テニプリkids!〜王子様25years after〜 作:ハネ太郎
小坂田朋香の息子・健児は施設から引き取られた養子だった。さらになんと、父親は越前リョーマではないかという疑惑が浮上してきた。渦中の人・リョーマ曰く、母親つまり「今の奥さん以外で交際した女性」の心当たりは一人しかいないという・・・。その人の名は!
「「「刈谷めぐみ!!!」」」
「アンタたちが結婚するちょっと前に、リョーマ様は写真週刊誌に女優さんとのツーショットをスクープされてるのよ。そのお相手が刈谷めぐみ」
朋香が興奮ぎみに話す。
「あー、そうだった。つっても昔のことだから色々忘れてるなぁ・・・。どんな記事だったっけ?」
「ハイハイ、お待ち下さい」
リョーマの問いを受けた朋香、タブレット端末を操作する。
「リョーマ様がプロ入りしてからずっと、スポーツ新聞やら週刊誌やら、あなたに関する記事は全てここにスクラップしてあります」
「いくつになっても、ブレねえな〜、こいつw」
「そだね〜w」
リョーマの初代応援団長たる朋香の初志貫徹ぶりを、微笑ましく、また頼もしく思う夫婦。
「はい、出ました! これですね」
‘プロテニスプレイヤー越前リョーマ、熱愛発覚!?’の見出しと本文、そしてホテルから出てくる男と女。腕まで組んでずいぶんと親密な関係に見えるが・・・。
「そうそう、思い出した。あいつ誰かに見せつけるかのように、わざわざ自分から引っ付いて来たんだ」
「・・・まるで写真を撮られるのを知っているかのよう・・・。記事になって大騒ぎになることは承知の上、計算ずくだったのね」
桜乃は表面上はあくまで冷静につぶやく。しかし眼鏡の奥の視線は、軽い怒りで鋭く光っていた。
今から15年前、越前リョーマ22歳。その頃既にプロテニスプレイヤーとして確固たる地位と名声をものにしていた彼であったが、人間関係は相変わらずストイックそのもの。変な友人も見当たらず、浮いた話のひとつもなかった。そんな彼に降って湧いた、「交際発覚! 相手は新進気鋭の若手女優」のゴシップ。当時のマスコミはこのネタに、待ってましたとばかりに一斉に飛びついた。
「当時はワイドショーでも女性週刊誌でも、リョーマくんとめぐみさんの話ばっかり。みんな好き勝手なこと言ってくれちゃってさ」
桜乃がうんざりした表情で語る。彼女もまたその類いの報道に振り回された一人だったのである。
「でも結局、あの人とは別れて・・・。いや、そもそも、リョーマ様! 本当に交際してたんですか? たまたま一緒にいたのを利用されて・・・じゃなくて?」
「・・・心当たりがあるって言ったろ。不本意ながら、何度も一夜を共にしたこと、あるぜ」
「やっぱり!」
朋香の問いに対するリョーマの回答は、もっとも考えたくないものだった。
「刈谷めぐみさん・・・。私も、一度だけ会ったことあるわ。女優さんらしくとても綺麗でオーラがある方、でも性格は・・・アレだった」
桜乃が追憶する、あの日の出来事。
熱愛報道からひと月あまり経った頃、試合中の大怪我で入院したリョーマは、そこで医師となっていた桜乃と奇跡の再会を果たした。彼女の指導で治療とリハビリを重ねて半年、やっと退院の目処がついた。
「その日は許可を取って、病院のレストランで退院の前祝いを、ふたりでしていたのよ・・・」
※回想シーン※
「参ったな、桜乃がせっかく気合入れてお洒落してきたのに、俺はこんなラフな格好で・・・」
「格式高いお店じゃないんだから、気にしないで。そのままでも充分素敵よ♡」
久々の私服で白シャツにGパンのリョーマと、手持ちの中から最大限のお洒落セレクトをしてきた桜乃。
「利き手が自由に使える、この喜び!」
「私のおごりよ、たくさん食べてね♡」
自身の回復を喜び、料理に舌鼓を打つリョーマと、その様を見て喜ぶ桜乃。リョーマのテーブルにはハーブソースのカットステーキにオニオンスープ、サラダとライスのセット。桜乃は生ハムサンドイッチ・スペシャルアソートとハーブティー。
「ほら、一切れやるよ。あ〜ん☆」
「あ〜ん♡」
ブランク7年を感じさせないふたり。再会した直後は多少ギクシャクしていたが、その後半年のあいだに学生時代以上の絆を育んだ。かつての恋人同士から医師と患者、苦楽を共にした戦友、彼らの関係を表す言葉は様々。
青春学園中等部を卒業、それを期にお互い交際を打ち切り、夢のためにそれぞれの道を歩んだ二人。
リョーマは相変わらず日本とアメリカを往復しながら、青学高等部のテニス部で活躍、その後プロデビューしながら大学も通った。現在は入院につき休学中。
