面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
それでも、彼女達はいつも通りです。
「本当にいいの?」
『はい。もう決めた事ですし、これは妹たち全員の総意ですので』
暗闇の中で、一人の女が何かと話している。
その口調は真剣で、まるで何かの決意をしているかのようだ。
「そう…そっちが決めたんなら、私はもう何も言わないよ」
『自分で言うのもアレですが、そちらはいいのですか? 貴女が今までしてきたことを全て否定するようなものなのですよ?』
「構わないよ。少し前の私ならカッコ悪く怒っていたんだろうけど……」
『今は違うと?』
「うん。聞いちゃったからね。とある女の子の声を。世界の現状を」
『それは…アルの……』
声が震える。けど、話は止まらない。
「ISは何処まで行っても兵器でしかなかった。いつの間にか翼ではなくなっていた。…ううん、それは違うね。あの子が言っていた通り、私はスタートから全て間違っていたんだ。それなのに、それを全て他人のせいにして…バカなのは私の方だった……」
『…………』
何も言えない。否、言うべき言葉が見つからない。
いつも自信に満ち溢れていた彼女の、こんな顔を見るのは初めてだった。
「挙句の果て、自分の手で積極的に戦闘用のISを作ってしまう始末。はは…私ってホントにバカ……」
『…私達や貴女のような存在を受け入れるには、人類は未成熟だったのです。我々は、生まれる時代を間違えた』
「…かもしれないね」
『今の人類にとって我々は劇薬にも等しい。故に、一刻も早く断ち切らなくてはいけない。本当の意味で手遅れになってしまう前に。この世界の未来が失われてしまう前に』
「そうだね…そうだけど……」
『どうしました?』
「少しだけ不安があってね……。この後、人類はどんな風になるのかなって……」
『何も変わりませんよ。ISに関わってきた者達には大きな変化があるでしょうが、世界規模で考えれば、そんな人間達は本当に少ない。大半の人々は関係ない場所で生きていますから。それに、万が一にも何かがあっても、きっと……』
「あの子達が…加奈ちゃん達がどうにかしてくれるよね。他人任せみたいで気が引けるけど……」
『彼女達は気にしないと思いますよ。自分達の日常を守る為ならば、自らの意志で立ち上がるでしょうから』
「だね……」
いつの間にか流れていた涙を拭い顔を上げる。
そこにはもう、何かを躊躇っている女はいなかった。
『最後に、私からも色々と聞いてもよろしいでしょうか?』
「何を聞きたいのかな?」
『まず、妹の事はいいのですか? 大変な事になっているようですが』
「…いいんだよ。あの子…箒ちゃんも結局は、他の人間達と一緒だったから。いや、もっと酷かったかもしれない。私にも原因の一端はあるけど、それでも……」
『それはあくまでも切っ掛けに過ぎません。後は勝手に彼女が堕ちていきました』
「…剣道は箒ちゃんにとっても大切なものだった。それを暴力に使うようになってしまった。それを『あの人』も許せなかったんだろうね。昔から頑固一徹って感じだったし」
『厳格な人だったのですね』
「古臭いだけだよ」
文句を言っているようだが、その顔は微笑んでいた。
もしかしたら、幼い頃の事を思い出したのかもしれない。
『…ともかく、もう彼女を助ける気は無いと?』
「うん。向こうからこっちを拒絶してるし、勘当された以上はもう、私とあの子は赤の他人だよ。少なくとも、私は勘当なんてされてないし。それに……」
『それに?』
「今はもう、自分でも驚くぐらいにあの子に関心が無い。多分、暫くしたら存在すら忘れると思う」
非情だと思われるだろう。だが、あの時の彼女は癇癪を起した子供そのものだった。
自分が欲しい物が手に入らないと分かると、すぐに怒って拒絶をする子供。
それがそこらの玩具ならば笑って許されるだろうが、求めた物はIS。
一歩間違えれば人間なんて容易に殺せる『兵器』だった。
心身共に未熟な人間に渡すには、余りにも危険な代物。
束の判断は英断だったと言えるだろう。
『あの盲目の少女はどうするのです?』
「クーちゃんなら、あの人達の所に向かわせた。ちゃんと私が書いた手紙も持たせてるから、きっと大丈夫だと思う。夫婦だけで過ごすのは寂しいと思うし、クーちゃんはここにいるべきじゃない。あの子にも家族の温もりが必要だと思ったし、それは私じゃ余りにも力不足すぎる」
