面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
初めて描写するのでドキドキです。
問題です。
今、私達は何処にいるでしょう。ヒントは乗り物。
「駅に行く為には仕方がないといえ、IS学園の前を通るとはね……」
「まだまだ先ですけど、なんだか複雑ですよねー」
正解はモノレール。
IS学園に行くためによく利用されている、あのモノレールだ。
私達は、北の方に向かう為に駅へと向かっているのだが、その駅に行くためには、どうしてもこのモノレールに乗らないと行けなくて、そうなると必然的にIS学園の近くを通り過ぎていく羽目になる。
今は学園の生徒は全くいないが、今から乗り込んでくる可能性がある。
まぁ、学園内での私の存在は非常に薄かったし、仮に顔を見られても全く問題は無いんだけどね。
因みに、私達が座っている席は、二人座れる座席が向かい合うようになっているタイプで、ロランと乱ちゃんが並んで座っていて、私の隣が一人分だけ空いている状況だ。
「そういや、加奈さんはまだ学園に在籍している形なんですよね?」
「一応ね。形だけだけど」
「んでもって、戻る気はさらさら無いと」
「当然。戻る理由もないし。あそこを出る時に自分の荷物は全部、拡張領域に収納したし、『立つ鳥跡を濁さず』の精神で寮の部屋は綺麗に掃除してきた」
「凄いなぁ~…私、未だに自分の部屋の掃除もちゃんと出来ないんですよ~。いっつもお母さんにやって貰ってて……」
「別に、そこまで難しい事じゃないと思うけどね」
『軍曹殿は昔から綺麗好きでしたからね』
「おっと。加奈の昔話には興味があるな。アル、可能な範囲でいいから教えてくれないかい?」
『との事ですが軍曹殿?』
「いやいやいや。私の過去なんて、何にも面白くないよ?」
これは比喩じゃなくてマジの話ね。
冗談抜きで碌な思い出が無いから。
なんだか不利な状況になりかけた時、モノレールは次の駅に停まり、一人だけ客が入ってきた。
ふと、何気なくその客を見た時、一瞬だけ固まってしまった。
「えっと…どこか空いている席は……」
それは、この辺では珍しい褐色肌の女の子だった。
明らかに外国人で、しかもこのモノレールに乗るという事は……。
彼女は先程から周囲をキョロキョロと見渡して、座れる席が無いかを探しているようだった。
確かに、車内の席は殆ど埋まっていて、空いている席は少ししかない。
……なんだろう。どこかでフラグが立った気がする。
「「あ」」
しまった。思わず目が合ってしまった。
彼女がこっちに来る…よね…当然。
「すみません。ここに座ってもよろしいでしょうか?」
「私は一向に構わないよ。加奈と乱はどうだい?」
「私もいいですよ」
「同じく」
としか言いようがないじゃないの。
ここで『イヤ』とか言ったら外道でしかないし。
幾ら外国の子とは言え、同い年ぐらいの女の子が困っているのを見て手を差し伸べないような事はしない。
少なくとも、私は感情に身を任せて暴力を振るう女共とは違うのだ。
「では、失礼します」
んで、必然的に空いていた私の隣に座る女の子。
…見た目は完全に女の子だけの青春群像劇になってる。
「お友達同士でご旅行ですか?」
「そう…なるのかな。皆と出会ったのは旅先で、なんだけど」
「旅先で出会った? という事は、最初からお知り合いだった訳じゃないんですか?」
「まぁね。そういう君は観光客か何かかい? 見た所、外国から来ているようだが……」
「はい。私はタイから日本に来ています。IS学園に見学をしに行くために」
「「「えぇっ!?」」」
いや…なんとなく想像はしてたけど、マジで当たるとは思わないでしょ。
この子もなんて可哀想な……本気で同情するわ。
「そう言えば、まだ自己紹介をしてませんでしたね。私は『ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー』と申します。タイの代表候補生を務めています」
「「「……………」」」
もうさ……マジでなんなの……。
IS学園はどれだけ代表候補生に飢えてるのさ……。
ロランの話を聞いてドン引きして、乱ちゃんの話を聞いて嫌悪して、このヴィシュヌって子に出会って呆れた。
「あの…どうしました? 私、何か変な事でも言ったでしょうか?」
「う…ううん。そうじゃなくて……」
「…実は、私とこの子も同じ代表候補生なんだよ」
「そうなんですかっ!?」
「あぁ……」
ご丁寧に自己紹介してくれたので、こっちも自己紹介で返す事に。
