理滅の刃   作:瓢さん。

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彼方の世界、此方の世界

「素手で上弦の弐を圧倒したかと思えば、指をはじくだけで頑丈な鬼の体を粉々に粉砕する。後から来た上弦の壱の攻撃にも難なく対応した。しかしあなたはただの一般人。あなたが鬼であったなら、まだ少しでも納得できた」

 

 

 カナエは先ほどの光景を思い出すように言葉を紡ぐ。

 

 

「しかし、あなたから感じる雰囲気はまごうことなき人間。それに、上弦の弐の、本当に人間なのかという問いに貴方は『今は』と答えた。つまり、あなたは元は人間ではないということ」

 

 

 自分の推論を披露したカナエは俺の目をまっすぐ見て、訊いた。

 

 

「アノスさん……あなたは、あなたはいったい何者なんですか?」

 

 

 

 これは、ごまかしきれぬな。俺のことをよく見ているし、聞いている。ヒントを与えすぎたか。

 

 だがしかし、あの時は仕方がなかった。殺しても死なぬあの存在を誰もが無傷で済ませるにはあの方法しかなかったからな。

 

 いくらごまかしたところで、後から疑念が浮かんでくるだろう。仕方ない。本当のことを言うとするか。

 

 

「まず言っておく。これは、真実であり、俺の世迷い言では断じて無い」

 

 

 前置きをし、俺はカナエたちに語った。

 

 俺は、この世界ではなく別の世界からきた存在であり、もとは人間ではなかったということ。この世界に来た時になぜか人間になってしまったということ。

 

 俺が、元の世界では魔王と呼ばれ、魔族という人間とは違う種族である存在が住む地を統治しているということ。そして、人間と魔族は、友好的な関係を築いていることも。

 

 魔族は、人間を超越する身体能力を持つ。しかし、常軌を逸した再生力はなく、太陽の光に当たっても別に何も問題はないということ。

 

 俺の世界では魔法といった、血鬼術とは違う術を使っていること。そして、それは人間も使えるということ。

 

 

「本当ですか!?ならば、私たちに、魔法は使うことは出来ますか!?」

 

 

 この話をした瞬間、けっこうな具合で食いつかれた。しかし、見た限り、カナエたちに魔力は感じない。彼女たちは魔法を使えないだろう。

 

 そのことを告げると、見るからに落ち込んだ。仕方ないだろう。唯一使える俺とて、この世界では使えないのだから。

 

 そのほかにも、俺の世界の種族など、いろいろな話をした。

 

 噂と伝承からなる不思議な存在、精霊。

 

 地底に住まい、竜から生まれし種族、竜人。

 

 一つ一つが固有の秩序を持ち、とても強力な力を持つ存在、神。

 

 

「かっ、神!?あなた、神と会ったことがあるんですか!?いや、そもそも、神って実在するんですか!?」

 

 

 神の話をした時、二人は非常に驚いた。なんでも、この世界にとっての神は、絶対的、超越的な力を持つ人格的な存在であり、ほぼすべての人間にとっての信仰対象だそうだ。

 

 見る限り、相当な信仰を持っている。それも、ジオルダルに近いレベルで。

 

 世界が違うと、文化もここまで違うのか。興味深い。

 

 

「ならば、俺の世界での神とお前たちの世界での神は違うのだろうな」

 

 

 俺たちはその存在を便宜的に神族と呼んでいるにすぎぬ。考え方はその世界それぞれだ。

 

 

「……なんだか、よくわからなくなってきました……。別の世界が存在したり、そこでは不思議な術を使うことが一般的であったり、神が実際に存在したり……」

 

 

 カナエがこめかみをおさえる。混乱しているようだ。しのぶも大体同じ反応をしていた。

 

 まあ、いきなりそのような話をして混乱しないほうがまれだ。この反応はもっともと言えよう。

 

 

「……でも、信じます」

 

 

「ほう?」

 

 

 俺は眉をピクリと動かす。

 

