テニプリkids!〜王子様25years after〜 作:ハネ太郎
お茶を淹れて一息付く、王子様と二人の女たち。
「・・・え〜と、俺たちそもそも何の話してたんだっけ?」
テニスの王子様の愛称で親しまれる国民的人気(元)アスリート、越前リョーマがふと尋ねる。気がついたらあまりにもいろんな方向に話が広がってしまった。
「うちの息子の健児は元は施設の子なんですが、その父親がリョーマ様なんじゃ、という話から」
リョーマ桜乃夫妻の旧友、マジカル化粧品の社長・小坂田朋香。
「その健児くんを産んで施設に預けたのは誰なのか、と考えたら、リョーマくんの前の彼女の刈谷めぐみさんじゃないか、って」
リョーマの妻にして主治医、医学博士の竜崎桜乃である。
「めぐみさんとリョーマくんは、結局交際期間はどれほどなの?」
「終わってみれば一月あまりだな。でもあの当時は無限のように感じたよ・・・」
桜乃の問いに、遠い目をして答えるリョーマ。
「リョーマくんが入院して半年間、ずっと会ってなかった。なので妊娠してから六ヶ月前後・・・、そういえば彼女の服装、やけにお腹まわりを隠そうとしてたような・・・」
あのとき、めぐみの放つオーラに怯えつつも、桜乃は相手の服装を記憶していた。この超人的な記憶力こそ、彼女が飛び級で医師免許を取得できた要因のひとつなのだろう。しかしこれとて、越前リョーマとの出会いと交流と恋愛の日々がなければ開花しなかったはずである。
「ねえ朋香、健児くんって今14歳、中二よね?」
「そうよ。施設に預けた人が、ご丁寧にもベビー用品一式から出生届のコピーまで同封してくれたから。間違いないわ」
その言葉を受けた桜乃、突然何事かをつぶやきながら、両手の指を折ったり開いたり・・・。
「それで計算できるんか。流石に博士号取るやつは違うよな」
「うーむ、まさか前世からの鬼ダチが、こんなチートキャラに成長するとは」
「お前だって十分チートだよ、中小企業をガチ大きくしちゃってさ」
「ちょっとうるさい! 二人とも静かにして!」
「「ゴメンナサイ・・・」」
桜乃に叱られる二人。学生時代からは想像しづらい光景だ。
「ふー、健児くんの年齢的にも、めぐみさんが産んだと考えて辻褄が合うわ」
計算を終えた桜乃の結論が出た。
「もう一ついいかしら? 私が施設にいた複数の赤ん坊の中からあの子を選んだ理由・・・。なんとなく、リョーマ様に似てたからなのよ」
朋香がさらなるダメ押し。
「その見立ては、多分当たってるわ。かく言う私も初めて見たとき、そう思ったの」
桜乃も同意する。
「・・・・・・」
何も感じなかった、とはとても言えない。沈黙を貫くリョーマであった。
「ここまで来たらもう、認めちゃってもいいんじゃない? 健児くんがあなたの子だって」
「う〜ん、もうひとつ何か証拠が欲しいな〜」
確信して夫を促す妻と、慎重な姿勢を崩さない夫。
不意に、懐から封筒を取り出す朋香。
「じゃあ私がトドメ刺しますか・・・。これは健児が施設の前に捨てられていたとき、ベビー用品や出生届やらと一緒に置いてあった・・・親御さんの手紙です」
「!!」
手紙を読み上げる朋香。
「前略 私は、とある高名な男性とご縁あって、新しい命を授かりました、しがない女優です。しかしその男性とは破局、その後別の方とお付き合いしておりますが、私が前の男性との子を宿しているのを承知の上で、それでも自分たちの子として育てるとまで言ってくださったのに、産まれた途端手のひらを返し、明らかに赤ちゃん、すなわちこの子、健児を疎んじるようになりました。
父親が交際相手の子を殺害する、痛ましい事件が跡を絶たないこの世の中、いつこの子もそうなるか。さらに、夢のためと称して今現在まで好き勝手に生きてきた、この母親の巻き添えにもしたくない。
そう考えて、勝手ながら養護施設に引き取って貰おうと、結論付けたわけであります。決して、憎くて捨てたわけではありません。私の生活が安定し、子供を育てられるようになったら迎えにあがります。でもその前に、誰かいい養父母の方に引き取られていても構いません。とにかく、この健児だけは幸せになって欲しいのです。お願いします。 草々」
思わず目頭が熱くなる一同。
「・・・母親としての思いは、ね・・・。痛いぐらい伝わっているわ・・・」
涙声でハンカチを取り出す桜乃。
「わがままで自分勝手でろくでもないバカ女だと思ってたけど、普通にいいやつじゃないか・・・」
罵倒しつつも擁護する、高等テクニックを披露するリョーマ。
「悪い人のわけないわ、だってリョーマ様を選んだ女の人だもの・・・」
泣きながら独自の理論を展開する朋香。
「どういう理屈だ、そりゃ」
「よし、俺も確信した。健児は俺とめぐみの間にできた子だ」
リョーマは腹を決めた。
「まさかそのリョーマ様の子を、知らずに私が育てていたなんて。なんという運命のいたずら」
