理滅の刃   作:瓢さん。

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カナエさん視点なのです。


朝のひと時

「ん……うう……」

 

 

 朝日が私の目を刺す。雀の鳴き声がかすかに聞こえる。

 

 深い眠りの底から意識がゆっくりと浮き上がっていく。こうなってしまうともう抗うすべはない。

 

 眠りの底に戻るのを諦め、私は重い瞼を開く。瞳に映ったのは、見知った天井。

 

 そうだ、私はアノスとの稽古で、気絶してそのまま寝ちゃったのだ。

 

 いつまでも寝てはいられない。今日もやるべきことがある。

 

 そう思い、体を起こそうとする。しかし、体を起こそうとすると体に鋭い痛みが走った。

 

 

「痛ッ……!」

 

 

 どうやら、身体にはまだ昨日の痛みが残っている。いや、それだけじゃない。昨日の痛みに加えて、筋肉痛も加わっている。

 

 だけど、このぐらいなら多少は動きに阻害が出るかもしれないけど、我慢できる痛さだ。

 

 痛む体を何とか起こして、周りを見渡す。

 

 やはり、ここは蝶屋敷の療養室。私はベッドの一つに寝かせられていた。

 

 隣にはしのぶが寝かせられていた。すうすうと寝息を立てている。

 

 私もしのぶも、入院用の服に着替えさせられ、身体の所々に包帯が巻かれていた。寝ている間に治療されていたようだった。

 

 なんとなしに私は時計を見る。外はまだ明るいから、寝ていたのは三時間ぐらいだろうか。

 

 

「……え?」

 

 

 思わず声が漏れた。

 

 時計の短針が指していた数字は九。私としのぶがアノスと稽古をしていたのは、朝の十時ぐらい。

 

 時間が巻き戻っている。というより――

 

 

 

「私、一日寝ちゃってたのね……」

 

 

 その結論に思い至るほかなかった。私は自身の寝坊助ぶりに唖然とする。

 

 

「んん……姉さん……?」

 

 

 私がその事実に唖然としていると、隣から妹の声が聞こえた。

 

 

「姉さんも今起きたところ……痛ッ!」

 

 

 しのぶからも悲鳴が上がる。傷の具合は同じと言ったところかな。

 

 

「よいしょ……と」

 

 

 痛む体を無理やり動かし、しのぶも何とか起き上がった。

 

 

「どうやら、私たちは一日寝てたわ。しかもぐっすり」

 

 

 その事実をしのぶに告げたところで、急激に飢餓感が私のおなかに襲ってきた。

 

 それはしのぶも同じだったようで、おなかから盛大に空腹を示す音が鳴った。

 

 

「お、お腹空いた……」

 

 

「わ、私も……」

 

 

 考えてみれば、昨日は何も口にしていないのだ。お腹が空いて当然だ。

 

 ほとんど飢えに近いような空腹感を味わいながら、ご飯の到着を今か今かと待つ。

 

 

「起きたか、カナエ、しのぶ」

 

 

 そこに現れたのは救世主。手にしたお盆にはおにぎりが乗ったお皿とお茶が入った急須がのっていた。

 

 

「腹が減っただろうと思ってな。朝食を持ってきてやったぞ」

 

 

「おにぎり……?まさか、アノスが作ったの……?」

 

 

 アノスが作ったおにぎり。何とは言わないけど、魅力がある。

 

 別に何とは言わないけど。

 

 

「アオイに頼まれてな。まあ、この程度など朝飯前だ。朝飯は既に食ったがな」

 

 

 私は心の中で歓喜した。ありがとうございます。

 

 私は目の前に置かれた皿からおにぎりを一つ取り、口に運ぶ。握ったばかりなのか、まだほんのり温かい。

 

 

「ん、おいしい」

 

 

 ちょうどいい塩加減、握り具合も絶妙。これなら何個でも食べられそう。

 

 あっという間に一個食べ終わる。さて二個目、とおにぎりに手を伸ばしたところで、

 

 

「姉さんだけずるいですよ!私にもおにぎりください!」

 

 

 耐えきれなくなったしのぶがこちらにもと催促する。

 

 アノスがしのぶの前にもおにぎりがのったお皿を置くと、しのぶはあっという間に二個食べた。

 

 私以上にお腹が空いていたらしい。

 

