面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結)   作:とんこつラーメン

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全てのISが完全停止。

その後、世界は……?








面倒くさいので、その後の事を話す

 世界中のISが突然の停止。

 余りにもいきなりの出来事に世界中が騒然となった。

 なった…が、別に世界が崩壊したり人類が絶滅したり、世紀末のような光景になったりはしなかった。

 

 ISが停止したことで最も被害を被ったのは、当然だがIS委員会と女性権利団体の二者だ。

 特に女性権利団体が酷かった。

 なんせ、ISこそが至高、ISこそが全てという連中しかいなかったのだから当然だ。

 アイツ等の絶対的な優位性を支えていたISが事実上無くなったのだから、自然崩壊するのは自明の理だった。

 ここで大活躍したのが、意外や意外、警察組織だった。

 

 今までずっと好き放題されて苦汁を飲んできた警察。

 どれだけ女尊男卑思考の人間が犯罪を起こしても、権利団体の連中が権力を使って握り潰し、挙句の果ては被害者の方を加害者に仕立て上げて無実の罪で逮捕させる始末。

 守るべき人々を守れないで何が警察だ。ふざけるな。

 自分達は、こんな事をする為に警官になったわけじゃない。

 そんな思いをずっと抱いてきたが、それでもいつの日か必ずや逆襲してやるという執念と共に、彼らはずっとこれまでに紙屑同然にさせられてきた逮捕状をずっと隠し持ち続けてきた。

 その執念が遂に実を結ぶ瞬間がやって来た。

 ISという『力』を行使できなくなり無力となった権利団体の人間達を怒涛の勢いで一斉検挙。

 しかも、それは世界中で一斉に行われ、それだけIS…というか、女性権利団体の横暴に人々が怒り狂っていたかの証明になった。

 たった一日で世界各国で逮捕された人数は数千人規模にもなり、あっという間に収容所が埋まっていった。

 本来ならば裁判が開かれる筈のところも、権利団体に関しては一切無かった。

 小学生でも分かるほどの犯罪を犯してきた連中に情状酌量の余地なんて微塵も無かったから。

 それを後押ししたのが、なんとIS委員会の幹部をしていた男性達だった。

 実は、彼等もISを盾に好き放題し続けてきた女達に対してかなりの怒りを溜めていたようで、これまでずっと反撃する機会を待ち続けていたのだ。

 いつの日か必ず逆転の時が来ると信じ続け、ずっと連中の音声を録音したデータや映像記録を撮り貯めていた。

 それらが全て、権利団体幹部の連中を永遠に檻の中に閉じ込める最後のダメ押しとなったのだ。

 

 各国の政府の人間達は根っこから腐っていたわけではなかった。

 彼らは密かに権利団体や女尊男卑思考の犯罪者たちだけを収容する専用の施設を世界中に建設していて、逮捕された女達は根こそぎ、其処へとぶち込まれていった。

 

 証拠を提出した委員会幹部たちは自分の意志で自首して逮捕された。

 取り調べにも協力的で、それもまた隠れ潜んでいた権利団体の関係者の検挙に多大な貢献をした。

 『どんな理由があっても、自分達が奴らに加担していたのは変えようが無い事実だから』と反省の意を示していて、裁判でもかなりの減刑をされる筈だったが、当の本人達がそれを拒否。

 アイツ等と同じように裁いてほしいと言ってきたので、裁判官たちは彼らの意志を尊重することに。

 現在、彼らは模範囚のように規律正しい生活を刑務所の中でしているらしい。

 

 ISの関係者で最も被害が無かったのは、意外な事にISを製造や整備をしていた技術者たちだった。

 元々、彼等や彼女達はISが持つテクノロジーに興味を持って参加していただけで、ISが動かなくなっても大して気にはしていなかった。

 ISという存在が意味を成さなくなっても、学んだ技術は無駄にはならない。

 それどころか、ISを触っていた技術者たちは全員揃って超優秀な人間達ばかり。

 寧ろ、他の企業でも引く手数多の状態になって、逆にISが横行していた頃よりも全体的な技術レベルや工場などの規模は大きくなっていった。

 ISが無くなって得をした数少ない例になったのだった。

 

