理滅の刃   作:瓢さん。

17 / 32
そして珍しく早めの投稿なのです。

ちなみに言っときますが、アノス様の適性は日の呼吸ではないのです。

そして!アノス様視点です!


使えなくとも

「「……は?」」

 

 

 カナエとしのぶが素っ頓狂な声を出した。別にそこまで驚くことではないだろう。

 

 

「いやいやいやいや!え?全部覚えるって……え!?」「無茶ですよそんなの!どんだけ時間かかると思ってるんですか!」

 

 

 二人が同時に喋ってくる。混ざって聞こえるが問題ない。ちゃんと聞けている。まあそんなことより。

 

 

「最初は何の呼吸を覚えたらいい?俺は別に花でもいいがな」

 

 

「「人の話を聞け!」」

 

 

「何をそんなに怒っている?別に複数の呼吸を操っても問題はないだろう?」

 

 

「いやそうだけど!それでもすべて覚えてる人はいないわよ!」

 

 

「ならば俺がその第一人者になってやる」

 

 

「ならなくていいです!」

 

 

 その後も姉妹はなかなか譲らなかった。頑固にもほどがある。サーシャとミーシャでもここまで頑固ではなかったぞ。

 

 しかし俺が「最初に覚える呼吸を一日で、その後もそれぞれ三日以内に習得する」という条件を出すと、しぶしぶこれを了承してくれた。

 

 

「もう……それで、最初は花の呼吸にするの?しのぶ、覚えてるかしら?」

 

 

「え、姉さんがやるんじゃないの?」

 

 

 意外だな。カナエがやるのではないのか?

 

 するとカナエは胸に手を当て少し寂しそうに言った。

 

 

「今日、判明したんだけど……私の肺はまだ治りきっていないの。体もまだ痛むの。今の私じゃ全集中の呼吸も出来ないし、前のような動きはできないわ。お医者様曰く、あと一年はかかると」

 

 

 そこまで肺の傷が深かったとは。しのぶも目を見開く。

 

 

「私は柱を引退するつもりでいる。もちろん傷が治ったら復帰するつもりでいるけど、今は花の呼吸などの肺に負担がかかることは禁止されてるの」

 

 

「姉……さん……」

 

 

「だけど、心配しないで!その分、蝶屋敷での仕事をちゃんとやるから!」

 

 

 カナエは笑顔で、しかし少し寂しそうにそう言った。

 

 必死に感情を隠しているのだろう。昨日俺は彼女の夢を共に背負う約束をした。しかし、カナエが引退してしまった今、その夢を持っているのは俺しかいない。

 

 一年間だけとはいえ、結果的に俺に夢を押し付けた形になってしまった。責任を感じているのかもしれぬ。

 

 

 

――仕方ない。あの手(・・・)を使うとするか。

 

 この世界に来て五日。俺とて魔法の使えないこの世界で何も努力をしてこなかったわけではない。どうにか魔法を使えないか試行錯誤してきた。

 

 何千回試しただろうか。放出する魔力を極限まで小さくする。たったそれだけなのだが、俺の場合、それが途方もなく難しい。

 

 一〇の力を発生させるとき、俺の場合では魔力が強すぎてそのまま生み出すことができぬ。

 

 一万一〇と一万の力を相殺させ、一〇の力を残すのだ。それだけでも、複雑な作業になるのだが、この世界では俺の一〇の力だけでも世界に重大な損傷を与える。

 

 〇.〇〇〇〇〇〇一ぐらいまで抑えなければ話にならない。この俺でも多大な負荷がかかるぐらいには過酷な作業だ。ほかの者ならば、それだけで軽く千回は死ねるだろう。

 

 それでも、何とか〇.〇〇〇〇〇〇一の力を生み出すことには成功した。したのだが、それでもまだ三日に一回できればいいほうだ。

 

 最初に成功したのは三日前。つまり、カナエを治せる確率は幾分かある。

 

 

「カナエ。一つだけだが、お前のその肺と体の怪我、今治せる方法がある」

 

 

「!……本当、ですか」

 

 

 カナエがすがるような思いで俺に聞く。やはり、責任を感じていたのだろう。

 