 それからしばらく、私としのぶはアノスのおいしいおにぎりに舌鼓を打った。

 

 おにぎりの具も、梅干し、鮭の塩焼き、昆布、生姜の佃煮などがあり、飽きずに食べることが出来た。

 

 

「ふ―……満足したわ……」

 

 

「私も……」

 

 

 皿の上のおにぎりをすべて平らげ、食後の茶を飲みながらまったりしていた。

 

 アノスは私の隣のベッドに腰かけている。

 

 

「足りないのならまた作ってやるぞ。まだ材料はあるしな」

 

 

「今はいいわ。けど、あのおにぎりはおいしかったわ。なんかコツがあるの?」

 

 

「別にないな。普通に握っているだけだ」

 

 

「普通って、どういうことなんですか……?」

 

 

「さあな。ってかこれほんとにうめえな。十個追加で作ってくれよ」

 

 

 ……ん?

 

 今、別の声が聞こえたような……?

 

 部屋を見渡す。すると、アノスの隣に人影が。

 

 

「お、音柱様!?いつの間に!?」

 

 

 そこには、手にした皿に乗ったおにぎりをものすごい勢いで平らげる音柱・宇随天元の姿があった。

 

 

「天元、お前には二十個ほど作っただろう」

 

 

「足んねーよ。あと雛鶴たちの分も作ってやってくれ。あいつらももうすぐ起きるだろうからよ」

 

 

「宇随さん……気配を消さないでください」

 

 

 彼は元忍。気配を消すことは容易でしょうが、流石にいきなりやられると驚く。

 

 しかし、よく見てみると、宇随さんの身体は包帯でぐるぐる巻きにされていて、見るからに重傷だった。

 

 ついでに宝石が彩られた額あても外されていて、髪が下ろされている。

 

 髪をおろした宇随さんを見るのは初めてだったけど、奥さんが三人いるのも納得できるぐらい顔が整っていた。

 

 顔が整っていて、奥さんも三人いるって、本当どういうことなんだろう。

 

 

「宇随さん、その体で動かないでくださいよ。傷が開きますよ」

 

 

「けどよ、ベッドに寝た切りってのはなんか性に合わねーんだよな」

 

 

 しのぶが口をとがらせるけど、どこ吹く風。

 

 ていうか、そういう問題じゃない。けど、なんで宇随さんがここまでの大けがを……?

 

 

「そういや、昨日聞くの忘れたんだが、お前結局アイツ倒せたのか?」

 

 

「ああ、倒せたぞ。逃げ回っていたが、しょせん俺の敵ではなかったな」

 

 

「はは……。お前すげえな……」

 

 

 宇随さんの目から感情が消える。何があったのだろうか。少なくとも鬼関連であることは間違いない。

 

 

「あの、昨日何があったんですか?」

 

 

 私は二人の会話に介入する。宇随さんがそこまでの傷を負うなんて、それこそ十二鬼月の上弦でも現れたのだろうか。

 

 

「鬼の集団が俺の家に襲撃してきたんだよ……。おかげで家がぶっ壊れてさ……」

 

 

 宇随さんが哀愁を漂わせながら私の質問に答えてくれた。

 

 家が全壊……。ちょっと宇随さんに同情してしまう。

 

 というか、鬼の襲撃があったなんて。

 

 私としのぶは詳しい話を二人から聞いた。

 

 

「俺と天元の屋敷に鬼が襲撃してきてな。鬼が二十体ほどと、上弦の肆だったか」

 

 

「……は!?あいつ、上弦の肆だったの!?よく倒せた……ああ、そういやお前上弦の弐ボコボコにしてんだったな……」

 

 

 宇随さんが声を荒げたかと思ったら自分で勝手に納得してしまった。

 

 だけど私は、アノスが口にした上弦の肆という言葉に驚愕する。

 

 まさか、自分の想像が当たるとは。

 

 

「上弦の肆!?あ、アノス、倒したの?」

 

 

「ああ。前は逃してしまったからな。今度は逃がさなかったぞ」

 

 

 アノスは犬でも払ってきたかのように話しているけど、上弦討伐というのはとんでもないこと。

 

 ここ百年、十二鬼月の上弦は討伐されていない。柱ですらも悉くやられている。

 

 上弦討伐がどれほどの偉業かがわかるだろう。

 

