テニプリkids!〜王子様25years after〜 作:ハネ太郎
旅行中に迷い込んだ廃墟の町で、猿の大群に襲われた、越前リョーマとその一家!
「ぎゃー! 助けてー! お父さ〜ん!」
「くそっ、何なんだ、こいつら!」
テニスコートの中はパニック状態。しかしよく見ると、猿たちは適当にじゃれついたり飛び跳ねたりするだけで、噛んだり引っ掻いたりなどの直接攻撃はなし。威嚇も吠えることもなく、敵意がまるで感じられない。
「お猿さんたち、遊んでほしいの?」
「それともエサ目当て? ほれ」
桜夜はオヤツの落花生を適当にばら撒く。せっせと拾う猿たち。空気が和みかけた、その時!
「いやぁっ! やめて、これ取らないで!」
桜乃お母さんの悲鳴が。見ると、群れの中でもひときわ大きい体躯の白い猿が、手下の猿数匹とともに彼女にまとわりつき、荷物を取ろうとしている!
「お母さんに、何するんだっ!」
リョーマがとっさにサーブを放つ。現役を退いてもなお正確なショット、しかし白猿は桜乃のラケットを奪い取ると、なんと! リョーマのショットを打ち返した!
「なあっ!?」
「お父さんの球を返しただと!?」
「なんで猿がテニスするのよ!」
「しかもめちゃくちゃ動きが様になってる!」
唖然とする人間たちを尻目に、白猿の合図で猿の群れは引き上げた。
「どうやら狙いは最初からラケットで、周囲の猿はカモフラージュか。しかし何故!?」
「そんな事より、お母さんが!」
桜乃が倒れ伏していた。リョーマは駆け寄り、抱き上げる。
コートを出て、近くのペンション跡地(らしい建物)に避難する一家。まだ泣きじゃくる桜乃。
「よしよし、大丈夫だお母さん」
必死になだめるリョーマだったが。
「・・・あのラケット・・・大切なラケットが・・・」
その言葉を聞いた桜夜、はたと気がついた!
「あ! そういや前に話してくれたよね、あれは思い出のラケットだって!」
リョーヘイも続ける。
「お母さんのラケットって、なんか違うんだよなぁ。うまく言えないけど・・・。そんじょそこらの製品とは違う的な・・・」
その発言で、リョーマも記憶の鍵が開いた。
「まさか・・・! あれは、学生時代の・・・!」
「そうよ、あなたが初めて、私に買ってくれたラケット・・・」
桜乃は、夫との青春の思い出を語ってみせた。
※回想シーン※
ふたりが中等部二年生のころの思い出。ある日、野試合を挑まれたリョーマは自分のラケットを破壊されてしまい、桜乃のラケットも借りて戦ったが、それも折られてしまった。
勝利はしたものの、借り物を壊してしまったお詫びに新品を買ってあげることにしたリョーマ。桜乃は遠慮するも、
「そうしないと俺の気が済まない!」
と押し切られてしまった。
休日、スポーツ用品店をあちこち回るふたり。しかし、なかなかしっくりくるラケットが見つからない。
「もういいよ、リョーマくん、適当で・・・」
「いいや、こういうのは妥協したら後々後悔するんだ!」
必死に彼の後を歩く。ふうふう息をつきながら、桜乃は女子テニス部の先輩の言葉を思い出した。
「彼氏がストイックな体育会系だと、彼女はついていくのが大変よ〜」
ふと気がつくと、ふたりは路地裏にいた。そして目の前には「スポーツの店 極上」の看板を掲げた個人商店。木枠のサッシ窓の扉、裸電球の照明、瓦屋根。かなり年季の入った、今にも崩れそうな外観。
「案外こういうとこに、掘り出し物が眠ってるんだ」
リョーマの提案でふたりが中に入ると、本来商品が置いてあるべき棚はガラガラ。中央部分は棚自体片付けられて、床に跡だけが残る。
「もう店じまいなんで、閉店セールだ。どうやらアンタたちが、最後の客のようだね」
ギョッとするふたり。よく見ると店の奥に、店舗同様に年季の入った老店主が座っていた。ニット帽に銀縁眼鏡、鋭い眼光。只者ではない雰囲気。
店内を見渡すリョーマ。店主のおじいさんの言う通り、ほとんど売れてまばらにしか残っていない商品。テニス関連もあるにはあるが、ラケットは・・・とりあえず、ありふれた木製の物が一本、そして・・・。
「! ちょっと、リョーマくん、あれ・・・あの奥・・・」
「・・・む!」
桜乃は店主の座る場所の近く、壁に高々と飾られたラケットに目を止めた。
「おじいさん、あれも売り物ですか?」
「こいつが気になるかい? 取りたいならハシゴがいるな・・・」
「いや、それには及ばないっす」
桜乃の言葉を受けてハシゴを取り出そうとする店主を、リョーマが止める。そして次の瞬間・・・なんと空になった商品棚を踏み台にして二段ジャンプ! 見事に高所のラケットを手にした!
