テニプリkids!〜王子様25years after〜 作:ハネ太郎
入学式翌日の朝、都内某所。閑静な住宅地に建つ、ここは越前&竜崎邸。世間一般で言う豪邸ではない(リョーマ談)が、地上三階建て+地下一階の立派な家だ。
リョーマ&桜乃夫婦が新婚当時、資金とアイデアを出し合って建てた家。二人とも高給取り(一流スポーツ選手&医師)の上に華美贅沢に興味が無いタイプなので、資金面での不安はゼロ。アイデアの大半は実現したそうだ。
表札には、
越前リョーマ
リョーヘイ
竜崎桜乃
桜夜
可南子
と連名されている。
一階は車2台と単車2台が入るガレージ、居住空間は二階と三階、そして地下。階段を昇って二階の玄関に上がる構造なのだが、新居を建てたとたんにリョーマが試合で脚を負傷。松葉杖生活の中、バリアフリーの重要性を身を以て思い知ることとなったという。
この家の最も特筆すべき点、それは「屋上にテニスコートがある」こと。もちろん亭主たるリョーマの
「みんな、もう朝よ! 起きなさ〜い!」
三階へ至る階段の前で桜乃お母さんの声が響く。そのすぐ横の和室には、まだ眠そうな顔で着替えを試みる、幼稚園児の可南子。ここが事実上、彼女の自室となっており、絵本の本棚やらおもちゃ箱やらが見える。
自室からリョーマが、着替えを済ませて出てきた。娘の入園式に出席するために昨日は黒く染めていた髪も、本来の深緑に戻っている。夫婦は昨晩は、それぞれの自室で就寝したようだ。もちろん幼い可南子はお母さんと。夫婦共同の寝室で川の字になるか、父のベッドで寝るか母のベッドで寝るか、その日によって異なる。
妻に挨拶するリョーマ。
「ぐっもーにん。もうアルコールは抜けたのか?」
「おはよう、あなた。・・・なんか夕べは酔って絡んじゃったみたいで・・・ごめんね」
バツが悪そうに頭を下げる桜乃。
「いいさ、悪いのは菊丸先輩だ。あの人は俺がきっちりシメといたから」
「あ、そう(汗)」
昨晩の寿司屋で、誤ってビールを飲ませられ、そのまま酔いつぶれてしまった桜乃。帰宅してからなんとか目を覚まし、夫の手伝いで着替えやら入浴やら済ませてまた寝たようだ。
「可南子おはよう、お、ひとりでお着替えできたかエライぞ。マエストロにゴハンは?」
「いまからやる〜そのまえにおしっこ〜」
父の問いに答え、慌ててトイレに向かう可南子。マエストロはこの家の愛犬で、赤ん坊のときに桜乃の知人を介し、縁あってこの家の一員となったオス六歳の大型。二年後に生まれ、共に育ってきた可南子がいちばん仲が良く、エサやりと散歩は、もっぱら彼女の日課だ。
「にゃーん」
「よしよしカルピン、お前も腹減ったか」
リョーマの背後から近づき、エサをねだるは愛猫カルピン。彼が少年時代に飼っていた猫と同名で見た目も瓜二つだが血縁関係ではない。ニ年ほど前、この家の庭で倒れていたのをマエストロに発見され保護されたのだが、リョーマは「かつての愛猫が生まれ変わり、また自分の元へ帰ってきた」と勝手に思い込み、「カルピン二世」と命名。・・・がしかし、いつの間にか二世が取れてしまった。オスで推定五歳。
なお、オリジナルのカルピンは、彼が中学三年生のときに天寿を全う。リョーマは桜乃と二人で一晩中泣き明かし、当時住んでいた寺の一角に手厚く葬ったという。
「「おはよう〜」」
「二日目から遅刻とか洒落にならんぞ、お前ら」
「だいじょうぶ、ちゃんと間に合うから」
と、ここでようやく三階から双子こと桜夜&リョーヘイが降りてきた。長らく二人ともひとつの部屋、寝床も同じだったのが、中学進学を期にそれぞれ別々の自室になった。
マエストロの元へ走っていく可南子と入れ替わりでトイレへ。この家のトイレは二つあるため、順番争いは起こらない。家の設計段階で双子が生まれることが判明したため、ひとつだと毎朝ケンカになるだろうから、とのリョーマのアイデア。もっとも普段はひとつだけ稼働しており、もう片方の出番はこのような朝と、あとは実質来客用になっている。