 私は、アノスの身体を隅々まで見る。しかし、どこにも傷は見当たらない。

 

 上弦の鬼を相手して無傷でいる人なんて、後にも先にもアノスぐらいだろう。

 

 まあ、アノスは出身が出身だけど。

 

 

「ちょ、ちょっと待って。そもそもなんでアノスが宇随さんの家に?」

 

 

 上弦の肆を倒したということはアノスは宇随さんの家にいたということ。

 

 アノスが宇随さんの家にいる理由はないはずだ。

 

 

「何を言っている。天元から音の呼吸を教えてもらうと一昨日に言っただろう」

 

 

「……あっ」

 

 

 そういえばそんなことを言ってた。

 

 だとしても言った翌日に教わりに行くなんて予想できるわけない。

 

 でも、それを忘れていた私にも落ち度がある。

 

 

「確かにそうだったわ。それで、音の呼吸は習得できたの?」

 

 

 半ば予想できている答えを頭に浮かべながら私は成果を問いかけた。

 

 

「ああ。上弦の肆を倒すときに音の呼吸を使ったしな」

 

 

「こいつ一回見ただけで音の呼吸を覚えたんだぜ!?やばすぎるだろ!?」

 

 

「ああ、私たちもそれを経験してるので、もう慣れました」

 

 

 私としのぶは遠い目をする。あれは衝撃的だった。忘れたくても忘れられないだろう。

 

 

「!お前ら……」

 

 

 宇随さんは私たちの目を見ただけですべてを察したようだ。

 

 

「ったくよ……一日で覚えたってのは嘘じゃなかったってわけだ……」

 

 

 宇随さんがははは、と乾いた声で笑う。

 

 アノスさんの実力を目の当たりにした人は全員こんな顔をしているような気がする。

 

 すると、遠い目から舞い戻ってきたしのぶが、首を傾げた。

 

 

「それで、なんで音柱様はそんなにボロボロなんですか?」

 

 

「いやさ、二十体の鬼が全員血鬼術持ちでさ、しかもその全部が遠距離系とかの血鬼術でよ……いやらしかったぜ。雛鶴たちに援護してもらったんだが、それでも結構攻撃喰らっちまった」

 

 

 鬼が二十体で全員血鬼術持ち。上弦の肆の報告で印象が薄れてしまっているけど、脅威には違いない。全員倒すのはたとえ柱でも至難の業でしょう。

 

 さすが悲鳴嶼さんや煉獄さんに次ぐ古参の柱。その実力は確かなもの。

 

 

「だから俺が上弦の肆を倒して戻ってきたとき、お前は瀕死だったのか」

 

 

「おう。だからお前には感謝してるぜ。昨日は蝶屋敷まで運んでくれてありがとよ」

 

 

「なに、お前の生命力が強かっただけのことだ」

 

 

「瀕死って……ここから音柱様の家まで行くのに軽く一時間はかかりますよ!?」

 

 

 しのぶが驚いたように声を上げた。

 

 でも、確かに。瀕死の状態なら、一時間も持たないはず。

 

 まあ、アノスなら何とかなっちゃいそうな気はするけど。

 

 

「数十秒で着いた。あの程度の距離、あって無いようなものだ」

 

 

 ほら、思った通り。

 

 

 

「お前って、本気で走ったらどうなるんだよ……」

 

 

「知らぬ。まあ、あの程度の距離なら一瞬未満で着いただろうな」

 

 

「なんなんですか一瞬未満て……」

 

 

「俺に聞くな、俺に……」

 

 

 しのぶと宇随さんがアノスの実力に慄然とする中、私は宇随さんにあることを聞いた。

 

 

「宇随さん、このことは御館様には?」

 

 

「既に報告した。で、その返信がたった今来たばかりなんだが、アノスを含めた緊急柱合会議をやるらしい。議題は上弦の肆討伐について。それと……」

 

 

 一つ目は当然でしょう。なにせ上弦討伐。緊急で柱合会議をやってもおかしくありません。

 

 しかし、それ以外に何があるんでしょう……?

 

 宇随さんが、口を開きました。

 

 

「アノスが発現させた赤い刀についてだ。はるか昔、同じく日輪刀を赤くした人物がいたと鬼殺隊の文献に書き記してあったらしい」

 

 

 




赤い刀……?

一体どこの何壱さんなんでしょうねえ。
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