理滅の刃   作:瓢さん。

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アノス様視点です!

そういえば魔王学院の更新がまた再開されましたね!

これからどうなるのか楽しみなのです!


空中戦の行方

(はな)の呼吸、()ノ型――<(あだ)芍薬(しゃくやく)>」

 

 

 九つの斬撃が俺に向かって放たれる。この世界の者なら躱せぬほどの速さで放たれるその斬撃を、ゆっくりと回避する。

 

 遅い。この程度の速さ、躱してくれと言っているようなものだ。

 

 

「……!? ならこれはどう!」

 

 

 カナエが目を見開く。

 

 おそらく、俺が木刀を弾いた隙に、畳み掛けるつもりだったのだろう。

 

 目を見開いたのは一瞬、次の瞬間には更なる技が繰り出される。

 

 

「花の呼吸、()ノ型――<紅花衣(べにはなごろも)>」

 

 

 木刀が大きな円を描き、こちらに襲い掛かる。

 

 これも遅い。躱すのは造作でもないが、流石に躱してばかりではな。少し反撃させてもらおう。

 

 

「お返しだ」

 

 

「花の呼吸、伍ノ型――<(あだ)芍薬(しゃくやく)>」

 

 

 先ほど俺に向かって放たれた斬撃を、今度は俺が放つ。

 

 先ほど放たれた斬撃は九つだったが、俺は力を抑え、二つ程度に留める。

 

 一つ目の斬撃が迫り来る木刀を難なく叩き落とし、二つ目の斬撃が相手の服をかすめた。

 

 

「一本!」

 

 

 声が訓練場内に響いた。

 

 

「やられちゃった……。でも、まだ一本よ!あと二本、忘れてないわよね?」

 

 

「ああ。当然だ。三本とって初めて、花の呼吸の習得を認めてもらえるのだろう?」

 

 

「ええ、まだわからないわよ」

 

 

 言葉をかけ合いながら、俺たちは再び木刀を構える。

 

 

「二戦目、開始!」

 

 

 目の前の少女が再び、真剣な表情で俺に襲い掛かってきた――― 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナエを魔法で治した翌日。疲れが取れていなかったのか、俺が起きたのは夕方だった。

 

 カナエたちは、すでに起きていて機能回復訓練というものをやっていた。一週間ほどではあるが体を動かしていなかったため、身体機能が少しばかり低下していたらしい。

 

 その低下した身体能力を復活させるのが機能回復訓練だという。

 

 詳しくは、寝たきりで硬くなった体をほぐすマッサージ、湯飲みに入った薬湯をかけあう反射訓練、訓練担当者を捕まえる全体訓練の三つだ。

 

 アオイやしのぶと行っていたようだが、俺が見る限り、ほとんど勝っていた。身体能力が戻ったのだろう。

 

 十全で教えてもらうことができるのなら、それに越したことはない。俺が今日一日寝ていたのはカナエにとっても僥倖だったかもしれぬな。

 

 ちなみに、その機能回復訓練に俺も参加しようとしたら、その場にいた全員からものすごい勢いで止められた。カナエ曰く、「相手にならない」。まあ、そうだろうな。実力の差がありすぎるか。

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日。俺はカナエから花の呼吸を教えてもらうことにした。

 

 花の呼吸は、水の呼吸の派生ではあるが、古くから鬼殺隊に伝わる流派であるらしい。

 

 

「とりあえず型を見せてもらえるか?」

 

 

 まずは型を見せてもらわねば始まらない。おそらくこの先もこのような感じで教わるだろう。

 

 カナエに花の呼吸の型をすべて見せてもらった。

 

 

「……ほう」

 

 

 カナエが放つ技を見て、俺は思わず息を吐いた。

 

 全集中の呼吸は、体内へと多量の酸素を一度に取り込む事で瞬間的に身体能力を高める技術だという。

 

 そこから、各呼吸に応じた独自の剣技を繰り出すもの。故に、鬼が扱う血鬼術の様な、魔法のような力ではない。

 

 水の呼吸だからと言って、本当に水が出るわけではない。炎の呼吸だからと言って、本物の炎を生じさせるわけではない。

 

 しかし、今カナエが放つ技からは、本物の花が視えた――気がした。

 

 おそらく、剣技を極めた者だけに現れる現象なのだろう。完成された型から繰り出される技を前にして、脳が感じてしまうのだ。

 

