声と共に黒く暗い虚構から青白い閃光が落ちた。2体の悪魔が現れたのだ。その瞬間に俺は広く見渡せた大道寺邸宅前の道路に立っていたはずが、酷く狭い空間に閉ざされてしまった。いつかのパーティのように転移させられてしまったようである。強い圧迫感がある。生か、死か、そのいずれかによって解放されるであろうら戦いの結界だった。
俺はプラズマソードを抜いた。火炎が弱点なら退魔刀より有効なはずだ。疾風のように薙ぎ払う刀によって一体目が寸断され、緑の血の花が咲いた。
2体目を切り伏せても、俺を包む異様な空気は薄れる気配はない。悪魔をしりぞけたのは間違いないのにだ。警戒を解かないまま、あたりを見渡す。悪魔の軍勢と首謀者であろう悪魔が俺に襲いかかってきた。
一閃。COMPから降臨した天使が俺の周囲に群がっていた軍勢を一瞬で焼き尽くした。
「待ちくたびれましたよ、ハルアキ」
「ごめんごめん、その代わり思い切り暴れても大丈夫だぞ、ソロネ」
「では、お言葉にあまえてそうさせていただきましょうか。さて、あちらが本命のようですね」
「明らかにイチモクレンの呼び出した軍勢じゃなさそうだ。あいつの放った刺客か?」
俺たちの反応を見て、見上げるほどの巨体をもつ悪魔はギラついた殺意でもって見下ろしてきた。
「我が名はタケミナカタ......我らが悲願を邪魔する者よ......容赦はせぬ」
「タケミナカタ......国津神か。しかもオオクニヌシの御子神じゃないか。これは大手かな」
COMPによるとタケミナカタはオオクニヌシとコシノヌナカワヒメの御子神の弟の方だとされており、アマテラスたちによって派遣されたタケミカヅチとアメノトリフネが葦原中国の国譲りを迫った際、オオクニヌシは御子神である事代主神が答えると言った。
事代主神が承諾して隠れると、大国主神は次にタケミナカタが答えると言った。タケミナカタは千引の石(千人もの大勢の力を必要とするような巨大な岩)を手先で差し上げながら現れ、タケミカヅチに力競べを申し出た。
そしてタケミカヅチの手を掴むと、タケミカヅチの手は氷や剣に変化した。タケミナカタがこれを恐れて下がると、タケミカヅチはタケミナカタの手を若葦のように握りつぶして、放り投げた。
タケミナカタは逃げ出したが、タケミカヅチがこれを追い、ついに科野国の州羽海(すわのうみ)まで追いつめてタケミナカタを殺そうとした。その時に、タケミナカタはその地から出ない旨と、大国主神・事代主神に背かない旨、葦原中国を天津神の御子に奉る旨を約束したという。
名の語源は“水の方”、“水潟”で、鎮座地の諏訪湖の水神を指すという説がある。水神の象徴である蛇神(龍神)とされ、水の神であることから農耕神としての神性を持ち、狩猟神としても信仰される。現在は生命の根源・生活の源を守る神として御神徳は広大無辺で、多くの方が参拝に訪れる。
なお、関より東の戦神、鹿島、香取、諏訪の宮などで最も知られている軍神としての性格は、諏訪信仰の拡大と共に武家の間で崇められたことから強調されたものであるという。
俺はプラズマソードの代わりに退魔刀を抜いた。
「水神なら話は早いな。ソロネ、サポート頼む」
「わかりました。気をつけてください、ハルアキ。COMPのタケミナカタは先の大洪水後に封印された姿をしていますが、こちらは両腕がある上に拘束具がありません。全盛期といっていいでしょう」
「なるほど、そういうことか。わかった」
異空間に閉じ込められたのかえって幸いしたと俺は安堵する。これならいくら暴れても現実世界に影響を及ぼすことはもちろん、14代目にこちらの素性を悟られないようCOMPの使用を自重する必要は微塵もない。
知識を隠す必要も無いからとタケミナカタのことを好き勝手語るソロネと俺の会話を聞いてか、タケミナカタは意外と反応しなかった。あいつからすでに未来において不当な扱いを受けることを聞いているとすれば、タケミナカタはあいつが使役していることになる。これはますます逃がす訳にはいかなくなった。
「お前には聞きたいことがあるんだ、タケミナカタ。お前をこの世界に顕現させたやつに用がある。どこにいるか吐いてもらうぞ」
退魔刀を向けた俺にタケミナカタはぎょろりと目を向けてきた。そしてどこまでも裂けていく口がにたりと笑うのだ。神でありながら角が生え、人外めいた肌をしているのは国津神という枠に囚われているからなのか、タケミナカタの本質なのかはわからない。確かなのは、濃厚な殺意が向けられているということだけだ。
「笑わせてくれる......天津神の末裔共を一人残らず殲滅する我らが悲願......まずは手始めに貴様を葬ってくれる......!!」
タケミナカタが咆哮する。どこからともなく現れた水流がまるで龍のように縦横無尽に駆け巡る。そして、それは瞬く間に凍りつき、俺たち目掛けて放たれたのだった。