面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
これ自体は、年を越してからは初めての更新になりますね。
ここからは、本編後の話や保管しきれていなかった話などをしていこうと思っています。
その第一弾として、まずは皆さんが最も気になっていたであろう、主人公である加奈の過去について語っていこうと思います。
私が転生をしてから初めて見たものは、喜びに打ち震える父の顔でもなく、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる母の顔でもない。
緑色に染まった視界の中で、何かに反射して映っている自分自身の顔だった。
うっすらとではあるが、遠くには白衣を着た男女がこちらに背中を向けて何かの作業を行っていた。
その人物達こそが自分の両親であるとは、その時の私は想像もしていなかった。
なんで私の視界が緑色に染まっていたのか。
それは、この体が培養液に満ちているシリンダーに入れられていたから。
どうして私がこんな場所に入れられているのか。
その理由もこれまた単純明快だった。
これはアルから後々になって教えて貰った事なのだが、私は母親のお腹の中から生まれてきた訳ではないらしい。
それどころか、私は両親の愛あるセックスによって誕生した命ですらない。
ウチの両親は、自分達の身体から態々、精子と卵子を取り出してから体外受精を行ったのだ。
どうして、そこまでしてまで子供を欲したのか。
これまたなんともマッドな理由で、『天才である自分達の遺伝子を継承した子供を使って実験を行えば、どんな結果が得られるのか知りたかったから』らしい。
まず間違いなく、正常な人間ならば死んでも思い付かないような事だ。
私は生まれた瞬間から、両親にとって都合のいい実験動物となるという最悪の運命を授かっていた。
何よりも実験や研究を最優先する両親が、自分達の手で子供育てようなんて殊勝な考えを持つわけがない。
そんな暇があるのならば、一分一秒でも仕事をしていたい。
故に、私は受精卵の時からずっと培養層に入れられたまま育てられた。
人間としては最低最悪でも、科学者としては超一流な二人が作り出した培養層は、胎内となんら変わらない環境を赤子であった私に与えてくれて、すくすくと育っていった。
私が培養層から出る事を許されたのは、私が私としての意志を持ってから三年後だった。
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両親から『加奈』という名を授かってから、始めて貰ったのが人工知能のアルだった。
当然の事ではあるが、あの両親は私を育成するつもりなど微塵も無く、その役目を全て人工物であるアルに一任した。
アルがその為に作り出されたのだと知ったのは、そのすぐ後だった。
元々、転生者である私は前世での知識や頭脳を持ったまま生まれ変わっているので、アルと打ち解けるのにそこまで時間は掛からなかった。
人工知能…プログラミングされた存在だからだろうか、アルだけは私を裏切らないと心のどこかで思っていた。
アル自身は、私が色んな事を最初から知っていたり、異常なまでに物覚えが早いのは、あの両親の遺伝子を受け継いでいるからと思っていたようだけど。
自分が第二の生を受けたこの世界が『IS』の世界であると知ったのは、私が四歳になった時だった。
それを知った切っ掛けは、両親の会話を偶然にも盗み聞きしてしまった事だった。
『どうやら、篠ノ之束とかいう子供が非常に優れた頭脳を持っているようだ』
篠ノ之束。
その名前を聞いた時は、本気で我が耳を疑った。
どうして。よりにもよって。
唯でさえ最悪の人生を満喫中だというのに、あろうことか世界の破滅が約束された世界だったなんて。
どうやら、両親は研究をやりつつも、同時に世界中に存在している自分達が密かに目を付けた若い才能を持つ者達をチェックしていたようだった。
その中の一人に『篠ノ之束』も入っていたのだ。
当の本人は、自分がそんな事になっているだなんて全く知らないだろうが。
五歳になった時、私は両親から無理矢理に子供一人が入る程の大きさのカプセルに入れられた。
最初は何が何だか分からず、全く抵抗もしなかった。
抵抗したくても出来ないと言うのが真実なのだが。
が、その数秒後にその事を死ぬ程後悔する羽目になる。
カプセルの扉が閉じ、真っ暗になった空間に映し出されたのは、人類がこれまでに歩んできた戦争の歴史。
第一次、第二次世界大戦は勿論の事、他にも様々な紛争地帯の光景を生々しい音声などと一緒に眼前で見せつけられる。
戦闘機から火の雨が降り注ぎ、それによって文字通りの黒焦げとなった人々。
捕虜や民間人の生首を晒し、時には足で蹴って遊ぶ兵士達。
占領地にいる女性達をレイプしてから容赦なく孕ませる兵士達。
死体を弄び、訓練用の的にする者達。
そして……広島と長崎に落とされた二つの核爆弾。
「あぁぁぁぁあああぁぁぁああぁぁあああぁぁぁぁああぁぁぁっ!!!!」
この世の地獄。
そうとしか表現できない光景。
知識としては知っていた事ではあるが、それを音声付の映像として見せつけられたのは初めてだった。
一体どうやって、両親はこんな映像を手に入れたのか、とか気になる点は多々あるが、そんな疑問なんて頭から簡単に消し飛ぶレベルの衝撃を延々と見せつけられる。
心身共に衰弱しまくった私がカプセルから出されたのは、それから二年後…7歳の時だった。
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私の心を極限までボロボロにした両親が次に行った事は、私の『身体の改造』だった。
