理滅の刃   作:瓢さん。

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カナエさんが童磨と戦った時系列については、いろいろ言われていますが、この作品は、原作で竈門一家が無惨に襲われた一年半前と考えています。

どうかご理解の上、読み進めていただけると幸いです。


赫刀

 鬼舞辻無惨。

 

 その名を、俺はこの世界に来た初日に、カナエの口から聞いた。

 

 鬼はもともと人間であり、ある一人の存在によって鬼に変えられたのだという。

 

 その者の名は、鬼舞辻無惨。鬼の始祖であり、唯一人間を鬼へと変貌させられる存在。

 

 そして、その存在を、たった一人で追い詰めた人間、継国縁壱。

 

 俺と同じく、日輪刀を赤くすることが出来た剣士か。

 

 しかし、その人物はもうこの世には存在していないだろう。

 

 人間は寿命が短い。鬼がその気になれば、継国縁壱が死ぬまで隠れ潜むことが出来るだろうからな。

 

「それで、その継国縁壱なる人物についての情報は、何かあるのですか?」

 

 実弥があまねに問う。

 

 確かに、無惨を追い詰めた存在だというのなら、情報があってもおかしくはない。

 

 あまねは静かにうなずく。

 

「継国縁壱も、黒い日輪刀を所持していたこと、そして、既存の呼吸ではない呼吸を使っていたことなど、数点の事実が判明していますが、赤い刀については、発現したという情報以外、全く記されておりませんでした」

 

 場の空気が少し沈む。その空気を打ち破るように、俺は口を開いた。

 

「しかし、これであの赤い刀は、俺のような異世界人にだけ発現するようなものではなく、この世界の者たちでも発現できるということが分かったな」

 

 俺の言葉に、カナエが振り向く。

 

「つまり、私たちでも、あの赤い刀を発現できる……」

 

 そういうことだ。相変わらず、察しがいいな。 

 

「つってもよ、肝心の発現方法がわからねえんじゃどうにもならないぜ。お前とその継国縁壱ってやつとの共通点は何かないのか?」

 

 天元が口を挟む。

 

「日輪刀は?」

 

 唐突に、義勇が声を出した。

 

 日輪刀?ああ、色のことか。

 

「冨岡ァ……もう少し、言葉を増やしやがれェ!」

 

 遅れて気付いた実弥が、こめかみをヒクつかせる。

 

 ほかの柱も、なんともいえぬ視線を冨岡に向けていた。当の本人は、その視線を受け流していたが。

 

「確かに、アノスと継国縁壱の日輪刀の色はともに黒だったな……それではないのか?」

 

 行冥が数珠をジャリジャリと鳴らす。

 

「それも考えたのだが、俺が最初に赤い刀を発現させたのは天元の日輪刀だ。天元の日輪刀は橙。ならば日輪刀の色など関係はないだろう」

 

「じゃあよォ、なんで発現するのか心当たりはあるのかァ?」

 

「ある、と言えばあるのだが、それを確信に持っていくためには一つ確認することがある」

 

 俺はこの場にいる全員に聞いた。

 

「この世界では、人間と比較して鬼の強さはどれくらいなのだ?」

 

「そういうことだァ?なんでわざわざそんなこと今更聞くんだよォ」

 

 実弥がわけがわからないと言ったように疑問符を頭の上に浮かべる。

 

「まあ、下級の鬼だとしても、一般人よりははるかに強いわね。十二鬼月にもなると、鬼殺隊士でも太刀打ちできるかどうか怪しいわ。その中でも、十二鬼月の上弦は格が違う。アノスは簡単に倒せたと思うけど、上弦の弐に私がやられかけたことや、百年以上討伐されてこなかったことから、柱複数人で戦って、ようやく勝てるレベルだと推測されるわ」

 

 代わってカナエが鬼の強さについて簡単に説明してくれた。

 

「鬼舞辻無惨はすべての鬼の始祖。となれば、十二鬼月をも超えるほどの強さを持っているだろう。そんな存在が、ただ一人の鬼殺隊士によって追いつめられると思うのか?」

 

 無論、俺のように異世界から来たという点も考慮しているが、十中八九、ないだろう。

 

