タエが撮影したのは竜宮から銀座町の中心に向かう道、栗須坂のガード下。一番目撃されている場所らしいが、今回もそうだった。強い悪魔の気配を感じる。ゴウトもまた悪魔の気配を感じているようで、ヒゲがちりちりと揺れている。細い一本の閃光が走り、坂の上に壊れた車が現れた。
「うおおおおおん!自慢のボデーがベッコベコぉ!」
オボログルマが泣き言をいいながら飛び込んできた。どうやらタクシーだと思ったのはオボログルマだったようで、赤マントに襲撃されたらしく今にも死にそうなほどぼろぼろになっている。もともと壊れた形の悪魔だが、ライドウが避けるとそのまま壁にぶつかってしまった。生来の性格らしくまともな会話も難しそうだが、ライドウが赤マントとのあいだに入ったことで助かったと思ったのかきいてもないのに、ペラペラと喋り出した。赤マントはまた逃げ出してしまう。
「うぉれ、やられた側ああああ!うぉれらをやるのはあ!ひらひらのあいつぅ!赤いマントのやつぅ!!こないだも赤マントのやつみつけてぇ、うぉれ、ちぇええいす!けど逃げられたあ!!このうぉれが直線で逃げられたあ、あああ!ううたぁー!!」
憎しみかいかりか、はたまた恐怖によるものか、がくがくと車体を震わせながらオボログルマがほえる。
「これやるぅ!!うぉれをたすけてくれたお礼だあああ!これひろったぁ!」
それは人力車の石突だ。
「これをどこで?」
「タクシーのやつがかべにどーんしたときにぃ!赤いマントのやつぅ、おとしてったあ、ああ!」
ライドウとゴウトは顔を見合わせた。ここ栗須坂で赤マントに襲撃されたシズの夫、その赤マントが落としていった石突。嫌な予感がするが先に進むしかない。ライドウは急いで龍脈の穴から銀座町の異界に飛び込んだのだった。
「俺ハッ......俺ハァ、悪クナイッ!車ガ悪インダ!!」
言い訳にもならない呪詛を吐きながら頭を抱え、叫び声をあげる赤マントを発見したライドウは急いで向かう。その姿は赤マントに変じる直前の大道寺清そのものだったが、これまでの捜査が清ではないとしらせていた。
「これが現場に残されていた。お前の正体は飯田か」
石突を突きつけられた赤マントは絶叫する。ライドウはすかさず悪魔を召喚し、襲い掛かってきた赤マントの頭部目掛けてヘッドショットをかました。大きくのけぞった赤マントに悪魔がレーザー砲をぶちかます。弱点がわかるまでひたすら動きを止めては悪魔によるレーザー光線が赤マントを吹き飛ばしていく。弱点をつかれた赤マントは絶叫した。いよいよ硬直して動けなくなる。ライドウは退魔刀を抜いた。赤マントを切り裂いていく。ばさりばさりと赤マントを覆う装甲のような、肌のような不気味ななにかは剥がれ落ちていく。ついに赤マントは崩れ落ち、ライドウの目の前で倒れてしまう。赤いゴワゴワした肌が消し飛び、首のあたりからなにかが爆発するのがみえた。ライドウはあわてて回復魔法を悪魔に頼んだ。
「ああっ......あっしは、一体......?」
首から出てきたなにかはわからないが、なんとか除去できたようで悪魔の気配が消えた。飯田はなにかに取り憑かれていたようだ。しばらくして、飯田はあたりを見回しながら不思議そうな顔をして起き上がる。
「......ま、まさか、あっしが......赤マント......?」
「取り憑かれていたようだ。もう祓ったから心配いらない」
「ありがとうございやす、ライドウさん......!あなたはいったい......?」
「変わったの専門の探偵だ」
「変わったの......ああ、だから赤マントを調べて......ありがとうございやす」
赤マントの頃の記憶はあるのか、飯田はぐったりと項垂れ始める。
「仕事が減り始めた頃から意識がなくなることがあったんでさあ......あ、でも赤マントはすでに騒動は起こってたんですよ!?しんじてくだせえ!」
「ああ、わかってる。赤マントは飯田さんだけじゃない」
「何ですって!?あっしだけじゃない?」
「思い出せないか?いつから記憶が飛ぶようになったのか」
「え?ええとたしか、大道寺清さんが紡績工場跡地に行きたいっていわれて、銀座駅から案内して......それで......」
