面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結)   作:とんこつラーメン

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前回の続き。

片目を失うという代償を経て望まぬ力であるISを手に入れた加奈。

彼女はそれからどうなっていったのでしょうか?







面倒くさいので、私の話をしよう②

 ガーンズバックの待機形態である義眼が、私の眼球を押し潰して無理矢理に装着された瞬間、脳内に凄まじいまでの情報の奔流が走った。

 操縦方法や武器の使用方法。各種装置やシステムの意味や用途。

 通常のISならばそこで終わるらしいが、これはあのクソ親特製のIS。

 それだけで終わるわけが無かった。

 

 効率的な人間の殺し方。一対多数における戦い方。

 自分の娘、しかも僅か9歳の子供に何を叩きこもうとしているのか。

 当然だが、前世ではそういった荒事とは無縁だった私にとって、今までに覚える事も無かった、覚える必要も無かった知識を強制的に脳内に流し込まれる事は拷問にも等しい。

 

 頭を抱えながら床の上をのた打ち回って約二時間。

 ようやく辛うじて正気を取り戻した私に話しかけてくれたのは、両親ではなくてISのサポートAIと化したアルだった。

 目の前で自分の子供が苦しんでいる様子でさえも、あいつらには貴重なデータであったようで、父が興味深そうにビデオカメラで撮影をしていた。

 頭がガンガンと痛む私に出来た事は、床に唾を吐きながら殺気を込めて睨み付けるぐらいだった。

 防御力ぐらいは下がれ。

 

 どうしてISの待機形態を義眼にしたのか。

 アル曰く『万が一の場合に備えて、ISの強奪防止の為』らしい。

 まさか、ISを自分の身体、しかも顔面にくっつけているだなんて誰も想像もしないだろうし、最悪の場合に陥っても奪われる事だけは避けられるから…だそうだ。

 私の事なんて微塵も考えてない。ISが奪われる事だけを危惧していた。

 こっちが死んでも、また子供を『製造』すればいいとしか思ってないんだろう。

 アイツ等にとって、自分達以外の人間は一人の例外も無く実験動物に等しいに違いない。

 

 ある日突然、クラスメイトの一人の目が無機物に変わっていたら、誰もが驚き騒ぐだろう。

 だが、私は普段から自分の気配を限りなく薄くして生活をしているので、些細な変化には誰も目にも留めない。

 無駄に長い前髪で片目が隠れるような形になっているのが幸いした。

 それでも時々、義眼が痛む時があるんだけど。

 義眼が自分の身体に馴染むまで、本当に時間がかかった。

 暫くは痛みで碌に眠れないような日々もあったから。

 

 

 

 

 

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 ISを私に渡した両親が次にしたことは当然、稼働データの収集だった。

 けど、日本でISなんて動かしたら間違いなく悪目立ちする。

 それが所属不明、製作者不明となれば尚更だ。

 ではどうすればいいのか。両親が出した答えは単純明快で、戦える場所が無いのならば、戦える場所へと行けばいい。

 

 両親は私の事を麻酔銃で眠らせ、なんらかの方法で強制的に国外の紛争地帯へと送り込んだ。

 最初は本気で意味不明だったが、アルから概要を聞かされた時は腸が煮えくり返りそうになった。

 このISであいつ等をぶち殺せないかと考えた事も一度や二度ではないのだが、この体を改造された時点でそれは絶対に不可能だった。

 あの親たちが何の考えも無しに私の身体を改造するとは思えない。

 自分が反旗を翻した時に備えての保険が必ずある筈だ。

 自爆装置か、もしくは私の身体の自由と意識を完全に奪って人形にする為の装置。

 それ系の何かがこの体に仕込まれている事は確実だろう。

 だから、私は奴等には刃向えない。抗えない。

 世の中の全てに絶望して無気力になっている私ではあるが、別に自殺願望があるわけではない。

 私だって自由に生きたい。人としての人生を全うしたい。

 例えそれが、叶わぬ願いであったとしても。

 

 

 

 

 

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 幾ら銃弾が飛び交うような戦場であるとはいえ、それでもやっぱりISは悪目立ちする。

 堂々と行動すれば、まず確実に他国の監視衛星とかに見つかって、鹵獲されそうになるだろう。

 ならばどうすればいいのか。その疑問に対する単純明快な回答をくれる装置がガーンズバックには存在していた。

 