 では、なぜ継国縁壱は鬼舞辻無惨を追い詰めることが出来たのか。単純な話だ。

 

「かつて継国縁壱は鬼舞辻無惨を追い詰めることが出来た。その理由はただ一つ。継国縁壱が鬼舞辻無惨よりも強かった。それだけの話だ」

 

「そんな派手に馬鹿げた話なのか?それなら話は簡単だが、一番あり得ない可能性じゃねえか?」

 

 天元が俺の持論に待ったをかける。

 

「ありえない話ではない。俺がいた世界で俺という存在が生まれたのと同様に、この世界でも、遥か昔に規格外な実力を持った存在が生まれても何ら不思議ではない」

 

 俺のように、全てを超越した力を持った存在が、この世界でも生まれない保証はどこにもない。

 

 まあ、魔力を持っているわけではないだろうが、鬼をも超越した身体能力を持っていたのだろうな。

 

「それが本当だとして……それが赤い刀と何の関係がある?」

 

 行冥が数珠を鳴らす。

 

 俺は、皆に俺が考えた推論を話した。

 

「日輪刀が赤くなる条件として絶対なのは、日輪刀に何かの作用がかかることだ。そして、それが環境などの外的要因とは考えにくい。つまり、必然的に条件は俺たちが日輪刀に何かをすることで発生するものと考えられる」

 

 あの日、日輪刀が赤く変化してから、様々な場所、時間、環境で赤い刀を発現できるか試してみた。

 

 結果として、全ての場所、時間、環境で発現できたことから、外的要因はないと言っていいだろう。

 

「そして、俺たちが日輪刀を使うことにおいて、絶対にしなければいけないことは、日輪刀の柄を握ることだ。しかし、ただ握るだけでは赤い刀は発現しない。ただ握るだけならばとっくに発現しているだろう」

 

 しかし、あの時は、日輪刀を握ることのほかに何もしていない。

 

 握ることは絶対。しかし、ただ握るだけでは発現しない。

 

「しかし、俺や継国縁壱は人間離れした身体能力を持っている。ただ日輪刀を握るだけでも、その握る力は尋常ではないだろう。その万力の握力を込めて日輪刀を握りしめる。それにより発生する圧力を日輪刀に加えることこそが、あの赤い刀――いや、名付けるなら『赫刀』を発現させるための、条件と言えるだろう」

 

 この方法なら、たとえ日輪刀の色が何色だろうと、赫刀を発現することが可能だ。

 

「まあ、その方法なら他の要因とも矛盾しねーな。だけどよ、その方法が真実だったとして、どれぐらいの握力を加えたらその赫刀になるんだ?」

 

 天元が首を傾げる。

 

「一概には言いようがないが……」

 

 と言いながら地面に敷き詰めてある小石を一つ、手に取る。

 

 突然のその行為に、俺を除く全員が首を傾げた。

 

 俺はその小石を軽く握りしめる。鈍い音がかすかに響く。

 

 俺が手を開くと、粉々になり砂と化した小石が手の隙間からこぼれた。

 

「この程度のことを軽くやってのけるくらいでなくては赫刀は発現できぬだろうな」

 

「いや無理だろ!!!」

 

 天元が叫んだ。

 

 意外だな。天元ほどの体格があるならばこの程度は余裕だと思っていたのだが。

 

「いや、この程度余裕じゃね?とお前は思ってっかもしんないけどさ、悲鳴嶼さんでも厳しいぞ!?なあ、悲鳴嶼さん!」

 

 天元が行冥に振り向く。

 

 天元の視線に気付いたのか、行冥が申し訳なさそうに数珠を鳴らした。

 

「確かに石を握りつぶすこと自体は容易く出来るが……あそこまで念入りにつぶすとなれば、相当な力を使うに違いない。さらに、それほどの力で握るとなれば、必然的に意識は刀に向く。雑魚鬼との戦いでならいざ知らず、上弦の鬼や鬼舞辻無惨との戦いではその一瞬の隙が命取りになる。今の私たちでは、到底できることではないだろう……」

 

「悲鳴嶼さんでもそこまで言うなんて……」

 

 カナエが口に手を当てて慄く。

 

 カナエだけではない。その場にいた柱全員が赫刀の発現条件の難しさに言葉を失っていた。

 