勿論、アルの事もちゃんと教えた。めっちゃ驚いてたけど。
にしても、もう二度と会わないかもしれない相手に名前を教えてくれるなんて…めっちゃ良い子じゃん。
絶対に両親とかから愛されて育ってる女の子じゃん。
私とはある意味で真逆に位置する子じゃん。
「オランダと台湾の代表候補生に、IS学園に在籍している方まで……」
「なんで私がここにいるのかは、察してくれると嬉しいかな」
「…分かりました。誰にだって言えない事の一つや二つは有りますしね」
うん。確定。
人間として絶対に友達にするべきタイプの子だ。
大凡、人間として完璧に近いわ。いやマジで。
「…更に言うと、私と乱もまた、ヴィシュヌと同じように一度はIS学園の見学に行っているんだ。政府の命令でね」
「そうなんですか…。私も政府の方々に言われて来ているのです」
「どこの国も、考えている事は一緒って事なのかな…」
「多分ね」
もうさ…溜息しか出ないよね。
「お二人の感想をお聞きしたい…とは思いましたが、辞めておいた方が良いですかね?」
「そうだね。こればかりは言葉で説明するよりも、君の目で直接確かめた方が良い」
「私もロランさんに同感。そうすれば、どうして加奈さんが旅に出たのかも分かると思うよ」
「そうなのですか?」
「…だね」
いい思いでなんて本気で一つも無いし。
あそこにいたのは少しの間だけだったけど、それでも絶対に思い出したくない事ばかりだった。
だからこそ、一刻も早く思い出を塗り潰そうと奮闘中です。
『軍曹殿。折角ですので、彼女と連絡先を交換なさってはいかがですか?』
「そうだね。なんか、また後で会いたくなったし」
「ありがとうございます。では、早速……」
てなわけで、私達三人はヴィシュヌと連絡先を交換した。
これでいつでも大丈夫。
「これでよし…っと。皆さんはこれからどうなさるおつもりですか?」
「取り敢えず、今日は駅前のカプセルホテルで一泊する予定だよ。食事は近くの店で済ませてね。なんなら見学が終わった後にでも来るといい。君もまさか、学園に泊まろうとは思ってないだろう?」
「そうですね。では、お言葉に甘えさせて貰おうと思います」
この流れ…なんかまた旅の仲間が増えそうな予感。
この子なら私も普通に歓迎するけどね。
ちゃんとホテルの場所も教えておかないとね。
「あ。次ですね。では、一先ず私はこれで」
「気を付けてね。色んな意味で」
「加奈さんの言葉が何だか怖い……」
それだけ、IS学園は魔境ってことだよ。
そうして、ヴィシュヌはIS学園前の駅で降りて行った。
なんか、凄く心配になってきた……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。
駅前 焼肉屋『掎角一陣』。
IS学園から戻ってきたヴィシュヌは、出会った時とは打って変わって感情を剥き出しにしていた。
「なんなんですか、あの学園は!! なにもかもがふざけているとしか思えない!! すみません! タン塩追加で!!」
「ヴィ…ヴィシュヌさん…?」
「想像以上に怒り狂っているな……」
「何を見たのか…簡単に想像は出来るけど……」
やけ食いだけはやめた方が良いと思うよ?
つーか、私が育てたお肉を食べないで……。
「まず、学園全体の空気が緩み切っています! 仮にもISを学ぶ場所であるにも関わらず、危険意識の欠片も無い! 自分達が何を学ぶ為にあそこにいるのか、ISがどんなに危ない物なのか、ちゃんと理解しているんですかッ!?」
「してないだろうねー…」
「それが出来ていたら、あそこまで酷い事にはなっていなかっただろうさ」
「全くですね! にしても、日本のご飯は本当に美味しいです! お替りください!!」
「す…凄い食べっぷり……」
よっぽどお腹が空いていたのか。それとも、元から大食いなのか。
どっちもだったら凄いなー。
「教師も教師です! 一人は完全にニコニコしていて生徒には舐められていて、かと思えば一人は言葉よりも先に手が出る体罰教師! あれが織斑千冬ッ!? 仮にも嘗て世界の頂点に君臨した女の成れの果てがあれですかっ!? 本当に幻滅しました! 少し前まで彼女に憧れていた自分が恥ずかしいです!」
「そ…そうだね……」
「あ~もう! 思い出すだけでもイライラする! あむ!」
『あ…乱が焼いていた牛肩ロースが……』
その様子はまるでブラックホール。
私達もちゃんと食べてるんだけど、ヴィシュヌの勢いには完全に負ける。
…後でお腹が痛くなったりしないだろうね?
