テニプリkids!〜王子様25years after〜 作:ハネ太郎
河村寿司で行われる、青学メンバーのプチ同窓会。その席で不意に菊丸が発言した「リョーマと桜乃は夫婦なのに苗字が別々。まさか離婚してるのか」という一言が、波紋を呼んだ。それに答えるリョーマは、結婚直前の話をし始めた。
― 回想シーン ―
十数年前、プロテニス選手としてブイブイ言わせていた頃のリョーマが、当時住んでいたマンションの一室にて。
いわゆるダイニングテーブルと椅子。机上には婚約指輪と書類、印鑑など。まだ役所は完全にハンコレスにはなってないようだ。
二人が病院にて運命の再会を果たしてから、まもなく一年になろうとしていた。椅子に座り、神妙な面持ちの桜乃、その横に立つリョーマ。
リョーマ(二十代)「さて・・・これがお待ちかねの婚姻届だ。これで俺たちは、晴れて夫婦になるわけだな」
桜乃(二十代)「書き損じないように・・・うう、緊張する〜」
「俺はもうすぐ復帰戦だ、それに勝ったらSNSで結婚を発表する。どう?」
「・・・変なフラグにならない? それ。いや、もちろん私はキミが勝つって信じてるけど、さぁ・・・」
「さあ書くよ」
意を決し、ペンを握る桜乃。
「・・・と、その前に、確認しておきたいことがある」
「え? 何、関白宣言でもしたいの?」
「いや、そうじゃない・・・桜乃、お前は『越前桜乃』になりたいのか?」
「・・・え、あ! 苗字の話!?・・・それが当たり前じゃないの? 妻になる女性が夫の苗字になる。あなたの苗字になる私〜♪」
「世間一般で当たり前だからといって、それに唯々諾々と従うほど年取っちゃいない。ときには既存の常識に歯向かうのもまた、若者の特権だ」
「そうやって、つまらない常識など潰してやる! と息巻いてみても、結局思うほど上手くいかなかったと嘆くのもまた若者なのよ。・・・で、なんの話だっけ?」
「いや、みょーじだよ、結婚後の苗字の話!」
「ああ・・・」
「或いは、俺が『竜崎リョーマ』になるという選択肢もあるわけだ」
「何気にそっちの方が語呂がいいかも・・・。でもいいの? 婿養子に入っちゃって」
「家はリョーガ兄貴が継ぐからいいんだ。・・・いや、本題はそこじゃない。俺たち二人とも苗字を変えないで済む、第三の選択肢がある・・・」
と、その発言を受けた桜乃が、急に立ち上がり、声を荒げる。
「事実婚はやだよ、私! ちゃんと入籍するって言ったじゃない!」
「分かってる、そんなんだったら最初から
「こんなものってなによ! 私が・・・今までどんな思いで過ごして来たと思ってるの!? だいたいいつもリョーマくんは・・・!」
いつになく激昂し、彼に掴みかかる桜乃、その勢いで机の上のものが散らばる。
「人の話は最後まで聞けっ!!」
「!」
リョーマ は おたけびを あげた! さくの は おどろいて たちすくんだ!
