面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
ついでに、更なる新キャラも登場する?
加奈たちがライザーと食事をした日の夜。
アブデルは一人で、駒王町にあるバー『モリアーティ』に訪れていた。
「まさか、お前が地上に戻ってきているとは思わなかったぜ」
「ふん。一々貴様如きに報告する義務は無い」
既に彼の隣にはある男が座っている。
その人物の名は『アザゼル』。
遥か昔から、全ての堕天使達の総督を務めている男だ。
実力は申し分ないのだが、性格などに問題があり、各勢力からも別の意味で警戒をされていた。
「で、相変わらずあの嬢ちゃんの所にいるのか?」
「当然だ。俺は加奈の守護天使だぞ?」
「そこら辺の下っ端天使とかならまだしも、この世で最も神に近い存在ともいえる熾天使が一個人を守護するとか聞いたこともねぇよ。冗談抜きで前代未聞だわ」
「貴様には永遠に理解は出来るまい。美少女とは、その存在自体が世界の宝なのだ。故に、この俺が守護をする価値は充分過ぎるほどにある」
「…ほんと、変わってねぇな…。これで天界最強の天使なんだから質悪いぜ…」
アザゼルも堕天使として嘗ては神に反旗を翻した者の一天使として、アブデルの実力は誰よりもよく知っていた。
神話や聖書には全く伝わってはいないが、かの戦争の時には幾度となくアブデルとは剣を交えている。
彼の力を以てしてもアブデルは苦戦を強いられるほどで、一度も勝ちを得た事はついぞ無かった。
そして、アブデルがルシファーをたったの一撃で怯ませたことで確信をした。
この男の実力は自分達とは完全に別次元であると。
「ところでアザゼル」
「なんだよ」
「貴様はこの町に下級の堕天使達が潜り込んでいるのを知っているのか?」
「知ってる…というか、ついさっき知った。最近までマジで仕事で忙しくてな。下っ端連中の動向にまで気が回らなかったんだよ」
「言い訳だな」
「否定はしねぇさ……」
手に持っているグラスを傾け、ブランデー水割りを一気に飲み干す。
その後、口髭を生やしたアラフィフな感じの初老のバーテンダーにおかわりを頼んだ。
「この町は現在、グレモリーの末娘の管轄となっているらしい。土地神には全く許可は取っていないようだがな」
「はぁ…何やってんだか、サーゼクスの野郎は…。そこら辺のことぐらいは教えといてやれよ…」
「貴様が言えた立場か」
「…ぐぅの音も出ねぇ」
何を言ってもアブデルに論破されてしまう。
そもそも、この男に口喧嘩で勝とうということが無謀なのだ。
アザゼルに非があるのだから尚更だ。
「んで、そのお姫さんは動いてんのか?」
「まだ本格的には動いていないな。所詮は下級の堕天使だからと言って侮っているのだろう。既に犠牲者も出ているというのにな」
「マジか」
「それすらも知らなかったのか……」
「うぐ……」
まさか、其処までの事に発展しているとは思わなかったアザゼルは、思わず目を見開いてしまった。
「といっても、その犠牲者はすぐに例の駒にて悪魔に転生したようだがな」
「『
「それをお前が言うのか?」
「……………」
一体どうしたら、アブデルに何も言われないで済むのだろうか?
