流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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消えた資産家令嬢10

ガシャドクロたちを退けた俺たちのもとに、倉庫前で見張りをしてくれていたはずのゴウトが一目散に飛び込んできた。

 

もともと商談相手の陸軍将校が帰ったら、清さんの話を聞くためにすぐ知らせてくれる手筈になっていたのだが、どうも様子がおかしい。

 

どうしたのかと話を聞けば、どうやら大道寺家の命運をかけた商談に暗雲が立ち込めてきたらしく、清さんは応接間に内側から鍵をかけて閉じこもってしまい、陸軍将校との会話を聞いていたはずの中村さんは錯乱状態だという。

 

俺たちはあわてて中村さんのところに向かった。

 

「か、伽耶お嬢様だけでなく、き、清様が、清様がぁあ!当家にお仕えして幾十年、こ、このような体たらくを晒すとは......!た、猛様に......猛様に何とお伝え申し上げれば......ああ、しかしあれが本当ならば猛様の安全すら......どうしたら!」

 

明らかに常軌を逸した狼狽だった。俺たちを見るなり、中村さんが縋るように話しかけてきたのである。

 

「ライドウさん、ハルアキさん、どうか、どうか助けてください!伽耶お嬢様だけでなく、清様、猛様までお命が狙われている!!もしかしたら、初めからこれが狙いで......?ああ、そうだとしたら、大道寺家は初めから嵌められたのでは......!!」

 

「なにがあったんですか、中村さん。落ち着いてください」

 

「商談相手からなにか?」

 

中村さんの支離滅裂な話をまとめるとこんな感じだった。30分ほど前に遡る。商談相手の対応は基本清さんがひとりで請け負っており、中村さんは外の扉まえで待機していたという。

 

だが、不意に扉があいた。

 

商談中に第三者がいることを嫌がっていた相手は、俺たちが大道寺家を尋ねるところをみていたらしい。牛込返り橋で伽耶さんが拉致される前に一緒にいたことは警察も把握している事実なのだが、それも掴んでいたようで、どういうことかと詰問。とうとう伽耶さんが何者かに誘拐されたことがバレ、鳴海探偵事務所に伽耶さんの捜査を依頼したことがバレてしまったらしかった。

 

開け放たれた扉から会話が聞こえた。

 

「そ、それは誤解です!私はただ1日だけでも娘の顔を兄に見せてやりたくて」

 

「今際の際になった兄が不憫になったから娘を探すために探偵を雇った、か。貴様の本心ではあるまい。大道寺猛の容態は貴様の呪詛が功を奏したのかもしれんなあ?相当妬ましく思っていたらとみえる」

 

「そ、そんなことあるはずが......ただ私は伽耶のことを思って......」

 

「事がその程度で収まるとでも?」

 

「本当です!見つけた暁には人目姿を見せてやってください、そうすれば必ず伽耶の身柄はお渡し致しますから!」

 

「......必ずだな?」

 

「はい、かならず!」

 

「今回だけだ、探偵以外に第三者を介入させるな。そうすれば引き続き手厚い支援を約束してやろう。今回だけは前金として契約金は払ってやる。即金だ、文句はあるまい」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

中村さんも清さんは習って深深と頭を下げた。お付の軍人からお金はたしかに受け取ることが出来た。執事として2代にわたって大道寺家に仕えている中村さんにしてみれば、頭を下げることで猶予を引き出した清さんは立派な当主代理として成長したと思っていたらしい。

 

「......とでも思っていたのか?」

 

「はい?私はなにも......」

 

「姪可愛さに殺すこともできず、こちらを拒むことも出来ず、ずるずると時間ばかり稼ぐお前の魂胆などお見通しだ。心配するな、いずれ当主も娘も後を追うことになる。我らを欺いた罰を今ここで受けるがいい」

 

不吉なことを言い放った陸軍将校は帰ってしまい、その直後に清さんは苦しみ出して応接間に閉じこもってしまったらしい。中村さんがいくら声をかけても危害を加えそうだから近づくな、絶対に扉をあけるな、と声を張り上げるばかりで話をしてくれないらしかった。

 

「ここは自分たちに任せて、中村さんは鍵を貸してください。絶対にハルアキから離れないように」

 

「わ、わかりました......ありがとうございます。これがマスターキーです」

 

14代目は中村さんから鍵を受け取り、応接間をあける。俺はジークフリードを呼び出し、中村さんの護衛を頼む。中村さんは悪魔が見える様子はないものの、地下にいる大タラスクの存在そのものは先代の執事から聞いているようで、この世には人ならざるものがいて、大道寺家はそれを飼っているのだと把握していた。俺から離れないように心配そうな顔で中の様子をうかがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

清さんは窓から外を眺めていた。眺めているというよりは、ぼんやりとしていた。肩が凝って仕方がないのか、ぐるぐる首を回している。何かに蝕まれているゃうに異様なまでに首を回す動作だけがやはり目に付いてしまう。

 

これまでは何が起こったとしてもわ兄である大道寺家当主の猛が解決してくれていた。兄の庇護下にいれば安心できたはずの人生が、いきなり暗礁に乗りあげようとしている。回復の見込みがない病に倒れた兄の加護が失われてしまうかもしれない。大道寺家を代わりに支えながら、社会に対峙しなければならない。

 

大道寺家が代々携わってきた紡績業の近代化の問題は、宗像将校側からの融資でなんとか軌道に載せることができた代わりに、伽耶さんを差し出せと要求されたのだとしたら、その苦悩は計り知れないはずだ。それもよくある身売りの婚姻ではなく、鬼つきとしての伽耶さんが目的なのだ。

 

大道寺家の使用人にすら経営者としての才能が欠けているボンクラだとそしられている清さんだ。名家の命運が鬼つきにあることも知っているはず。そこから脱却するために興したはずの紡績業が、今や日本における産業革命の機械化が遅れたことで足枷になってしまっているのだ。

 

斜陽の気配に屋敷全体が重く沈んでいる。

 

「清さん?」

 

14代目が声をかける。ぎょろりと清さんがこちらを向いたが、落ち着きなく虚空に視線を走らせている。

 

「......こんなつもりじゃなかった......。どうしてこんなことに......。掟通りに殺される伽耶が不憫で、妹に続いて娘にまで手をかける兄が不憫で、私はこの因習を止めようとしただけなのに......。伽耶が助かり、私たちも助かると信じていたのに、蜘蛛の糸は奈落への片道切符だった......私はなんて愚かなことを......私はただ......大道寺家を......家族を......従業員たちを守りたかっただけなのに......」

 

ぶつぶつぶつと呟くのは清さんの中であふれんばかりに増大した不安だった。

 

後悔の重みに耐えきれなくなったのか、よろよろとテーブルまで歩き、両手を着いて体を支える。そして深深とうなだれてしまった。

 

中村さんがいこうとするのを制した。俺はこの状態の人間を元の時代でよく知っているのだ。人間から何らかの原因によって悪魔に変じる直前の不穏な気配がする。14代目は抜刀し、管を抜く。俺はジークフリードに中村さんを任せ、悪魔を召喚する。

 

その刹那、錯乱の絶叫が木霊したのだった。

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