安倍家本邸の応接間にて、学校から帰ってきたばかりの安倍さんに俺は今回の事件のあらましについて説明をしていた。タイプライターも半年も使い続ければ慣れたものだ。その報告書を眺めながら、安倍さんは難しい顔をしている。
「報告書ありがとう、ハルアキ。お疲れ様」
「ありがとうございます」
「まさか大道寺伽耶さんがきみの友人の先祖だとは思わなかった。大化の改新から続く名家中の名家が鬼憑きだとはね......これは盲点だったよ」
してやられた、とばかりに安倍さんはため息をついた。
「これから大道寺家はどうなります?」
「そうだね、ヤタガラスの保護下に入ることになるだろう」
「保護下に」
「うん、まあね」
大道寺邸は赤マントにより異界と繋がってしまっており、地下には大タラスクが住み着いているため、ヤタガラスの情報局が緊急で調査に入り、中村さんや使用人といった関係者は当主代行の失踪の調査という名目で一時避難を余儀なくされる。
しかるべき調査が終われば、職業の斡旋や関係者の保護が行なわれることになっているらしい。
大道寺猛さんは病院を移され、再度霊的な観点から診断をすることになる。安倍さんの予想では、解呪が難しいレベルの強力な呪詛をかけられていることがわかるだろうとのこと。
つまり、大道寺家を襲ったすべての悲劇の連鎖は、すべて未来予知ができる鬼憑きの娘を狙った組織的犯行であり、末裔たるあいつが引き起こしたといってもいい事件だと判明したのだ。
「地の道は父と母の間にありて、血の道かえせ。血の道の鬼。鬼の血殺せ。奈落の底で。大道寺家に伝わる歌だそうだよ。ずっと大道寺家の少女たちは苦しめられてきたということだろうね。自分の体に流れる血のことで」
まるで怪奇探偵小説のような謎めいた名家の伝承だが、悪魔の存在を身近に感じている俺たちからすれば、大道寺家の人々にとっては迷信ではなく真実なのだろうことがよくわかる。
これは悪魔を使った呪詛ではなく、未来において時代に左右されることなく確立された技術だ。俺はため息をついた。あいつは何を考えてあの研究室で日夜寝る前も惜しんで研究していたんだろうかと思えてならない。無理すんなよと差し入れを持っていっては入り浸っていた自分が能天気にも程があったのだといまならわかる。
「ハルアキ、これは僕の憶測なんだけれど」
「はい?」
「伽耶さんにとって、凛さんは桜蘭女学院で初めて出来たら友人なわけだろう?しかも父親と喧嘩してまで誕生日を祝ってくれるような大切な友達だ。16歳になったら鬼憑きに人格を乗っ取られて自分が死ぬとわかっている伽耶さんなら、なにも言わずにお別れなんてできるのかな?たしか、彼女達は喧嘩していたらしいじゃないか」
「......まさか、伽耶さんが最期のお別れを?」
「そのまさかの可能性があるね。色々と濁したなら、凛さんが誘拐されるわけがないし、伽耶さんが自分のせいだと思い詰めるわけがない。おそらく、耐えきれなくなって話してしまったんじゃないかな。大道寺家の秘密、鬼憑きのこと、そして未来予知」
「そこにあいつに繋がるなにかも含まれていた、とか?」
「伽耶さんを誘拐するなら、凛さんを人質にした方がことはスムーズに進むだろうしね。あんまり考えたくはないが、可能性は充分に考えられると思うよ」
「......ああくそ、なにもできなかった。初めからわかってたのに」
「まあまあ、そう気を落とさないで、ハルアキ。中村さんたちは無事だったんだ。それに被害は出来うる限り最小限に抑えられたと思うよ、僕は。ゾンビーの調査を初めてから10日もたっていないじゃないか。怪人赤マントと赤い憲兵、ダークサマナーが繋がっていることが明らかになったんだから、ずっと動きやすくなると考えたらどうかな。おかげで僕も上司に報告することがたくさんできたし、ね?」
「はい......ありがとうございます」
「しかし、あれだよね。ダークサマナーの動きが全く読めなくなってきたな。てっきり伽耶さんたちを暗殺しに来ると思っていたのに、まさか君の友人に協力するなんて思わなかったよ。てっきり僕は三つ巴の戦いになるとばかり」
「俺もです。歴史改変を阻止したいから刺客を送り込んできたんじゃないのかなあ......?一枚岩ではないとか?」
「未来から過去に飛ばす人間だろう?なおのこと慎重に選ぶべきだと思うんだけど......将来人の考えることはよくわからないね。それを思えば、ハルアキみたいに話がわかる人が来てくれてよかったというべきかな」
「ホントにそうですね......」
「しばらくは赤マントを追いかけることに専念してもらおうかな、それが多分唯一の手がかりだしね。マスメディアに情報規制を掛けさせてもらうから、妨害は少ないと思う。頑張って」
「地道に足で稼ぐしかないということですね、わかりました」
「ライドウにもよろしく伝えてね、1人でするよりはずっと効率的だ。僕も赤マントの目撃情報をまとめてみるよ」
「ありがとうございます」
「目撃情報がまとまったら、また調査を再開してね。最近まともな休みがとれてなかったでしょ、ハルアキ。倒れられたら困るからね、しっかり休んでほしいな。数日はかかると思うからね」
「わかりました」
俺は頷いたのだった。
土御門ハルアキ(つちみかどハルアキ)
生年:206X年
年齢:24歳
結婚:未婚
職業:安倍子爵預かりのデビルバスター
血液型:O型
身長:178cm
体重:??
好みのタイプ:素直な女性
好物:中村屋のライスカレー
興味関心:友達について
福井県名田庄村にある陰陽師の隠れ里出身の両親をもち、祖父はかつて一人ゴトウに助力したがクーデターに失敗して核に焼かれた。両親は共々大破壊後に遷都した京都にて重役として過ごしていたが、悪魔が跋扈するようになると我が子の安全を最優先することになり、苦渋の決断としてセンターへの移住を決意。様々な交渉の結果、一級市民として迎えられた。
なお、ハルアキはまだ幼子だったために何も知らないままセンターのテンプルナイトとなった。同期の中ではパッとせず、敬虔なメシア教徒ではないためそれ以上の昇進は見込めない。
デモノイド研究という名目で人造救世主をつくる研究に遺伝子提供をした時、その見返りとしてしばらくの有給と外出許可をもらう。陰陽師に縁があると知り、福井県名田庄村に向かう道中で行方不明の友人がアカラナ回廊に潜伏しているのを発見。センターからの刺客だと勘違いした友人にアカラナ回廊から突き落とされ、気づけば大正時代の名田庄村にいた。
土御門家当主代理の星命の勧めで帝都でデビルバスターをしながら、友人が目論む歴史改変を阻止すべく動きだすことになったのだった。