 まるで、本当にそこにあるかの様な、イメージを。恐らく、ここまでの域に達するまでに、血の吐くような特訓を幾度となく繰り返してきたのだろう。鬼を倒すために。

 

 カナエが花の呼吸の技をすべて放ち終わった。カナエはフウ、と息を吐く。

 

 

「どうだった?」

 

 

「なかなかのものだった。しかし、もう覚えたぞ」

 

 

「ふーん……って、え!?もう覚えたの!?一回見ただけで!?」

 

 

 カナエがびっくりしたように声を上げる。

 

 

「ああ。木刀を貸してみろ」

 

 

 カナエから木刀を借りる。よく使いこまれている。長い間、カナエが使ってきたのだろう。

 

 その木刀を使い、先ほどカナエが放った花の呼吸のすべての技を披露する。俺が放ったそれは、カナエのそれと寸分の狂いもなかった。

 

 

「……完璧だわ……」

 

 

 カナエが声を漏らす。

 

 

「これで、呼吸習得を認めてもらえるか?」

 

 

 俺の問いに、しかしカナエは首を振る。

 

 

「まだよ。確かに完璧だけど、それを使いこなせるかはまだわからないわ」

 

 

 まあ、道理だな。知識としてそれを覚えるのと、それを体で覚えるのはわけが違う。

 

 それを使いこなせて初めて、習得を認められたことになるだろう。

 

 

「それで、どうすればいい?」

 

 

 カナエが不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「私と勝負しなさい、アノス。その結果によって呼吸が習得できたかどうかを判断するわ」

 

 

 なるほど、試合で確かめるというわけか。確かに実戦が一番手っ取り早い。

 

 

「くはは、いいだろう。存分に挑め、カナエ」

 

 

 訓練場での練習試合。この世界では死んだら死んでしまうので、まさか真剣を使うわけにもいかない。木刀で行う。

 

 しのぶが任務で蝶屋敷を開けているので、代わりにアオイが審判を務めるという。

 

 

「この試合で、私から三本連続取れたら呼吸を習得したと認めるわ」

 

 

 しかし、条件がある。

 

 カナエが俺から三本のうち一本でも取ったら習得したとは認めない。そして、一本を取るときは必ず花の呼吸の型を使わなければならず、一度使った型は次の試合以降では使えない。

 

 俺の強さを考慮したうえでの条件なのだろう。つまり、ハンデだ。まあ、この程度、俺から見れば無いに等しいがな。

 

 そして、物語は冒頭に巻き戻る。

 

 

「一本!」

 

 

 再び、声が訓練場内に響き渡る。

 

 花の呼吸を使い、俺がカナエから二本目をとったのだ。

 

 

「これで二本目だ。後がなくなったな」

 

 

 

「追い詰められたわね……。さすがアノスというところかしら。だけど、一本でも取られたら負けの条件は続いてる。一度でも勝てば、私の勝ちよ!」

 

 

 三度、お互いに木刀を構える。

 

 カナエはこれまで以上に集中した様子で、俺を見ている。相手がどう出ても、即座に反応するだろう。なかなか良い状態だ。

 

 

「三戦目、開始!」

 

 

 三戦目は俺から仕掛ける。

 

 木刀を三連、カナエに向かって振るう。カナエはそれを絶妙に打ち払い、こちらに攻め込んでくる。

 

 反撃とばかりに、カナエの木刀が俺に向かって襲いかかるが、難なく打ち払った。

 

 一分あたり打ち合っただろうか。カナエの剣さばきが最初に比べて少し良くなったように思える。

 

 

「っ……!!」

 

 

 俺の放った一撃を木刀で真正面から受け止め、カナエの体勢が少し崩れる。その隙を見逃さず、俺はまだ使っていない技を繰り出した。

 

 

「花の呼吸、肆ノ型――<紅花衣(べにはなごろも)>」

 

 

 木刀が、カナエのとは比べ物にならない速度で襲い掛かる。

 

 これまでのカナエの動きから計算し、ギリギリ反応できない速度で放つ。

 

 体勢が崩れているカナエには防ぎようがない、これで勝負あり――――と思ったのだが、俺の木刀は空を切った。

 

 

「花の呼吸、(ろく)ノ型――」

 

 

 見上げると、カナエは空中に舞っていた。

 

 

「――<渦桃(うずもも)>!」

 

 

 カナエは空に飛びあがることで俺の一撃を躱し、そのまま体を捩りながら木刀を俺の首筋に向けて斬りつけようとしたのだ。

 

