面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
彼女はそれを見ようともしませんけど。
朝の一組の教室。
ほんの少しだけ皆がまだ寝ぼけているような時間帯。
私は教室の自分の席にて静かにラノベを読んでいた。
タイトルは『希望の花 ~止まるんじゃねぇぞ~』だ。
どんな内容なのかは想像にお任せする。
因みに、私の席は窓際の一番後ろという最も目立たない場所に位置しているので、恐らくは殆どの人達は私の存在にすら気が付いていないだろう。
(軍曹殿。それはそんなにも面白いのですか?)
(別に? 可も無く不可も無くって感じ)
(では、どうしてそんな本を読んでいるのですか?)
(こうしてれば、万が一にでも私の姿が目に入ったとしても『邪魔をしちゃ悪いなー』ってなって誰も話しかけようとしないでしょ?)
(つまり、その本は不可視のバリアを張る為の道具であると?)
(正解)
ラノベを読んでいる振りをしながら、少しだけ前の方に視線を向けると、そこでは織斑一夏が篠ノ之箒とセシリア・オルコットの二人に話しかけられていた。
喧騒に紛れて僅かに聞こえる話し声から察するに、三人は例の『クラス対抗戦』の話をしているのだろう。
(そういや、そんなイベントもあったね。どうでもいいけど)
(クラス対抗戦…データによると、各クラスの代表同士によるリーグマッチで、本格的なISの学習が開始される前の、現時点での実力指標を計測する為に行われるイベントで、クラス単位の交流及びクラスの団結力の向上も目的にしているとか)
(よく知ってるね。それ、どこ情報?)
(普通に学園のHPに記載されていました)
やってる事の割には、意外と外に情報を漏らしてるのね。
どんだけ外面をよく見せたいんだよ。
(一位のクラスには優勝賞品として、学食のデザート半年フリーパス券が配られるとか。もしも軍曹殿が出場されたら優勝は確実ですね)
(興味ない。どうでもいい)
(軍曹殿は甘いものがお好きだったはずでは?)
(例え何を貰っても食堂には絶対に行かないし、誰かに施しを受けるのは死んでも御免だから。そんな事をされるぐらいなら、自分でデザートを作って一人で食べてた方がずっとマシ)
(そう言えば、軍曹殿はお菓子作りも得意でしたね)
(自分に必要なスキルは全てマスターしたからね)
一人で生きていくためには、色々と頑張らないといけない事も多いのですよ。
分かる人には分かると信じたい。
(おや? 誰かが入ってきたようです。あれは…このクラスの人間ではないですね。それどころか、一年の名簿にも記載されていませ…いや、今さっき追加されました。どうやら、彼女は中国からやって来た転入生のようですね)
アルが説明してるけど、そんな事は最初から知ってる。
でも、どうせだからアルの説明に耳を傾けようか。
(中国代表候補生『凰鈴音』。僅か一年足らずで代表候補生の座に上り詰めた期待の新星…らしいですよ。なにやら織斑一夏と話しているようですが、知り合いなのでしょうか?)
(そうなんじゃない? 大方、小学生の頃に転校していった幼馴染とかだったり?)
(国籍が違いますが?)
(家庭の事情で少しの間だけ日本にいたんじゃない? 多分だけど)
(まるで見た来たかのように言いますね。軍曹殿は何か知っているのですか?)
(無駄に観察眼が鋭いだけだよ)
ま、流石に言えんわな。
実は前世からの知識で知ってま~す、なんてさ。
(にしても、よくやるよね)
(何がですか?)
(あのバカ騒ぎをだよ。私には全く理解出来ないなー。誰かを好きになる感覚なんて)
(軍曹殿には今まで一度も浮いた話はありませんでしたからね)
(うっちゃい。そもそもの話、私は『恋愛』なんて無意味で無駄な事に時間を割こうとは思ってないから。あの子達はよっぽど暇なんだね)
(無意味で無駄…ですか?)
(無駄じゃん。だって、好きって感情はある種の『共依存現象』じゃない。相手の事ばかりを考えて、相手がいないと不安になる。自分の貴重な時間を赤の他人の為に使うとか信じられない)
(随分と穿った考えのような気もしますが?)
(穿ってないよ。寧ろ、これが普通でしょ。別に、子孫を残す為に優秀な遺伝子が欲しいなら、普通に調べて探せばいいだけだし。それまでの過程に無駄な工程を加えるとか無駄以外に言いようがないじゃない)
(軍曹殿は子孫を残そうとは思わないのですか?)