 当然だが、IS学園も閉校になって、校舎があった敷地も立ち入り禁止になり、すぐに取り壊しが始まったとの事。

 生徒達は他の学校に転入する手続きをさせられ、日本出身の生徒達は他の高校に入って、国外から来ていた生徒達は祖国へと戻っていった。

 だが、問題はそこからだった。

 世間的にもISは余り良い印象を持たれておらず、祖国に戻った少女達はともかく、他の高校に行った生徒達は最初から憎悪の籠った目で睨まれた。

 その後に始まる、元IS学園生徒への悪質なイジメ。

 大人達だけでなく、子供達の中にも今の世に対する鬱屈とした感情が蓄積してたようで、それが目の前にIS学園の生徒達が現れた事で大爆発した。

 誰も味方はいない。教師たちですら見て見ぬ振り。

 なんで自分達がと叫ぶが、次の瞬間には『お前達がIS学園の生徒だから』と言われて黙ってしまう。

 彼女達が直接的に何かをしたわけではない。

 だが、それでもISという存在に依存をしていたのは紛れもない事実。

 自分達が虐げられる側になって初めて、少女達はISという麻薬が無い世界の怒りと悲しみを、その身を持って思い知るのだった。

 

 学園にいた教員達も事実上の解雇処分を受けたのだが、ちゃんと再就職を出来たのは極々一部だけ。

 その他は、すぐに自分達の立場を理解し、虐げられる前に実家に戻っての隠遁生活を送る者が大半だったという。

 解雇された教員の一人である山田真耶は、前々から思っていた事があったようで、学園を出てもずっと前だけを向いていた。

 生徒達に舐められていた自分を捨てて、今度こそちゃんと生徒達を最後まで導ける教師になる為に、彼女は一から勉強をやり直す事にして、現在は頑張って自分の意志と力で教員免許を取得する為、とある学校で教育実習生をしている。

 その間にも色々な困難が待ち構えていたが、それらは全て自分達の無知が招いたことだと全て受け入れ、それでも立ち上がる事を決してやめていない。

 ある意味、学園関係者で最も成長したのは彼女かも知れない。

 

 ISの停止によって世界は再びの変化の時を迎えようとしている。

 今はまだ全てが混迷の中にあるが、それでも必死に前を向いて生きようとしている人々が沢山いる。

 今まで溜まった怒りを燃料に暴れる人間がいれば、理性を持ってそれを止めて宥めようとする人間達も同じぐらいにいるのだ。

 寧ろ、人類はここからが本当の意味で試練の時なのかもしれない。

 ISという『幻』から解放された人類が、どんな未来を築いていくのか。

 それは全て、私達に掛かっているのかもしれない。

 

 ISが稼働しなくなったことで、国家代表や代表候補生と言った存在も意味が無くなった。

 その煽りを最も受けたのが、学園内で唯一の国家代表だった、生徒会長にして暗部の長でもあった更識楯無改め『更識刀奈』だった。

 最初は彼女なりに頑張っていたのだが、会長の座に上り詰めた頃から怪しくなってきた。

 仕事が面倒だからと言って放棄して、従者の虚に任せる毎日。

 妹の簪が入学して来てからは『簪ちゃんの様子が気になる』と言い訳をして出て行く。

 そこまではまだギリギリなんとかなった。

 生徒達からの不満が無いわけではなかったが、それでも彼女が実力があるロシア代表という事実がそれを黙らせていた。

 それが致命的となったのは、唯一の男子である織斑一夏と接触をしてからだ。

 

 IS委員会(主に権利団体連中)に『千冬様の弟を守りなさい』と命令され、彼の護衛をする事になった楯無。

 だが、彼女が初めて会った時には既に一夏は精神的にかなり追い込まれている状況だった。

 というのも、いつも彼の傍にいた幼馴染の少女達やクラスメイトの候補生達が次々と目の前から消えていったから。

 特に、彼が守ると決めたシャルロットを目の前で見捨ててしまった事が、彼の心に大きな傷を作っていた。

 

