丑込め返り橋橋(うしごめかえりばし)は、富士見二丁目から新宿区の神楽坂に通じる早稲田通りにある橋だ。
江戸城外郭門の一つ丑込め返り門のあった場所であり、そこから名付けられた。江戸時代は、田安門から上州道への要衝にあたり、別名「楓の御門」とも呼ばれていた。
この丑込め返り橋見附は外堀が完成した1636年に阿波徳島藩蜂須賀忠英(松平阿波守)によって石垣が建設された。これを示すように石垣の一部に「松平阿波守」と刻まれた石が発見され、向い側の石垣の脇に保存されている。
江戸城の外郭門は、敵の進入を発見し、防ぐために「見附」と呼ばれ、足元の図のように二つの門を直角に配置した「枡形門」という形式をとっていた。
江戸時代の丑込め返り橋見附は田安門を起点とする「上州道」の出口といった交通の拠点であり、 また周辺には楓が植えられ秋の紅葉時にはとても見事であったといわれている。
その後、明治35年に石垣の大部分が撤去されたが、下図のように現在でも道路を挟んだ両側の石垣や橋台の石垣が残されている。
この見附は、江戸城外堀跡の見附の中でも、最も良く当時の面影を残しており、今でも橋の手前(千代田区側)の左側に枡形の石垣の一部が残っている。現在は、わずかに石垣の一部が道路の両側に対の形で残されている。
足元には、かっての丑込め返り橋見附の跡をイメージし、舗装の一部に取り入れている。
「うーん......」
念入りに周辺を見渡してみたが、魔断震らしきものを見つけることができなかった。凛さんが忽然と姿を消したということは、異界に飲まれたのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。サイガ子爵が強化した明治政府の結界が破られた形跡もないとなると、凛さんが拉致されたのは悪魔がらみの事件ではないのだろうか。
にしては、目撃者が皆無なのはおかしい。記憶を操作する魔術が大規模な形で使われたのかもしれないが、その痕跡がないのはおかしいのひとことにつきる。
橋の傍でそんなことを考えながら川の流れを見ていると、後ろから声をかけられた。
「......まったく、暇つぶしにもならぬ。ハルアキ、我が力を振るうべき相手はどこにいる」
苛立ち気味に単独調査に出ていたジークフリードが帰ってきた。
「収穫なしだ、これくらいしかない」
投げて寄越してきたのはアイテムだ。
「どこかの悪魔召喚士が落としたのだろう?」
「そうだな、凛さんとは関係なさそうだ」
ただでさえこの道は帝都中の悪魔召喚士が悪魔合体をしにヴィクトルを尋ねるときに、駅から必ず通る場所なのだ。ついでに金王屋で買い物することもあるだろう。たしか取扱があったはずだ。
「安倍さんの報告まちかな」
「仕方あるまい.....そこの甘味処で手を打ってやる」
「不二子パーラーか?あー、たしかにあそこからホントに見えないか確かめないといけないな」
「だろう。ハルアキ、さっさと用事を済ませるぞ。鳴海探偵事務所にいくのだろう」
「そうだな、収穫がなかったのが大きな収穫だ。あっちもなにかヤタガラスの使者から司令が出ているかもしれないしな」
俺たちは鳴海探偵事務所に向かったのだった。
「どわっ!?」
鳴海さんの机にあったマッチ棒の金閣寺が大破した。
「あああっ!?なんつーことしてくれてんだよ、ゴウトちゃん!?」
『ああ、すまん。わざとではないのだ。猫の本能に......いや、そうではなくてだな』
「ゴウト、いい訳はよくない。鳴海さんに謝るべきだ」
『し、しかしだな......』
「ゴウト」
『ぬう......すまんかった、鳴海よ』
鳴海さんはゴウトの声は聞こえないものの14代目に捕獲されて身動きが取れない状態でうにゃうにゃいっているゴウトをみて肩を竦めた。
「あー、はいはい、わかった、完全に理解した。これあれだろ、ゴウトちゃんはごめんなさい鳴海さまっていってんだな、ライドウ?」
「はい」
「よーし、なら許す」
「よかったな、ゴウト」
14代目がゴウトを離した途端、ゴウトは素早く2人から距離をとる。
