流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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消えた資産家令嬢3

いつしか日が陰って、白く光っていた瓦の屋根が黒ずみ、冷ややかな雨が大地を黒く染め、木の枝は鮮やかな緑色で、雨具に身を包んだ人々は軒先を目指して足早にかけていく。

 

風景の輪郭は雨粒を乗せて霞み、人間の声や車の音は落ち続ける銀の針に角を削られて届く。外は吸い込むように暗い。湿っていて暗い。

 

黒い壁の部分で、細い雨は、はっきりと降っているのがわかる。その屋根の上に灰色の絵具を何度も重ね塗りしたような重そうな雲に被われた空がある。

 

半透明の白い壁のように見える雨が視界を遮るころには、人の姿はぱたりとなくなってしまった。唯一、電燈が輝いていた。雨に光沢を得た樹の葉がその灯の下で数知れない魚鱗のような光を放っている。

 

丑込め返り橋のあたりは、雨にかすんで遠くの幻のようにぼんやりと見える。

 

その真ん中辺りに、人影があった。傘もささずに一人の少女が佇んでいる。そこに傾けられる傘がある。

 

「やっぱりそうだ。さっき電話くれたの大道寺伽耶ちゃんだろう?」

 

傘を持って現れた鳴海探偵事務所の面々に、ずっと俯いていた伽耶の表情はようやく和らいだ。

 

「よ、よかった......来てくれたんですね」

 

「ほら、覚えててくれた。な、いったろ、ライドウ。半年前のパーティでハルアキ君と一緒に介抱してまわったときに顔合わせたことあるんだよ。な?あの時たしか名刺渡したんだ」

 

「はい......鳴海探偵社は、《変わったのが専門》だと聞きました。ハルアキさんのお友達なら、そういう依頼を受けてくれるんじゃないかって、それで......」

 

傘を受け取った伽耶に鳴海は笑った。

 

「御依頼ありがとう、伽耶ちゃん。さっき、友達が危ないっていってたけど、それって凛ちゃんのことだよな?」

 

「はい......」

 

「いったい何があったんだい?」

 

「実は......」

 

伽耶さんが口を開いた、その時だ。

 

「みんな、下がれっ!!」

 

とっさに伽耶さんを庇って橋の隅に飛び退いた鳴海さんの激が飛んだ。

 

「ジークフリードっ!!」

 

俺の叫びにジークフリードが俺たちを庇う形で飛び込んでくる。3~40メートルの距離から投擲されたと思われる手榴弾が俺たちの頭上で爆発したのだ。ジークフリードが爆風をすべてうける壁となってこそくれたものの、その劇烈な爆音と衝撃、閃光は俺たちの五感を一瞬使い物にならなくさせた。

 

14代目の抜刀する音がしたのは、その直後だった。

 

「ザコどもよ、我が血肉となるがいい!」

 

ジークフリードには銃撃も物理攻撃も意味をなさない。物理攻撃を吸収したジークフリードは待ちかねた戦闘に高揚したのかテンションが上がったようだ。

 

「破邪顕正の力、思い知るが良い!」

 

ジークフリードの雄叫びが手榴弾による奇襲をしかけてきた敵に命中する。これで相手の攻撃も魔法もかなり威力が下がったはずだ。

 

ようやく五感が戻ってきた俺は鳴海さんをみた。

 

「大丈夫ですか、立てます?」

 

「俺は大丈夫だが......」

 

伽耶さんは手榴弾の衝撃に驚いたのか気を失ってしまったようだ。

 

「14代目にあとは任せて離脱しましょう」

 

「そうだな、伽耶ちゃんまで攫われちゃ大変だ」

 

伽耶さんをかかえて鳴海さんが立ち上がる。俺は14代目が交戦している相手がいないか警戒しながら先を進んだ。

 

「大丈夫です、鳴海さん。こちらに!」

 

促そうと振り返った俺は、その直後に閃光が走ったのをみた。

 

「鳴海さんっ!?」

 

倒れている鳴海さん、伽耶さんを抱えたまま跳躍し、近くの建物に飛び乗る人影をみた。あわてて近づいてみる。

 

「お、俺のことはいいから、はやく伽耶ちゃんを......」

 

「わ、わかりましたっ!赤マント!?いや、赤い憲兵か!?」

 

護衛に悪魔を鳴海さんにつけて、俺は鳴海さんの指さす方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

俺の放ったマハンマが伽耶さんを攫った新手の敵に命中した。不意をつかれたのか、敵の正体をかくしていた真っ赤な仮面が割れる。

 

「!?」

 

それは人ではなかった。

 

それはふたつの頭に一つの胴体に二つの顔があり、それぞれ反対側を向いていた。頭頂は繋がっており、うなじがなく、胴体のそれぞれに手足があり、膝はあるがひかがみと踵がなかった。力強く軽捷で、左右に剣を帯び、四つの手で二張りの弓矢を用いてこちらに牽制の攻撃をしてくる。四本の腕、身に鎧を着て、四つの手にはそれぞれ鉾・錫杖・斧・八角檜杖を持つ奇怪な姿をした鬼だった。

 

「我はリョウメンスクナなり!」

 

COMPによれば『日本書紀』では怪物として描かれ、仁徳天皇の御代に和邇氏の祖・武振熊命と争い敗れたとされる。 書紀では両腕と両足も前後に二対あったとされ、弓矢と剣をもって現れる。 魔神や大妖とされる一方、土着神として崇拝される側面も持つ。

 

その正体については諸説あるが「大和朝廷による日本列島東側地域への侵略の過程で淘汰された地方豪族が神格化されたもの」という解釈が一般的とされており、後述の仏教の開祖伝承などからも、地元飛騨では英雄視されている。

 

また上述の「仏教を伝えた」という説については、日本への仏教伝来が六世紀前半なのに対して、両面宿儺が討伐されたのは仁徳天皇の在位された四世紀末から五世紀前半であるため、矛盾がある。

 

これについては、「朝敵」として斃された両面宿儺を崇拝する勢力がその後も隠れて信仰を続け、後世に「仏教の保護者」というありがたい肩書をつけることで、再びその存在を世間に認めさせようとしたためと考えられている。

 

「この女は我らが悲願に必要な贄よ!邪魔立てするならば容赦はせぬ!潔く立ち去るが良い!!」

 

「そんなこと出来るわけないだろ!」

 

「お前に興味はない。さらばだ」

 

「まてっ!!」

 

リョウメンスクナと名乗った悪魔は突然姿を消してしまったのだった。

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