第1話 「日常と非日常」
海に隣接した街である海鳴市。
この海も山も丘もある街の端、そこにある一軒の住宅に一人で住む少年が居た。
今の時刻は午前8時、ちょうど小学生が学校へ向かう為に家を出る時間だろうか。
しかし、おそらく小学生であろうこの少年は、まさに今目覚めたばかり。
「……眠い……」
ゆっくりと起き上がり、そしてベッドの横に置いてある時計へと目を向ける。
「…………」
急がなければ確実に遅刻する。いや、急いでも遅刻するか。そんな状況で彼は一言。
「……いつも通りか」
全く急ぐつもりは無いらしい。
魔法少女リリカルなのは ~凡人奮闘記~
第1話 「日常と非日常」
「おはよーございまーっす」
「『おはよう』じゃありません。もう朝礼始まってますよ」
「すみません」
「はぁ……、もういいですから席に着きなさい」
「へーい」
結局、少年は幾分か遅刻したようだ。彼の担任はまるでいつも通りかのように、特に怒る事も無く呆れたような顔をして彼を席に座らせた。
いや、いつも通りなのだろう。彼も悪びれた様子も無く静かに腰を下ろす。
「あんたねえ、いい加減遅刻せずに学校来なさいよ」
「んなこと言われてもなあ……、起きたらもうすでに無理な時間なんだよ。こればっかりはどうしようもないわ」
「いや、早く起きればいい話じゃない! それとも私が自ら起こしに行ってあげましょうか? コウキ?」
「勘弁してくださいアリサ様」
『木山 コウキ』が通う聖祥大付属小学校は、「付属」という名が付いていることからも大体想像がつくが、私立の学校である。しかし、コウキはもともと私立の小学校に入っていたわけではない。
公立の小学校で一年間過ごし、二年生になったときに親の都合でこの学校へと転校したのだ。
仕事の関係でコウキの両親は日本中を飛び回ることが多くなり、残ることになったコウキの教育の為、よりしっかりと生徒を管理する私立へと転校させたのだ。
よって、コウキは半ば一人暮らしのような状態になっている。現在、小学三年生となったコウキは、まだ小学生ながら一人暮らしのような生活を始めてもう一年となった。
その結果がこの『遅刻魔』である。
もともと朝が弱かったコウキを起こす人間が居ないので、必然と言えば必然だが。
ふとコウキが横に居るアリサに目をやると、アリサはノートに二人の女の子の絵を描いていた。それぞれの女の子に「すずか」、「なのは」と書かれている。
コウキは「またか」と彼女の高い画力を気にすることもなく、既に授業の始まっている教室の黒板へと目を戻した。
「……気づけばもう昼休みか。時間が進むのは早いなあ」
「途中から寝てただけでしょうが、アンタは」
ため息を吐くアリサのもとに、弁当を持った二人が近づいてきた。
「アリサちゃん。お昼ごはん食べよ?」
「にゃはは。お腹すいちゃった」
「……なのはは今日もいつも通りだな」
「ちょっと! いつも通りってひどいよコウキ君!! なんだか私、ハラペコキャラみたいじゃん!!」
「あれ? 違った?」
「違うよ!!」
コウキのもとにやってきた二人、『高町なのは』と『月村すずか』、そして『アリサ・バニングス』は小学一年生の頃からの友達である。すずかをいじめていたアリサになのはが割って入ったことがきっかけとなり、今では親友とも呼べる間柄になった。コウキとは彼が転校してきた際、アリサが話しかけたのをきっかけに、なのはやすずかとも仲良くなったようだ。
「じゃあ、いつもみたいに屋上に行きましょ。コウキも来るでしょ?」
「……ん、そうだな。行くよ」
四人は屋上にあるベンチに腰掛けると、おのおのの弁当を広げ始めた。コウキは弁当を作る人がいないので、大抵は学校に来る前に買ってくる。
「そういえばさっき授業中に言ってたけど」
「ん? 何が?」
