流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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ダークサマナー見参1

あいかわらず帝都は怪人アカマントと赤い憲兵騒動による混乱が続いていた。深川町の遊郭付近の目撃情報はなくなったが、今度は北の方で目撃情報や誘拐事件が増え続けている。無関係な事件でも怪人アカマントや赤い憲兵のせいだという風潮ができつつあるくらいだ。いくらヤタガラスが警察情報部を通して情報規制をしたところで人の口にとは立てられない。アカマントや赤い憲兵が怪異だということを否定してもなかなか静まらないらしい。

 

「前聞いた話が気になってね、僕の方でも軽く調べてみたよ」

 

星命さんは説明書をめくりながら説明してくれる。

 

14代目は千寿区深川町の北東にある旧大道寺紡績工場に向かっているらしい。一時期は景気がよかったものの、今ではすっかり寂れてしまい、再起をかけたものの清の才覚ではどうすることもできなくて工場は閉鎖。土地ごと借金返済に売り払われ、遊郭の駐車場になることが決まっている。

 

飯田さんが清さんに頼まれて連れて行った先で襲われた話が正しければ、そこにいるのだ。怪人アカマントに成り果てた清さんが。

 

「近々なくなるかつての工場を最期の場所に選んだんだろうね、最期の瞬間までいたいって」

 

「俺も応援にいきますか?」

 

「いや、ハルアキは異界から侵入してほしいんだ。飯田さんが例の赤い憲兵を見たっていってるからね、前みたいに生産工場があるのかもしれない」

 

「わかりました、捕まってる人がいないかが先ですね」

 

「そういうこと。ただね......少し気をつけて欲しいんだ。帝都新報の葵鳥っていう女性記者がね、懲りもせずにまた取材だって喜び勇んで出掛けたらしいんだ。編集長が頭抱えてたからね。困ったひとだよ、あぶないのに......。行方不明者の捜索が目的だけど、異界にいったら、彼女が危ない目にあわないようにみはっててくれないかな。もし見つけたらでいいから」

 

「わかりました」

 

俺はうなずいた。鳴海探偵事務所を何度か出入りしている女性記者なら顔見知りだ。そのまま俺は阿部邸を後にした。

 

深川町のハズレで龍脈の穴に入ると、いつかの西洋のだるまのような人形がなくなっていて、新しい通り道ができていた。先にすすんでみる。

 

「葵鳥さん!」

 

倒れている女性記者を見つけた俺はあわてて近寄る。

 

『おお、来たか、ハルアキ』

 

「ゴウト!14代目もいるんですね、まさか葵鳥さんになにかあったんですか!?」

 

『心配いらん、異界に入り込んだことに驚いて気絶しただけだ。やれやれ、霊感0のくせに怪異専門の記者を気取っているくせに、いつも肝心なときに取材対象の怪異をみていちいち気絶する。いつまでもこうしていたら仕事にならんぞ』

 

ぺしぺしと前足でたたきながらゴウトがいう。あたりまえだが葵鳥さんが目覚める様子はない。

 

『律儀に記者名で呼んでいるのはおまえくらいだぞ、ハルアキ。タエはタエだ』

 

「あはは」

 

どうやら彼女は理解の範疇を超えた現象を受け止められず、これまで生きてきた常識を守ろうとする心と目の前に実際に起こっている事実との差異に混乱し、己の精神を守るために気絶したらしい。一般人には当然の作用だろうが、受け入れられないことから逃れるためにしては無防備すぎる。

 

「ライドウが護衛をつけている。今から離脱するところだ」

 

いうのがはやいか彼女の姿が消えた。

 

「14代目はどこに?」

 

「工場の先だ」

 

「生産工場はありましたか?」

 

「いや、俺もこのあたりをぐるりとまわってみたが、見当たらなかったぞ」

 

「あれ、そうなんですか。ハズレかな?」

 

「まあ、そういうことも......」

 

その直後、目の眩むような閃光が背後でまたたいた。

 

「ライドウ!?」

 

「14代目!?」

 