 

「あなたの話は確かに世迷い言ととらわれても仕方がないでしょう。だけど、私は信じます。あの光景を見せられて、信じないわけにはいかない。何より」

 

 

 カナエのその桜色の瞳が俺の目をしっかりと見据える。

 

 

「何より、あなたの言葉には嘘がない。あなたは嘘をつく気はさらさらない」

 

 

「なぜわかる?」

 

 

「女の勘です」

 

 

 勘か。そのようなもので見抜かれるとは思わなかったな。

 

 

「ちょ、姉さん!?この話を信じるんですか!?」

 

 

 しのぶは信じていないようだ。まあ、こちらが普通の反応だな。

 

 別に彼女がおかしいわけではない。

 

 

「じゃあ、しのぶはあの光景が嘘だというの?……いいえ、本物よ。彼に今までの常識は通用しないわ。彼が常識から外れているのだとすれば、このようなことがあっても不思議はない。もう、今までの理屈が通用しないと考えたほうがいいと思うの」

 

 

 その言葉を聞いて、しのぶは黙り込む。

 

 しのぶも俺が戦う光景を見たはずだ。あの二人がどの程度の強さなのかは知らないが、少なくとも人間一人では倒せるものではないのだろう。

 

 

「別に信じなくてもよい。だが、これだけは覚えておけ。いくら現実から逃れようと、いくらありえないと叫んでいても、俺の言葉はすべて事実だ。それは変わらぬ」

 

 

 俺は事実をしのぶに突きつける。

 

 受け入れられないことなど慣れている。暴虐の魔王と名乗っても信じられないこととてあったしな。

 

 だが、時間があれば、受け入れられる。

 

 

「……確かにあなたは、姉さんを助けた。その事実は変わりません。それと同じなのでしょうね……」

 

 

 しのぶはぽつりと言葉を漏らした。

 

 

「私も信じます。姉さんを助けた人の言葉だから、信じないわけにはいかない」

 

 

 しのぶは藤色の瞳に決意を宿らせ、そう言った。

 

 

「カナエ、しのぶ、ありがとう」

 

 

 俺は頭を下げ、礼を言った。

 

 

「いえ、いいんです。アノスさんは事実を言った。私たちはそれを信じた。ただそれだけのことです」

 

 

 カナエはそう言うが、言うは易しだ。それを実行できる者は少ない。

 

 信じないものもたくさんいるだろう。

 

 

「このことは他言無用にできないか?異世界から来たなど誰も信じぬだろうしな」

 

 

 ゆえに、俺は提案した。異世界から来た人間がいるとなれば、信じる信じないは別として、大きなパニックになることは間違いないだろう。問題ごとはなるべく避けたい。

 

 カナエもそのことを理解したのか、二つ返事で頷いた。

 

 これで、俺の秘密はこの二人だけが知ることとなった。

 

 

「今度は、俺から聞かせてもらうぞ」

 

 

 そう言った瞬間、空気が引き締まる。二人の表情も自然と固くなった。

 

 

「まずはこの世界についてだ。先ほどこの世界に来た故、俺はこの世界の知識を持っていない。まずはこの世界について教えてほしい。そして」

 

 

 俺は先ほどの存在を思い出す。カナエはあれと戦っていた。

 

 そして、それは一人だけではない。つまりは、あの存在に関する何らかの組織があると思うのが妥当だ。

 

 しかも、規模はかなり大きいだろう。このような大きな屋敷は、二人だけで買えるような代物ではないのだろう。つまり、この屋敷が帰るほどの財力を持つほどの組織だということ。

 

 

 

「お前たちが戦っていたあの不死の存在。あれについての詳細を教えてほしい」

 

 

 

 

 

 

 俺はこの世界について、様々な情報を得た。

 

 まず、この国は日本というらしい。日本の外にも世界は広がっていて、数百の様々な世界があるという。

 

 そして、名前なのだが、驚いたことに、最初が姓で後が名前だという。

 