思わず天を仰ぐ朋香。
「めぐみさんに直接会って話が聞けたら早かったのに。今どこで何してるのかしら・・・」
桜乃は自分のスマホで検索した。
「刈谷めぐみ・・・あ、年は私たちよりふたつ下なのね。人出監督の映画『落日』で主演を務めた。・・・その後も人出監督の映画作品に多数出演するも、監督他界後は仕事に恵まれず・・・現在は、ほぼ引退状態、行方不明・・・?」
「まさに栄光と落日、栄華と没落。これじゃ、どっちみち健児を迎えに行くなんて不可能だったろうな・・・」
あの、セレブに憧れ、派手好きな、自称大女優の末路がこれか。かく言う自分も、アスリートとして絶頂期のときに怪我で引退した。つくづく、世は無常、盛者必衰だと感じるリョーマであった。
「・・・健児は、うちの子供たちは、今どうなってる?」
ふと思い立ち、スマホをチェックするリョーマ。すると桜夜からラインで「駅前に着いた」「高島田屋百貨店にいる」「駅前公園に着いた」などと、大人たちが議論しているあいだに逐一報告が入っていた。
「・・・よし! みんな、駅前公園に行こう!」
リョーマの運転で公園に向かう一同。そこは各種運動施設が揃っており、その中には当然、テニスコートもある。多分そこにいるだろうと、当たりをつけて探す大人たち。
案の定、四人はテニスコートにいた。本気で打ち合う、健児とリョーヘイ。
その様を見た朋香、思わず叫ぶ。
「・・・リョーマ様!?」
「俺はここにいるぞ・・・」
「ああ、リョーヘイくんか。でも、本当にそっくり・・・。あの頃のリョーマ様そのままだわ・・・」
自分たちが最初に好きになった、中学生時代のリョーマの姿をリョーヘイに重ねる朋香。
「でもまあ、あの年頃だったら、俺の方が断然強かったけどな」
「「ハイハイ、そりゃそーでしょーとも」」
ドヤ顔するリョーマに、声を重ねてツッコミを入れるサクトモコンビ。かつての青春学園中等部の名トリオだ。
「・・・って、あら、うちの健児が勝っちゃったわ」
「ふーん、けっこうやるじゃん、健児くん」
「あなたをお手本にテニスをやってると言うだけあって、プレイスタイルがそれっぽいね」
「うぬ〜、やっぱ手ごわいな、兄貴! 桜夜、交代!」
悔しがりつつも、相棒にバトンタッチするリョーヘイ。
「兄貴、か・・・。幼い頃から兄弟みたく仲がよかったんだよなぁ。まさか本当に血の繋がった兄だったと知ったら、どんな顔するかな」
いつ真実を告げるべきか。リョーマは思案した。
「仇は討つわ!」
今度は桜夜が対戦する番だ。ちなみに可南子は遊び疲れてベンチで寝ている。試合の音は気にならないようだ。
「ホーンテッドハンマー!」
健児の強力サーブを、
「フライトラップ・エクスパンション!」
カウンター技で迎え撃つ桜夜。
「分かっちゃいるけど、桜乃と同じ顔であんだけ動かれると、ねえ・・・」
学生時代の桜乃の姿を思い浮かべる朋香。自他ともに認める運動オンチの桜乃は、テニスをやっていてもまともに動けなかった。リョーマとの交流で少しばかりマシにはなったが・・・。それに対して娘の桜夜は、男子と互角に戦える腕前だ。
「いや〜、運動神経が父親譲りでよかったなぁ〜(苦笑)」
自分がもし、桜夜のようにリョーマと渡り合える強さだったら、果たして今のような結果になってるだろうか。そんな平行世界も、ちょっと見てみたいと思う桜乃であった。
「朋香・・・。健児はこれからも、お前の子だ。よろしく頼む」
「・・・はい!」
リョーマは、旧友にしばし息子を委ねることにした。力強く引き受ける朋香。
「いつネタバラしをするかとかも、お前に任せた」
「任されましたとも!」
「刈谷めぐみさん・・・。この空の下のどこかで、幸せになってくれてるといいなあ」
桜乃は夕焼け空を見ながらつぶやく。
「願ってくれるのか? 旦那の元カノの幸せを。さっきはあんなに怒ってたのに」
不思議そうに尋ねるリョーマ。
「・・・結果的にだけど、朋香に健児くんという子供を授けてくれたのは事実だもん、それに・・・同じ男を愛した女だから・・・」
結局この試合、桜夜が勝利をおさめた。と、ここで・・・。
「桜夜〜、リョーヘイ〜」
「健児〜」
「あ、お父さん! お母さんに朋香さんも!」
「よいしょっと、可南子ちゃん、迎えにきたわよ」
寝ている可南子を抱き上げる桜乃。
「んあー、お母さん〜」
「私たちは、このまま帰ります。今日は本当に、ありがとうございました」
「リョーヘイ、桜夜! また学校でな!」
電話で迎えを呼びつつ、小坂田親子は去った。
「あなた、帰る前にレンタルビデオ屋寄ってくれない? 見たい作品があるの」
「・・・分かった! 『落日』見たいんだろ!」
「え〜、なになに、なんの映画〜?」
つづく
家族旅行に出かけた越前竜崎一家。その途中で迷い込んだ廃墟で、予期せぬ出来事が、一家を襲う! 次回「人はそれをバブル廃墟と呼ぶ」お楽しみに!