「ふむ。これだけの攻撃を浴びせても死なないとは。しかも、即座に傷が治る。興味深いな。」
俺は、地に伏している男の頭を踏みつけながら、そうつぶやいた。
周りには、この男が使っていた扇子のかけらが散らばっている。うっとうしいから、とりあえず砕いたのだ。
この男は、実に不思議な体をしていた。腕を、足を切り落としても、即座に生えてくるのだ。
それは、首でも例外ではなかった。首を切り落としても、またすぐに生えてきた。このような体質の者は我が世界にはいなかった。
恐るべき再生速度だ。まあ、実力が伴っていないので、大した脅威でもないが。
殺せないのと死なないのは似ているようで実は違う。殺せないほうが恐ろしいのだ。
「グッ……」
「どうした?もう終わりか?」
足の下の男が何やら呻いているが、関係ない。
どうやらこの再生力は体だけのようだ。<
「貴様、先ほどまで使っていたのは何だ?この世界では魔法は使えないはずだが」
もうひとつ、俺が気になっているのはこいつが魔法を使っているということだ。いや、魔法ではないか。こいつからは魔力とは違う、別の力を感じた。それを使って術を行使しているのだろう。
もしかしたらその力で、俺はこの世界に転移してしまったのかもしれぬ。
正直大した威力ではなかったが、ほかにも使い手がいるかもしれぬ。それと、その術が俺も使えるようになれるのか、そんな興味があった。
「俺が君に教えると思うかい?」
男が拒否する。仕方ない。俺は足にさらに力を込める。ミシミシ、と男の頭が鳴った。
「グッ!?アガアッ!?」
「貴様に拒否権はない。とっとと教えろ」
いくら再生するとはいえ人間並みの痛覚はある。死なない程度に死ぬほどの痛みを与えてやれば、いずれ吐くだろう。
「わ、分かった!け、血鬼術のことだね?あれは俺たちにしか使えないよ!人間は使えない!」
血鬼術というのか。人間には使えない、と。少し残念だ。
こいつが知っている情報はこのくらいか。
さて、どうやってこいつを殺すか。首を切っても死なないなら、方法は一つしかない。
俺は男の頭から足を放す。
「……え……?」
突然頭から足を放されて驚いたのか、男がゆっくりと頭を上げる。
そこには俺の人差し指があった。
そしてそのまま、指をはじく。
「――がしゅ……。……。…………」
男の、上半身が消し飛んだ。
「ふむ、全身を消し飛ばすつもりではじいたのだがな。力加減を間違えてしまったか」
すぐに、男の体が再生する。
「き……君……い……今……何を……?」
男が困惑に満ちた顔で俺に問うてくる。
「なに、貴様の再生が無限に続くわけがないと思ってな。殺しても死なぬなら死ぬまで殺すだけだ」
再生には何らかのエネルギーを使っている。無限に再生するなどという理不尽なものではない。
まあ、無限に再生するなら無限に殺せばいいだけなのだが。
男の顔が恐怖に染まる。
「あ……あれ……?なんだい……?これは……?体が……う、動かない……」
男はおそらく人間の感情を知らない。ゆえに、自分のこの感情が何かわからないのだろう。
この男の目には、何の感情も宿っていなかったからな。
しかし、今は違う。
「わからぬか、男」
一歩、俺は歩を刻む。
男の体は地面に根を張ったかの如く、まるで動かなかった。
「それが恐怖だ」
息を飲み、目を丸くして男は俺を見つめる。
その視線は脅えており、その足は完全に竦んでいた。
「どうだ?初めての感情を得た気分は?俺としては感想を聞きたいところだがな」
「お……俺が……恐怖なんて……」
身動き一つ取ることができず、男がガタガタと震える。
俺は容易く奴の前まで歩いていき、その指を男の額に向けた。
「とりあえず死ね。あと何回再生するのか知らんが、終わるまでやるまでだ」
そして、指を再び弾こうとしたとき―――
「危ない!」
―――黒き閃光が俺の背後から襲い掛かってきた。
魔王学院の大正コソコソ噂話
アノス様に血鬼術が効かないのは、体に魔力を張り巡らせているからだぞ!
体に巡っている魔力が、血鬼術を相殺しているんだ!