 しのぶも、わずかな希望を目に宿し、俺を見ていた。

 

 

「ああ。しかし、その方法はまだ確立されてはいない。命を失う危険もある。それでも、やるか?」

 

 

 俺の言葉に、しのぶがカナエの方を向き、カナエが戸惑った表情を見せる。怪我が治るかもしれないが、命を失うリスクもある。迷って当然だ。

 

 

「やめましょう、姉さん!?せっかく生き延びたのに、死んじゃうなんて嫌!」

 

 

 しのぶは反対だ。まあ、多数の人間はそうするだろうな。自分の命をベットするなど、正気の沙汰ではないのだろう。

 

 しかし、それでも――

 

 

「やります」

 

 

「姉さん!?」

 

 

 カナエは、己が命をベットした。自分の夢を叶えるために。

 

 

「姉さん!考え直して!?死んじゃうかも知れないのよ!?」

 

 

「いいの。アノスがいなければ私はあの時、あそこで死んでいたの。拾ってもらった命、どう使ってもいいでしょう?それに」

 

 

 カナエが俺を見る。彼女は柔らかく微笑んだ。

 

 

「アノスなら、絶対成功する。そうでしょ、アノス?」

 

 

「ああ。心配いらぬ。その程度のこと、できないわけがないだろう。なにせ、俺は魔王なのだからな」

 

 

 彼女は俺を信頼している。ならば、絶対に失敗するわけにはいかぬ。

 

 

「姉さん……。ああもう!!アノスさん、お願いしますよ!」

 

 

 しのぶも観念したようだ。ふたりが俺を信頼したのだ。ひとつ、深呼吸をする。

 

 

「それで、どうすればいいのですか?」

 

 

「なに、カナエはそこに座っているだけでいい。では、いくぞ」

 

 

 さて、やるとするか。俺はカナエの胸辺りに手をかざす。

 

 まずは俺の根源に流れる魔力を確認する。異常はない。

 

 最初に行うことは、いつものように、力を相殺させ、一〇の力を生み出すことだ。

 

 そして次に、その一〇の力を保ったまま、新たに一〇の力を生成する。そして、その一〇の力同士をぶつける。

 

 もちろん、大部分の力は相殺され消える。最初の難関は、残ったこの微かな、本当に微量な魔力を見つけなければいけないことだ。

 

 一〇といっても、完全な一〇というわけではない。それこそ微量には魔力の差はある。〇.〇〇〇〇〇〇一ぐらいには。

 

 しかし、魔力あふれる俺の根源からその微量な魔力を探すのは、世界の中からたった一粒の砂を探すことと等しい。極限まで集中し、相殺によって発生した魔力を探す。

 

 何度も何度も見失い、その度に力を相殺させる。三時間は経っただろうか。ついにその時は訪れた。

 

 激流のような魔力の中、僅かなひと雫ほどの魔力を留める。極限の集中のため、滝のような汗が俺の全身から流れ落ちるが、まだ気は抜けない。次は、この微量な魔力で魔法陣を書かなければならない。

 

 砂粒ひとつほどでも気を抜けば力が暴走する。慎重に、慎重に魔法陣を形成する。

 

 いつもは一瞬で行う魔法陣の形成を、一部分ずつ、ゆっくりと行う。

 

 一秒一秒が一日ほどに感じる中、五時間をかけ、魔法陣が完成した。第二段階、完了。

 

 最後は、この魔法陣に魔力を送り、魔法を発動する。

 

 このとき、送る魔力も微量でなければならない。先ほどのように魔力を相殺させ、極微量の魔力を作り出し、それを送る。

 

 一本のピアノ線の上を片足のスケート靴でまっすぐ進むようなものだ。一瞬たりとも、気は抜けぬ。

 

 四時間は経ったか。魔力を送り終わり、魔法の発動準備が整った。何とかなったか。

 

 

「<治癒(エント)>」

 

 

 俺は魔法を発動する。治癒の光がカナエを包み込んだ。

 

 

「え……?」

 

 

「これは……?」

 

 

 二人共困惑している。魔法の発動が終わり、カナエを包み込む光が消えた。しかしカナエは死んでいない。つまり、魔法は成功したのだ。

 