 つまり、胡蝶が名字でカナエが名前だということか。それならば、カナエとしのぶが姉妹であるという納得がいく。

 

 日本の外の国では、俺と同じく、名前が先で名字が後らしいがな。珍しい国だな、日本というのは。

 

 この世界には魔法と言ったものは存在せず、そういうものは空想作品の中だけだという。

 

 魔法がないのなら、抵抗力がなくとも生きていける。俺が異常なだけなのだ、彼らにとって何ら不自由はないな。

 

 このほかにも、今が「明治」という時代だということや、使っている文字が違うことなどを聞かされた。

 

 こうなってくると、言語が通じるのが奇跡だという風に思えていくな。

 

 意思の疎通ができるだけでも、出来ないのとは天と地ほどの差がある。

 

 そして、カナエたちは俺のもう一つの質問にも詳しく答えてくれた。

 

 俺が戦ったのは、鬼という生命体らしい。

 

 遥か昔より存在し、人を喰らい、力を増し、その力で人々を脅かす種族。

 

 基本的に不老不死で、日光でしか殺せない。

 

 しかも、魔族と同じく人間を超越する身体能力を持ち、上位の鬼はその鬼固有の術である血鬼術を使うとされている。

 

 そして、その血鬼術を使う鬼の中でも頂点に位置する鬼たちを、十二鬼月という。

 

 俺が戦ったのは、上弦の壱と弐。つまり、鬼の中でも一番目と二番目に位置する存在だったらしい。

 

 あれで一番目と二番目か。まあ、上弦の壱は少しだけだったからな。別にまだ能力を隠しているだろう。

 

 そして、鬼を倒すために作られた組織が、「鬼殺隊」。そこにカナエやしのぶは所属している。隊員はおよそ数百名。

 

 生身の身体で、人間を超越する鬼を狩る。自分が傷ついても、たとえ命を落としても。

 

 「悪鬼滅殺」の心を持って。

 

 すべては、鬼を滅ぼし人々を守るために。

 

 しかし、心だけでは鬼は殺せない。鬼を殺すための武器がなければ戦いにもならない。

 

 鬼殺隊は鬼を殺すための武器を持っている。それが、日輪刀と全集中の呼吸。

 

 

「……以上です。私の話は役に立ちましたか?」

 

 

 カナエからすべてを聞いた俺は考え込んだ。

 

 超速で再生し、人を食らい、その者固有の術を使う種族、鬼。

 

 俺の世界にはそのような種族はいなかった。

 

 俺にとっては弱かったが、俺の世界の者も多少は苦戦するだろう。

 

 何せ、夜ならば死なないのだから。しかし、最終的には倒せるだろう。

 

 しかし、この世界ではそうではない。この世界の人間たちにとって、「鬼」というものは、恐ろしい存在。

 

 この世界には魔力も、魔剣も、聖剣もすべて存在しないのだ。そのような力を持たないような一般人にとって、鬼は到底太刀打ちできない存在。

 

 この世界は曲がりなりにも平和な世界。その中途半端な平和がこのような事態を招いたのだろう。

 

 全集中の呼吸もまた興味深かった。

 

 人間が鬼に対抗するために生み出した呼吸法。身体能力を独特の呼吸によって上昇させ、鬼を殺す。それぞれ型があり、型によって繰り出せる技が違う。

 

 俺の世界では呼吸というのはあまり重視してこなかった。そんなことをするより魔力を上げたほうが敵を倒しやすいからだ。

 

 しかし、この世界の人間は魔力を使えない。なので、勝つために、様々な研究をした結果、呼吸という方法に行き着いたのだろう。

 

 日輪刀というのも初耳だ。

 

 首を斬ることで、鬼を殺すことができる、唯一の武器。鬼を殺すことに特化した魔剣のようなものか。

 

 まあしかし、罪もない人間を殺し喰うというのは許されることではない。

 