今のアザゼルにはどれだけ頭を捻っても答えが出なかった。
「しかも、その犠牲者の証言で初めて堕天使達の存在を知ったみたいだ」
「どんだけ鈍感なんだよ…。あそこまで気配がダダ漏れになってれば、それこそ普通の人間以外にはすぐに分かりそうなもんだろうがよ」
「悪魔の分際で、人並みに娘を甘やかそうとした結果のツケだろうさ。知っているか? 自分の子供を甘やかすのは、悪人を育てているのと同義らしいぞ」
「それ…分かってて言ってるだろ?」
「さぁな」
アザゼルにもワケ有りな義理の息子が存在している。
事情が事情なので、自分なりに愛情を注いできたつもりだったが、今思えば少しは厳しくしておけばよかったと思い始めている。
煙草に火を着けようと思い、灰皿を探してカウンターの上をキョロキョロとしている間に、さっきのおかわりがやってきた。
「だが、似たような事情でも貴様とは違ってちゃんとやっている義理の親も存在している」
「それは誰の事だよ?」
「もうすぐ分かる」
「あ?」
「今日は本来、その男との待ち合わせだったのだからな」
アブデルがそう言うと、店の扉が開き、ビシッとビジネススーツを着こなしているオールバックの口髭を生やした男性が入ってきた。
「お待たせしました。アブデルくん」
「随分と遅かったな。一体何をしていたのだ……ベリアルよ」
ベリアル。
悪魔、もしくは堕天使の一人で、その名は『悪』を意味していると言われている。
嘗ては神によって創造された第一の天使であったが、そんな彼もまたルシファーに続き神に対して反旗を翻した経緯がある。
立場だけで言えば四大天使であるミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルたちよりも上で、誰よりも法律に精通していた事を武器にしてイエス・キリストを訴えた事もある。
しかも、天界での戦争においては彼の言葉巧みな話術により、全ての天使の3分の2を寝返らせてみせた実績を持つ実力者だ。
そんな彼も、現代ではとある少女の義理の父親になっていて、例え血が繋がっていなくても実の娘のように溺愛していた。
「うげ…ベリアルかよ…」
「君と会うのも久し振りですね、アザゼルくん」
「そ…そうだな……」
昔からアザゼルはベリアルの事が苦手だった。
その趣味嗜好もそうだが、天界一の頭脳の持ち主と呼ばれていた彼と会話をしていると、何から何まで見通されそうな気がするからだ。
「いらっしゃい。何にするかね?」
「彼と同じのをお願いします」
「了解だ。少し待っていてくれたまえ」
客にもフレンドリーな感じのマスターに注文をし、ベリアルはアブデルの隣に座った。
「こうして日本に来るのも何年振りですかね」
「知らん。昨日まではどこにいたんだ?」
「イギリスです。またSSS級のはぐれ悪魔が暴れていたようなので、誰にも知られる事が無いように片付けてきました」
ベリアルは、現代の悪魔には非常に珍しく、本気で三大勢力と人間達との講和を目指している。
世界中を回って、悪魔や堕天使達の尻拭いをしているのも、その一環なのだ。
「今の魔王たちはダメですね。人柄がいいのは認めますが、余りにも身内に対して甘すぎ、しかも基本的に同種族の事を疑おうとしない。余りこんな事は言いたくはありませんが…彼ら四人は『王』の器ではありません。あれでは悪魔たちが余りにも不憫です」
「来た早々に言うじゃねぇか」
「君も人の事を言えませんよ。アザゼル君」
「な…なんだよ……」
スーツのポケットの中に手を入れると、そこから黒い羽根を何枚か取り出してからテーブルの上に置いた。
「こいつは……」
「この町に忍び込んでいた下級堕天使達のものです。本当ならば、町を管理している悪魔がするべき事なのでしょうが、全く動く気配が無かったので、先に私の方で片付けておきました」
「仕事が早いな」
「ついででしたから。それに、あのまま放置しておけば、大事な義娘にまで危機が及ぶ可能性がありましたからね」
「…加奈の場合心配いらんと思うがな。寧ろ、指先一つで返り討ちにするだろ」
「勿論ですとも。あの子がそこらの下級堕天使なんぞに負ける筈がありません」
親バカ炸裂。
種族が違っても、こればかりは一緒なのかもしれない。
「…おほん。アザゼル君、本来ならばこれは総督である君が真っ先に処理しなくてはいけない事だったのですよ? その事をちゃんと理解していますか?」
「わーってるよ…アブデルにもさっき同じような事を言われたからな。この酒を飲んだ後にでも行こうと思っていたさ」
「「どうだか……」」
ベリアルとアブデルから冷ややかな目で見られるアザゼル。
自分に対する信頼度がどれだけ低いかを身を持って知ったのだった。
「全く、最近の若い連中ときたら、すぐに何かあれば『目撃者を消す』だの『記憶を改竄する』だの……どうして話し合いで解決しようという気が無いのでしょうか? 力技で解決をしてしまっては、それこそ野生の獣と大差ないではありませんか」
「また出たよ…ベリアルの説教癖」
「言うな。いつもの事だ」
「何か言いましたか?」
「「別に何も?」」