「可南子、今日はお父さんの車で行くぞ」
「はーい」
「「「いってきま~す」」」
「いってらっしゃ~い」
「にゃーん」
「わん!」
全員で朝食を済ませて、ようやく子どもたちは学校と幼稚園へ。バス停へ向かうリョーヘイと桜夜。リョーマお父さんもテレビやテニス協会の仕事で出勤、その道すがら可南子を登園させる。ひとり桜乃お母さんは家に残り家族を見送る。頭の上に乗ったカルピンと、玄関横の犬小屋のマエストロも一緒だ。
一応この夫婦も共働きというカテゴリに入るのだが、互いにスケジュールを調整して「両親二人とも遅くまで不在」という状況は、なるべく作らないようにしている。今日は桜乃はデスクワークとリモート会議。医師だが特定の病院に属しているわけではないので、その辺はまだ融通がきく。あとは主婦として家事が待っているし、更に今日は・・・。
「・・・あ、車取りに行かなきゃ」
昨日酔っ払ってやむなく店に置いてきた、愛車のトールワゴン。後でスクーターを駆って河村寿司に行かなければならない。
そしてここは青春学園中等部。続々と登校する生徒たち、あちこちから「おはよう」の挨拶。
「リョーヘイくん! 桜夜ちゃん、おはよう!」
「ようタブ! おはよう!」
「おうリョーヘイ、桜夜! タブも一緒か!」
「カニ公! 友達同士がまた同じ学校っていいわね」
リョーヘイたちに挨拶してきた「タブ」「カニ公」とは、双子の共通の幼馴染みの少年たち。
タブの本名は「田淵喜朗」。小太りの丸っこい体型とおかっぱヘアがトレードマーク。私服はオーバーオールが多いそうな。おとなしい性格の文学少年。
カニ公の本名は「可児鉄男」。典型的なやんちゃ坊主でガキ大将。仲良し四人組だが、昔は暴れすぎてリョーヘイを泣かしては桜夜に成敗され、桜夜を泣かしてはリョーヘイに成敗されたのだが、近年では自重している。部活はボクシング部に入る予定。
青春時代の時間は矢のように流れる。あっという間に部活の時間だ。
「よくぞ集まってくれた、新入生諸君! 世界に名高い男子テニス部へようこそ!」
第一テニスコートに、顧問の大石先生の声が高らかに響き渡る。
「俺が部長の竹田
続けて挨拶した少年は、男子テニス部の部長・竹田力丸。三年生。筋骨隆々な体格が嫌でも目に付く。
「ふ、副部長の・・・し、
その場にいた新入生たちは、皆一斉にこう思った。
「このヒト大丈夫かな・・・」
DQNネーム世代の申し子たる名前、メガネでヒョロヒョロした外見、オドオドした喋り方。不安要素の固まりだ。彼もまた三年生だ。
「ぼ、ぼくのことは、みなさん、気軽に『ぬいさん』とでも呼んで、く、ください」
そして他のレギュラー部員たちも同様に一言ずつ挨拶をしていく、その中で。
「二年生の小坂田健児だ!」
「あ、兄貴! 兄貴じゃないか!」
「おう、リョーヘイ! そうよ、俺もここの生徒だったのよ! 黙っててゴメンな!」
リョーヘイに兄貴と呼ばれたこの少年は、かつてレジェンドの時代、青学メンバー(主に越前リョーマ)を竜崎桜乃と共に支え続けた少女、小坂田朋香の息子だ。親同士が今でも仲が良く、リョーヘイも幼い頃からよく遊んでもらっており、彼を兄のように慕っていたのだ。当然、桜夜や可南子とも親しい。
ふたりの会話を聞いた他の新入生、そして上級生も、同じように反応した。
「リョーヘイって言ったな・・・?」
「じゃあアイツが・・・!」
「越前リョーマの息子・・・!?」
周囲がにわかに色めき立つ。突き刺さる視線、異様な気配に包まれたリョーヘイ、にわかに戦慄を覚える。
大石先生はその様を見て呟いた。
「さあ、一波乱あるぞ・・・。上手く乗り切ってくれよ、リョーヘイくん」
つづく
入部早々、周囲に目をつけられた(らしい)リョーヘイの運命やいかに!? そして桜夜のいる女子テニス部はどうなった? 次回「新世代テニス部へようこそ! 後編」お楽しみに!