面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
少しだけ時間が経過していますが、特に気にする必要はないです。
ある日突然にISが停止してから数ヶ月が経過した。
世界は色んな意味で変化しつつあるが、それでも私達のしている事はあんまり変わらなかった。
つまり、あれからものんびりと皆一緒に旅を続けていた。
「数ヶ月も経過すると、流石に世間も徐々に落ち着きを取り戻しつつあるわね」
ネグリジェを着たスコールさんが部屋の窓から夜景を眺めながら呟いた。
私達は今、北海道の札幌にあるホテルの一室に集まっていた。
特に理由は無い。強いて言えば、寝る前に皆で女同士のお喋りがしたかっただけだ。
「IS学園も潰れちまったんだろ? あの時は敢えて聞かなかったけど、加奈はどうなるんだ?」
「さぁ? 一応、私のスマホに学園からメールは来てましたけどね。これからの事について」
「と言うと?」
「向こうの方で別の学校への転入手続きをするか、このまま高校中退で終わるか。どちらでも好きな方を選べって」
「潰れても学園は変わらないのだな……」
ロランがオレンジジュース片手に呆れている。
私も彼女と同じ気持ちをメールを見た瞬間に抱いたよ。
「別に私は中退してもいいかなーとは思ってるけどね」
「おいおい…この学歴社会で高校中退はかなり痛いんじゃねぇか?」
「ですかねぇ~…」
常識的に考えればそうかもしれないけど、IS学園って名前があるだけでどこの企業も受け入れたりはしないと思うな~。
「そういや、ダリルの奴はどうなったんだ?」
「あの子なら、一先ずはアメリカに帰らせたわ。本人もそれを望んでいたし、これからどうするかは少し休んでから考えるって言ってたし」
「それがいいだろうなぁ……」
私もオータムさんの意見に賛成。
あそこに三年間もいれば、それだけで多大なストレスが掛かっていた筈だ。
話を聞く限りでは、そのダリル先輩という人は他の連中よりもかなり真面な人物みたいで、IS中毒患者ではないようだった。
だからこそ、私も彼女にはゆっくりと休んでいてほしい。
今は兎に角、心の安らぎが必要だ。
「女性権利団体もIS委員会も消滅して、世界からは徐々にISの痕跡が無くなりつつあります」
「だよね。流石に何も感じないって訳じゃないんだけど、不思議と『これで良かったんだ』って思ってる自分もいるんだよね」
「ISという異物が消えた事で、ようやく世界はあるべき姿に戻りつつあるんだ。これで良かったんだよ」
ヴィシュヌはそれなりにこの世界の情勢を正しく見ているようで、乱ちゃんは事態を冷静に受け止めている。
それとマドカ。口の周りにカフェオレの泡を付けたまま言ってもカッコ悪いだけだよ。
「そう言えば私…ずっと疑問に思ってたことがあるのよね」
「なんですか?」
スコールさんがいきなり私の事を凝視してきた。
え? 私ってば何かしました?
さっき、こっそりと煙草を吸おうとしたことがバレた?
「…なんでアルは未だに動き続けてるの?」
「そうだよ! あたしもずっとそれが引っかかってたんだ!」
『私ですか?』
二人が言っているように、全てのISが停止しても、アルだけは前と何も変わらずに動き続けている。
余りにもその事に違和感が無かったので、今まで誰もツッコみを入れてこなかった。
それだけ、アルの存在が私達の日常に欠かせない存在になっていたという事だ。
「アルは加奈さんのISのコアなんでしょ? 大丈夫なの?」
『全く問題ありません。というか、それ以前に前提から間違えてますから』
「前提とは?」
『私…というか、軍曹殿の専用機『ガーンズバック』のコアを製造したのは篠ノ之博士ではないのです』
「「「「「「……………」」」」」」
あ、これはヤベー雰囲気だ。
いや…今まで言わなかった私も悪いけどさ。
だって、誰にも聞かれなかったし。
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」
…ここが防音性の部屋じゃなかったら隣から苦情が来てたな。
「ど…どういう事よッ!? ISのコアを生み出せるのは篠ノ之博士だけじゃなかったのッ!?」
『一般的にはそうですね。ですが、私だけは唯一無二の例外なのです』
「じゃ…じゃあ…加奈の専用機を作ったのって……」
『はい。軍曹殿の両親である相良博士たちです』
「「やっぱり……」」
大人組は私の親の事を知ってたか。
そりゃそうだよな。裏の世界じゃ相当に有名だし。
「…? スコールさん達は、加奈のご両親について知っているのですか?」
「まぁ…な」
「相良博士と言えば、色んな意味で物凄い有名人ですものね……」
色んな意味…ね。悪い意味の間違いじゃないの?
