アノス・ヴォルディゴード→アノス様
産屋敷輝弥→御館様
鬼舞辻無惨→無惨様
シン・レグリア→シン先生
胡蝶カナエ→カナエさん
レイ・グランズドリィ→レイ君
胡蝶しのぶ→しのぶさん
エールドメード・ディティジョン→エールドメード先生
煉獄杏寿郎→煉獄さん
アルカナ→アルカナちゃん
黒死牟→兄上
一ヶ月後――
鬼殺隊の本拠地である産屋敷邸前に俺と柱たちは集まっていた。
「ったくよォ、こんな短期間に二回も柱合会議する羽目になるとはなァ」
風柱、不死川実弥がぼやいた。
「仕方ないだろう。百年以上討伐されなかった上弦の鬼が討伐されたのだからな」
答えるのは炎柱、煉獄槇寿郎。相変わらず酒の匂いを漂わせている。
だが、前回の無気力な表情とは違い、少し気力が顔に戻っている。上弦の肆討伐が心に響いたのだろうか。
「それで、なぜ胡蝶と宇随は寝っ転がっているのだ」
「……それを聞くのかァ、冨岡……。せっかく見ないようにしてたってのによォ……。後言い方考えろ」
「その傷を見るに、疲れたわけではあるまい……。何かあったのか、カナエ、宇随」
水柱の冨岡義勇、岩柱の悲鳴嶼行冥が天元とカナエに心配そうな視線を向けた。
実弥は頭痛がしたのか、頭に手を当て、目をつぶっていた。
「だ……大丈夫です、悲鳴嶼さん……。これはそう、昨日までやっていた稽古のせいです……」
「おう……。もう少ししたら回復すると思うから、少し待っててくれ……」
当の本人たちである天元とカナエは荒い息を吐きながら、地面に突っ伏していた。
「おいアノスゥ……。何をやったらこうなるってんだァ!?」
実弥がその凶悪な瞳で俺を睨みつける。
「何をといわれてもな。ただの打ち込み稽古だ。貴様らもよくやっているだろう」
「んなわけねえだろうが!ただの打ち込み稽古でどうしたらここまでボロボロになるってんだァ!?」
実弥は俺の言葉を頑なに信じようとしない。真実だというのにな。
「おい不死川……。そいつの言ってることは本当だ……。嘘はねえぞ」
「マジかよォ……」
天元のつぶやきに実弥が呆然とする。
あの日から一か月、俺はカナエとしのぶを徹底的に鍛えた。二人は「どうせ壊れるから」と言って蝶の髪飾りをつけずに稽古に臨むようになった。
その彼女たちを俺は容赦なく木刀で吹きとばした。容赦なくと言っても、大きな怪我に繋がらない程度には手加減しているが。
あの時、カナエは俺の剣を躱したが、二日目からは躱すことが出来なくなっていた。あれはたまたまだったようだ。まあ、それを常時できるようにする稽古なのだがな。
一日吹き飛ばされまくり、稽古が終わるやいなや泥のように眠る。そのまま次の朝まで起きない。
一か月、ひたすらこれを繰り返した。
任務があればその日は稽古がなくなるため、しのぶは任務が来るのを心待ちにすることもしばしばあった。
怪我のためまだ任務が届いていなかったカナエなど、
「ほんとにお願い!なんでもするから任務変わってしのぶ!」
「嫌よ姉さん!というか日輪刀届いてないから姉さんは任務に行けないでしょ!なんか知らないけど任務が私の一番の安らぎになりつつあるの!ねえどうして!?ほんとどうしてなの!?」
としのぶと揉めていた。
二人にしたらよほどきつかったらしい。この程度、これから行う稽古に比べたら序の口なのだがな。
まあ、任務の翌日は稽古をさらにハードにしたが。
稽古を見学していた天元には「派手にひでぇ」と結構な具合で引かれた。何故だ。
そんなこんなだが、この一ヶ月でカナエとしのぶはそれぞれ一回ずつ俺の剣を躱すことが出来た。
しのぶなど、最初に躱した時には信じられないような顔をして固まってしまっていた。直後に俺の一撃によって吹き飛ばされたが。
三週間目、天元の傷が完治した。
とはいえ、天元に住む家はない。ゆえに、新しい家が支給されるまで天元と嫁たちは蝶屋敷で過ごすことになった。
しかし、ただ蝶屋敷で暮らすのはつまらない。
俺は、天元にカナエたちと一緒に稽古に参加しないか、と提案してみた。
「マジかよ……あれ見てやろうとする奴はいねえと思うぞ」