「せっかく条件が分かってもよォ……これじゃ何の進展にもなんねえじゃねえか」

 

 実弥がぼやく。

 

「いや、そうでもない」

 

 放たれた俺の言葉に、全員の視線が再び集まった。

 

「ってもよ、お前が今の俺たちじゃ赫刀を発現できないって示したじゃねえか」

 

「俺は握りしめることで赫刀を発現するとは言っていない。小石を軽々と砂にできるほどの握力により発生する圧力を日輪刀に加えることで発現すると言ったのだ。別に必ず握る必要はない。要はそれほどの衝撃を日輪刀に加えればいいのだからな」

 

「しかし……どうすれば……」

 

「……御館様」

 

 柱の皆が方法に頭を巡らせる中、行冥が口を開いた。

 

「今だけ……刀を抜くことをお許しください」

 

「ちょっ!?何を考えてんの悲鳴嶼さん!?」

 

「一つ、思いついたのだが、御館様の前で剣を抜くことは法度……。して、御館様……如何でしょうか……?」

 

 ふむ、何か思いついたか。

 

 俺が出したのはきっかけのみ。そこから瞬時に己なりの回答を見出すとは、この男、図体だけではないようだな。

 

「いいよ。刀を抜くことを許そう」

 

 輝弥も微笑みを浮かべ、許可した。

 

「失礼します、御館様……。」

 

 行冥が日輪刀を懐から出す。

 

 しかし、その日輪刀は只の日輪刀ではなかった。

 

 俺が今まで見た限り、鬼殺隊の武器はその名の通り「刀」だった。

 

 天元のは……微妙だが、刀に類ずるものであることは間違いない。

 

 しかし、行冥のそれは、片手用の戦斧に鋼球鎖をつないだ、言うなれば「日輪鎖斧」とでも呼ぶべき、特殊な形状をしていた。

 

 行冥は確か「岩の呼吸」を使う「岩柱」だったか。岩柱は全員があのような日輪刀を持っているのか?

 

「お前たちも離れておけ。怪我をするかもしれん」

 

 ほかの柱たちが行冥から離れたと同時に、行冥は剣士として、信じられない行為をした。

 

「……ハァッ!!」

 

 気合一閃、手元の鎖を巧みに操り、先端の斧と鋼球を激しい勢いで衝突させた。

 

 ギャガッ!!と鈍い音がその場に響き渡る。

 

「キャッ!」

 

「うおっ!?」

 

 その衝撃に、周りの柱が驚愕する。

 

「一度位だけではダメか……。もう一度」

 

「なるほど。行冥は先端の斧と鋼球を鎖の遠心力で衝突させることによって、圧力を加えようという算段か。なるほど、理にはかなっているな」

 

 これなら、握力が届かずとも、赫刀を発現することも十分に可能だ。

 

 しかし、何分初めての試みだ。そううまくいくのやら。

 

「ハァ……ハァ……。……シッ!!」

 

 その後も、行冥は己の武器を衝突させ続けた。

 

 幾回もやったからなのか、行冥の額には汗がにじみ、息は上がり、手の皮が破け、血が滴り落ちている。

 

 ぶつけるといっても、ただぶつければいいということではない。

 

 斧の一点と、鋼球の一点が極限の状態でぶつかり合わなければ、赫刀を発現するに至るほどの圧力を与えられないからな。

 

 俺ならば、そこまでしなくとも発現させられるだろうが、俺と行冥ではそもそもの地力が違う。

 

 普通の人間からすれば奇跡とも言える事を成すために、行冥は極限まで集中していた。

 

 ここまで疲労したとしても、無理はない。

 

 しかし、行冥は諦めない。

 

 たとえ何度失敗しようとも挫けないという、狂気に近い気迫が行冥から感じられた。

 

 そういえば鬼殺隊は、鬼に家族や友など、自身にとって大切な存在を殺されたものの集まりとカナエに聞かされた。

 

 カナエやしのぶ、アオイやきよ、すみ、なほも両親を殺されたらしい。

 

 行冥もその一員なのだろう。

 

 そういう意味では、天元の方が異例なのか。

 

 その気迫に圧されたのか、ほかの柱も彼を止めようとはしなかった。

 

「悲鳴嶼さん、頑張れ……!」

 

 そう応援したのは、誰だったか。

 

 そしてついに、その瞬間が訪れた。

 

 

 何度、衝突させたのか。

 

 

 何度、鎖を振り上げたのか。

 

 

 数え切れぬ程の挑戦の末に――――――

 

 

 ガキィン!!