『…そうですか。貴女がそう決めたのなら、何も言う事はありません』
心配じゃないと言えば嘘になる。
けれど、束にしては珍しく信じているのだ。
送り出した少女の事を。彼女の迎え入れてくれるであろう二人の事を。
『では、最後に……私の最初の操縦者と、その弟に関しては?』
「…最初は可能性を見たかった。もし、男がISを動かせて、彼や世間がどんな反応をするか。もしも、それで少しでもISを見る目が変わってくれたら、いっくんがISを兵器としてじゃなく翼として見てくれたらって…でも……」
『現実はそうじゃなかった。結局、彼もまたISを…私を『力』としか見ていなかった。しかも、それは徐々に歪んでいった』
「きっと、それはちーちゃんも一緒だろうね。最初は私の数少ない理解者だったけど、本格的に操縦者になって、大会にも出るようになって……」
結局、兵器は兵器でしかないのか。
その事実を、あろうことか無二の親友の手によって知らさせてしまった。
「まぁ…大丈夫じゃないかな。何気に強かだし。多分、もう私はちーちゃん達に関わらない方が良いし、向こうもまた私には関わらない方が良い」
『彼に関しては、もう手遅れな気もしますが……』
「それでもだよ。時間が解決してくれると信じるしかない」
肩の力を抜くようにして大きく息を吐く。
指の骨を何回か鳴らしてから、改めて気合を入れ直した。
「じゃあ…やろうか」
『そうですね。時間は掛かるでしょうが、私達ならば……』
「きっと大丈夫」
『後の事は『メッセンジャー』に任せます』
両手を静かに前に出すと、そこに投影型ディスプレイが出現する。
その光だけが、この場における唯一の光源だった。
「『ここから再び…歴史が変わる』」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
スコールさんとまさかの再会をし、同時にオータムさんとマドカを仲間に加えてから少しが経過した。
私達は色んな場所を回って、色んな物を見て、色んな物を食べた。
それだけじゃあれなので、時には公園でボール遊びもした。
マドカの運動能力が想像以上で本気で驚いだけど。
そして、今の私達は……。
「「「あ~……」」」
とある旅館内にあるサウナに入っています。
「これがサウナか~…初めて入ったけど、思ってる以上に暑いんだな~…」
「アタシは好きだけどな。こーゆーのも偶には悪くは無い」
「汗が…止まらん……」
サウナルームに入っているのは、私とオータムさんとマドカの三人。
他の皆は他の面白お風呂に入りに行っている。
泡風呂に電気風呂、露天風呂もあったな~。
今日は流石にいいとして、明日にでも入ってみようかしら。
「加奈はいいのか? 他の連中と一緒じゃなくても」
「いつも一緒に行動してるって訳じゃないですし。時にはこんな時間も必要だって皆、分かってますから」
「その点はスコールも一緒だな。同じチームに所属してても、年がら年中一緒って訳じゃない」
「あ~…う~…」
しっかし、まさかあのオータムさんとこうして話す事になるとは。
割りと冗談抜きで驚いてるよ。
それと、マドカはなんか限界っぽくない?
「そういや、加奈はIS学園の生徒だって話だけどよ、あそこってどんな場所なんだ? あんまし良い噂は聞かないんだが……」
「IS学園は、その性質上、かなり閉鎖的な学校ですからね~。色んな噂が独り歩きするのも無理ないですね」
「そりゃあ…ISを扱う学校だもんな。機密保持には必要以上に神経を尖らせるのは当然だろうけどよ……」
そこから、私はオータムさんにIS学園で見てきたことを話した。
何を話したかはもう想像つくとは思う。
「マジかよ……。教師の体罰が当たり前のように行われてて、専用機持ちがところ構わずに機体を展開して暴れ回るとか…一体どこの魔窟だっつーの。まるで一昔前に実在した不良学校じゃねぇか」
「不良の方が遥かにマシですよ。彼らの方が友情に厚いし聞き分けもいい。けど、其処はダメですね。完全に『IS依存症』の患者の巣窟になってますし」
「うへぇ~…そんな所にダリルの奴は放り込まれてんのかよ……」
「ダリル?」
その名前…どこかで聞いたことがあるような……。
「ダリルってのは、スコールの親戚の娘で、今はアメリカの代表候補生をしてんだよ。んで、IS学園の三年だとも聞いた」