両親は以前、イタリアのとある組織(名前は忘れた)に技術提供をしたことがあるらしく、そのオリジナルとなる技術を用いて私の身体を好き放題に弄り出したのだ。
その組織は、過去の事故などで身体的な障害を持ってしまったり、生まれつきの障害を持っている少女達を引き取り、催眠術に近い事をした上で機械の身体…即ちサイボーグに改造して、政府の裏の仕事をさせている連中らしい。
それらの少女達は『義体』と呼ばれているらしく、ある意味では私も立派な『義体』の一人とも言えた。
だが、彼女達と私とでは明確な違いが一つだけある。
それは、イタリアの義体たちは様々な要因で短命となっているが、私はより完璧な技術によって改造されているので、通常の人間と同じ寿命を持っている。
怪我や病気でも無い限りは、私は普通の人間達と同じ時間を生きられるのだ。
高い身体能力や強固な肉体を手に入れ、それによる後遺症が何にもない。
そこらの人間達ならば喜んだりするのだろうが、私はそうじゃない。
実の娘を微塵も躊躇することなく機械仕掛けの身体に改造する両親に対し、私は生まれて初めて心の底からの憎悪を抱いた。
その後、数年に渡って私は体の改造のアップデートを受け続ける事になっていく。
まるで、プラモデルやミニ四駆を改造していくような感覚で。
私が『人間』で無くなった数ヵ月後、遂にこの世界に『IS』と呼ばれる存在が誕生し、一気に世の中へと浸透していった。
ずっと危惧していた、世界滅亡のカウントダウンが始まった瞬間だった。
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ISの事を知り、両親はソレについての研究も続けていくようになっていった。
それとは別に、私は両親によって小学校へ通わせられるようになった。
別に『自分の子供に沢山の友達を作る機会を与えたい』なんていう親らしい考え空などではなく、単純に『義体と化した娘が通常の人間達との集団生活の中でどのような反応をするのかのデータを取る為』だ。
この行為に対する愛情など微塵も有りはしない。
あるのはどこまでも純粋な好奇心だけだ。
元々から精神的に成熟した状態で生まれ変わっている上に、両親たちから心身共に改造を施されてしまっている私は、肉体的な意味で同年代の子供達と一緒にいても全く馴染む事は出来なかった。
こうなることは最初から分かり切っていた事だ。
仮に改造なんてされなくても、確実にこうなっていただろう。
何もかもに諦めを抱いていた私は、その頃から見る物全てが灰色になっていた。
空の色も、木々の色も、大地の色も、自分の血の色でさえも。
頭脳、身体、その両方でずば抜けていた私であったが、本気を出せば確実に目立ってしまう。
だから、丁度いい感じに力をセーブしながら学校生活をなんとか乗り切っていった。
テストは70~80点ぐらいをキープし、競争なども3位から4位ぐらいを狙って走った。
どこぞの殺人鬼のようだが、あの頃の私は彼の心を誰よりも理解していたと思う。
激しい喜びなんていらない。その代りに深い絶望もいらない。
植物のような穏やかな人生を送りたい。
だが、あの両親の元に生まれてしまった時点で、そんな事は絶対に敵わない夢物語となってしまっているが。
勿論だが、私は学校の行事などには全く参加はしなかった。
授業参観。運動会。学芸会。文化祭。遠足。社会科見学。そして修学旅行。
その全てを様々な仮病で乗り切った。
因みに、家庭訪問なんて出来る訳も無いので、両親の方から学校側に圧力を掛けてから、私の分だけ免除させたらしい。何とも恐ろしいものだ。
生き地獄にも等しい小学校生活をしている最中、両親が遂に自分達の手によってコアから製造し、完全新規のオリジナルISを生み出す事に成功してしまった。
私が小学三年生の頃だった。
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型式番号M9 ガーンズバック。
それがそのISの名称だった。
全身がグレーの装甲に覆われ、関節部にはシーリング処理が施された機体。
私の知るISとは大きく姿形が違っていた。
その姿形はまるでアニメなどに出てくるロボットのようだった。
既に私のデータが入力済みのようで、私の専用機にする気満々だった。
自分達の手で扱う気は全く無いようで、どこまでも私の事を使い潰す気なのが見え見え。
両親は嬉々とした様子でコンソールを操作し、ガーンズバックを待機形態にする。
ISの待機形態については前世からの知識で知っていたが、問題はその形状だった。
小さく丸い、まるで目玉のような形。
それを見た途端、猛烈に嫌な予感が全身を走った。
そして、その予感は見事に命中する事になる。
背後にある床が開き、私の身体に張り付くようにくっつき、そのまま両手足を固定して身動き出来ないようにした。
それは診察台のように変形し、眩しいライトの光が網膜を刺激する。
すぐに目の前に二つの人影が出来て、光は遮られる事になるが。
父が持っている球体…ガーンズバックの待機形態を徐々に目に近づいてくるのを見て、あの球体が何なのか、こいつが何をしようとしているのかを理解した。
せめて、麻酔ぐらいはしろよ。
そう思ったが、このクソ親たちが子供の事を考慮するなんて有り得る訳が無かった。
「あがぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
僅か9歳にして、私は実の両親の手によって片目を失った。
加奈の過去を語るには一話では長すぎるので、何話かに分けていこうと思います。
それが終わってから、加奈たちの新しい学生生活の様子を書く予定です。