流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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名田庄村にて2

安倍さんが名田庄村を発った。ヤタガラスからの指令が下るまで待機するよう言われたため、俺たちは名田庄村の土御門家でお世話になることになった。生活費は安倍さんが土御門家の主人が恐縮するほどのお金をおいていったため、それをあてるらしい。

 

せっかくだから自由に観光でもしてくるよういわれた俺たちは、遠慮なく村の中を歩き回ることにした。

 

まず、訪れたのは加茂神社。俺が倒れていたところだ。ダメ元で境内を隈なく調べてみたが、アカラナ回廊に続いていそうな歪みを見つけることはできなかった。狛犬に思念が宿っている気配がするが、俺とは相性が悪いようで込められているメッセージが読み取れない。ヤタガラスの人間ではないからだろうか。

 

ふと気になり、俺はCOMPのMAPを確認してみる。

 

「現在地は村の南西......裏鬼門の位置に加茂神社が建ってるのかあ。悪魔をここで食い止めてるな?」

 

「なるほど、どおりで村の中で悪魔を見かけないわけですね」

 

「貴重なマグネタイトの補給地点だな」

 

「そうですね、ただでさえこの時代は物理世界にマグネタイトが足りない。私が実体化するだけのマグネタイトの供給先がCOMPしかありません。いつも以上に貯蓄しなければ私はおろか、他の仲魔も召喚できなくなりますよ、ハルアキ。仕方ありませんが、護衛にひとりが限界ですね」

 

「召喚制限きっついなあ......。いや、まじでいつもの倍のマグネタイト消費してるから仕方ないんだけどさ。COMPのバッテリーの充電考えたらわりと洒落にならないし」

 

「大正時代でよかったですね、ハルアキ。さらに時代が遡っていたら、あなたはただの人ですよ」

 

「ほんとにそうだよ......考えただけでも怖くなる。そうなればほんとに俺は1人だもんなあ」

 

俺がいつもの調子でいられるのは、ドミニオンという話し相手がいるのが大きい。テンプルナイトになって初めて仲魔にしたやつなだけに、いつもお世話になっている悪魔だ。ほんとうに感謝しかない。

 

「あなたはテンプルナイトなのに信仰心が薄いですからね、私が導いてさしあげなければなりません。本当に手間のかかる......」  

 

「お小言はまた今度にしてくれ」

 

「ハルアキ」

 

俺はわざとドミニオンの言葉を遮り、加茂神社の謂れがかかれている看板を読みはじめた。ジト目で天使が見てくるが無視だ無視。

 

看板の受け売りだが、この地を開拓するに当り、加茂別雷神に祈ったところ、清浄な白滝の源に神があらわれたので、今の境内に社として祀つるに至った。この地に入植した草分け的な人たちにより、建立されたとある。

 

あるいは養老2年(718年)に、名田庄荘園の守護として、朝廷・貴族の間で信仰の厚かった加茂社の神を土御門家が名田庄総庄の田村に勧請し、矢波前加茂大明神として創建したとされる。

 

加茂神社の祭神に道教の神泰山府君が入っているのが非常に興味深い。

 

本殿は、二間社流造こけら葺の建物で、覆屋の中に建つ。向拝は、母屋柱間より若干小さい。また、内部中央の柱が切断され、この背面に3室の神座が設けられているが、これは当初は加茂・貴船の二神を祀ったものに、明治に至りほかの祭神を合祀した際の改造と考えられる。全体によくまとまった古式のすぐれた建物だ。

 

「ヤタガラスの指令はここで受け取るのかな」

 

「陰陽の里ですからね、そうなるのではありませんか」

 

「まだ部外者の俺たちはなにもできないみたいだし、行こうか」

 

俺たちは土御門家の主人が仕事場にしている土御門神道の神社に向かった。

 

「ここは加茂神社の真逆にあるから、えーっとあれだ。表鬼門になるわけか......」

 

「悪魔の入り込みやすい場所を加茂神社とここで潰しているわけですね、実に合理的だ」

 

ちなみに俺たちがお世話になっているお屋敷は同じ敷地内にある。

 

神社の敷地内には、陰陽道に基づく祭壇があり、北側黒色の鳥居に「玄武神」、東側青色の鳥居に「青龍神」、南側赤色の鳥居に「朱雀神」、西側白色の鳥居に「白虎神」と札に書かれた鳥居が四方に配置されている。

 

また祭壇の一段下、神社の階段右側(祭壇の東南)に小さな池があり石像が祀られている。だが柵などが荒れた状態になっている。重要な池だとは思うが荒れて枯れているようだ。

 

これはなにかのギミックだろうか。

 

「さすがは陰陽の隠れ里。集落全体が方角を陰陽道に基づいて配置されていて、考えつくされた配置みたいだ」

 

