流星降臨(葛葉ライドウ)   作:アズマケイ

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異界晴海町にて

 

港東区晴海町は海に面した景勝地で、赤レンガや石畳が目立つ異国情緒溢れるハイカラな港町。外国人住宅や帝国海軍の本拠海軍省があり、遠景には鉄塔のそびえる桜田山が見える。

 

その一等地に晴海町で海外からの商品を大きく扱う原田商会がある。

 

江戸時代から明治時代にかけて、河岸や港において廻船などの商船を対象として様々な業務を行った問屋のひとつであり、積荷の売買に関連して船主のために積荷を集めたり、船主と契約を結んで積荷を運送したりする運送取次・取扱の役目を果たした。

 

更に他の地域からの廻船(客船)と契約を結んでこれを受け入れて積荷の揚げ降ろしなどを行って口銭を得る場合もあった。

 

船問屋は積荷の引取・売買だけではなく、積荷の保管・管理、売買相手の斡旋・仲介、相場情報の収集・提供、船舶に関わる諸税の徴収、船具や各種消耗品の販売などその扱う分野は幅広いものがあった。

 

明治時代になると徐々に鉄道が整備されたことで貨物輸送の主軸が陸路に移り、伝統的な船問屋は廃業するか海運業に転換した。

 

原田商会は海運業に転換するにあたり、活路を海外に見出した。そのとき、代表であるエルフマンと原田は出会い、海外の物品を中心に扱うことで繁盛している。

 

なお、原田商会は船問屋だったころ、船宿という船員に飲食を提供したり、泊める宿泊施設もやっていた。また、現地の問屋と廻船(客船)との仲介業務や、海産物の加工・販売・斡旋、海難発生時には船頭・船員とともに役所に出頭して代言人の役目を果たしていた。

 

廻船問屋・船宿の間には規模の大小の違いなどはあるものの共通点も多く、両者の兼営も珍しくなかったらしい。

 

廻船問屋から方向転換するにあたり、船宿から手は引いたらしいのだが、その縁で原田の妹が銀座にある高級料亭龍宮に嫁いだという。龍宮は安倍さんもよく利用するそうだ、今度連れて行ってくれるらしい。

 

「ええと、つまり......原田商会は海運業が主体の財閥なんですね?」

 

毎度のことながらヤタガラスの情報部のエージェントだけあって安倍さんの情報提供は密度が濃い。なんとか頭をフル回転させて俺は返した。

 

「そこまで手広くはしていないようだけれど、いずれはそうなるだろうね。成金とは訳が違うけど、名家なのは事実だよ」

 

「そうですよね、そうじゃなかったらこんな一等地に会社なんて......」

 

「あそこに教会が見えるよね?あそこから原田商会のビル、そしてエルフマンの邸宅、すべてエルフマンの私有地なんだ」

 

「えええ......?」

 

「エルフマンも原田さんもやり手だってことだよ。だからヤタガラスは重宝しているんだ」

 

俺は驚くしかない。

 

「ミルクホールのマスターの依頼は悪魔の討伐だけど、まずは悪魔がどこから出入りしているか調べないといけないね。今回は初めてだから僕も手伝うよ。ハルアキは雷電属......ええと、電気扱える悪魔を呼んでくれるかな」

 

「わかりました」

 

俺はコートに忍ばせているCOMPを起動した。

 

「ケツアルカトル、力を貸してくれないか?」

 

「アオーン、今日モウマソウナ匂いダナ!イイモノ食ベタダロウ、ズルイゾッ!」

 

「後でまた買ってやるから、力を貸して欲しいな」

 

「イイゾ!ソノ言葉ワスレルナ!!」

 

ケツアルカトルは古代メソアメリカ文明で信仰されていた蛇神である「羽毛をもつ蛇」。風や雨などの天候や農耕・文化に関わる神だった。

 

トウモロコシ農耕を中心とするメソアメリカ社会にあって、生活を左右する重要な神として崇拝されていたようだ。

 

また、人々に文明・農耕を教えた文化英雄、学問・知識の神であり、天と地を行き来できる存在で、トリックスターでもある。

 

太陽と同一視され、金星は彼の心臓であるとされる。また呼吸を与える風の神でもある。自らの血で人間を造り、人間の守護者としてその豊穣と文化を培うとされる。

 

俺が真っ白な翼の生えた白い蛇と会話していると安倍さんが目を丸くした。

 

「僕の知っているケツアルカトルじゃないね」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「うん、僕の知ってるケツアルカトルは、頭飾りと神官服を身に着けた翼状の両手を持つ男性の姿なんだ。太陽の化身にして人々を支配する側面、こちらはほかの側面が顕在化したんだろうね」

 

俺が感心していると、安倍さんはなにやら紙を取り出して、印を切る。

 

「式役・金龍」

 

龍の形に切った紙に西方の金の星の気を宿し、式神として操る陰陽術らしい。それはたちまち実体化した。

 

「今から魔断震の見つけ方を教えるね」

 

こうして俺は大正時代のデビルサマナーならできてあたりまえの悪魔の技能を使役している悪魔に教えていくことになったのだった。

 

「魔断震は塞がなければそのままだから、異界への出入り口にすればいいよ」

 

探知できた魔断震は、なんと原田商会の目と鼻の先にある。俺たちは顔を見合わせた。

 

「鬼門の方角でもないし、結界の跡地でもないのに......おかしいなあ」

 

「やっぱりミルクホールのマスターのいうとおり、わざとダークサマナーが設置した、とか?」

 

「うーん、どうだろう......魔断震は意図的にできるようなものじゃないんだけどな......今の段階ではなんともいえないね。ここだけじゃないとしたら、調査の余地がでてくる」

 

俺たちはそのまま異界に足を踏み入れたのだった。

 

「そのケツアルカトル、疾風属でもあるのか。調査するとき重宝しそうだね」

 

「そうみたいですね。だってさ、よかったな、ケツアルカトル。ご褒美はずむから頑張ってくれよ」

 

「マカセロー」

 

魔断震から吹き抜ける風をつかって移動するためか、安倍さんはまた別の式神を用意して移動していた。どうやら大正時代は俺たちの時代と違う分類法で悪魔をわけているようだ。ちょっと面食らうけど悪魔の属性ではなくスキルで分けていると考えたら、ある意味わかりやすいのかもしれない。

 

「今日はこのあたりの場所の把握からだね」

 

「わかりました。そうだ、悪魔を狩った分だけ報酬って話ですけど、あれですか。落としたアイテム数に応じて?」

 

「うん、フリーのデビルサマナーたちはそうしているみたいだよ」

 

「野良と使役悪魔の違いがわからないなあ......」

 

「まだ調査を始めたばかりだしね。全部もっていったらいいんじゃないかな、ミルクホールのマスターなら魔力で判別できるだろうし」

 

「なるほど、わかりました」

 

「一日の仕事を終えたら、タイプライターで報告書をうって、僕に報告してね。夜には学校や仕事終わってると思うし、だいたい本館にいるから」

 

「わかりました」

 

安倍さんはやっぱり学生だったようだ。

 

 

「あの、タイプライターってなんですか?」

 

「あ、そこからか......わかった。ここを調べ終えたら、やり方教えるよ」

 

晴海町の原田商会のあたりは、ただでさえ悪魔の出現しやすい帝都において、特に悪魔が多いように思えた。

 

俺たちはさっそくあたりの調査を開始したのだった。

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