 最初は単純に不憫だったから慰めた。

 けど、一緒にいるにつれて次第に彼に対して母性のような物が目覚め始め、いつしかそれは無自覚の恋心へと変化していった。

 それが、楯無を破滅させるフラグであるとも知らずに。

 

 各国から密かに送られてくるエージェント。

 楯無の場合は、実は彼女の最も近くにいた幼馴染にして従者の『布仏虚』だった。

 彼女もまた暗部の家の人間であり、自分の親やロシア政府、楯無の両親から監視を命じられていて、楯無の動きを全て、各方面へと事細かに報告していたのだ。

 暗部としての仕事を利用して男と密会をしているだけに飽き足らず、会長としての仕事を完全にしなくなり、代表としての節度すら守らなくなった。

 普通ならば完全にアウトだが、ISの実力が辛うじて彼女の運命を塞き止めていた。

 しかし、全てのISが止まった事でそれは効果を失い、彼女はすぐに自分の両親とロシアの高官が集っている場所へと呼び出された。

 そこで言い渡される。彼女がこれまで何をしてきたかを。

 勿論、楯無は必死に言い訳をした。だが、それらは全て虚の証言によって論破される。

 別に恋をするなとは言わない。だが、それを理由に自分の本分を忘れるとは言語道断。

 そう言われ、楯無は親から直々に当主失格の烙印を押されることに。

 楯無が刀奈に戻ったのであれば、次の当主は誰になるのか。

 その答えは一つしかなかった。

 姉の代わりを務めるのは、いつの世も妹と相場が決まっているのだ。

 

 刀奈の妹である更識簪。

 ISがあった頃は日本の代表候補生でもあった彼女は、幼い頃からずっと姉と比べられて生きてきた。

 それは、楯無が自由国籍なんて物を利用してロシア代表になってから、より一層顕著になっていった。

 姉に対する劣等感で彼女も代表候補生になったが、それでも余り環境は変わらなかった。

 それどころか、いきなり現れた男子の専用機に、本来ならば自分の専用機を製造に携わってくれる筈のスタッフを根こそぎ奪われ、挙句の果てに未完成の機体を渡されて『そんなに欲しいなら自分で作れ』と、事実上の廃棄処分をされる。

 当初はムキになって簪もたった一人で機体の製造を行っていたが、技術者でもない彼女に出来る事には限界がある。

 天才的なプログラマーである簪ではあるが、そのスキルでISが開発できれば苦労はしない。

 やがて、簪は自分の行動に疑問を持つようになっていった。

 どうして自分はこんな事をしているのだろう。

 仮にこれを完成させても、その後をどうする?

 それ以前に、姉や周りを見返して、それに何の得がある?

 つまるところ、簪は飽きてしまったのだ。

 完成する兆しの無い専用機に、日常的に自分に向けられる陰口。

 ある意味、簪は学園を出て行った『とある少女』と同じ心境になっていた。

 そんな時にいきなりのISコアの完全停止。

 それを知った時、簪は幼馴染である『布仏本音』に向けて、今まで一度も見せた事の無いような満面の笑みでこう言った。

 

「もう、私は『ロシア代表』の背中を追わなくてもいいんだね。よかった」

 

 まるで憑き物が取れたかのように表情がスッキリとしていて、幼い頃の彼女に戻ったかのようだったと本音は語っている。

 簪は自分が立ち止る理由を欲しかったのだ。

 整備室に行って機体を弄っていれば周りから色々と言われ、かといって整備室に行かずに教室で静かにしていても、同じように陰湿な陰口を叩かれる。

 最早、簪にとってISは呪縛にも等しい存在になっていた。

 図らずもそれから解放されたことで、簪は生まれて初めて心からの解放感を味わった。

 