 ECS。

 分かりやすく言えば、機体そのものを完全透明にする超凄い光学迷彩ステルス装置だ。

 私にもどんな原理でこうなっているのかは全く分らない。

 使えさえすれば、後はどうでもよかったから。

 

 私は別に、特定の陣営を守れとか、倒せとか、そんな細かい命令は受けていない。

 あの親が私に下した命令はたった一つ。

 敵も味方も無い。武装をした連中全てを殲滅して、少しでも多くの戦闘データを持ち帰る事。

 その為ならば、どれだけの人間が死んでも構わない。

 

 アサルトライフルを使って、武装している女の身体を粉々にする。

 血の散華が咲き乱れ、地面に染みこんでいく。

 まだ10にもなっていないのに、初めて人を殺した。

 本当は怖い筈なのに、罪悪感で一杯になる筈なのに、そんな感情は微塵も浮かんでこなかった。

 これも後でアルから教えて貰った事なのだが、あの両親は私の脳にも過剰な改造を施していたようで、アイツ等が『不必要』と判断した邪魔な感情を私から排除したらしい。

 何をどうすれば、そんな化け物染みた芸当が出来るのかは全く分らないが、アイツ等なら何をしても不思議じゃないと思っている自分がいる時点で、私も相当に狂ってきているのだろう。

 

 片方は女だけの集団で、もう片方は男女が入り混じった集団。

 後者の方はどんな連中なのか知らないが、前者の方は一発で『女性権利団体』なのだと理解した。

 矢鱈と『男は屑』とか『ISがあるから無敵』とか言っていたし。

 数名はISを身に纏っていたし。生身の人間相手にISを使うとか、うちの両親に勝るとも劣らないレベルの屑集団だったので、私は親に対する憎悪を権利団体の連中に向けてぶちまけた。

 要は八つ当たりだ。そう自覚した上で徹底的に殺しまくった。

 アルは心配そうに何度も私に話しかけてきたが、軽く返事をしながら、ずっと引き金を引き続けた。

 

 この『データ収集』によって、私の精神は着実に矯正されていった。

 アイツ等にとって都合がいい防衛装置兼テストパイロットとして。

 心さえも、両親によって改造されていったのだ。

 

 皮肉にも、これによって私の銃の腕は爆発的に向上していった。

 認めたくは無かったが、自分には銃を使う才能があったようだ。

 けど、そんな物騒な才能があるだなんて絶対に認めたくはないから、私はアルから『銃を使う才能が凄い』的な発言が飛び出す度にこう答えるのだ。

 『銃は自分が一番苦手な事だ』と。

 

 

 

 

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 ISを手に入れてから、私の休める日は劇的に減っていった。

 基本的に休息がとれるのは日曜日だけ。

 二日以上の連休がある時は絶対に強制麻酔の末に世界各地の戦場に飛ばされる。

 春休み。夏休み。冬休み。ゴールデンウィーク。

 大型連休がある時は、常に姿を隠して銃の引き金を引いていた。

 

 他の子供達が親たちと遊んでいる時に、私は名も知らぬ大人を殺し。

 他の子供達が一家団欒を楽しんでいる時に、私は息と気配を殺して身を潜める。

 どうして、自分はこんな事をしているのだろう。

 ふと、そんな疑問が頭をよぎるが、すぐに消え去ってしまう。

 あんな両親の子供に生まれてしまったから。それだけだった。

 

 小学校生活の後半、その半分の時間は戦場にいただろう。

 そして、傍から見ると何事も無かった私は、小学校を卒業して中学に上がる頃には殺した人間の数が軽く百人は超えていた。

 その頃にはもう、私は全てに対して諦めを抱いていた。

 それでも私がまだ『人間』でいられたのは、偏にアルがいてくれたからだ。

 こんな事を言えば絶対にからかわれるので言わないけど、アルには感謝してもしきれない。

 全身が血に塗れた私に対してずっと話しかけ続けてくれたアルだけが、私にとって唯一無二の家族だった。

 

 もしも…もしも、いつの日か私が穏やかな日常を送れるようになったら、その時は……。

 

 

 

 

 

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 中学生になると、いきなり私が戦場に行く機会が無くなった。

 どうやら、あの三年間で十分にデータは収集できたようで、そこからまた私は両親にとっての空気となった。

 

