テニプリkids!〜王子様25years after〜 作:ハネ太郎
15年前、プロの試合で大怪我したリョーマと病院勤務の医師の桜乃は、「お互い夢を叶えたら再会しよう」という学生時代の約束を期せずして果たした。患者と医師という関係から結婚を前提とした恋人同士になったふたり、しかしそれを引き裂くかのように、ある人物が姿を現した。
「もうそんないい人見つけたの!? プレイボーイというイメージはなかったのに、分からないものよね!」
「えーと・・・誰だっけ、アンタ?」
分かっていてあえてボケるリョーマ。傍らでは桜乃がガタガタ震えながら、彼にしがみついている。
「忘れたの? 刈谷めぐみよ。あなたの交際相手の」
立ち姿ひとつとっても、女優としての誇りと気品と、さらに自己顕示欲がうかがえる。
「・・・あ〜、いたいた。大事な彼氏が大怪我で苦しんでいたにも関わらず、半年間もほったらかし。見舞いはおろか励ましのメールひとつ寄越さなかった、薄情な自称・大女優さんが(笑)」
ここぞとばかりに、ありったけの嫌味をぶつけるリョーマ。
「ごめんなさいね・・・映画の撮影で、ずっと抜けられなかったのよ。メールもラインも送れなかった。事務所から止められたのね、大事な映画だからスキャンダルはよせって」
「タイトルは『落日』。確か主演だったっけ? おめでとう」
「ありがとう。でも良い事と悪い事はセットなのね、まさか撮影中、彼に浮気されるなんて・・・。いや、その泥棒猫がいけないのかしら? ダサい眼鏡で地味なフリしてさ、どんな手を使って彼を誘惑したの?」
そう言って桜乃を睨むめぐみ。当の桜乃は言い返すことも出来ないまま、蛇に睨まれた蛙のごとし。女優の放つオーラをまともに浴びてしまい、地味女の彼女は機能停止に陥ってしまったのだ。
「彼女は俺の主治医だ! 昔馴染みでもあってね、俺のことを理解し、親身になって治療してくれたんだ。どっかの誰かさんと違ってね」
代わりにリョーマが反撃する。
「それはよかったわね。私自身、男を半年もほおっておいたのは失敗だなと、反省しているところよ」
その口調や態度から、反省の色を見出すことは困難である。
相変わらず彼にしがみついて震えながらも、少し思考が回復してきた桜乃の心に、湧いてきたのは眼前の女優への怒り。
(やっぱりこの人、自分のことしか考えていない・・・!)
自分が非難されたことよりも、大切な人が自己中心的な女に苦しめられた(らしい)、そのことが許せなかった。
「忙しいスケジュールの合間を縫って、やっとお見舞いに来られたんだろうけど、残念だね。お陰様で俺はもうすぐ退院だ」
「それはおめでとう」
「・・・他に用事は? なんか言いたそうだったけど」
「お別れを言いに来たのよ・・・」
めぐみの口から意外な答え。
「私、今日をもってあなたと絶交するわ。やっぱりだめね、スポーツに興味ないくせに見た目と社会的地位と財力だけで男を選んじゃ」
「そんなこったろーと思ったよ。失望したかよ、せっかく近づいた男が贅沢に興味ない奴で」
「各界のセレブ集めて豪邸でパーティーとか、普通にやってると思ってたのに。私がおねだりしなきゃ、高級レストランひとつ行かないんだもん!」
「悪かったね、気が利かないやつで」
ちなみにリョーマも桜乃も、当時はそれぞれ地味だがそれなりに立派なマンションに住んでいた。
「アクセサリーやドレス選んでもらっても、財布固いしセンス悪いし。もうガッカリだわ。・・・まだまだ言いたいことはたくさんあるけど・・・丁度いい機会だから別れてあげる」
「そいつは大いに助かる。で、アンタはこれからどうやって生きていくんだ?」
「心配御無用。『落日』の人出監督が、私のことをひどく気に入ってくださって。これからも自分の作品で使ってくださるそうよ!」
「で、愛人として可愛がって貰うんだろ? あの人、確か既婚者だったから」
「そこまで分かってるなら、もうこれ以上の会話はいらないわね。私は大女優としてこれからセレブ街道を邁進していくから、あなたはそのお医者さんとせいぜいよろしくやってなさい。私を手放したことを後悔しないように。お幸せにね、お二人さん」
ほぼほぼ捨て台詞を残して、刈谷めぐみは去っていった。そして、桜乃はふたたび椅子から転げ落ちた。
「桜乃、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「コ、コワイ。キラキラセレブコワイ、女優オーラコワイ、三角関係コワイ、修羅場コワイ」
ショックから前後不覚に陥る桜乃。
「・・・もう大丈夫だ。あいつとは見ての通り、円満に別れられた。これで、誰にはばかる事なく宣言できる。桜乃、お前は俺の恋人だ。そして・・・妻だ!」
そう力強く言い切り、桜乃を抱き上げるリョーマ。
「もう、どこの誰にも、俺たちの仲を邪魔させるもんか。この世の果てまで、俺たちは一緒だ」
「あなたがいる所なら、私にはそこが天国よ。死んでもついていくわ」
「よろしくな、全国一のスポーツ専門医♡」
「ええ、こちらこそ。全国一のテニスプレイヤー♡」
人目をはばからず、抱きしめあい見つめ合う二人。ちなみに「全国一」とは学生時代に桜乃がリョーマに授けたキャッチコピーで、「全ての国で一番」という意味。
「・・・ちょっと、お二人さん」
「うわあっ!?」
二人を邪魔するかのように、またしても刈谷めぐみが姿を見せた。
「な、なんだ! まだ何か用か!」
「ハイ、これ」
リョーマの非難の声に、めぐみが差し出したのは花束だった。
「御見舞いと言えば花束と、かご盛りフルーツでしょ。これしか用意できなかったの、ごめんね」
「あ、いや・・・ありがとう」
いかにも、すぐそこの売店で調達してきたと思われる花束。
「あなたには、これ」
桜乃に渡されたのは、鉢植えサボテンだった。
「結婚生活が長続きするラッキーアイテムだって、占いに出てたのよ」
「あ・・・お気遣い、痛み入ります」
これも売店で売ってたらしい。
今度こそ、嵐は去った。二人はその背中を、ただ呆然と見つめていた。
つづく
さあ今度はリョーマが回想する番だ! 刈谷めぐみとはいつ、何処で出会ったのか! 次回「朋香と健児と大女優・回想編3」お楽しみに!