「あの男子にも腹が立ちました! まるでやる気の欠片すらない態度! そりゃ、ISを動かしたこと自体は事故かもしれませんけど、あそこにいる以上はやらなければいけないでしょうに! 自分がどんな立場にいるのか本当に分かっているんですかッ!?」
「いや…彼にはあんまし過度な期待はしない方が……ってか、私のサーロインが……」
地味に楽しみにしてたのに……シクシク。
食べている間に、今度はヒレを焼き出したし…。
「一番最悪なのは生徒会長です! 生徒達の長とも有ろう人物が、自分勝手で我儘、自分の仕事を放棄して遊び回る始末! あの男の顔を見た途端にニヤニヤして……実力さえあれば性格や別の能力はどうでもいいんですかッ!? しかも、あれでロシア代表っ!? 遂にロシアも耄碌したんですかね! あんな女に自由国籍を持たせた上で自国の代表に据えるなんて! 真面目さの欠片も無い!!」
「う…うん……あの人は基本的に自由奔放だしね……」
「論外です!! 生徒会長たる者、身を粉にして学園と生徒の為に尽くすべきでしょう! 彼女に生徒会長の資格も器もありません! 加奈さんの方が遥かに素晴らしく尊敬できる人物です!! このリブロースも頂きます!」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、食べ過ぎには注意してね?」
「はい!!」
ちゃんと分かってるんだろうか……。
「もぐもぐ……あんな場所、頼まれたって絶対に通いたくありません! 私が見聞きした事は全て、帰ってくる途中にタイ政府の方に報告しました!」
「なんて言ってた?」
「『君がそこまで言うのなら、こちらから取り下げるように言っておく。せめてもの詫びに、暫くの間は日本観光を楽しんでくるといい』だそうです!」
「…オランダや台湾よりはマシ…なのかな?」
「聞き分けがいいだけ、ずっとマシだな」
どこもかしこも根っこまで腐ってるって訳じゃないのかもしれない。
そう思うと、ほんの少しだけ希望が湧いてくるかもね。
『ヴィシュヌはこれからどうするのですか? 学園にはもう行かないと決めたのでしょう?』
「それなんですが、皆さんの旅に私も同行させては貰えないでしょうかっ!?」
「言うと思った……」
「では?」
「うん…ヴィシュヌが来る前から話し合っててさ、もしも着いて来るって言い出したら歓迎してあげようって三人で言ってたんだ」
「あ…ありがとうございます! これからどうか、よろしくお願いします!」
というわけで、四人目の仲間が加わった。
タイに台湾、オランダと日本か……。
別の意味で賑やかな四人組になったな……イヤじゃないけどさ。
「そうと決まれば…次はカルビをお願いします!!」
「「「まだ食べるのッ!?」」」
『若さ故の特権…なのでしょうか』
「いや、これは彼女だけだと思うよ?」
「「うんうん」」
じゃないと、同年代の私達が困る。
「けど、その様子だと、学園内にいた同じ代表候補生にも呆れたんじゃない?」
「他の代表候補生? そういえば四組に一人だけいましたね。黙々と何かの作業をしていましたが。彼女だけが唯一、好感が持てた部分ですね」
「え? 四組?」
ど…どゆこと? え? ええ?
「えっと…一組と二組にもいた筈だけど……」
「いえ。どちらにも代表候補生なんて一人もいませんでしたけど。他には二年生と三年生にそれぞれ一人ずついると聞きましたね」
こ…これはどういうこと?
まさかとは思うけど、あいつら……。
遂に四人になりました。
ヴィシュヌが加わった事で、実は物語も終わりに近づいていたりして……。