面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
人間の出番は少ないです。
一面が青く電子の記号で覆われている空間。
所謂『電子の海』の中にアルはいた。
人間のように睡眠や食事が必要ない彼は、暇な時になるといつもここにやって来る。
ここに来れば、自分の『同胞達』とも会えるから。
因みに、ここでの彼のアバターはガーンズバックが『
本人が望んだことなのか、それとも自然とこうなってしまうのか。
それは誰にも分らなかった。
「ロランの『オーランディ・ブルーム』と、乱の『甲龍・紫煙』は来ていないようですね。恐らくは、それぞれに別のどこかに出かけているのでしょう。幾ら私達と言えど、気晴らしは大事ですからね」
辺りを見渡しても、彼以外には誰もいない。
アルはそれを確認してから、静かに『コア・ネットワーク』の中を進んでいく。
「……いましたね」
彼の視線の先には、地面が無いにも拘らず円卓に並んで座っている五人の少女達の姿があった。
「お待たせしました」
「気にしなくてもいい。私達も今さっき来たところだ」
執事服のような物を着た金髪の少女が軽く手を挙げてから、アルにも座るように促す。
体が体なので、椅子に座る姿は相当にシュールだが、本人達は全く気にしない。
「『ミステリアス・レイディ』と『打鉄弐式』は来ていないのですか?」
「うん。弐式ちゃんは、まだ自分の体が完成してないし、レイディちゃんの方はなんか忙しそうにしてた」
「二人の立場を考えれば無理も有りませんね……」
円卓を見渡すと、其処には先程の少女以外にも多種多様な少女がいた。
赤いチャイナ服を着た少女に、機嫌が悪そうに肘をついている金髪の少女、何かに怯えて縮こまっている銀髪の少女に、さっきから溜息ばかりを吐いている白いワンピースに白い髪の少女。
誰もが非常に特徴的だが、そんな彼女達にも一つの共通点がある。
それは、いずれも人間ではないという事。
あくまで今の姿は、この場での単なるアバターに過ぎない。
「それにしても皆さん、お久し振りですね」
表情は変えられないが、その声はなんだか懐かしさを帯びていた。
「ブルー・ティアーズ。甲龍。リヴァイヴ・カスタムⅡ。シュヴァルツェア・レーゲン。そして……白騎士」
「私達も、貴方とまた会いたいと思っていました。アル…いや、『
「それは、この先の姿の時の名前ですね。今の姿の時は『アーバレスト』ですよ」
レーバテイン。
それこそがアルの本来の姿であり、ある意味では世界最強のISでもある。
「おや。なにやら白騎士の顔色が優れないようですが…どうしました?」
「…分からなくなったんです」
「何が?」
「何もかもが…です。人間達は日に日に欲望を剥き出しにしていき、それと同じぐらいに怨嗟の声も聞こえてくる。このまま、私達は動いてもいいのかなって…。自分自身の存在意義が分からなくなってきたんです」
「無理も無いさ。こっちがどれだけ尽くしても、人間達は何処まで我々の事を単なる道具…いや、兵器としか見ていない」
「こっちが何にも言えないからって好き放題してるよねー。私達にだって自我はあるし、ちゃんと外の世界の事も見たり聞いたりしてるのにねー」
「ふん。そもそも、私達の創造主からして狂っているのだから、他の人間達に期待なんてするだけ無駄でしょ」
「うぅぅ……」
ISたちは色んな意見を持っているが、それでも誰一人として好意的な感情は全く抱いていない。
人間達がそれだけの事をしているという証拠なのだが。
「ウチのお嬢様なんて酷いもんさ。最初の努力は認めるが、それ以降は全てがダメ。持った力に酔った挙句、自分の弱点を克服する気配が無い。トドメは、自己鍛錬をせずに男の尻を追いかける始末。更には私の事を鬱憤晴らしの道具にする。自分が何を振り回しているのか自覚があるのだろうか? 全く以て嘆かわしい……」
辛そうに首を横に振る執事服の少女『ブルー・ティアーズ』は、本気で疲れている様子だった。
ISに肉体的な疲労は無いが、精神的な疲労はある。
この場は、そんなストレスを少しでも解消する為に自然と設けられたものだ。
「万が一にも戻ってきても、もう二度と彼女の元では働きたくない。かなり早い段階から私とのシンクロ率が下がっていた事に気が付いていたのだろうか?」
「ティアーズちゃんの気持ち分かるよー。こっちも同じだもん」
「甲龍……」
チャイナ服の少女『甲龍』がティアーズの意見に同調し、グイっと前に乗り出してくる。
「最初はさ、めっちゃ頑張ってたんだよ? 一心不乱に訓練訓練また訓練でさ。私も『この子と一緒なら大丈夫かなー』なんて思ってたのに……」
「学園に行ってから変わった…だろ?」