「スゴーイ!」
「小僧、なかなかやるな・・・」
改めて問題のラケットを見定めるリョーマ。メーカーやブランドの名前がどこにもない。漆を塗ったかのような黒一色で、薄暗い店内でもひときわ黒く、暗く、まるで闇を固めたかのよう。そして例えようのないオーラを漂わす。正式な持ち方で握ってみると・・・。
「!!!」
持ったその手に衝撃が走った。呼吸が荒くなる。全身、変な汗でびっしょりだ。
「な・・・なんだこれ・・・!」
店内の、本来は棚があった場所で、素振りをしてみると!
ビュン! ビュビュン! ブワッ!
風を切る音が、狭い店内にこだまする。いや、ラケット自体が風を起こしているかのよう。リョーマ自身、これまで感じたことのない振り心地、手応え。まるで、体全体がラケットそのものになったかのよう。無心になって振り続けた。ある意味快楽すら覚える。このままずっと持っていたい、誰にも渡したくない、こいつがあれば世界最強も夢ではない、一生こいつと添い遂げたい・・・。そんな考えが次々と頭に浮かんだところで、我に返った。
「はあ、はあ・・・、桜乃!」
「え? あ、うん!」
リョーマに促されて、件のラケットを持ってみる。そして素振り。ひたすら振り回して、その勢いで転びそうになり、リョーマに受け止められる桜乃。彼女も、普通とは明らかに違うと感じていた。体の震えが止まらない。
「自分の体じゃないみたい・・・。こんなに軽快に動けるって、なんなの、これ・・・」
顔を見合わせるふたり。腹は決まった。
「おじいさん、これ、ください!」
一足早く、店の外で待つ桜乃。リョーマが支払いを終えて出てきた。
「いいラケットが見つかって、よかったな桜乃。しかも閉店セールでえらく安いの。俺も、もうひとつの買っちゃった」
「・・・本当に貰っちゃって、いいのかな。こんな凄いの・・・。リョーマくんが持った方がいいんじゃ」
「今日は桜乃に買ったんだから、桜乃のもんだ」
譲ろうとする少女、受け取りを固辞する少年。
「いくらラケットが良くても、持ち主が私みたいなポンコツじゃ・・・」
「桜乃! お前、テニスは好きか?」
「そりゃ好きだけど・・・」
リョーマは桜乃の顔を両手でホールド、さらに自分の顔を限界まで近づける。
「俺の目を見て、ちゃんと答えろ。もう一度聞く、テニスは好きか?」
「・・・はい。私、テニスが好き、です!」
まっすぐな瞳で答える桜乃。
戒めを解き、桜乃に背を向けるリョーマ。
「なら、いいじゃん。例えポンコツでも、テニスを愛する気持ちが本物なら・・・いいラケット持ってていいんだ。俺はそう思う」
「・・・・・・! ありがとう、大切にするね・・・」
まるで恋人のようにラケットを抱きしめる桜乃。その目に涙。
「分かったところで、オマケだ。あのおじいさん、最後だからって売れ残り、全部くれやがった」
リョーマの持つ紙袋からは、種々雑多なスポーツの小物が覗いている。そこから何かを取り出し・・・。
「ほれ、両手出せ」
言われるままに差し出した、桜乃の両手首に巻かれたものは。
「リストバンド!」
幾何学模様が美しい、赤青白のリストバンド。
「ま、こういうことだ」
見ると、リョーマの手首にも同じものが巻かれている! さっきまでなかったものだ!
「ペアルックって、何が楽しいのかと思ってたけど・・・悪くないな♡」
「うふふ、そうだね♡」
ふたりして照れ笑い。路地裏で人の目がないからこそ、たまにはイチャラブ。
「これでミッションクリアか。散々あちこち連れ回して悪かったな。今度はお前が俺を連れ回す番だ」
「え? いいよ、気にしてないから」
「・・・っていうか、腹減ったから、なにか食べる所へ案内してくれ・・・」
「あはは、じゃあさっき見つけたオープンカフェで」
「それはいいけど、本当にここ、どこだ? さっきの所へ辿り着けるのか!?」
不安を残しつつも、手に手を取って若い恋人たちは去っていく。
後にリョーマは単独で「スポーツの店 極上」を探そうとするも、誰に聞いても分からず、例の路地裏すら発見出来なかったという・・・。
つづく
お母さんのラケットを取り返す決意を固めた双子。白い猿に戦いを挑む! 次回「テニス猿ハヌマーン」お楽しみに!