リョーマの一喝でフリーズして大人しくなった桜乃。彼女をすみやかに元の椅子に座らせると、リョーマは棚からパンフレットを取り出し、差し出した。
「・・・ほら、これ。この字、読めるか?」
パンフレットの表紙には『選択的夫婦別姓制度』と書かれている。
「せんたくてき、ふうふ、べっせいせいど?」
「はい、よくできました。そいつを申請すれば、俺たちは入籍して法律上夫婦となりなおかつ、『越前リョーマ』と『竜崎桜乃』のままでいられる」
説明しつつ、桜乃が散らかした諸々を、テキパキと回収して机上に帰還させるリョーマ。
「つい先月、施行されたばかりの、出来たてホヤホヤの法律だ」
「・・・そんな事して何になるの?」
まもなく新婦になる女は、新郎になる男を訝しげに見る。
「何になるって、何と言っていいのかな・・・お前さんというか、周囲への影響の話だ。例えばこれ」
リョーマ、棚から今度は、プラスチックの小箱を取り出す。
「・・・私の名刺入れ?」
「そう、スポーツ専門医として活動するお前の、名前やら肩書きやら書かれた名刺だな、ここにあるだけでざっと100枚はある。もし結婚して苗字が変わったら、これ全部お払い箱だぞ」
「あ・・・!」
「それだけじゃない、今勤めてる病院の名札やら名簿やらウェブサイト、その他もろもろ全部書き直しだ。と、そういうことも含めて今まで色んな人が苦労した、問題だ、おかしいという声があったからこそ、この法律ができたわけだな」
あくまで理性的に、論理立ててこんこんと諭すリョーマ。黙って聞いている桜乃。
「俺たちの結婚で周囲にそんなご苦労をかけるくらいなら、まあせっかくだから新しい法律に乗っかって見ようと、そういうわけだな」
「・・・子供はどうするの?」
「ん?」
「私たちの子供は、どっちの苗字を名乗ればいいの?」
「簡単なことだ。男なら越前、女なら竜崎を名乗らせりゃいい。もちろん子供が大きくなってから、自分で選ばせてもいい。ほらここにも書いてある、あとから変更できるって」
パンフレットを開いて説明する。
「・・・わかった、そうする」
婚姻届及び、選択的夫婦別姓制度の申請書を書き終えた二人。リョーマは念入りにチェックを入れた。
「・・・よし。記入ミスなし、漏れなし。ハンコも押した。これで完了。お疲れさん」
そう言って、休憩にお茶を入れようとすると、
「・・・私がやる」
「リョーマくん・・・ごめんね。勘違いして怒ったりして」
お茶を差し出しつつ謝る桜乃。
「別にいいよ・・・。俺も、勿体ぶった言い方したのが悪かった。マリッジブルーってやつ? 結婚前だから、神経ピリピリしてたんだろ?」
「・・・うん」
「ま、暴れたのは流石にやりすぎだったけどな・・・もしこの先、俺たち夫婦の間で疑問やら不満が生じたら、遠慮なく申し出て欲しい」
「・・・言いたいこと、言っていいの?」
「ああ。とことん、話し合おうぜ」
リョーマは優しく微笑んで応える。
「・・・いま、すっごく、言いたいこと、あるんだけど、いいかな?」
「どうぞ」
「・・・リョーマくん! 大好き!! 愛してる・・・愛してるよぉ・・・」
彼に抱きつき、涙を流して愛を叫ぶ。
「知ってるよ、そんな事。・・・俺も。桜乃を、愛してる。知ってる?」
「・・・うん!」
それから少しばかり時は過ぎ。
場面は飛んで、越前&竜崎家の結婚披露宴。
新郎が自らマイク片手に、夫婦別姓を高らかに宣言する。
「・・・というわけで、結婚してからもコイツのことは『竜崎桜乃』とお呼びください! 越前桜乃でも竜崎リョーマでもありませんよ〜! お間違えなく!」
「おお〜!!」
出席者たちの歓声がこだました。
ー 回想終わり ー
「・・・って、結婚式のときにちゃんと説明しましたよね、俺!? センパイその結婚式に出席してましたよね!? その場で歓声あげてましたよね!?」
「いやぁ〜、聞〜いたけどわ〜すれちった〜い☆」
「忘れるなあっ!(怒)」
「お、落ち着け! 落ち着きたまえ、越前くん!(汗)」
激怒し、菊丸に食って掛かるリョーマを羽交い締めにして、必死になだめる大石。
「十年以上前のよその家庭の事情を、覚えてろというお前もお前だ」
手塚の言うことももっともだ。
「くっ・・・みんな事実婚だの別居だの好き勝手言いやがって・・・!」
苦虫噛み潰すリョーマ。どうも夫婦別姓は、なかなか世の中に浸透していないらしい。
つづく
宴の席は、まだまだ終わらせない。今度はキッズたちからも質問が飛ぶ。特集番組や伝記には載っていない、スペシャルな裏話が聞きたい! 次回「続・レジェンドかく語りき」お楽しみに!