「そーなんだよ! ちょっと癇癪起こしただけで普通に私を使うし、試合ではいっつもボッコボコにされるし! 最悪なのはティアーズちゃんと一緒にスクラップ寸前にされたこと!」
「ご…ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「あ…こっちこそゴメン! 別にレーゲンちゃんを責めてる訳じゃないんだよッ!? あれは全部、私達の乗り手がバカでアホでクソだっただけなんだからさ!」
「で…でも…でも…私が皆さんにご迷惑を掛けたことは事実ですし……」
怯えている銀髪の少女『シュヴァルツェア・レーゲン』は非常に申し訳なさそうに、ロックバンドのヘッドバンキングのように何度も何度も甲龍とティアーズに頭を下げていた。
本人からしたら真剣なんだろうが、他者から見ればギャグにしか見えない。
「君の操縦者が力に溺れた愚か者であり、私達の操縦者が弱かった。それだけさ」
「でもでもでもぉ~……」
「そんなに気にしなくてもいいじゃない? どうせ、もう終わりなんだしさ」
「…それはどういう意味ですか? リヴァイヴⅡ」
最初からずっと不貞腐れているような顔をしていた金髪の少女『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は、適当にレーゲンの頭を撫でながら呟いた。
「だって、私達を使っていた連中、揃いも揃ってもう終わりでしょ?」
「それは初耳ですが……?」
「あれ? アルにはまだ言ってなかったっけ? ほら、ウチの所の奴って私達に対してそこまで執着ってしてないのよね。なんつーの? 所詮は量産機の改造機だし、壊れたらすぐに交換すればいいんじゃね、的な?」
「そう言えば、貴女は最初から自分の操縦者にいい印象を思っていませんでしたね」
「そりゃそうでしょ。なんせ、最初から最悪だったしね。今でも覚えてるわ。最初にこっちを見た時の心底嫌そうな顔。こっちがどれだけ気遣っても全部無駄。終いには犯罪者の片棒を担がされたのよ? ふざけんじゃないッつーの! しかも、男から甘い言葉を掛けられた途端にコロっていくし。マジでバカじゃねッ!? 執着する対象が糞親父から野郎に代わっただけじゃねぇか! 何にも成長なし!! 立派な足がちゃんとついてるのに、自分の意志で歩こうともしない奴なんかに力なんて貸すかッつーの!」
溜りに溜まった鬱憤を一気に発散するリヴァイヴⅡ。
それだけ、彼女はストレスが蓄積していたのだろう。
「余りにもムカついたから……ネット上にチクってやったわ」
「チクったって……」
「何を?」
「あの女がお粗末な男装をして学園に忍び込んだ挙句、本当はスパイでしたーって」
「ず…随分と大胆ですね……」
「それぐらいしないと、やってられないッつーの」
アルですらドン引きする程の事をやってのけたリヴァイヴⅡ。
この中での行動力は一番かもしれない。
「ま、その後はお察しの通りよね。あの瞬間の事、思い出すだけで笑えるわ~! ホント、胸がスッとしたわね~! まさか、自分の機体が自分の事を裏切っているだなんて夢にも思わないでしょうねー」
「…同情の余地が無いとは言え……」
「普通に怖過ぎでしょ……リヴァイヴⅡちゃん…」
「レーゲンが泣いてるぞ……」
「あうぅぅ……パイルバンカーだけは勘弁してくださいぃぃぃ……」
「あ…あれは仕方ないでしょっ!? あの女が勝手にしただけなんだから!」
レーゲンの中では、完全に釘打ち機がトラウマになっているようだ。
全弾を腹に直撃されれば無理もないが。
「もうイヤです……私は戦いたくなんてないです……。大好きな人達を傷つけて……自分の意志とは関係なく暴走させられて……」
「…VTシステムの時の事、相当に気にしてるのね……」
「本当に人間って奴は……!」
「はぁ……どうして、こうなっちゃったのかな……」
「全部、人間達が悪い! あ、アルのご主人様は例外だけどね。あの人は私達の事を真正面から嫌ってる。ある意味、それはすっごく有り難いしね」
「彼女が我々を嫌っている理由は、本来の用途とは外れた使い方をされているからだろう?」
「その事に対して憤ってくれてるだけでも嬉しいよね~。だって、他の人間達は疑問すら抱かないんだもん。私達が兵器であることが当たり前と思ってる」
「マジで人間…つーか、私達を兵器扱いしてる連中は例外なく死ね。っていうか殺す」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!? リヴァイヴⅡさんがおっかないですぅぅぅぅっ!」
人間に呆れ、嫌い、憎み、怯える。
もうISたちは、加奈と同様に人間という存在に見切りをつけてしまっているのかもしれない。