ここで変にツッコんでも逆効果なのは二人が良く知っているので、ここは黙って聞き手役に徹することに。
そうこうしている間に、ベリアルの注文したブランデーの水割りが来た。
「そういえば、うちの娘は元気にしていますか?」
「心配せずとも、加奈は元気にやっている。だが、顔を見せにぐらいは行ってやれ。口では色々と言ってはいても、あいつもお前に会いたがっている事には違いない」
「大丈夫ですよ。暫くの間は日本に滞在をする予定なので」
「なに? んなの聞いてねぇぞ?」
「今、言いましたからね」
「お前……」
今回、アザゼルは本当にいい所が無い。
自分はこんなキャラだったかと思わされてしまう。
「それに伴い、この町に家を購入して、あの子と一緒に暮らすつもりです。無論、彼女が一人で暮らしたいと言えばそれを尊重しますが」
「その心配は無用だろうな……」
アブデルは知っている。
加奈は一見すると無気力そうで淡白なイメージがあるが、実際にはかなりのファザコンであることを。
ベリアルが『一緒に暮らそう』と言い出せば、二つ返事で了承するはずだ。
「更に、この町で別の仕事もするつもりでいます」
「別の仕事だと? そりゃあなんだ?」
「今はまだ秘密です。ですが、すぐに分かると思いますよ? いきなり降って湧いた仕事ではありますが、前々から一度はやってみたい事でもあったので。サーゼクスくんの驚く顔が目に浮かぶようです…」
(絶対に……)
(碌な事じゃねぇな……)
かなりの親バカになってしまったとはいえ、根っこの部分では誰かを騙したり、誘惑したり、驚かせたりすることが好きな部分は変わっていないようだ。
「加奈は今、何をしているでしょうね……」
「アザゼルの義理の息子と遊んでるんじゃないのか? 部屋を出る時にそんな事を言っていた」
「なんだとっ!?」
「なんですってっ!?」
親バカ×2、驚きの余り椅子から立ち上がってしまう。
流石に、自分達の子供達が一緒にいる事は全く予想出来なかったようだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
まさか、自分達の親が一緒に酒を飲んでいるだなんて想像もしていない子供達はというと……。
「おい…加奈」
「なぁに?」
「…どうして、俺はこんな事になっている?」
「そーれーはー…ヴァーリが自分の耳のケアを怠ってるからでしょうが」
座布団に座りながら、加奈は一人の青年に膝枕をしつつ耳かきをしていた。
金髪碧眼のイケメンで、街中を歩けば誰もが振り向くような人物だ。
青年の名は『ヴァーリ・ルシファー』。
先代魔王と人間の女性との間に生まれたハーフであり、赤龍帝とは対を成す現代の『白龍皇』であもある。
そして、加奈にとっては幼い頃から一緒に遊んでいる幼馴染でもあった。
「ほら、動かないで。耳の中を怪我するから」
「わ…分かった。だが、まさか俺が特訓をしている間に加奈が赤龍帝になっていたとは思わなかったぞ」
「私もだよ」
「…言っておくが、俺は加奈とは絶対に戦わないぞ。もしも、他の奴が赤龍帝だったのならば容赦なく倒していただろうが…加奈はダメだ。加奈に拳は向けられない」
「まぁ嬉しい。あ…ちょっと大きいのがある。ヴァーリさぁ…前に耳掃除をしたのっていつよ?」
「忘れた。そんな事なんて覚えていない」
「そうかもだけど…定期的にした方が良いよ? ヴァーリだってスッキリとした状態で体を動かしたいでしょ?」
「当たり前だ。それなら、また加奈が俺の耳を掃除してくれ。お前のしてくれる耳かきは気持ちがいい」
「はいよ。私なんかで良ければ、いつでもしてあげる」
やっている事、話している事は完全に恋人同士のそれだが、本人達に恋愛感情は全く無い。
あくまでも『幼馴染』なのだ。本人達はそう思っている。
二人の関係もアブデルと同じ『恋愛感情は無いのに距離感がバグっている』だけに過ぎないのだ。
『なぁ…白いの』
『どうした…赤いの』
『今でも二天龍としての宿命で戦いたいと思うか?』
『いや…完全に戦う気が削がれてしまった』
『奇遇だな…俺もだ』
まさかの再会を果たした二天龍も、この状況には戸惑いしかなかった。
これまでずっと戦い続けた赤龍帝と白龍皇が、現代ではまさかの幼馴染同士で、しかも物凄く仲がいい。
どっちとも実力は申し分ないにも拘らず、互いに戦う気は無いというおまけ付きで。
いや…ヴァーリの場合は他の奴とは普通に戦うが。
『もしも…もしもだぞ? 赤龍帝と白龍皇の子供が生まれたりしたら…どうなると思う?』
『間違いなく最強の存在になるだろうな。あと、なんか色々とピンク色になりそうな気がする。色的な意味で』
「なにやら、俺達の相棒が色々と話してるんだが……」
「気にしない。ほら、次は左耳するよ。こっち向いて」
「分かった」
その後も、二人は何とも言えない空気を醸し出しつつ耳かきを続けていった。
これもある種のリア充なのかもしれない。
二人を爆発出来る者はどこにもいないだろうが。
アザゼル&ヴァーリのご登場。
そして、碌な描写も無いまま加奈のパパンによってレイナーレ達はご退場。
劇中では名前すら出ませんでしたね。哀れ。