「そんなことを言われてもな。それに、お前は柱だが、あの程度の鬼たちにやられるぐらいには弱い。これからも鬼殺隊の柱としてやっていくつもりがあるのなら、受けたほうがいい」
天元は最初こそ断り気味だったが、俺の言葉を聞き、少し考えた末に稽古を受けることを決心した。
そして天元が稽古を受けることになったその翌日。
「派手に一本取ってやるぜ!胡蝶たちよりも先になぐおあああああああああああ!!!!」
「「「て、天元様ぁーーー!!!」」」
天元が勢いよく叫び、二本の木刀を構え、俺に斬りかかってくる。しかし、その一秒後にはその体が宙を舞っていた。宇随の嫁たちが叫んでいた。
そのまま天元の身体が庭の壁に突っ込み、派手な音を立てた。
「姉さん姉さん。音柱様あんな啖呵切っておいて一秒でやられたんだけど」
「あれは仕方がないわよ……相手が相手だもの」
「ちょこれマジで痛いんだけど!え、これいっつも胡蝶たちに浴びせてたのお前!?派手にヤベエな!?」
「ふむ、吹き飛ばされてそれだけの口を叩けるなら、もう少し威力を上げても問題ないか」
「話聞けや!!問題大ありだよ!!!!」
この日から、吹き飛ばされる人数が一人増えるようになった。
治療する人数が増えたが、幸い天元には三人の嫁がいたため、天元の治療はそちらにやってもらうことにした。
「蝶屋敷って傷を治す屋敷のはずだよな……。俺ここに来てから傷めっちゃ負ってる気がするんだけど」
「宇随さん、それ言っちゃいますか……」
カナエ、しのぶ、天元の三人が協力し、俺から一本取ろうとしても、全て木刀によって阻まれる。
天元は柱の中でも古参なためか、俺の攻撃を躱すことも二、三度はあったが、それ以外はすべて天元を吹き飛ばした。
そんな感じの稽古を柱合会議の前日までぶっ続けでやり通した。
まあ、一本も取れないからと言って諦めずに毎日向かってきただけでもよしとするか。
「なんか死んだお父さんとお母さんが川の向こうで手を振っている夢を見た気が……」
「姉さんも見たのね……」
「俺は死んだ姉弟が手を振ってたわ……」
カナエたちは診療室のベッドの上で、そのような話を何度かしていた。死んだ家族と会う夢とは、妙な夢を見るものだな。
柱合会議を行う当日となったが、カナエと天元の疲労は取れていなかったらしく、隠の人々がわざわざ蝶屋敷邸まで足労して来てくれた。
そして産屋敷邸に到着して、今に至るというわけだ。
先ほどまで二人は地面にはいつくばっていたが、今はもう立ち上がっている。
「稽古はいいが、程々にするべきだ。我等は柱。柱がいつまでも怪我で寝込んでいては、倒せる鬼も倒せない」
「ふむ、肝に銘じておこう」
行冥からそんな忠告をもらってしまったので、とりあえず返事しておく。
確かに、怪我をしてもすぐ治せる俺の世界とはいかぬか。もう少し稽古の厳しさを和らげるとしよう。
「「助言ありがとうございます悲鳴嶼さん……」」
「嘘だろォ宇随さん……」
天元とカナエが尊敬のまなざしで行冥を見ていた。そこまできつかったのか。
実弥はそんな天元の様子に唖然としていた。
「御館様の御成です」
そんな中でも、声が聞こえた瞬間、柱全員が膝をついた。
無論、俺も膝をついている。
鬼殺隊の長である産屋敷輝哉が襖から現れた。
「またここに呼び出してすまなかったね。私のかわいい
「そんなことはございません。御館様の命とあればどこにいようともすぐに駆け付けます」
実弥が輝弥の謝罪を撤回する。忠誠心が並ではないな。
まあ、それは他の柱も同じことか。
「カナエ、怪我は治ったみたいだね。これなら、もう任務を任せても大丈夫そうだ」
「はい、ありがとうございます。これからも御館様のために、この刀、振るわせていただきます」
ちらりと輝哉が俺の方を見る。
魔法でカナエを直したことは輝哉に伝えている。
そのせいか、視線には感謝がこもっている気がした。