俺たちの目の前にはいつぞやの西洋の人形がたくさんある。閃光が繰り返され、入口を封鎖するようにみっしりと並び、輝く結界が出現したではないか。

 

「分断されたか!?」

 

「ゴウト、この先にいくにはどうしたら?」

 

「ここしか入口はないはずだ!」

 

閃光が走る。目を開けてられないほどの輝きの先にまばたきしたその刹那、俺たちは奇妙な浮遊感に襲われ、そのまま奇妙な空間に飲み込まれてしまったのだった。

 

地虫のように、太陽から隔離された歪ゆがんだ工場の中で、コツコツ無限に長い時間と青春と健康を搾取されている。作業員たちはまるで、ササラのように腰を浮かせて御製作中だった。

 

紡績工場にはあるまじき薬品くさい匂い、混ざっていた。わけのわからない機械が並び煙突から炎を噴き上げる。油っぽい壁が工場の常夜灯の光をてらてらと照り返している。工場の外の壁には無数のパイプがまとわりつき、体内の筋肉を這い回る血管を思わせる。

 

工場の外の壁には無数のパイプがまとわりつき、体内の筋肉を這い回る血管を思わせた。しかも、表面を覆う無数のイルミネーションは夜光虫に似て、グロテスクな景観も見ようによっては美しい。

 

すべての流れ作業がこのハンコを原動力として動いていく。あたかも自動車製造工場のコンベアが電力で廻転していくように。この大工場は、それ自身鳴動し・唸り・泣き叫び・怒号している一つの暗い宗教のように思われた。

 

壁や扉や天井の鉄板があちこちはずれていたので、中に入ると、まっすぐに通り抜けてゆく風の動きを感じることができる。見上げると、はさみで切り抜いたような空が、所々に見えた。

 

高い天井から、ぶっきらぼうに蛍光灯が下がっていたが、部屋の広さに対して本数が少ないのか、見上げると眩しい割に、全体は薄暗かった。

 

異常な機械群は錆びて損傷しており、大部分は動作不能に陥っているのに動いている。動力源は不明だ。不完全な空間に飛ばされたらしく、ドアの向こう側が壁だったり、行き止まりの大広間があったり、何処にも接続されていないワイヤーや配管などがあった。

 

「ヘブライ神族の謀略には屈さぬ」

 

俺は足を止めた。伽耶さんを誘拐したリョウメンスクナの声がしたからだ。

 

「作戦を邪魔だてする悪鬼め、それは愚かな行いへの罰や祟りだと思い知らせてやる。この霊地に土足で踏みいろうとする......あやつらすべてが罪の証。今ここで天誅を代行することを許可する。観念して己の死を憂うがいい、ヘブライ神族め。あやつらの欲望から繰り出された破壊により、この霊地が受けた痛みを一身に受けるがいい」

 

光が走る。工場の真ん中にリョウメンスクナが現れた。

 

「ヘブライ神族を信奉する者は1人残らず殲滅してくれる。取り逃した瞬間に任務は失敗になるからな、悪く思うな。我は主からひとり残らず殲滅せよと言われておるのだ。天津神への復讐を遂げるにしろ、人の子が先にヘブライ神族の囲い込みにあっては意味がないのだから」

 

「あいかわらず訳のわからないことばっかりだな、お前は。少しはわかるように話せよ。主人ってあいつのことなのか」

 

リョウメンスクナは失笑している。あいつによく似た笑い方だから、たぶんそうなんだろうとわかる。

 

「やたらメシア教を目の敵にしてるみたいだけどなんでまた」

 

「たわけが、だから貴様は道化なのだ。主と同じ時代からきたとは思えんな......これが、成そうとする者と成そうとして成せなかった者の違いか」

 

「そんな道化が怖いのはどこのどいつだって伝えといてくれるか、リョウメンスクナ」

 

ぎろりとリョウメンスクナの眼光がこちらを射抜いてくる。俺はCOMPを起動した。

 

「我を呼ぶ声に応じ、ここに見参す。蛮力ジークフリード。ザコが我が血肉となるがいい!さあ、ハルアキ!キサマと我で屍山血河を築こうぞ!」

 

俺はうなずいたのだった。

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