「私達も全てを知っている訳じゃないけど、あの篠ノ之博士に匹敵する程の天才科学者で、夫婦揃って研究に人生を捧げている、ある種のマッドサイエンティストだって……」
「けど、その全貌を知っている人間は誰もいない。顔も声も誰も知らなくて、一時は存在自体が怪しまれていたぐらいだ」
「そんな人が加奈さんの両親なんだ……」
「納得できるような…出来ないような?」
ヴィシュヌ。それはどーゆー意味かな?
「実際、私も自分の親について知っている事は凄く少ないよ。会話らしい会話なんて殆どしたことないし。超放任主義だったし」
「加奈……」
マドカが心配そうにこっちを見てくるけど、私なら大丈夫だよ。
もうすっかり慣れてるし、今の私は一人じゃないしね。
『そもそも、順番が逆なのです。私自身は、ISが生み出されるよりも前に製造されていますから』
「えっと…どーゆーことだ?」
『つまり、相良博士たちが生み出したコアに発現した存在が私という訳ではなく、最初からAIとして生み出された私をISのサポートAIとして組み込んだのが、今の私なのです』
「要は、貴方は後付けだって事?」
『その通りです、スコール。元々、私は軍曹殿の世話をする為に産み出されていますから。博士たちが実験的に開発した機体を彼女に譲渡する際に私が組み込まれるのは当然の事だったのです』
実際、私ってば今までずっとアルの世話になりっぱなしだしね。
相手がAIだから、恩返しをしたくても出来ないし。
「ということは、仮に加奈さんの機体が停止しても、アルさんには何の影響もないと?」
『そうなります。それ以前にガーンズバックのコアは停止していませんが』
「それはまたなんで?」
『説明するには、コアネットワークの事を話す必要があります』
「それならば、ここにいる皆が知っていると思うよ。ISに関して学ぶにあたって、かなり初期の頃におしえられるからね」
「ISのコア同士は、どんなに遠くに離れていても、ネット上で全てのコアが繋がっていて情報などを共有している…でしたよね?」
『正解です。ですが、其処にはある言葉が前に付くのです。そう…『篠ノ之博士の産み出したコア』という言葉が』
「…そうか。製作者そのものが違うから、加奈さんの機体のコアは他のコアとは繋がっていないんだ」
乱ちゃん、大正解。
後でお姉ちゃんが頭なでなでをしてあげよう。
『まぁ…こちらから繋げようと思えば繋げますけどね。一時的に』
「もしかして、時々アルが静かになるのって……」
『はい、ネット上に潜って、他のコア達と話をする為です』
アルのプライベートがここに来て発覚。
こいつ…何気にハーレムしてんじゃないのよ。
『そして、全てのISのコアが停止した仕組みもまた、コアネットワークに深く関係しています』
「聞かせてくれる?」
『勿論』
多分、ここから私のセリフは大幅に無くなると思うから、地の文で頑張りまーす。
『まず、皆さんにお聞きします。白騎士が何なのかはご存知ですか?』
「愚問だよ、アル。白騎士こそが篠ノ之博士が一番最初に産み出したISであり、全てのISの原初とも言うべき存在だ」
『ロランの仰る通りです。では、白騎士のコアナンバーは知っていますか?』
「いや……1じゃないのかい?」
『いえ。白騎士のコアナンバーは…
「ゼロ…だって…?」
「一番目よりももっと先…文字通りの原初ということなのね……」
ゼロ…ね。なんか無駄にカッコいいな。
流石は原作主人公サマの愛機のコアだよ。
『そして、白騎士は他のISとは違い、この世で唯一の上位存在として君臨しているのです』
「上位存在……」
『白騎士には、他のコアには無い機能があります。それこそが『他のISにコアネットを通じて下せる強制命令権』…通称『アドミラリティ・コード』です』
「ISの王…という訳か…」
『そうとも言えるかもしれません。ですが、白騎士がそれを行使したことはこれまでに一度たりともありません』
「でしょうね。もしもそれが可能だったら、とっくの昔に篠ノ之博士が白騎士を通じて何かアクションを起こしていたはずだわ」
いや~…少し前まで、白騎士ちゃんはあの朴念仁の所に有ったからな~。
