知らない情報すげえあった……。鬼って人間の食い物食えないんですねえ。
上弦襲来編中編。さて、半天狗はどのようなかませっぷりを見せるのか。
「……良いだろう……儂が雑魚かどうか、この姿を見ても言えるのならな!」
俺を鬼の形相で睨みつけ、そう叫んだかと思うと、積怒はおもむろに両手を掲げた。
「!?積怒、おまえな」
次の瞬間、可楽と空喜が積怒に引き寄せられたかと思うと、肉を潰すように、両手から二体の鬼を吸収した。
可楽が何かを言いかけたが、その言葉は最後まで口にされることはなかった。
次に哀絶が引き寄せられる。哀絶も何かを抗議するように口を開くが、声を発する間もなく吸収された。
そして、積怒の姿が変わる。先ほどよりも、さらに若く、さらに小さく。
「憎」の漢字が書かれた筒に皮が張られたようなものが五つ、輪になって背後に浮かんでいた。
子供鬼が手にしている動物の牙のようなもので「憎」の文字を叩く。
すると、地面から鬼でできた竜が五体、床を突き破り俺に襲い掛かってきた。
俺は背後に飛び、そのまま穴が開いた壁から外に出る。
俺が地面を踏んだその時、天元の屋敷がけたたましい音を立てて崩壊した。
「ちょ、俺の屋敷がァ―――!」
遠くから聞こえる爆音とともにそんな悲鳴が聞こえてくるが、軽く聞き流す。
土煙からは、先ほど現れた五体の木竜と、三体の鬼を吸収し、憎の鬼となった積怒がゆらりと立っていた。
「不快、不愉快、極まれり」
いや、こいつはもう積怒ではない。別の感情となった鬼だと推測する。
「貴様、積怒ではないな?名を名乗れ」
俺は目の前の鬼に名を問う。
おそらくこいつは分体を吸収することで先ほどよりも強くなったのだろう。
こいつをの頸を斬れば、消滅するのか?それとも、それでも死なないのか。
かつて積怒だった鬼は俺を親の仇のように見つめながら、己の名を明かした。
「儂の名は憎珀天。貴様のような極悪人、儂が見逃すはずがなし」
「ほう。極悪人とな。なぜ俺が極悪人なのだ?」
憎珀天の言葉に俺が疑問をぶつける。憎珀天は即座に答えた。
「弱き者をいたぶるからよ。貴様は何度も儂らの攻撃を無傷で受け、雑魚だ無駄だと罵る。これはもう鬼畜の所業だ」
帰ってきたのはそんな言葉。なんとまあこじつけがましいものだ。哀れすぎて逆に涙が出てくる。
というか、それだと自分が弱いと暴露しているようなものだが、それでいいのか?
「貴様が善きものだというのならせめて一回ぐらいは傷ついてやるのが人の道というもの。それをしないということは、貴様は正真正銘の極悪人ということにほかならない証拠ぞ」
つまり、こういうことか。俺が強すぎるのが悪いと。
自分の弱さを棚に上げて、よくもまあそこまで言えたものだな。
「くくく、くはははは!」
あまりにも面白すぎて笑いがこぼれる。
「きさま、いつから道化になった?鬼よりも、そちらのほうが貴様には向いているぞ」
そう挑発してやると、激昂したように憎珀天は再び字を叩く。
それに呼応するように、木竜から音波と雷が俺に向かって放たれた。その数、四体に分裂していた先ほどの比ではない。
俺は真正面からそれらを受ける。おそらく強化されているであろう雷も音波も、しかし俺を傷つけることは出来ない。
「いい加減諦めるのだな。たとえお前が一万回攻撃しようとも俺の身体には傷一つつかぬ」
「黙れ……」
俺は、ゆっくりと憎珀天に歩み寄る。その俺に対して、五体の木竜がすさまじい勢いで襲い掛かった。
前方から音波が、雷が、豪風が雨あられのように降り注ぐ。しかし威力はお粗末なもの。体で受けるか。
と、そこで、俺は天元との約束を思い出した。確か、音の呼吸を使って鬼を討伐しなければ、音の呼吸習得を認めてくれないのだったな。
仕方ない。と、俺は今まで存在を忘れていた二対の日輪刀を握りしめる。
――音の呼吸 肆ノ型 響斬無間
俺は天元に託された日輪刀を高速で振るう。すると、けたたましい爆発と無数の斬撃が、木竜から放たれた複数の攻撃を完全に無効化した。
ふむ。爆発すると言っていたが、まあまあ強威力だな。これを鬼が食らったら、ひとたまりもあるまい。
「――ッ!?貴様、呼吸を使えるのか!?」
「なに、こちらの都合だ。気にするな」
驚愕する憎珀天の言葉を軽く流し、俺は再び歩を歩む。
「それよりも、お前に呼吸のことを驚けるだけの余裕があるのか?お前の攻撃は通じない。先ほども言ったが、ただの無駄だ」
「極悪人が……黙れぇっ……!」
――血鬼術 無間業樹!