 

 

 

「これは……!」

 

 

 

 赫刀は、発現した。

 

 行冥の日輪刀は、鋼球、斧とともに、紅蓮を思わせる赫色に染まっていた。

 

 本当に発現できると思っていなかったのか、行冥も軽く惚けながら自分の日輪刀を見つめていた。

 

「これが赫刀……!本当に発現しやがったァ……!」

 

 実弥を含む柱全員は、実際に起こった現象を目の当たりにして、目を見開いている。

 

「ふむ。本当に発現するとはな。しかし、ここまで時間が掛かるなら、やはり実戦では使えぬか」

 

 赫刀を発現するまでに一時間以上もかかっている。

 

 一発で成功させなければ意味はないからな。

 

「いや……。しかし、これで私たちでも赫刀を発現させることができると証明することができた。一度発現できたのならあとは一度で出来るよう練習するのみだ」

 

 行冥が息を落ち着かせる。

 

「いける……いけるぜ、悲鳴嶼さん!これを極めたなら、俺達でも上弦を倒せるかもしれねえ!!」

 

 天元が派手に騒ぐ。ほかの柱たちも希望が見えたのか、明るい顔をしていた。

 

 ただひとり、槇寿郎を除いては。

 

 思えば彼は継国縁壱の名が出た頃から一言も喋っていない。赫刀の話の時も然りだ。

 

 まあ、その話は後にしよう。

 

「そうは言うが天元、お前の日輪刀では行冥のようなことはできないことが分かっているのか?お前の場合は握らなければ発現できないのだぞ?」

 

「ぐっ……!」

 

 天元が痛いところを突かれたというように顔を歪める。

 

 天元の日輪刀は彼の呼吸の特性上、衝撃で爆発するようにできている。

 

 ぶつけ合ったら最後、至近距離での爆発を受け、重症、もしくは死ぬかもしれぬ。

 

「それに、これは日輪刀をぶつけ合うことで初めてできる方法だ。しかも、柱ですらようやく出来るほどの難易度。つまり、柱が二人以上いるときにしか使えぬ」

 

 上弦との戦いなら、二人以上柱が居る状況もありうるかもしれぬがな。

 

「意識するのはいいが、そこまで意識しようとするな。逆に意識しすぎると、本来の力を出せずにそのまま死んでしまうかも知れぬ。あくまで、頭の片隅にとどめておくだけでよい」

 

「あんだけ言っといて結局それかよォ……」

 

 実弥が期待はずれといった顔をする。

 

「鬼を倒せる力があるからといって、そう簡単に手に入るものではないということね……。それほどに強力だもの、赫刀というのは……」

 

 カナエも脳では理解しているのだが、まだ気持ちが追いついていないといった感じか。

 

 まあ、ここにいる者はまだ若い。まだまだ伸び代があるから、将来、発現出来るものが現れるかもしれぬ。

 

「赫刀についての話はここまでだね。行冥はあとで蝶屋敷で手の手当てをするように。――他に、なにか報告はあるかな?」

 

 赫刀についての話を切り上げ、輝哉が俺たちに向かって、話しかけた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨が住み、鬼の本拠地である異空間・無限城。

 

 ここに一人の鬼が降り立った。

 

 細身ながらも筋肉質な体格の若者といった外見をしており、顔を含めた全身に藍色の線状の文様が入っている。

 

 右目には「上弦」、左目には「参」の文字が刻まれている。

 

 上弦である彼が無限城に呼ばれたということは―――――――

 

 

 

「ほかの上弦がやられた、のか」

 

 

 




なんやかんやあって三ヶ月ぐらいもこの作品をほったらかしにしてしまった……。

新作は3話でもう飽きたし、これもやっと完成したし……。

まあ次は鬼さんサイドの話なので、なるべく早く更新できるように頑張ります。
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