「アンタたち、将来とかちゃんと考えてる?」
「……将来かぁ……」
タコの形に加工されたウインナーが刺さった串をつまみながら、なのはは独り言のように呟いた。
「アリサちゃんとすずかちゃんは、もう将来の事とか結構決まってるんだよね?」
「そうね……、私はお父さんとお母さんのあとを継ぐ、くらいかしら」
「私は機械系が好きだから……、工学系の専門職がいいなあって」
「……お前らは本当に小学生かっての」
「今どきみんなそんなものじゃないの?」
「俺は平均以下ってことか」
「否定はしないわね」
「ひどっ!」
「に、にゃはは……。でも、二人ともすごいなあ……」
「なのはちゃんは何も無いの?」
「うーん……、やりたいことは何かある気はするんだけど……。まだ、それが何なのかはっきりしなくて……」
「…………」
「私、特技も取り柄も何も無いし」
「このバカ「いいんじゃねーの?」チ……え?」
アリサが説教をしようとしたところへコウキが間に入った。
「コウキ君……?」
「別に特技が無くたって、取り柄が無くたって、なのははなのはだろ? 自分のしたいことをすりゃいーんだよ。俺だって何も特技とかないし、やりたいことも分からんし」
「…………」
「俺はなのはにしかできないこともあると思うぜ? もっと気楽に行こうや」
「う、うん……」
そうだよ、と言って笑うコウキに対して、なのはは少し顔を赤くして俯いてしまった。
疑問に思ったコウキが声をかけようとしたその瞬間、コウキの肩を誰かが掴んだ。
「コウキ……?」
「ん? なんだよアリ……サ……」
「…………ちょっとあっちで話、しましょ?」
「うん、私も一緒に行くよ、アリサちゃん……」
「ちょ、アレ? アリサさん? すずかさん? ど、どうしちゃいました?」
「別に何も無いわよ? ちょっとアンタに『お仕置き』したくなって……」
「お仕置き!? なんで!?」
「うっさい!! な、なのはに手だしておいて、ただじゃ済まないわよ!!」
「はい!? 何の話をしてるんですかアリサさん!?」
「いいから来なさい!」
「…………あれ? アリサちゃん? すずかちゃん? コウキ君?」
その後、午後の授業にコウキは出席していなかったという。
「いつつ……、腰が痛い」
「だ、だから謝ってるじゃない」
「いや、今のところ謝られた記憶はないな」
放課後、何とか終礼には出席できたコウキに、昼間の三人が集まってきた。さすがに悪いと思ったのか、アリスとすずかはバツの悪そうな顔をしている。
「背骨からギシギシって音がする。これはもうダメかもわからんね」
「ええっ!? コ、コウキ君……」
「……じょ、冗談だってすずか」
すずかが本気で泣きそうな顔になったのを見て、コウキはなんとも言えない気分になった。
「てか三人とも今から塾だろ? ホント勉強熱心だよな」
「そんなことないよ。コウキ君も入ればいいのに……」
「……いや、俺は遠慮しておくよ。じゃあな、なのは、アリサ、すずか」
三人と別れたコウキは彼女達とは反対の方向へ歩きだした。
コウキだけが塾に行っていないため、下校はコウキが一人になっていることが多い。勉強が得意でないコウキは、アリサに何度か塾の入学を勧められるも、ご遠慮してきたのだ。
「さて、今日の晩飯はどうしようか……」
今日の晩のおかずはどうしようかとコウキが悩んでいたその時、
(……す…けて……)
「…………ん?」
コウキの脳内に直接語りかけるような声がこだました。
いや、コウキにはこだましたように感じた。
「…………今、何か聞こえた……?」
しかし、周りは特に変化がない。
「気のせいか……」
そうして、コウキはまた晩のおかずへと思考を戻していった。
海鳴市に公立の小学校ってあるんですかね?w
どうも、冬の目です。
だらっと更新していければと思います。
では、また次回!