兄弟子だし、途中でグレたし、なんやかんやあってパワーアップしてるし、弟弟子に倒されるし。
俺は身を屈めて閃光をかわし、そのまま地をけり一度距離をとる。
「今のを…避けるのか……」
そこには、もう一人別の男が立っていた。
男は、この世界の者たちと同じ不思議な服を着ており、長い黒髪を後ろで縛っている。
しかし、俺が注目したのはその顔だ。
額や首元にかけて炎のような痣らしきものがあり、 六つの目を持っていた。真ん中の両目には男と同じ何やら文字のようなものが刻まれている。右目の文字のようなものは男とは違うようだが。
女と同じ妙な剣も持っている。まあ、見た目は女のそれよりもはるかに禍々しいが。
雰囲気からして、間違いなく先ほどの男よりも、強い。
「こ……黒死牟……殿……」
男がつぶやく。なるほど。あの男は黒死牟というのか。
「童磨…何をしている…」
黒死牟は童磨と呼んだ男にそう問う。
「そ……そうは言うが……あの男……あの男は、異常だ!」
童磨が震えながら俺を指さす。
「わかっている…ここは…一度退くことだな…」
なるほど。こいつは俺の強さを理解している。しかし―――
「俺がお前たちを逃がすはずがないだろう」
会話から察するに、黒死牟と童磨は仲間だ。つまり、黒死牟も人間を食っている可能性が高い。ここで殺さねば、被害は止まらないだろう。
黒死牟に向かおうとする寸前、黒死牟が動いた。
黒死牟が剣をふるうと、無数の三日月型の斬撃がこちらに向かって襲ってくる。
躱すのは容易い。しかし、後ろには先ほどの女がいる。
今はもう一人が女のそばにいるようだが、果たして一人であの斬撃の雨をすべて防ぐことができるか?
あの女一人に、これを防ぎきれるか、と聞かれたら難しいだろう。
仕方ない。
俺は向かってくるすべての斬撃を踏みつぶし、流し、掴んで別の斬撃と相殺させた。
「そうすると…思ったぞ……」
ペペンと、音がした。弦楽器が奏でられたような、そんな音だ。
見ると、二人の足元に、扉が現れていた。見たことがない扉だ。
扉が開き、二人の姿が消えようとする。
「逃さぬ」
俺は瞬時に黒死牟の前に移動する。そのまま拳を振りぬこうとするが―――
「残念…だったな……」
その前に扉が閉まり、次の瞬間扉が消えた。
逃げられたのだ。
あれは空間系の血鬼術だろう。童磨よりも、黒死牟よりも遥かにあの血鬼術のほうが厄介だ。おそらく範囲もとてつもなく広い。
俺は油断していた。二人の血鬼術はそれほどでもなかった。ゆえに、逃げられるとは思わなかった。
俺は手を強く、強く握りしめた。手のひらから血がぽたりと落ちる。
「あの……」
声をかけられた。振り向くと、先ほど「危ない!」と叫んだ少女が立っていた。
助けた女と同じ蝶の髪飾りをしている。
「姉を、助けてくれてありがとうございました」
なるほど。この少女と女は姉妹なのか。
「気にするな」
そういうと、少女は俺にこんな提案をしてきた。
「あの……よかったら私たちの屋敷に来ませんか?」