ライドウはゴウトと顔を見合わせた。飯田がわなわなと震え始めたのだ。自分がしでかしたことの重大性を理解してしまったらしい。飯田はライドウに縋るようにしがみついてきた。
「赤い憲兵さんたちに捕まって、深川町によく似た変な世界に連れ込まれて、そこにたくさんの人が......ああ、ライドウさん、信じてくだせえ!あっしがやらなきゃシズに、女将さんに手ェ出すって......あいつら、あいつら......!!」
なんだか複雑な事情がありそうだ。ライドウはとりあえず銀座の異界から飯田を連れ戻し、赤い憲兵にまた襲われたら嫌だと怖がる飯田を新世界ミルクホールにつれていった。電話を借りて星命に連絡をいれる。本人はあいにく留守だったがヤタガラスの情報局に使用人がつないでくれて、迎えをだしてくれるというのでライドウはことの次第をマスターに託してまた調査に戻ることにした。悠長に飯田から話を聞いている暇はなさそうだったのだ。
飯田のいうとおり深川町の異界は、本来現実世界そのままの姿があるはずなのにまるで監獄のようだったわ、長屋のあたりまで見せ物小屋が広がっている。それもなかなかに頑丈な牢屋になっている。
赤マントや赤い憲兵たちに捕らえられた人々が閉じ込められていた。ライドウの記憶が正しければ現実世界には長屋の先にようやく子供騙しの見せ物小屋があるのだが、ここは明らかに見せ物小屋が本体だ。そこにいるのは明らかに悪魔と明確な繋がりを持つデビルサマナーの領域にかかわりある者たちが透けて見える。ダークサマナーひとりが監修しているとは到底思えない。
捜査を続けるべく見張りや巡回のゾンビーケンペイや赤い憲兵を倒して回ったライドウは、助けをこう人間たちのところにたどり着いた。
異界そのものが檻のようになっていて、牢屋の鍵自体は解錠工具さえあれば簡単に空きそうな単純な構造のものばかりだ。そのまま見過ごすわけにもいかず、ライドウは悪魔を召喚して鍵を開けさせた。
一般人たちを少しずつ解放しては龍脈の穴から送り届ける往復を繰り返すうちに、警官や軍人と思われる者たちがさらに奥の方に捕らえられていることに気がついた。だがそこは明らかに一般人とはちがう厳重な警備体制がひかれており、満足に調査をすることができない。異界内に抜け道はないか探したがなさそうだ。隠し道のかわりに見せ物小屋から北の遊郭に抜けることができる道を見つけたライドウは、いちど脱出することにする。そこから別の龍脈の穴があるかもしれないからだ。
『やはりそうだな、こちらから通じているようだ』
ゴウトの言葉にライドウはうなずく。今度は深川町の大國屋の入り口脇に出た。そのまま橋をわたって北川の深川六区に向かえば彼らの捕らえられている見せ物小屋はすぐなのだが、行く手を阻むように赤い憲兵たらちが警備している。ライドウはゴウトの助言に従い、悪魔を憲兵の視界からはずれるように大きく迂回させるかたちで先導させ、通り道を確保、そのまま隠密行動で突破した。
「き、きみは......?」
顔に黒子がある、どこか気弱そうな男がいた。着ている軍服から考えるに陸軍ではない、海軍だ。どうやら軍人たちも色々なところから拉致されているらしい。見る限り、海軍は彼だけのようだが。男は悪魔が見えていないようでライドウがなんなく鍵を開けたように見えたのか目を丸くしている。
「いやあ、災難だったよ。きみのおかげで助かった、ありがとう」
自己紹介してくれた男に心が読める悪魔が呼吸するように嘘をつく男だ、わざと捕まってるとライドウに教えてくれた。ニコニコ笑いながら平気で偽名を使用するあたり星命のような情報局の人間なのかもしれない。この名前で調べてもなにも出てこないだろうとライドウは深入りせずに早く逃げろと龍脈の穴まで案内してやったのだった。
「そうだ、たしかもうひとり、捕まってたはずだよ。20代くらいの男性だ、腕が立ちそうだったが、女学生を庇っていたから抵抗できなかったみたいでね、奥の方に......」
ライドウは女学生の特徴をたずねた。リンのようだ。男の方は外見や装備からハルアキだとあたりをつけたライドウは、ハルアキがリンとともに囚われのみになっているのだと気づいて、また向かうことにしたのだった。