流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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怪人赤マント現る7

リンさんは赤マントの憑依から解放されてホッとしてはいた。また赤い憲兵たちに囚われの身になった現状を見て、明らかに自分が足手まといだったのだと勘づいてしまったようでうかない顔をしている。俺がいくら気にしてないといってもダメだった。理由を聞いてみると、ぽつりぽつりとではあるが話してくれた。

 

「あの日、伽耶は最期のお別れをしてきたんです」

 

やはり俺の読み通り、リンさんは伽耶さんから鬼憑きについて告白されていたようだ。大道寺家に巣食う鬼憑きの呪い、不幸にも才能があり廃人にならない代わりに人格が上書きされていき、増えていくしり得ないはずの未来の記憶。どうやら伽耶さんとあいつの人格は完全に隔離されているわけではなく、多少なりとも把握はしているらしい。伽耶さんが主人格だから意識を失わないと出てこれないようだが。この力関係もいつまで続くかわかったものじゃないが。

 

そんなことを考えていると、リンさんが意を決したように話しかけてきた。

 

「ハルアキさん、伽耶は......伽耶に憑いてる鬼は、あなたのことを知っていたわ。あなたは、彼......いや彼女?と知り合いなの?」

 

「驚いた。あいつ、リンさんの前に出てきたのかい?」

 

「ええ......伽耶は危険だから処刑するはずだって」

 

「......ああもう、またあいつトンチンカンなことを......。なにを誤解してんだか......」

 

「違うの?」

 

「違うよ」

 

「そうは思ってないみたいだったけど」

 

「なにを勘違いしてるかしらないけど、俺は伽耶さんを殺すつもりは微塵もないよ。むしろ用があるのは伽耶さんにしでかしたあいつの方だ」

 

「そうなの......よかった。ハルアキさんが伽耶を殺しにくるっていうから、私、わたし......」

 

怪人赤マントに堕ちるまでの不安要素をひたすら吹き込まれていたらしいリンさんは泣き出してしまった。ここ異界の深川町の見せ物小屋でよくわからないなにかを首に植え付けられ、ひたすら不安を煽るようなことをささやかれたという。伽耶さんに憑いたやつがきたのは一度だけで、それ以降は赤い憲兵しかこないからあとのことはわからない。

 

「なんであいつはそんなことを......」

 

「私......伽耶から聞いてしまったの。私たちの信仰するものがどんなにおぞましいことをしでかすのかということを。神はなにもしてくれないという将来を。伽耶に憑いてるあの人は、すべてに絶望しているわ。伽耶はそこにいたるまでの過程をすべて共有しているせいで拒むことができないのよ」

 

「......ごめん、よくわからないんだけど」

 

「誰にも言えなくてつらかった......でも、ハルアキさんがあの人と知り合いなら、きっと話してもいいことなんだと思う。それも込みで伽耶が私に話すのを一度たりとも邪魔することはなかったから。......長い話になるけれど、聞いてくれますか」

 

「わかった。続けて」 

 

リンさんはうなずいた。

 

世界各地の神話伝承に語られてきた神々や悪魔が入り乱れて戦う黙示録がこれからこの国でおころうとしている。

 

悪魔と神と人間はわけてこそいるが悪魔はかつて神々だった。彼らは後から来た神々との戦いに敗れて悪魔に地位を落とした。本来の信仰では今でも神として信仰されている悪魔はたくさんいる。

 

そもそも、英語で悪魔を意味するデビル(DEVIL)という単語は、同じインド・ヨーロッパ語族のサンスクリット語におて神を意味するディーヴァ(DEVA)に通じている。

 

オリエントの暁の女神イシュタルに辿ることができ、同じく金星を象徴するギリシアの美の女神アフロディテ、ローマのヴィーナスもこのイシュタルの影響を受けているといわれている。

 

ソロモンの72の悪魔に数えられる東の王バールは、カナーン民族の最高神として、地中海沿岸で信仰されていた。カルタゴの英雄ハンニバルの名は「バールに愛された者」という意味だった。『聖書」の中にも、イスラエル人たちがカナンの地に入植したときにイェホバを捨てて

バールを信仰し、イェホバを怒らせたという記述がヨシュア紀および列王紀に見られる。

 

悪魔の象徴としてよく描かれる羊頭の悪魔も、本来は、キリスト教伝播以前に欧州全域で信仰されていた農耕神ケルヌンノスだった。ローマでは土星神サトゥルヌスと呼ばれ、ケルトやゲルマンでは、角のある父として崇拝されてい

た神です。彼らの祭りは奔放な無礼講であり、人の地位が逆転する農耕祭を行い、性的な儀式や生け贄によって豊饒を祈願していた。太古には人間が生け贄となっていた時期もあった。

 

しかし、禁欲的なキリスト教が欧州を支配したために、その信仰は追いやられ、悪魔の仕業にされてしまった。このように、今は悪魔と呼ばれていても、本来は神である存在が多い。

 

日本の神話を語った「古事記」の中には、「荒ぶる神」の記述が多数見られる。「旧約聖書」でも、主が怒って天罰を下すくだりがいくつも見られる。神々とは本来、優しいものではない。太古の神々は、供犠(生け飲を捧げること)や崇拝によって怒りをやわらげ、懐柔しなくてはならない「苛烈な自然」や「荒れ狂う悪霊」だった。

 