 

「立ってみろ」

 

 

 カナエが言われるがまま立つ。

 

 

「……え!?体が痛くない!全集中の呼吸も使える!」

 

 

 カナエが目を丸くする。<治癒(エント)>によって彼女の負傷は全て消えた。前と同じように戦えるだろう。

 

 しのぶは、緊張が解けたのか、へなへなと座り込んだ。

 

 

「アノスさん、これって……」

 

 

「ああ。察しのとおり、魔法だ」

 

 

 カナエとしのぶが驚愕する。しのぶが震える声で俺に聞く。

 

 

「え、でもあの時、魔法は使えないって……」

 

 

 その言葉を、俺は笑い飛ばした。

 

 

 

 

「魔法が使えないからといって、それに俺が従うと思ったか」

 

 

 

 

 まあ、今はこうなってしまうがな、と付け加える。

 

 

「アノス、ありがとうっ……!」

 

 

 

 すると、カナエが抱きついてきた。全く、いつもは母のように振舞うのに、今は子供のようだな。

 

 

「ちょっ!?姉さんから離れてくださいっ!」

 

 

 驚いたしのぶが俺からカナエを引き剥がそうとするが、カナエが俺にしがみついたまま離れようとしない。

 

 

「いやー!少しぐらいいいじゃないしのぶー!」

 

 

「ダメよ姉さん!」

 

 

「なーにー?もしかして妬いてるのー?」

 

 

 カナエはニヤニヤしている。

 

 

「違うわ!!!!!とにかく離れてよ姉さーん!」

 

 

「しょうがないわねー」

 

 

 カナエが俺から離れる。そして、俺の方を向き、頭を下げた。

 

 

「改めて、本当にありがとう……。これで、また戦えるわ」

 

 

「俺一人ではない。お前たちが俺を信頼してくれたからこそ、成功した」

 

 

「それにしても、魔法ってすごいんですね……。あの傷を一瞬にして治せるなんて」

 

 

 

 しのぶが先ほどの光景を思い出したのか、嘆息する。

 

 

「まあ、それが魔法だからな。よければ、今度教え「是非お願いしますっ!!!」」

 

 

 提案を言い終わらぬうちにしのぶが即座に反応し、答えた。その勢い、まさに餌を前にした犬のごとし。

 

 

「わかった。だが、まだ魔力がお前の体に満ちていない。その時になれば教えてやる」

 

 

 そう言って立ち上がろうとするが、足がふらつく。前にこれを行ったときは魔法を行使するところまではいかなかったからな。疲労は比べ物にならないほどあるだろう。思わず、座り込んだ。

 

 

「「アノス(さん)っ!?」」

 

 

「何、心配はいらぬ」

 

 

 俺は立ち上がる。

 

 

「しかし、かなり消耗している。このままではそれぞれの呼吸法の習得は出来そうにないな。習得は明日からにするか。お前たちも疲れているだろう」

 

 

 

 三人とも十時間以上も緊張状態にあったのだ。その疲れは思ったよりもあるだろう。

 

 二人も了承した。そして訓練場から出ようと戸に向かおうとしたとき―――

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 戸が突然開き、蝶の髪飾りをつけたツインテールの少女とサイドテールの少女が訓練場に入ってきた。神崎アオイと栗花落(つゆり)カナヲだろう。蝶屋敷に住んでいて、主に治療の手伝いなどをしている、いわば助手だ。

 

 十時間以上訓練場から出てこなかったから、心配に思ったのだろう。しかし、ふたりの目は俺を向いていた。しかも、悪鬼を見るかの目で。

 

 

「こんな遅くまで……何やってたんですかぁぁぁーーー!」

 

 

 アオイの怒鳴り声が、蝶屋敷中に響き渡った。

 

 

 

 このあと、アオイとカナヲになぜ十時間以上も出てこなかったのかを厳しく追及されたり、カナエとしのぶがそれを止めたりと、なんやかんやあったのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 




魔王学院の大正コソコソ噂話

アノス様はメッチャ疲れているぞ!!!

こんなに疲れたのはこれまで生きてきた中(二千年前も含む)でも二回ぐらいしかないそうだ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。