 少なくとも、鬼によってこの世界の平和は崩されようとしている。別の世界の住人だからと言って、他人事と言うわけにもいかぬな。

 

 元の世界に帰るとしても、この世界のことをよく知り、この世界の文化を持ち帰るのもよいかもしれぬ。

 

 そして、鬼を倒し、この世界に平和を取り戻す。

 

 それが、今俺がやるべきことだ。ならば、まずやることはただ一つ。

 

 

「なるほど。理解した。理解したうえで、問おう。俺は、鬼殺隊に入ることはできるか?」

 

 

 それは、鬼を殺す組織である鬼殺隊に入隊すること。

 

 話を聞くに、鬼を殺せる日輪刀は鬼殺隊が独占しているとみられる。

 

 ならば、鬼殺隊に入り、日輪刀をもらい、鬼を殺すほうが効率がいい。

 

 鬼についての情報ももらえるだろうしな。

 

 

「「えっ……」」

 

 

 カナエもしのぶも驚く。俺がその提案をするとは思っていなかったのだろう。

 

 

「俺としては、元の世界に戻りたいところだが、あいにく方法を知らぬ。そして、俺が元の世界に戻るまでにどれだけの時間を要するかもわからぬ。ならば、その空いた時間を、お前たちと同じく人を守るために使ったとしても何ら不思議はないだろう」

 

 

「し、しかし……」

 

 

「そして、何より――人々を守りたい。別世界だからといって、見て見ぬふりはしない。この世が平和でないのなら、その元凶を取り除く。すべては、人々のために」

 

 

 俺は決意を声に宿し、二人に訴えた。

 

 さて、どうか。

 

 

「……分かりました。私達鬼殺隊としても……あなた程の方が入隊してくれるというのであれば、これ以上無い幸運です」

 

 

 カナエは根負けしたようにため息をつく。

 

 まあ、鬼殺隊にとってこれを断る理由はないだろう。

 

 つまり、鬼殺隊に入るという俺の要望は叶ったのか?

 

 

「ですが……残念ながら、あなたをすぐに隊士として認める事は出来ません。隊律上、入隊希望者には必ず、最終選別と呼ばれる試験を受けてもらわなければならないのです。もっとも、アノスさんの実力ならば容易に合格はできるでしょうけど……」

 

 

「ふむ。入学試験のようなものか」

 

 

 まあ、そうだろうな。そううまくはいくまい。鬼殺隊に入るのなら、最低でも鬼を倒すこのができるくらいには戦闘力がいる。

 

 俺ならば楽に通過できるとは思うがな。

 

 

「して、その最終選別とはどういうものなのだ?」

 

 

 俺は最終選別の内容についてカナエに聞く。

 

 カナエが口を開こうとする――

 

 

 

 

 

 その、次の瞬間。

 

 

 

「伝令、伝令!!

 

 胡蝶カナエ、一週間後ノ柱合会議ニハ件ノ少年ヲ同伴サセヨ!!

 

 繰リ返ス!!

 

 胡蝶カナエ、一週間後ノ柱合会議ニハ件ノ少年ヲ同伴サセヨ!!」

 

 

「「ッ!?」」「ほう」

 

 

 突如として、客間に一羽の鴉が飛来する。

 

 

「ほう。この世界にも使い魔がいるのか」

 

 

 魔法が使えない割には、喋る鳥はいるのだな。

 

 そんなことを思っている俺に対して、二人の顔は深刻だった。

 

 

「どうした?柱合会議とは何のことだ?」

 

 

 俺はカナエに聞く。

 

 カナエ重い表情で説明した。

 

 

「柱合会議とは、半年に一度、鬼殺隊の実力者が集まり話し合う会議です。そこには鬼殺隊のトップも参加します。」

 

 

 つまり、とカナエは続ける。

 

 

「鬼殺隊のトップは、あなたに柱合会議で会いたいとおっしゃっています」

 

 

 

 




 まあ、上弦の鬼を素手で圧倒したとなれば、そりゃ呼ばれますよね……。
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