桜乃はスポーツ選手の怪我を専門に扱う医師になるため、ドイツに留学。当地の高名な医師グウェン教授の弟子となり、直に教えを請うことに。教授についてヨーロッパ各所で修業、メキメキと頭角を表した彼女は、異例の飛び級という形で免許を取得した。通常は研修医となるのが関の山であるはずの22歳という若年で、スタッフを指揮する立場の医師として活動していたのはそのため。
「ふー、ごちそう様でした。病院メシじゃないメシはやっぱいいな〜」
「一息ついたら、質問に答えて。・・・あの女優さんとは、本当に何もなかったの? あの時は私を落ち着かせるために、あえて嘘を言ったのよね?」
桜乃の質問で、和やかな空気が吹き飛んだ。リョーマの顔から笑顔が消えた。
元カレの女性関係を追及する自分は、ひどく嫌な女に思われるだろう。リョーマに嫌われる覚悟で、それでも桜乃は、事実を確かめずにはいられなかった。
「・・・やっぱり怖いわ、女のカン。もう白状するしかないか。今から言うから、聞きたくなければ耳をふさげ」
「・・・私、逃げない。逃げないから、教えて・・・」
リョーマの告げた真実・・・刈谷めぐみとは男と女の関係で、同棲までしていた・・・それは、桜乃を床に転げ落ちさせるには十分過ぎた。
「こら、いい大人がこんなところで寝るな、起きろ!」
「〜〜〜〜〜!」
「言わんこっちゃない。ショックで言葉も出ねえかよ。なら、ついでにいいこと教えてやる。俺はアイツと別れることに決めた」
「!!」
「おい、あれ越前リョーマじゃないか? 有名なテニス選手の」
「えー、似てるだけじゃない?」
周囲の客たちが騒ぎはじめた。
「ほら、みんな見てるから。こんなとこパパラッチに撮られて記事にされたら、また大騒ぎだぞ」
リョーマは、ようやく桜乃を着席させた。
「・・・別れるって本当?」
「ああ。アイツと付き合って、俺には何の得もなかったし、楽しくもなかった。ワガママでさんざん振り回してくれやがってさ。・・・だいたいアイツ、俺が入院してる半年のあいだ、一回も見舞いに来なかったんだぜ」
「あ・・・!」
「桜乃、もし俺がいま別の、遠くの病院に移ることになったら、お前はどうする? 追いかけて転勤する以外で」
「!・・・そうね、朝とか、夜寝る前とか、挨拶や励ましのメールやラインを送るわね・・・。それもなかった・・・の?」
「なかった! 要はその程度の関係だったんだよ、俺とアイツは」
「そう・・・」
ほっとしたと同時に、彼にそんな雑な扱いをする交際相手に怒りを感じる桜乃。
(女優だかなんだか知らないけど、私の大事なリョーマくんを何だと思ってるの・・・!)
「・・・桜乃の方が、ずっといい」
「え!?」
「桜乃は俺を、心の底から心配してくれる、理解してくれる、気遣ってくれる、愛してくれる」
「・・・」
「あの当時も思ってたけど、今また強く感じる。お前と恋人同士だったあの頃は、凄く幸せだったな、って」
「・・・私も、あなたといた頃、凄く、幸せだったよ・・・」
リョーマの突然の告白に、涙声になる桜乃。
「もう一度、俺たち、やり直さないか? 恋人同士になろう! あの頃から俺も、大人になった。もっとずっと、お前を愛してやれる」
「・・・私で、いいの?」
「お前しかいない、俺には。正式なプロポーズは先の話になるけど・・・結婚を前提に。お願いします。主治医としてだけじゃなく、妻として、俺を支えてください・・・」
桜乃の前にひざまずき、手を取るリョーマ。涙が溢れて止まらない桜乃の返事は。
「奥さんがお医者さんって、結構大変なのよ。夜遅かったり朝早かったり、生活リズムが合わなくて・・・」
「アスリートの妻も、ハードな稼業だぜ。夫は試合で世界中を飛び回ることになる・・・」
「・・・私、待ってるから。ううん、もう、医療スタッフとして付いていく! 世界中どこへでも! それならいいでしょ?」
「・・・子供ができるまでの間な」
「うん! 決まりね! ・・・不束か者ですが、よろしくおねがいします・・・」
「桜乃・・・♡」
「リョーマくん・・・♡」
「もうそんないい人見つけたの!? プレイボーイなイメージなかったのに、分からないもんだわね!」
ひしと抱き合う二人を引き裂くような、怒気をはらんだ女の声が、レストランにこだました。
つづく
恋人同士に戻ったリョーマと桜乃の前に現れたのは何者か。小坂田健児とリョーマの関係はどうなった? 次回「朋香と健児と大女優・回想編2」お楽しみに!