 刀奈の代わりとして当主に抜擢された簪。

 最初こそ彼女で本当に大丈夫かと危惧されたが、それは完全な杞憂だった。

 これまでずっと勘違いをされてきたが、刀奈が簪に対してマウントを取れていたのは全てISの実力があったから。

 それが無くなれば、一気に姉と妹の立場は逆転した。

 まず、武道の実力は簪も決して劣ってはおらず、特に薙刀を使わせれば刀奈を簡単に圧倒できるレベルにいる。

 更に、刀奈不在の際に試しに少しだけ当主としての仕事をさせてみれば、全てを見事にそつなくこなし、その優れたプログラミングスキルによって影に日向にと大活躍だった。

 皮肉な事に、簪には刀奈には無い、暗部にとって最も重要な才能…即ち『当主』としての天才的な才能を持ち合わせていたのだ。

 今までずっと刀奈の事ばかりに目が行って、簪の中に秘められていた才能に誰も目を向けなかった。

 それが日の元に晒されたことで、簪は誰からも認められる当主へとなったのだ。

 

 自由国籍。

 元々は国家代表や代表候補生という存在が誕生し始めた頃に作られた制度であるが、それを使用したのは後にも先にも刀奈だけだった。

 何が悲しくて、自分の生まれ故郷に弓引くような事をしなければいけないのか。

 自由国籍を知った全ての人間が揃って思った事だ。

 だが、刀奈はそうは思わなかった。

 自分がISという舞台で実力を発揮出来ると知った刀奈は、すぐに半ば忘れかけられていた自由国籍の制度を利用し、国内情勢が最も怪しいロシアの内情を探る為にロシア国籍にしようとした。

 勿論、彼女の両親は猛反対。

 自分達の娘と国籍が別になるなんて普通の親でも決して看過できないだろう。

 だが、刀奈はそれを当主としての権限を利用して無理矢理に押し通し、結果として彼女は日本人でありながらもロシア国籍を手にする事になったのだ。

 

 簪を正式な当主に据える事で、本格的に刀奈は一般人に等しい存在に堕ちた。

 本当はこのまま勘当させて家を出て行かせようとも思った両親だが、彼女を放逐すればまた何を仕出かすか分からないのもまた事実。

 行動力だけは無駄にあるので、両親は刀奈を屋敷内に閉じ込める形にしようとするが、そこでロシア高官が待ったをかける。

 

『国家代表で無くなっても、彼女のロシア国籍が消える訳ではない。ロシア人はロシアに帰るべきではないか?』

 

 正論だった。

 それには両親も何も言えず、刀奈はロシアへと『帰国』させられることとなった。

 無理矢理に立たされて連れて行かれようとする刀奈だったが、その場にいる誰もがそれを止めようとしない。

 両親も、虚も、本音も、溺愛していた簪も。

 彼女の自分勝手さに、誰もがもう呆れ果てていたのだ。

 

 もう終わりか。

 刀奈がそう思った時、徐に簪が立ちあがって刀奈の方へと歩いていき、その耳元で静かにこう呟いた。

 

「今までご苦労様、刀奈さん。後の事は全部、私がやっておくから……あなたはそのまま無能のままでいていいよ。それじゃあ……元気でね(・・・・)

 

 嘗て、自分が妹に対して放ってしまった失言。

 それを言われ、その後に言われた言葉の意味を理解した時……刀奈の心は崩壊し、発狂した。

 

 ロシアに『帰国』した刀奈がどうなったのかは誰も知らない。

 だが、彼女の顔は色んな意味でロシア国内に知れ渡っている。

 ISに対する鬱憤が破裂した今の世でそれが何を意味するのか。

 一つだけ言えることは、刀奈はもう二度と、自分が生まれた国へとは戻れないという事。

 そして、ようやく立ち直りかけた一夏の心に最後のトドメを刺したという事だけだった。

 

 心が砕ける程の真の絶望とは、希望を手に入れた後にこそ訪れるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最終回まで、残り二~三話。
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