憎珀天が三度「憎」の文字を強く叩く。
すると、地面からさらに十の木竜が現れた。先の五体と合わせて十五か。なかなか頑張るではないか。
「死……ねぇぇぇぇ!!」
憎珀天の極限まで憎しみがこもったような叫びと同時に、先ほどとは比べ物にならない数の技が全方位から襲い掛かる。
三つは大量の雷を放出し、四つは超音波を発し、三つは豪風で俺を押しつぶそうとする。
残りの五つは俺を喰らい潰そうと直接襲い掛かってきた。
音波や雷、豪風は全くもって問題がないのだが、問題は木竜の直接攻撃。
噛みつかれても何ともないが、正直、少しうっとうしい。
俺は、日輪刀を地面に突き刺し、左右から襲い掛かり、俺を圧し潰そうとする木竜の頭をそれぞれ片手で受け止める。
「――!?」
「ふむ、軽いな」
木竜の一撃は驚くほど軽かった。このまま歩いたほうが早かったかと、少し思う。
まあ、どちらにせよ関係はないか。
俺は二体の木竜の頭をつかみ、根元から引っこ抜いた。
「ひ……引っこ抜いた……?」
そのまま残り三方から襲い掛かる木竜にたたきつける。あっけなく木竜は粉々に砕け散った。
「粉々に……く……だい……た……?」
「周りを少し掃除するか。少しうっとうしい」
二体の木竜を持ち上げ、跳躍し、そのまま周りの木竜に回転しながら突っ込む。
ダッガッガッガッガガガガガァァァァンッと轟音が何度も鳴り響き、木竜と木竜が叩きつけられ、両者が互いにボロボロになっていく。
ちょうど手にあった木竜が粉々になったころには、周りの木竜もすべて砕け散り、すっきりしていた。
「……な……え……あ……」
憎珀天は驚愕で開いた口がふさがっていなかった。
俺は元の位置に降り立ち、日輪刀を引っこ抜く。
「そろそろ終わりにするか。このやり取りはもう飽きた」
俺は一足飛びに憎珀天に駆け寄る。
「な!?く、喰らえ!」
いきなり加速する俺に驚いたのか、憎珀天は慌てて口から超音波を発した。
「だから効かないと言っているだろう」
俺は超音波を無視し、そのまま憎珀天の頸目掛け、赤き日輪刀をふるう。
「ギャッ……!?」
空中に、いったいの鬼の頸がくるくると舞った。
しかし、これで終わりとは限らない。この鬼は最初の老人のように、頸を斬っても死なないかもしれぬ。
見ると、憎珀天の頸は切り離されてはいるものの、死ぬ様子はない。
全く、どうしたら死ぬのだ?やはり陽光に当てるのが一番よいが、どうもそれだけとは思えぬ。
この鬼には、何かある。そう俺の勘は訴えているのだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!熱い!熱い!なんだこれは!?治らぬ!」
すると、憎珀天の頸からこの世と思えない悲鳴が漏れた。苦悶の表情を浮かべている。
ふむ。確かに憎珀天の頸は、治る様子がない。死なないのなら、治せることが出来るだろうに。
そして、なぜそこまで苦しむ?この鬼はあの老人鬼よりも精神的には強いはずだ。
老人鬼が苦しまず、憎珀天が苦しむ。いったいなぜだ?
老人鬼と憎珀天はともに頸を一度斬られている。しかし、斬った者は違う。老人鬼は天元、憎珀天は俺。
おそらく、ここに首が治らぬ理由があるはずだ。俺と天元の違い、違い、違い……。俺は思考の深奥に潜る。
――な……なんで日輪刀の色変わってんだ……?
突然、天元の言葉が俺の頭にフラッシュバックした。もしや、これか。
俺は手に握られた日輪刀を見る。相変わらず色は赤く染まっていた。
天元の日輪刀と俺の日輪刀は全く一緒。唯一の違いは、日輪刀の色。そういうことか。
恐らく、二度目に日輪刀の色が変わるとき、日輪刀は鬼を殺すほかに、もう一つの特性を得る。
鬼の再生阻害、もしくは、それに準ずる特性。間違いないだろう。
発現条件はまだ不明だが、近々わかるだろう。状況を顧みれば、すぐに思い当たる節が見つかるに違いない。
まあ、死なず、再生せずというこの状況は俺にとってありがたい。
「なぜ……なぜだ……なぜ治らぬ……」
俺は、いまだにそんなうめき声を出す憎珀天に近寄る。
「さて、憎珀天。お前は先ほど、俺のことを極悪人と呼んだな?」
「そ……それが……痛いぃ……」
「その通りだ。俺は極悪人だ」
憎珀天が驚いたように俺を見る。
お前が自分で言ったのだから、そんな顔をしなくともよいだろうに。
「お前は本物の極悪人を知らないのだろう?そんなお前に朗報だ」
俺は憎珀天の顔を見据え、笑った。
「ヒッ……」
憎珀天の顔に脅えが浮かぶ。憎しみなど、もうそこには微塵もなかった。
「お前の頭に叩き込んでやる。本物の極悪人というやつをな」
憎珀天のこじつけにめっちゃ頭使った……。これでいいかな……?
魔王学院の大正コソコソ噂話
カナエに日輪刀を渡されていた時も一応赫刀化しています。
だけど、日輪刀の黒のほうが強すぎて、赤色が出ていません。
性能自体は問題ありません。むしろ、縁壱以上に赫刀の性能があります。