(私みたいな人間の遺伝子を引き継いじゃったら可哀想でしょ。流石にそこまで外道じゃないよ)
(ならば、ご結婚なんかも……)
(論外。結婚は人生の墓場にして終着点だよ。そこからは地獄しか待ってない)
このご時世、その気になればそれぐらいは楽勝だし、やってる人間は決して少なくない。女尊男卑思想のせいでね。
寧ろ、ああやって恋愛ごっこをしている連中こそが少数派だ。
昔は当たり前だったかもしれないが、今の世の中では希少な部類の人間達と言えるだろう。
その気になれば、自分の腹を痛めなくても子供は作れるのだから。
(ぶっちゃけると、私は最初からIS学園にいる全ての人間を信用も信頼もしていないから。勿論、あの子みたいにこれから転入生としてやって来る人間も例外なくね)
(どうして、そこまで……)
(ISに関わっている時点で碌な人間じゃないから。それには私自身も含まれるけどね)
(軍曹殿は、ご自身を碌な人間じゃないと思っているので?)
(私以上に碌でもない人間なんて何処にもいないでしょ。その点に関して言えば、私はあの『天災兎』にも勝てる自信があるよ)
(そこまで言いますか)
(そこまで言います)
だって、変えようのない事実だし。
(あ。先生がやって来て出席簿アタックを食らった)
(ここから見ていても痛そうですね。軍曹殿ならば避けられそうですが)
(出来なくはないね。それ以前に関わろうとも思わないけど)
(これまた辛辣。仮にも担任でしょうに)
(担任だからこそ、一番関わりたくないんだよ)
(軍曹殿……)
その後、凰鈴音は何かを言い残してから教室を去り、ヒロイン二人は授業中にブラコン女から体罰を受けていた。
自業自得だよ、お二人さん。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「まさか、豚肉のストックが切れてるとは思わなかった…不覚」
外も暗くなり、いつもならば夕食でも作っている時間帯だが、今の私は学生寮の廊下を歩いている。
というのも、私のミスで材料が足りない事に気が付かなかったのだ。
この反省を生かして、これからは今まで以上に気を付けよう。
「でも、ちゃんと購買部に豚バラがあってよかった。これで私の大好物の豚キムチが作れるよ」
『軍曹殿は昔から、辛い物や苦い物が好きですからね』
「あの刺激がいいんだよ」
『このような事が無いように、今後は私が管理を担当しましょう』
「ほんと? 助かるわー」
自分だけじゃ、どうしてもどこかで見落としがあるからね。
アルの助けがあるのは有り難い。
「早く部屋に戻ってご飯にしたいよ。炊き立てのホカホカご飯と豚キムチの組み合わせは最強だからね」
自然と歩く速度も速くなってくる。
やっぱり、食欲には誰も勝てないんだな。
『…軍曹殿。曲がり角の先に生体反応があります』
「生体反応?」
アルの忠告を聞いて、私は角を曲がる直前に足を止め、角からそっと先の光景を覗き見る。
すると、其処にはどこかで見た事のあるようなツインテールの女の子が廊下の真ん中に座り込んで肩を震わせている。
うん。あれは間違いなく『セカンド幼馴染』さんですな。
(どうしますか?)
(このまま行けば、確実に話しかけられる。迂回したいけど、こっちの方が一番近いし、お腹も空いたし……)
空腹時の一分一秒は本当にイライラする。
一刻も早く食事をしたいという欲求に駆られてしまう。
(…仕方がない。面倒くさいけど、アレを使うしかないか)
(アレ?)
(まずは、この豚肉を拡張領域に収納。その後に『ECS』を起動)
(よろしいので?)
(構まへん、構まへん。どうせ、一度でも発動すれば、後は完全にこっちのものなんだし)
(それもそうですね。では、収納の後にECSを起動します)
(よろしく)
手に持っていた豚肉の入っているビニールが粒子化されてから拡張領域へと入り、その直後に私の姿がこの世から完全に消失する。
これで私は一時的な透明人間になったわけだ。
(…では、行きますか)
文字通り、足音を完全に消した歩き方で堂々と進んでから凰鈴音の真横を通り過ぎて行った。
(悪いね。でも、導火線に火のついた爆弾に自ら手を触れようなんて馬鹿げたことはしたくないんでね。精々、君の初恋の人に慰めて貰いな)
見えないと分かっているけど、私は後ろ手に手を振った。
結局、最高の迷彩&足音無音化&完全気配消失により私の存在に全く気が付くことなく、そのまま廊下のど真ん中で座り続けていた。
さて…と。とっとと部屋に戻ってから夕食タイムだー。
部屋を出る前に炊飯器のスイッチは入れておいたから、いい感じに炊けてるんじゃないかな?
次回、クラス対抗戦。
勿論、皆が期待しているようなシーンは無し。