「様とはいってないようだが」
ジークフリードの独り言に俺は笑ってしまう。
「おーい、ゴウトちゃん大丈夫だって。もう怒ってないからさー、ほらおいで......って、あ、誰かと思ったらハルアキ君じゃないか。もうそんな時間かあ。ほら座って座って。ライドウ、お前にお客さんだ、5日前に1回来てくれたんだけどさ、お前いなかっただろ?出直してくれって頼んでたとこなんだよ。コーヒー入れてくれ」
「コーヒー、ですか?たしか、切らして......」
「あー大丈夫、大丈夫。ハルアキ君がそんとき差し入れしてくれたのがまだあるからさ」
「そう、ですか......。ハルアキ、ありがとう」
「こちらこそ。ではお邪魔しますね」
俺は鳴海さんにいわれるがまま、ふかふかのソファに座った。14代目がコーヒーを入れに給湯室に向かったのを見届けてから、散らばっているマッチ棒を適当に集めながら鳴海さんは机をあちこち探し始めた。
「あったあった、これだ。はい、ハルアキ君。これヤタガラスの情報局に提出する書類ね、あとはよろしく!」
「ありがとうございます、たしかに」
ちら、と中身を確認するとなにか書いてあるのは読み取れた。俺は早速封筒ごとカバンに入れた。
『ヤタガラスに出す書類だと......?鳴海のやつ、仕事をちゃんとするところなど始めてみた......明日は槍でも降るのか?』
窓際に避難しているゴウトが夕焼け空を見上げていうものだから、俺はつられて笑ってしまった。
「え、なになに、なに笑ってんだよ、ハルアキ君。ゴウトちゃんがなんかいってんの?」
「明日は槍が振るかもしれないって心配してますね、ゴウト」
「おーいー、ゴウトちゃーん?やめてくれよ、ありもしないことハルアキ君に吹き込むのはさあ!!査定とか監査に響くだろー!?下手したらライドウもろとも給金減らされるかもしれないんだからさー、勘弁してくれよな!?ちゃあんとやるべきことはやってますからね、俺はー!!」
抗議する鳴海さんにゴウトはどこふく風である。
「おい、ライドウもなんかいってくれよ!ゴウトちゃんが俺が働かないっていってるらしくてさ、風評被害なんだけどー!?」
「ゴウト」
『事実をいってなにが悪いのだ、ライドウ。こいつは隙あらば飲みにいって午前様ではないか』
「まあ、たしかにそうだが......」
「ライドウまでー!?心外だなあ、こうしてライドウが居ない時もちゃんと留守番してやったろ?」
散乱する無数のマッチ棒を拾い集めながら鳴海さんはボヤいている。
「鳴海さん、手伝いましょうか?」
「いんや、いいっていいって、こんくらい。ライドウに用事があんだろ、ハルアキ君。はやいとこ済まさないと夜になっちまうぜ」
「そうですか?わかりました」
俺は向かいに座った14代目に5日前に渡しそこねた書類を渡す。
「ゾンビーの調査か......」
「そちらにも指令は降りていますか?」
「ああ、ヤタガラスの使者からも似たような任務を受けたばかりだ。ハルアキの調査はどこまで進んでいる?」
「それは丁度良かったです。俺はですね......」
早速俺はこの5日間の間に特定したゾンビーの目撃情報が多い場所と赤マントの出現場所が一致していること。半年前のパーティ参加者が行方不明者に含まれていること。直近の被害者があのパーティに参加していた女学生のひとりだと伝えた。
「あと被害届は出ていないのですが、凛さんが行方不明になったことを気に病んでか、大道寺伽耶さんが昨日から行方不明がわからな......」
不意に鳴海さんの机の黒電話が鳴った。あまりのタイミングに俺たちは思わずそちらを見る。
「なんつータイミングだよ、おい......」
俺の話に聞き入っていたらしい鳴海さんは咳払いをしてから、受話器をとった。
「もしもし、こちら鳴海探偵事務所......」
そこまでいいかけて鳴海さんの目が見開かれる。俺たちは顔を見合せた。鳴海さんが黒電話の相手に聞こえないよう受話器を抑えながらいうのだ。
「この声は......大道寺伽耶ちゃんだ」