流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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ダークサマナー見参3

円形の足場から十字路に通路が延びた小さな部屋のような空間に出た。十字路の通路の先は暗く、見通しが効かない。実際に足を踏み入れなければどのようになっているかわからなかった。

 

その先でようやく俺は14代目と合流することができた。

 

ここはやはり安倍さんの読み通りアカマントの生産工場だった。紡績工場に勤めていた従業員たちがたくさん幽閉されていたのだ。

 

諦め気味だったり、とまどい気味だったり、怒り気味だったり、泣き出していたり、ぼうそう気味だったりしたが、誰もが異空間に飲み込まれて囚われていた。

 

14代目は彼らを救出に追われていたという。

 

なまくらと言われ続けていた大道寺清さんは、最期まで非常になりきれない男だった。その優しさと要領の悪さはたしかに経営者としてはなまくらな人間だったが、人間としては魅力に溢れていたと従業員たちは話してくれたらしい。

 

そして、今いる最奥の空間に通じる封印をなんとか解除し、がらんとしたこの倉庫の奥で14代目はアカマントに成り果てた大道寺清さんと交戦。解呪しようとしたその矢先、リョウメンスクナのように正体不明の化け物が大道寺清さんの首から出てきて、大道寺清さんは死んだらしい。即死だった。

 

「潮時だろうと自分に最期の理性を振り絞って話してくれる覚悟をきめた矢先だった。消されたようだ」

 

14代目は口を一文字に結んでいる。傍には顔に綺麗な布がかけられた大道寺清さんの遺体があった。

 

「魔斗量子界を無事抜け出てくるとハ......。やるじゃン、探偵......。いやデビルサマナー。だぁガ、ミーの相手じゃねぇナ!」

 

妙なイントネーションの声がした。弾かれたように顔を上げた俺たちは、倉庫の角の暗がりから現れた髭面の外国人をみつけた。

 

「お前はダークサマナー!」

 

「その反応......まさかハルアキが追いかけているもうひとりか!」

 

「そうです、14代目!」

 

男は抜刀する俺たちに構わずたっぷりとたくわえた顎髭をもさもさと撫で回しながら余裕綽綽で笑った。その声は幾度となく14代目の行手を阻んできた謎の男の声と同じだという。

 

「清氏と商談していたうちの1人だ」

 

「これは確定ですね、俺たちの敵ですよ」

 

「いかにモッ!ミーは、あの有名なダークサマナー、ラスプーチン様だゾ!ユーも高明なミーの名前、聞いたことくらいあるだろウ?」

 

「なんで将来人からの刺客がそんな昔の人間なんだ、おかしいだろ」

 

「ふふン、それこそが目的ヨ」

 

グレゴリー・ヘフィモビッチ・ラスプーチン。帝政ロシア末期の祈祷僧としてその名を轟かせていた男だ。どうやらこの世界ではダークサマナーとしても有名だったらしく、ゴウトと14代目が反応している。

 

血友病患者であったアレクセイ皇太子を祈祷により癒し、母親のアレクサンドラ皇后の信頼を得てロシア帝ニコライ二世に接近。幾度となく皇太子の病状を癒しては皇帝一家の絶大な信頼を得ることに成功。第一次世界大戦の前線に赴いたニコライ二世の代わりに、内政を託されたアレクサンドラ皇后を通じて政府の実権を握った伝説の怪僧だ。

 

1916年、ラスプーチンの存在をよく思わない者達の手により暗殺されたが、青酸カリを服毒しても死なず、銃弾を浴びても死なず、最終的に陰惨な形で殺された男が目の前にいる。

 

『15年前に表向きは死んだはずのロシアの怪僧がまさか将来人だとは......。正規機関の管理下にないダークサマナーだとは聞いていたが』

 

「自分やハルアキのようにヤタガラスに協力して治安維持に動かないデビルサマナーなのは同じだ、ゴウト」

 

「そうですね。俺たちとは違う価値観をもち、別の目的で動くデビルサマナーなのは紛れもない事実です。なんのために動いているのはわかりませんが腕は確かです、気をつけて」