古代においては、神も悪魔もほとんど変わらない存在であった。荒ぶる神は、国家組織の進歩や文化の発展によって、国家や民族を守護する守護神へと徐々にその概念を変えていく。

 

神の概念を大きく変えたのは、シャカ、キリスト、マホメットといった、世界の宗教を塗り替えた預言者たちだった。言葉や思想の発現形態は違っても、彼らは「究極の知恵をそなえた神の愛と寛容」を語り、民族や文化に捕らわれない信仰を生み出すきっかけを作った。「全知全能にして愛のあふれる神」という救済神のイメージは、ここから生まれた。

 

しかし、世紀末に訪れた黙示録の戦いは神々の本来の荒ぶる姿を明らかにした。彼らは優しき神の姿を投げ捨て、魔神、鬼神、悪霊の本性をむき出しにした。もはや、我々人類が信仰していた優しげな神の姿だけで、その全てを語ることはできなかった。

 

ゆえに悪魔召喚士はあえて、あらゆる神を悪魔と呼ぶ。

 

それはいつもと同じ朝であったはずだった。しかし町はずれで起きた奇妙な殺人事件が日常を塗り替えていく。パトカーや救急車のサイレンが鳴り響き、人々の表情が不安なものに変わっていく。そして、デジタルネットワークの彼方から届いたプログラムを受け取った人々を日常から切り離した。

 

闇の中に悪魔がいた。虐げられてきた歴史の恨みを晴らすべく、地上に崩壊と混乱を撒き散らそうと地上に這い出してきた悪魔たちが彼に悪魔召喚士の道を強いる。戦いは始まった。

 

かくして封印はとかれた。キリストの守護せし魚座の時代は終わり、解放と変革の水瓶座の時代が到来したのだ。黙示録の四騎士が天空をかけめぐり、七つの封印はとかれて、世界は黙示録にむかう。

 

封印をとかれた天使はラッパを吹き鳴らした。すると松明のように燃えている大きな星が落ちてきて、川や水源に落ちた。水源が汚染され、たくさんの人々がしんだ。

 

現代社会に悪魔が出現しはじめ、警察、自衛隊、謎の秘密結社などが様々な形で介入、東京の状態はどんどん悪化、陸上自衛隊のゴトウ陸将がクーデターを起こして実権を握り、戒厳令を敷くに至る。

 

ゴトウ陸将は悪魔との共存の道を模索すりはが、やがて、悪魔事件をきっかけに日本に影響力を行使しようとする天使勢力が介入してくる。激しい戦いの結果、敗れた天使勢力に支配されたアメリカ合衆国が核ミサイルで東京を攻撃し、これによって世界は核戦争の炎に焼き尽

くされることとなる。これを「大破壊」と呼ぶ。

 

大破壊後、廃墟とかした東京を支配しようとする悪魔たち、メシア教会、ガイア神殿。生き残った者たちが新たな時代をめぐる抗争をつづける。

 

大破壊によって神の計画が再始動し、メシア教会たちが最後の審判に備えてカテドラルを建設し始めた。この完成直後にメギドの火が撃ち込まれ、ノアの方舟を思わせる大洪水が世界を襲った。水面は50メートル上昇し、世界は水没、カテドラルだけは新たな洪水伝説を生き残る。今度はカテドラル内部での支配権をめぐり、新世紀最初の戦いは行われた。

 

洪水によりカオスの民が滅ぼされなかったことからカテドラル内でのメシア教の支配権が揺らぎ、カオス側に占拠されている地下が混沌とかし、一種の中立地帯が成立する。

 

「あなたの祖父はゴトウ陸将に請われてこの戦いに身を投じて、核の炎に焼かれた。あなたの両親はそれを知っていたが大洪水で移転していた日本の中枢たる京都が水没したから、あなたの将来を案じてカテドラルに移住した。あなたはなにも知らないままテンプルナイトになった。あなたはそうしてあの人と友人になった。はじめはあの人も知らなかったようなの。ただ、色々なことがあって、それをしって、絶望したみたい。自分が生まれる前から全てが終わっていて、どうしようもない行き詰まりのただなかにいると気づいてしまったみたいなの」

 

「......」

 

俺は言葉を失った。なんといっていいかわからなかった。

 

「......なんだよ、それ。なんだよそれ。あいつ、そんなこと一度も相談してくれなかったのに。なんで1人でそんなことかかえこんじまうんだよ、馬鹿じゃないのか」

 

「......きっと、あなたがそういう人だから相談しにくかったんじゃないかしら。私が伽耶とずっと友達でいたいように、あなたは今なおあの人のことを友達でいたいと思ってる。伽耶に私言われたの。途方もない覚悟を決めたとき、日常の象徴たる私にバレるのが死ぬよりつらくて怖かったって。決意が鈍るから会いたくなかったって」

 

「でも、伽耶さんは君に会った。なにも言わないままお別れがしたくなかったんだな」

 

「うん......それはきっと言わなくても、いってもそれなりに辛いものが待ち受けてるのはたしかだから......私はそれを責める気にはならない」

 

「......なるほど、あいつはいわないことを選んだはずなのに、為すべきことを為そうとしていたら俺がきちゃったってわけか」

 

「たぶん、そう」

 

「......馬鹿なやつ」

 

ため息しかでない。

 

「ごめん、しばらく黙るけど大丈夫?」

 

「ええ、今はひとりじゃないから大丈夫」

 

15だというのに強い子だと思いつつ、俺は深いため息をつくしかないのだった。

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