 本来ならば喜ぶべき事なのだろうが、その頃の私にはもう人並みの喜びを感じられるような心は無くなっていた。

 どうせまた。

 そんな言葉がずっと頭から離れず、私は前以上に他人に対して壁を作るようになっていった。

 世界も自分も、何をしても無意味。

 ISがある以上、滅びは避けられないし、自分もまたその滅びの一端を担っている。

 成る程、これが『絶望』という感情か。

 よく軽い感覚で『絶望した』とか言ってる奴がいるけど、そんな簡単に言わないでほしい。

 これこそが真の絶望。

 何をしても、どんなに足掻いても、絶対に避けられない滅亡がそこにある。

 自分以外の奴等はその事を全く自覚していない。

 

 中学にもなると、明らかな女尊男卑思考の生徒が出てくるのだが、そいつらは全く分かっていない。

 自分達のその考えこそが最も愚かであり、世界の破滅の一因になっている事を。

 小学生の頃は世界全体がフィクションのように感じられ、世の中全てに対して無関心でいたのだが、中学になると更に酷くなり、自分以外の人類総てが化け物にしか見えなくなっていた。

 無自覚のままに世界を滅ぼそうとする存在。

 『この世で最も邪悪なのは人の心である』とはよく言ったものだ。

 今になってようやく、私はその意味を正しく理解出来たような気がする。

 

 生まれて初めて、本気で死にたくなった。

 それすらも許されないと分かっていても。

 この体には両親特製のナノマシンが大量に投与されているから、そう簡単に死にたくても死ねない。

  

 生き地獄とは、まさにこの事だった。

 

 

 

 

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 中学校生活も後半に差し掛かると、否が応でも進路についての話が出てくる。

 無論、それについての三者面談なんてものもあるのだが、あのゴミ両親がそんなものに応じる訳も無く、常に二者面談ばかりだった。

 しかも、私には進路の選択肢なんてものが最初から存在しないおまけ付きで。

 

 学校の先生方は全く知らなくても、政府連中は私が『相良の娘』であることを把握しているらしく、半ば強制的にIS学園を受験する事になっていた。

 しかも、こっちが知らない間に『重要人物保護プログラム』とやらに登録もされていたようで、自分の知らない所で自分の将来が決められていた事に対し、私は盛大な溜息を吐く事しか出来なかった。

 ストレス発散に密かに見つけていた地下射撃場で銃を撃ちまくっていたのは内緒。

 

 私は憎悪する。自分の全てを奪った両親を。

 ISを生み出したことで私の未来と世界を破滅させようと企む篠ノ之束を。

 その破滅に加担をしている自分自身を。

 

 それはそれとして、IS学園なんて絶対に行きたくはない。

 合法的に両親の元から離れられるのはいいが、それとは別に『原作キャラ』という核兵器級の危険存在がいるから。

 結局、どこに行っても私の人生には平穏なんて無いのかもしれない。

 

 掛け替えのない『友人達』と出会うまでは、本気でそう思っていた。

 

 願わくは、彼女達の誰かが私の事を裁いてくれんことを。

 

 

 

 

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「ISは事実上の滅びを迎えた」

「けれど、まだ私達の『研究』は終わらない」

「あの子にはまだ使い道がある」

「今はまだ、束の間の平穏を与えましょう」

「『織斑計画』で主任研究員をしていた時の知識が大いに役に立った」

「計画で作り出された『脱走者』と一緒の場所に向かわせて、一体どんな反応をするか計測したかったけど……」

「望むようなデータは得られなかったな」

「所詮は逃げ出した『失敗作』。唯一無二の成功体である加奈とは比べるまでも無いわね」

「それとは別の脱走者と仲良くなっていたようだが、あっちの方がまだマシと言えるな」

「アレは、あの二体とは違って加奈と出会う事で限りなく成功体に近づいた」

「連中に連絡は?」

「したわ。今は逃げ出した『玩具』で遊ぶのに忙しくて、そんなのに構っている暇は無いですって」

「そうか」

「それ以前に、連中はもうアレには興味を持っていないみたい」

「ならば、アレには加奈の傍にいて貰って、あの子の糧になって貰おう」

「それが最適ね」

「今はただ観察に徹しよう」

「けれど、また世界は、人類史は大きな変革を起こすでしょう。その時はまた…」

「我等が娘に頑張って貰うとしようか」

「そうね、あなた」

 

 

 

 

 

 

 




ここで加奈の過去編は終了です。

次回は恐らく、本編のその後の話…つまりは新生活の話になるでしょう。

シリアスなんて吹っ飛ばして、百合百合な世界をお送りしたいです。



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