「......タラスクという悪魔の見る影もないな」
「これは明らかに誘われていますね」
「そうだな......」
倉庫地下から続いている座敷牢に足を踏み入れたのだが、ツチグモが負けたという大タラスクの姿がどこにも無い。地下水が満ち満ちている鍾乳洞の中は薄暗く、冷え冷えとしていた。
「いってみよう」
14代目の後に続く。
木造の木橋の向こう岸には狭い洞窟上の通路があり、階段が備えられていた。ひとつめの階段を上がったところの踊り場には、あかりのための燭台があり、奇妙な人形が置かれていた。頭巾をかぶった女をかたどった乳飲み子ほどの大きさの人形で、通路を見守るように左右に一体ずつおいてある。
「......これは?」
「......なにか、いますね」
人形の中に悪魔の気配がするのだが、通り過ぎる分には問題ないようだ。俺は14代目に目配せする。
「仕掛けてこないところを見ると、まだ静観しているのか?」
「どうします?」
「いや......先に調べよう。仕掛けてきたらその時はその時だ」
「わかりました」
そして、階段を登りきった先に、10日前まで伽耶さんが閉じ込められていたと思われる座敷牢があった。
しめ縄が不気味に揺れている。牢には全体に御札がびっしりとはりめぐらされていた。
内側から開いているが、鍵自体は壊されたあとがない事がわかった。誰かが鍵を開けて伽耶さんを連れ出したのは間違いない。
中は風呂以外はすべて揃っている。いわば独房のようなものだった。伽耶さんも使ったのか、全体的にホコリっぽくはあるが人間が住むために予め掃除した形跡がある。
「......これは、手帳か?」
「伽耶さんのですかね?」
28日晴れ
この頃、叔父様のご機嫌が悪い。今も電話口で声を荒らげていらっしゃる。私にはなにも心配いらないといっているけれど、相手の方が私に逢いたがってるのは間違いないと思う。商談と引き換えに結婚......?それならまだいいのに......。叔父様も大道寺家のために大変なのだろう、普段はあんなにお優しいのに
4日雨
今朝、お父様が倒れられた。叔父様とお父様が話しているのが聞こえてしまった。お父様が出来ないから叔父様がだなんて......あんまりだわ......なら私が自ら命を絶つべきなのはわかってる......でもできない......怖い......
5日曇り
叔父様から改めて大道寺家の娘にかけられた鬼憑きの呪いの話を聞いた。もうすぐ私16になる。わかってた、わかってたけど怖い......誰か助けて......
7日
牢屋で目が覚める。叔父様の手にはナイフがあったけれど、ナイフを落として叔父様が泣き崩れてしまった。ごめんと抱きしめられたけれど、私も泣くしか出来なかった。どうして......私たちがなにをしたというの......私さえ女に生まれなければ......
俺たちは無言で手帳を所定の位置に戻した。
「商談相手は伽耶さんと逢いたがっていたようですね」
「清氏は断っていた......これは赤い憲兵たちが伽耶を誘拐した理由になりえるな」
「鍵があけられたのは、たぶん清さんが逃がしたのでは?こじ開けられた形跡がありませんし。真っ先に自分に知らせてくれといったのも、また逃がすためでは」
「鬼憑きになる伽耶が不憫で殺そうとしたが出来なかった。ありえそうな話だな」
「一度清氏に話を......」
俺が14代目に先を促そうとした、その時だ。
人形が置いてあった場所に骸骨が不気味に揺れていた。2振りの刀を小刻みに震わせながら、俺たちのいる座敷牢目掛けて駆け上がってきたのである。
「あんたたちが、コノウチのこと、色々嗅ぎ回っとるデビルサマナーやな!?変なガキがこの屋敷を調べるはずやから注意しろいわれたんよ。あんたらに恨みはないけど死んでやぁ!!」
ガシャドクロは戦死者や野垂れ死にした者など供養や埋葬がされなかった死者達の骸骨や怨念が集まって生まれる、巨大な骸骨の姿をした日本の妖怪。漢字で『餓者髑髏』と表記されることもある。
夜間にガチガチという音をさせながら彷徨い歩き、生きている人を見つけると襲いかかり、握り潰したり、食い殺すなどと言われている。
ガシャドクロは仲魔を呼ぶ技能があるようで、次々と新手の敵を呼び出していく。
「トゥルダクに大タラスクか......」
トゥルダクとはインド神話において人間の祖であり、最初の死者として死者の国の王となったヤマ(閻魔)と妹であり妻でもあるヤミーの従者であるといわれる病魔で、一対の骸骨の舞踏者として描かれるという。
ヤマとヤミーは男女一対の死神であるとも伝わっており、その従者であるトゥルダクは死者を死者の国に連れて行くだけではなく、罪人に対する刑罰の執行者であるともいわれる。
また自身も病魔であるが、病魔を祓う力も持つ。
赤い骸骨剣士姿で閻魔の部下であることをアピールした胸に「閻」の文字が書かれた衣装に身を包み、二刀流で両耳にリングをつけた姿である。種族は妖鬼、大正時代でいう蛮力だ。
「14代目、いずれも火炎弱点です。一気に片付けましょう」
「ああ」
俺たちは戦闘態勢に入ったのだった。