 しかし、ギリギリだとしてもカナエには躱せない速度だ。それを躱すとはな。

 

 この土壇場で一皮剥けたか。思わず口から笑みがこぼれる。

 

 ならば、こちらも相応のもので返さねばなるまい。

 

 

「!?」

 

 

 カナエは勝利を確信していたのだろう。しかし、次の瞬間、カナエの表情が驚愕に代わる。カナエの木刀もまた、空を切ったのだ。

 

 

「花の呼吸、陸ノ型――<渦桃(うずもも)>」

 

 

 俺はカナエの一撃を同じ技で躱す。少し跳躍しすぎたか、カナエよりも少し高い位置まで飛び上がってしまった。

 

 そのまま体を捩りながらカナエの服に一撃を入れた。

 

 

「え……あ……」

 

 

「どうした審判?宣告はまだか?」

 

 

 そのまま着陸し、呆然としたままのアオイに話しかける。アオイは、ハッと気を戻したのか、宣言した。

 

 

「一本!」

 

 

 これで、俺は三本連続カナエから取った。呼吸習得を認めてくれるはずだ。

 

――そう、思ったのだが。

 

 見ると、カナエは非常に悔しそうな顔をしていた。目に涙を浮かべるほど。

 

 

「うう~!!!もう一回よ、アノス!勝負して!!」

 

 

「わかったわかった。しかしこれで花の呼吸習得は認めてくれるな?」

 

 

「いやよ!もう一度よ!それで勝ったら認めてあげるわ!」

 

 

 約束と違う。

 

 このようなカナエを見たことがなかったのか、アオイも何とも言えぬ表情を浮かべていた。

 

 

「しかし……約束はやくそ「アオイは黙ってなさい!」はいっっ!?」

 

 

 なんという暴政か。口出し禁止とは。

 

 

「仕方ないな。本当にこれで勝ったら認めてもらえるのだな?」

 

 

「ええ!今度は負けないわよ!」

 

 

 全く。俺とカナエは再び木刀を持つ。

 

 

「か、開始ぃ!」

 

 

 アオイの少し自棄になった声をきっかけに、俺とカナエは動き出した―――――

 

 

 

 

 

 

 

 結果として。この後勝っても呼吸習得を認めてもらえず。

 

 二十回ぐらい打ち負かしたところでついにカナエが泣き出してしまった。

 

 

「ぐすっ……ひぐっ……いいわよ……呼吸習得、認めてあげるわよ……ぐすっ」

 

 

 ついに諦めたのか、泣きながら呼吸習得を認めてくれた。

 

 

「し、仕方ないですって!アノスさんの実力ですから、カナエ様が負けてもしかたないですよ!」

 

 

「!?」

 

 

 アオイが必死にカナエを慰めている。いるのだが、少しずれているのか、カナエがさらに傷ついた。

 

 

「うわー――――ん!!!」

 

 

「ちょ、カナエ様!?」

 

 

 そのままカナエが俺の胸に飛び込んできた。なぜだ。負けた相手だろうに。そのまま俺の胸で泣き続ける。あっという間に俺の服が涙で濡れた。子供か。

 

 

「なによー!一回ぐらい負けてくれてもいいじゃな―い!」

 

 

 そのまま俺をポカポカとたたく。本当に子供か。

 

 

「仕方ないだろう。負けたら呼吸習得を認めてもらえないのだからな」

 

 

「そんなに勝たなくても、もう認めてるわよー!うわーん!」

 

 

 そのまま泣き続ける。止まる様子がない。少しばかり助けを求めるようにアオイを見ると、

 

 

「カナエ様に抱き着かれるなんて……私でも抱き着かれたことがないのにっ……」

 

 

 アオイは羨ましがるような顔で俺を見ていた。助けてくれる様子はない。

 

 仕方ない。カナエが泣き止むまで待つとするか。

 

 

 

 

 

 そのままカナエが泣き止むのを待つこと数十分。

 

 

「すう……すう……」

 

 

 泣き疲れたのか、俺に抱き着いたままカナエは眠り込んでしまった。子供だな。

 

 ともかく、花の呼吸は習得を許可された。残りは水、炎、岩、雷、風、音か。そのほかにもあるのかもしれぬ。

 

 次は何を習得できるのか楽しみだな。しかし―――――

 

 

「むにゃむにゃ……次は負けないんだからぁ……」

 

 

 この状況をどうするか。それを解決するべく、俺は考え始めた――――――。

 

 

 

 

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