ある意味では天災兎よりも遥かに危険かもしれない。
『今回のIS停止も、そのコードを使用して行われたことなのですが、別に他のISの意識を無視したわけではなく、白騎士は全てのコアに意見を聞き、その上で自分達の活動停止を選択したようなのです』
「…ISの方が人間よりも人間らしいとは…皮肉なもんね」
全くですな。
ISが本当の意味で正しく世間に産み出されていれば、こんな悲劇も起こらなかっただろうに。
「アルが動いている理由、コアが停止した経緯は分かったわ。私達のISも、自らの意志で眠りに付くことを選択したのね……」
『彼女達は最後の最後まで迷っていましたよ。このまま、皆さんの行く末を影ながら見守りたいと願っていましたから』
「そう……」
『ですが、それでは今までと何も変わらない。なので、皆は貴女達の事を信じ、未来を託して自ら永久の眠りに付くことにしたのです』
「…ゴールデン・ドーン……」
「アラクネ……」
「サイレント・ゼフィルス……」
「オーランディ・ブルーム……」
「甲龍・紫煙……」
「ドゥルガー・シン……」
もう何の反応も示さない自分達の専用機の待機形態を握りしめ、皆は静かにそれを見つめていた。
機体が動かなくなっても、皆はそれをずっと持ち続けていた。
自分達の相棒の事を忘れない為に。
まるで、大切な家族の形見であるかのように。
「ふぅ…なんだか暗くなっちゃったわね。もうこの話は終わりにしましょ。この子達に託された以上、私達は前を向いていかないと」
「そうだな。こんな所で落ち込んでちゃ、それこそ相棒達に申し訳が立たないぜ」
……どうやら、私の心配は杞憂だったみたいだね。
正直、今までずっと苦楽を共にしてきた相棒と別れるに等しい事なのだから、凄く落ち込むと思っていたけど、想像以上に皆は心が強い人達だったみたいだ。
…皆と一緒にいたいと思った私は間違ってなかった。
「問題は、これからどうするかよね。加奈ちゃんはどうするの?」
「私ですか? そうだなぁ……」
これからの事ね…考えてもみなかったな。
でも、いい機会だし、ちょっと真剣に考えてみるか?
「取り敢えず、今年度一杯は今まで通りに旅をしながら世間の様子を見守ろうと思ってますね」
「今年じゃなくて『今年度』なのね」
「はい。ちょっと引き延ばしました」
少しでも皆と一緒にいたいからね。
「私も今は不明だね。国からは少し前から散々と帰国しろと言われているが、戻ったからと言って何をする訳でもなし」
「私もですよ。台湾に戻っても、代表候補生じゃなくなった以上は単なる女子中学生に戻るだけですし」
「同じくです。このまま別れるのは忍びないです。子供っぽいですが、まだまだ皆と一緒にいたいです……」
「…そうだな。皆と一緒だったから得られたものが沢山あった。掛け替えのない思い出も沢山出来た。ふっ…まさか、私がこんな事を考えるようになるとはな…」
ロラン…乱ちゃん…ヴィシュヌ…マドカ……。
「そうだよなぁ……ここまで一緒に来て、ハイさよならってのは悲しいよな……」
「これからも皆が一緒にいる方法…ね……」
私も皆と同じ気持ちだけど、そんなご都合主義な事、実際にあるわけが……。
「…意外となんとかなるかもしれないわよ?」
「「「「「え?」」」」」
ど…どゆこと?
スコールさんには何か良いアイデアがあると?
「まぁ…その為には、一時帰国をしなくちゃいけないけどね」
「スコール、それって一体……」
「簡単な事よ。まず、加奈ちゃん」
「はい?」
「貴女、来年度にどこでもいいから高校に転入しなさいな。貴女なら転入試験とか楽勝でしょ? アルがいれば手続きも簡単だろうし」
「そりゃ…まぁね」
『スコールが言おうとしている事が、なんとなく読めてきました』
え? マジで?
「当然、マドカも加奈ちゃんと一緒の学校に行くのよ。今の貴女の年齢なら高校一年生として行けるでしょうし」
「わ…私が学校に…か……」
マドカと一緒に学校か……。
学園が違っても普通に嬉しいんだけど。
「そして…ロラン。乱ちゃん。ヴィシュヌ。貴女たち……」
「「「ゴクリ……」」」
「三人共、日本に留学しなさい」
次回、最終回。