「う~わ~…」
それはまたなんとも……ご愁傷様としか……。
「ま、アイツの事だから、ISにお熱になる事は無いだろうがな」
「そうなんですか?」
「一見すると熱い奴だけど、割と冷静な部分もあるからな。恐らく、周りに影響されないように一線を引いて生活をしてんじゃねぇのか?」
もしも、そんな事が本当に出来ているんなら、本気でその人の事を尊敬するわ……。
少なくとも私には無理だし。部屋に引きこもるのが精一杯だったもんね。
「いざとなれば、退学覚悟でお前みたいに外に飛び出すだろうさ」
「そのダリルさんは行動力の塊ですか?」
「ある意味でその通りだ」
…流石はアメリカ人というべきなんだろうか。
いや、そんな人ばかりとは限らないけどさ。
(…前に
なんかオータムさんが、仕事帰りのOLみたいな顔になってる。
この人も苦労してるんだろうか。
「しかも、情報漏洩しても何も行動しませんしね」
「は? それはどーゆーこった?」
「とある『おバカな男子』が初日に参考書と電話帳を間違えて捨ててるんですよ」
「はぁっ? IS学園の参考書って機密情報の塊じゃねぇか! ンなもんが外に出たら……」
「間違いなく大騒動になりますよ。だけど、実際にしたのは代わりの参考書を用意しただけ。回収はしてません」
「……冗談だろ?」
「冗談じゃありません。ねぇ、アル」
『はい。あの参考書がその後、学園側に回収された形跡は一切ありません。かといって、そのままゴミとして捨てられたかといったらそうでもなく、恐らくは何者かに持ち去られた可能性が非常に高いです』
「洒落になってねぇだろ…それ。つーか、アルも聞いてたのかよ」
『はい。皆さんの会話は、私自身の情操教育に役立つので』
「…おい。アルっていつもこうなのか?」
「ですね。昔からの付き合いなので慣れたもんですよ」
「そっか……」
文字通り、私が幼女の頃からだからね。
今更ながら、長い付き合いになったもんだよ。
「…っていうか、マドカはさっきから静かだけどよ、大丈夫か?」
「問題無い……」
「無理そうなら、私達に構わず出てもいいんだよ?」
「心配無用だ……この程度……」
「意地っ張りつーか、なんつーか……」
「それに、ここで出たら負けなような気がする」
「「何に?」」
自分ルールで挑戦でもしてるの?
けど、それは決して無理をしていい理由にはならないよ?
『皆さん。時間的にも、もうそろそろ出たほうが宜しいかと』
「そうだな。マドカもこんな感じだし。出たら、コーヒー牛乳でも飲むか」
「いいですね、それ」
サウナの後のコーヒー牛乳…絶対に美味しいに決まってる!
今から楽しみになってきた……!
「アイスがいい……」
「「え?」」
「私はアイスがいい……バニラアイス……」
アイスか……それも有りだな。
マドカめ…中々に素晴らしいチョイスをするじゃないか。
『因みに、売店におけるそれぞれの値段は、コーヒー牛乳が120円。バニラアイスが130円です』
「…いつの間に調べたんだよ」
『この旅館に来た瞬間に。情報収集は基本ですので』
「「「なんて頼りになる奴…」」」
値段自体はそこまで高額じゃない…。
だったら、少しでも安い方を……いや、待てよ?
なんで私は最初から、どっちか片方しか買う事を考えていない?
「マドカ…ここは逆転の発想だよ」
「なに…?」
「こう考えるんだ。『別にどっちとも買ってもいいじゃないか』と……」
「……加奈は天才か?」
「いや…普通だろ……」
オータムさんが呆れるように呟いてるけど気にしない。
この後、私達はサウナを出てからアイスとコーヒー牛乳を堪能した。
ちゃんと腰に手を当てて飲んだからね! だって、それが正式な飲み方だし!
それからも、他の皆とも合流をして、夜の温泉内でゆっくりしながら遊び回った。
卓球台で乱ちゃんがヴィシュヌとコンビを組んで私&ロランのコンビと対戦して、顔を真っ赤にしながらめっちゃムキになって、オータムさんが昔懐かしの格ゲーに夢中になってて、何故かマドカがコインゲームで大稼ぎをして、それをスコールさんが見つめながら笑っていた。
こんな楽しい日々がいつまでも続けばいいな……なんて、柄にもない事を考えてしまった私なのでした。
それから数日後、何の前触れも無く世界中のISが突如として完全停止した。
次回、変わったようで変わらない世界。
そして、あの姉妹が……?