 

『ハルアキのいうとおりだ。将来人が送りつけてくるダークサマナーはこれで2人目だ。あの男は強かった。この男も例外ではあるまいよ、ライドウ』

 

「わかっている」

 

14代目はうなずいた。

 

2人の会話から察するに日本だけでなく、この世界では各地にそれぞれヤタガラスのような国家を構築し維持するための超法規的機関があるのだろう。

 

歴史の表舞台に姿を表すことはなく、国家を影でささえる機関は、デビルサマナーと協力して政治や経済だけでなく霊的な守護もになっているようだ。

 

ダークサマナーはそうした国家鎮護を目的とする組織からすれば全く違う価値観で動く者たちになる。反社会的な勢力と結びつくのが常であるために、例外なく強大な力をもつ。強力なパイプがなければそうした活動は続けられないから道理だ。強くなければ反社会的ではいられない。

 

俺もいつ攻撃するかさっきから様子を伺っているのだが、ラスプーチンは全く隙がない。あのダークサマナーみたいだ。

 

「まぁミーのことはさておキ......ユーたちの知りたいことを少し話してやろウ。何も知らずに死ぬのでは......ユーたちがあまりにも哀れだから......ネ」

 

戦闘態勢にいつでも入れるというのに、自称ラスプーチンはあまりにも無防備だ。そのまま余裕ある笑みをたたえたまま、しゃべりはじめたのである。

 

俺があいつに近づくためにヤタガラスに意図的に握りつぶしていた情報ばかりだが、ここで邪魔すると14代目に怪しまれてしまう。余計なことにまで言及されないように祈るしかない。

 

ラスプーチンはいう。あの正体不明の化け物の名前はヒルコ。人間の不安や怯えといった心の隙間にできる空白に掬い、成長していく悪魔である。ヒルコに取り憑かれた人間は成長にしたがって肉体が変化する。怪人アカマントはまさしくヒルコが活性化した人間である。

 

ヒルコがさらに養分を得て完全に成長したとき、次の段階に移行する。それが俺たちがみたリョウメンスクナで見たあれだ。成長したヒルコたちは宿主から飛び出して計画のために次の準備に向かう。

 

伽耶には計画において重要な役割があり、俺たちがいかなる手段でもってしても奪還されてはならない。

 

「計画だと?」

 

『ヒルコ......国津神スクナヒコナと縁ある悪魔だな。まさか天津神の系譜たるヤタガラスに反旗を翻すために国津神が背後で動いているというのか?そのために予知ができる鬼憑きの娘を狙って!?』

 

「......なんの計画カ?ユーはそう問いたい顔をしているネ。だが、悪いけド、ミーの口かラ、それを話すことはできなイ。ミーにも雇い主の意向というものがあってネ」

 

「お前の雇い主はあのダークサマナーと同じはずだ。なんで暗殺対象に協力してるんだ、ラスプーチン」

 

「......さテ、少し話しすぎたようダ。思ったより時間がかかってしまっタ。ミーはこれでも結構忙しイ。そろそろ帰らせてもらおウ」

 

ラスプーチンの手にはいつのまにか、幾度も俺たちの邪魔をしてきたあの不気味な人形があった。

 

「おーっト、追っかけてこられちゃ、こまるからネ。ユーたちのお相手はコイツらがするサ。寂しくはあるまいヨ。でハ、サラバダ!探偵諸君!!」

 

ラスプーチンが人形を投げる。その人形は俺たち目掛けて一直線に飛来する。それを切り捨てようとするとほんの少し先で空中でぴたりと静止した。空中で静止したまま人形は上下に分かれてくるくると回転し始め、封が開く。中からは同じ人形が入っていて次から次へとでてくる。それが繰り返され、たくさんの大小様々な人形マトリョーシカがまた回転しはじめた。次は光が溢れ出し、マトリョーシカひとつひとつが14代目の悪魔召喚機である管と同じなのだと気づいたときには、すさまじい光が視界を覆い尽くしたのだった。

 

間違いない、ラスプーチンの新しい雇い主は、あいつだ。

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