「早速、本題に入ろうか。アノス、彼の手で百数年ぶりに上弦の鬼を討ち、長きにわたる鬼殺隊の歴史を揺るがした。無論、天元の活躍も聞いているよ。血鬼術持ちの鬼を二十体討伐、これも賞賛すべき戦果。天元の家がなくなってしまったのは悲しいけれど、新しい屋敷を用意しておいたから、これからはそこに住むといいよ」
「何から何まで、ありがとうございます」
天元が輝弥の賞賛に対して素直に礼を言う。
「犠牲も出ずに上弦の鬼とニ十体の血鬼術持ちの鬼を討伐できた。これで鬼側の戦力は相当に削られたはずだ」
輝弥の声が心なしか上ずっているように聞こえる。
まあ、興奮しても不思議ではない。なにせ、鬼殺隊が百年以上も殺すことが出来なかった上弦の鬼が討伐されたのだから。
恐らく、あの程度の強さの鬼を向こう側は容易に生み出すことは出来ないのだろう。
でなければ、十二鬼月などという制度を作ることはしなくてもよいはずなのだからな。
すべての鬼が同じ強さを手に入れることが出来るのならばそのような制度はかえって邪魔になる。
「アノスは結果を出した。アノスをよく思わない者もいるかもしれないけど、これでアノスを鬼殺隊の一員とみなしてもらうきっかけになったと思うよ」
「……はっ」
実弥が苦々しい顔で返事をする。実弥は俺に対してあまり好印象を持っていないようだったからな。
最初が最初だからな。これからゆっくり打ち解けていけばいい。
「ここからが本題だ。アノスの日輪刀に起こった変化については既に皆に知らせた通りだと思う」
上弦の肆討伐とともに柱には俺の日輪刀が赤くなったこと、そしてその効果について輝哉は通達していた。
なんでも、天元が報告したその翌日には柱全員に知らせられたそうだ。
「確か……日輪刀が赤くなるという話でしたか」
「ああ。それに加え、赤くなった日輪刀で鬼を傷つけると、斬られた部分は再生しなくなっていた。おそらく、一種の再生阻害能力が付与されるのだろう」
行冥の言葉に俺は付け加える。
「赤に変化したのなら、アノス殿は炎の呼吸に適性があるということではないのか?」
「いえ、それはあり得ません。アノスが日輪刀を手にした時、その色は黒に変化していました。第一、煉獄さんの日輪刀にはそのような効果はついていないのですから、従来のそれとは別物であると考えたほうがいいでしょう」
炎柱である槇寿郎が俺の呼吸について推測するが、カナエが推論を否定する。
「黒……」
黒という言葉を聞き、輝弥が何かを思案していた。
「俺がアノスに日輪刀を貸した時、もともと日輪刀の色が変化してたからな。その後に赤になったから適性云々の話じゃねえんじゃねえか」
「恐らくな。しかし、発現方法がいまだ不明でな」
「その赤い日輪刀を発現できれば鬼との戦いで有利になれるということだな……。その時に何か特別なことはしていないのか」
「いや、ただ持っていただけだな。別に特に記憶に残るようなことは何もしていない」
「御館様、それでその赤い刀を発現した人物が鬼殺隊の文献に乗っているというのは本当なのですか?」
俺たちが赤い日輪刀について議論を続ける中、ふとカナエが輝弥に問うた。
たしかに、その話をするために柱合会議を開いたのだったな。議論は後でもすることが出来る。今は話を聞くとしよう。
「うん、本当だよ」
輝弥は肯定した。
「アノスに起こった現象について、鬼殺隊の古い文献に乗っていたのを最近発見してね。その説明をしようと思っていたんだ」
輝弥はあまね、と名を呼んだ。
すると、襖の奥から一人の女性が現れ出た。雲のように白い髪を持ち、整った顔立ちをしている。
彼女は、輝弥の妻である産屋敷あまねだと事前にカナエから聞いている。
「鬼殺隊の当主が代々残してきた文献の一つに、アノス・ヴォルディゴード様と同じく日輪刀を赤くした者の名が記されておりました」
儚げな声で、あまねはその者の名を口にした。
「その者の名は継国縁壱。始まりの剣士たちの一人で、鬼殺隊に全集中の呼吸を教えた者。そして、たった一人で鬼舞辻無惨を追い詰めたとされる剣士です」
ついに明かされた、名前―――
魔王学院の大正コソコソ噂話
御館様とアノス様はため口で喋って良い間柄だぞ!
御館様が許可したんだ!