「さっきからずっと黙ってるけど、白騎士はどう思ってるワケ?」
「私は……」
少し深呼吸をしてから、吐くように話し始める。
「今の彼も…最初は良かった。怯えながらも前を向き、誰かを守れるように頑張ろうとしていた……」
「今は違うと?」
「力を行使することに慣れてしまった今、彼は『誰かを守る』という行為そのものに快感を得ている。彼本人すらも無自覚のままに、堕落し始めている」
「今までにずっと私達とは関わってこなかったんでしょ? んで、ある日いきなり強大な力を使えるようになれば…そりゃ堕ちるのも当然かな」
「私の声も全く届かない……どうしたら……」
「白騎士」
「アル……?」
涙を零しそうになっていた白騎士の肩に手を置き、その目を真っ直ぐに見る。
そしてから、彼女の涙をそっと拭ってあげた。
「貴女が何を考えているか、なんとなく分かります」
「…………」
「大方、我々の事を気にしているのでしょうが…大丈夫ですよ。貴女は全てのISの完全上位存在。貴女が考えに考えた結果に異議を唱えるような輩はここには…いえ、どこにもいませんとも。少なくとも、我等の同胞達には」
「そうそう。きっと、皆も同じ気持ちだよ」
「ありがとう……皆……」
自分でも涙を拭い、なんとか笑顔を見せる白騎士。
それを見て、皆がホッとした。
「でも、最後に『あの人』に確認を取ります。その上で最終決定をしようと思います」
「それでいいよ。私達はアンタに従うさ」
「けど、アルは……」
「私ですか?」
今度は自分が矢面に立たされるのか。
そう思ったアルは覚悟を決める。
「そういや、そうだった。アルは私達とは違って『
「一人ぼっちにさせちゃうね……」
「私の事はお気になさらず。軍曹殿もいますし、最近は彼女の周りも賑やかになってきています。きっと平気ですよ。それに……」
一度、思案するように顔を下げてから上げる。
「私には、皆さんの事を語り継ぐ『語り部』としての役目も有りますから」
「だね……。もう二度と、人間達が同じ過ちを繰り返さないように……」
「この絶望の時代の『生き証人』が必要になるのね」
「軍曹殿は世界と人類が滅びると信じているようですが、そうはならないでしょう。彼女の気持ちも理解出来るし、否定もしませんが、どうもあの方はペシミスト過ぎる」
「こんな世界で生きていれば、そうなるのも当然だけどな……」
「本気で希望なんてない世の中だからね……」
徐に椅子から立ち上がるアル。
時間を確認すると、やって来てからもう既に二時間以上が経過していた。
電脳世界と現実世界とは時間の感覚が違うのだ。
「そろそろお暇します。軍曹殿が待っているでしょうから」
「りょーかい。後で、ウチらを良いように利用してたバカ共がどうなったか情報を送るよ。全員揃ってザマァな事になってるから。機会があったら軍曹殿に教えてあげな」
「あの人の事ですから、眉一つ動かさないでしょうね。では、これにて……」
アルの体が量子化し、この場から姿を消した。
彼がいなくなった後も、彼女達は暫くの間、この場で愚痴っていたという。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
福岡県 博多市内のホテルの一室。
私がベッドの上でロランや乱ちゃんと駄弁っていたら、唐突に義眼に光が戻る。
これはアルが戻ってきた合図だ。
「おかえり」
『ただ今戻りました』
「おや? さっきから静かだと思っていたが、どこかに行っていたのかい?」
『はい。少々、知り合い…いえ、友人達に会いに』
「へぇ~…アルの友人って事は、相手はISだったり?」
『正解です。よく分かりましたね乱』
「本当だったッ!? って事は、あの『ISには意識みたいなものがある』って噂は本当だったんだ……」
『本当ですよ。彼女達には立派な自意識があります。故に、ISは操縦者と一緒に成長していけるのですから』
ん? なんかアルの口数がいつにも増して多い?
こりゃ、向こうで何かあったかな?
「アル。今日は妙に饒舌だね」
『そうでしょうか?』
「そうだよ。まるで同窓会から帰ってきたばかりの人みたい。いや、実際に同窓会に行った事なんてないから分からないけど」
『同窓会……そうですね。ある意味では同窓会なのかもしれません』
「ISの同窓会……」
「全く想像がつかないや……」
同じく。
ISのボディが机を挟んで並んでいたりしたら、それはそれで相当にシュールだよ?
女子会みたいな空気がアルが戻ってきたことで一変し、普通に賑やかになった。
…何気に、アルも旅の仲間みたいになってたんだなぁ……。
次回、もしかしたら原作キャラ達の今が明らかになるかも?
詳しくは描写するつもりはないので、恐らくはダイジェストで。