘拐事件を重く見て送迎を女生徒たちに通達したとか。伽耶さんは特に怖がっていましたね」

 

「ふむ......やっぱり不二子パーラーにいたのは間違いないと」

 

「ご両親か使用人が迎えにきたんではないんですか?ご両親の説得に苦労したと凛さんはいってましたが」  

 

「そうなんだよ、そこが問題なんだ」

 

「え?」

 

「すっかり塞ぎ込んで部屋から出てこないってんで直接話は聞けなかったんだが、叔父の清さんの話だと、不二子パーラーでちょっとした言い合いになっちまったらしくてな。そのまま凛さんはお屋敷に帰っちまったそうなんだ。でも、凛さんは追いかけてこなかった。大道寺家の使用人が伽耶さんから話を聞いて凛さんのおうちに連絡いれて、凛さんとこの使用人が迎えにいく。普通に考えるなら、資産家令嬢の女学生がひとりなんて危ない。不二子パーラーで待つだろ?だが、不二子パーラーの店員の話が本当なら、2人の女学生が橋の方に走っていくのは見えたが、帰ってきちゃいないという。昼間だぜ?橋の上でなにか喧嘩してる女生徒たちをみた人はたくさんいるのに、おいてかれたはずの凛さんのその後を見た人が誰もいないってのはさすがにおかしいだろう?」

 

「たしかに」

 

「ただでさえあの橋は前から誘拐事件が後を経たない曰く付きの橋でなあ。使用人が探しても見つからず、夜になっても連絡がないものだから、うちに捜索願が出たってわけだ」

 

「凛さんが行方不明......?」

 

「そう、だから俺は話を聞きにきたってわけだ。どんな些細なことでもいいから話してくれねえか?」

 

「どんなこと、といわれましても......うーん」

 

風間と名乗った刑事の話を聞きながら、俺の頭の中は徐々に濃い靄に覆われていく。思考がうまく働かず、まるで内容が理解できない。刑事の言葉がどんどん小さくなっていく。五感が受ける情報のすべてが急激に遠ざかっていく。体中の力が抜けていく。

 

風間刑事の長い指には、健康そうな爪がついていた。癖なのか、その爪先を指の腹に突き立て、深い爪のあとを残している。

 

風間刑事は俺の動揺をみて、心中をさっしてくれたのか、肩をたたいてきた。

 

「凛さんも伽耶さんも、15とは思えないほどしっかりした女性です。自分が誘拐されかねない立場なのも、危険に晒されたらあぶないことなのもよくわかっている。一人になったときどうすべきか知っているはずの凛さんが衝動的になにかをするってことは、そうとう追い詰められるなにかがあったのではないでしょうか。大道寺さんは喧嘩の理由はなんと?」

 

「さすがに思春期の女の子の喧嘩の理由は聞きにくいってんで、まだ話は聞けてねえんだな、これが。自分のせいで誘拐されちまったんじゃねえかと気が気じゃないそうだ。下手したら自死しかねんから、何もない奥の部屋でこもってるそうだ」

 

「ああ......伽耶さんは凛さんが親子喧嘩をしてまで誕生日祝いをしてくれることを気にしていましたからね......」

 

「そうなのかい?凛さんとこの親父さんの取り乱しようもすごくてな」

 

「まさか伽耶さんのせいだって?」

 

「いやいや、奥さんがあんたのせいだと旦那さんに掴みかかるなり叫んで大騒ぎよ。おかげでゆっくり話がまだ聞けてなくてな」

 

「そうなんですか。実はですね、はじめは銀座でやりたかったのをお父さんに却下されたと聞きましたよ。お迎えを渋られたと。筑土町なら伽耶さんのお屋敷のすぐ側だからと許可をとれたと」

 

「ああ、だから伽耶さんとこに連絡もらってやっと使用人を寄越してきたのか......。使用人を使いに出す手間を惜しんで娘が行方不明になっちゃ世話ないな......。ありゃ奥さんが知らない間に旦那さんが勝手に話を進めてたな。奥さんは旦那さんのそういうところに前々から不満があったようで、大爆発しちまったわけだ」

 

風間刑事は苦い顔をする。

 

「忽然と人が消える。ほんとここ数年多すぎんだよな、これ。事故か事件かすらわからない。いくら現場を洗っても、目撃情報を探しても、ふとした拍子に人が消えたとなっちゃ商売あがったりだぜ」

 

「そうなんですか......」

 

「そうなんだよ。だが今回は大人じゃなくて15の女学生だ。しかも桜蘭女学院に通う令嬢、捜索願も出されてる。刑事部はやる気十分だからな。なにか思い出したら、ささいなことでもいいから教えてくれ」

 

まさか、その翌日に伽耶さんが行方不明になったと聞かされることになるとは知らないまま、俺は風間刑事から連絡先を受け取ったのだった。

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