「ここもマグネタイトの補給ができそうですね」

 

「村の中に二箇所も霊地にがあるとかすごいな」

 

「まだあるようですよ」

 

俺たちは村の7km程奥にあるという滝に足を向けた。水量豊富で勇壮かつ迫力満点の野鹿(のか)の滝だ。

 

その昔、戦に敗れて落ち延びようとした安倍家の別当石王丸が、滝壷から光を放つ薬師如来像に逃げ道を教示されたという不思議な伝説が残されている。

 

滝の前は渡り石があり、水量の多い日は流れる水で濡れたり滑ったりすることがありますので渡る際は注意が必要だ。本当に山の中だからCOMPの一部機能が圏外になってしまった。

 

「ここが一番マグネタイトの補給ができそうだな」

 

「そのかわり、村の敷地から外れている。......きますよ、ハルアキ」

 

「マグネタイトの補給にいちいち霊地に行くのも手間だ。やっぱりこれがてっとりばやい」

 

異界と物理世界は直接繋がってはいないがすぐそこにあるようで、ふとした瞬間に引き込まれそうになる。悪魔も物理世界に出現するときに無駄にマグネタイトをつかってしまい、弱体化するのが嫌なようで、異界に人間を引き摺り込もうとしているようだ。

 

気持ちはわかる。マグネタイトを枯渇したら最後悪魔はスライムになってしまうが、異界にいればマグネタイトは潤沢だ。その心配はまずない。

 

気づけば異様な色に染められており、空に月らしきものが輝いてはいるが野代の滝に俺たちはいた。

 

「マグネタイト寄越せ!」

 

俺はプラズマソードを構えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『......ええと、それ、ほんとう?僕が君と別れてから、まだ数日しかたってないよね?』

 

大正時代なのに黒電話があるのは、大正20年は実際は昭和5年に相当するからなのかもしれない。土御門家の黒電話を借りて、ヤタガラスからの指令を待つことなく、今俺は安倍さんに電話していた。緊急の問題にぶちあたったからだ。

 

相談内容が相談内容だからか、安倍さんはは明らかに困惑していた。

 

『......ああ、うん、そうなんだ......』

 

向こうで紙を広げる音がする。

 

『電報はたしかに届いていたみたいだ。あまりに荒唐無稽だから悪戯かなにかと思われたみたいだね。陰陽師の家系にそこまでの実力者がいないのがヤタガラス内の常識だから』

 

「そうなんですか......こちらは切実な問題なんですけど」

 

『まさかきみの時代の方がマグネタイトの空気中の含有量が濃いだなんて思わなかったな......。そのせいで召喚を維持するには電気かマグネタイトの供給を常に確保しないといけないと』

 

「マグネタイトを確保するには悪魔を狩る方が効率がいいんですよ」

 

『名田庄村には電気は通ってこそいるけど、常に充電できるわけではないもんね、そうか......。だから悪魔を追いかけていたら、いつのまにかあたりの悪魔を狩り尽くしてしまったと』

 

「使役する悪魔に必要なマグネタイトの量がこっちにきてから跳ねあがってるんです」

 

『それは困ったね......。まだヤタガラスに報告をあげたばかりできみの処遇は名田庄村預かりにしたいところだったんだけど、このままだときみのこれからの支障をきたしかねないなあ』

 

「どこかいい狩り場はありませんか?」

 

『そうだな......一応、宗家にもそちらにも使役する悪魔を放っている修験場があるにはあるんだよ。でも、僕らの力量に見あった悪魔しかいないから、マグネタイト確保の場になるかといえば、うーん』

 

「それか、魔力が回復できるアイテムを融通してくれませんか」

 

『できないこともないけど、きみ1人のためにそれは......うーん。1日くれないかな、父に相談してみるよ』     

 

「お忙しいのにご迷惑をおかけしてすいません。ありがとうございます」

 

『こちらこそ、なにか困ったことがあったらいつでも連絡してね』

 

そして、俺は電話をきった。返事は次の日の昼間だった。

 

「え、帝都に?」

 

『うん。ヤタガラスからの返答はまだまだ時間がかかりそうでね、父や情報部の上に相談したら、そこまでの実力があるなら、うちの預かりにして、指令が下るまではフリーのデビルサマナーとして活動してはどうかという話ではまとまりそうなんだ。なんにしても先立つものは必要だろうし、マグネタイト確保のついでに任務もこなせば一石二鳥だろうって。後は君次第なんだけどどうかな』

 

「なにからなにまでありがとうございます!」

 

『よかった。明後日に迎えに行くから、準備しておいてね』

 

「わかりました」

 

俺はようやく当面の生活が成り立ちそうで胸を撫で下ろしたのだった。

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