面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
もしかしたら、当初の予定よりも遥かにむごたらしい末路を辿るかも…?
それはそれでヨシ! としますが。
その日は、何でもないごく普通の日常だった。
駒王学園は生徒達の喧騒で賑わい、新しくやって来た校長の元には色んな生徒達がひっきりなしにやって来る。
何気ない話をする者もいれば、進路についての相談。
趣味や勉強に関する話などもして、その一つ一つに対して親身になって答える相良尺八郎ことベリアルの人気は瞬く間に上がっていく。
これまでの人生経験…ではなく魔生経験に加え、元々が言葉を最大の武器としている彼にとって、年頃の高校生たちの悩み相談なんて実に簡単で可愛いものだった。
「話を聞いてくれてありがとうございました! 校長先生!」
「いえいえ。またいつでも遊びに来てくれていいですからね」
「はい! 失礼しました!」
相談ごとに来た女子生徒が元気にお礼を言いながら部屋を去って行く。
温かい目でそれを見送りながら、ベリアルはうんうんと頷いていた。
「矢張り、若いとはいいものですね。ああして話を聞いているだけで、こちらまで若返りそうです」
ベリアルも魔王として、嘗てはよく若手悪魔たちの相談ごとに乗っていた。
ふとそれを思い出し、少しだけ思い出に浸る。
「あの頃の冥界は本当に良かった。今ほどに平穏ではないが、それでも活気で溢れ、野心に燃える若者たちが日々、切磋琢磨し合っていた。だが……」
手元にあるティーカップを手に取り、そこに写る自分の顔を眺める。
「…時の流れとは本当に残酷なものだ。時代を経て得たものも多いが、同時に失ったものも多い…。時代と共に変わっていくのは、人間も悪魔も同じ…か」
カップに残っていた紅茶を一気に飲み干すと、立ち上がって自分の机へと向かう。
その時だった。ベリアルは確かに何かを感知した。
「……どうやら、愚かなネズミが網に掛かったようですね。私はあくまで『舞台』を整えただけ。後は生徒達の手で決着が付くだろう。最終決定権を持っているのは私だが、それを下すまでも無いだろう。彼らは思い知らなければいけない。自分達がどれだけの事をしてきたのか。どれだけ学園側に守られてきたのか。そして…今まで溜りに溜まった生徒達の怒りの炎がどれ程なのかを」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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昼休み。
食堂にて昼食を食べ終えた兵藤一誠と、その友人である元浜と松田の三人組は、教室へとは向かわずそのままある場所へと向かっていた。
彼らの顔にはいやらしい笑みが浮かんでいて、それだけで目的な何なのか簡単に察する事が出来る。
「今日の五時間目は……分かってるな?」
「おう! 三組が体育の日…だよな!」
「んでもって、明日は四時間目が三年一組が体育となっている。俺達の調査は完璧だ。カーンズとは違う」
「いや…別に俺達、今からオペレーションメテオを決行する訳じゃないんだけど…」
ちょっとしたボケも交えつつ、彼らは今日もまた日課となっている『ある事』をしに校舎一階にある女子更衣室と隣接している中庭の一角まで歩いていく。
その目的はただ一つ。少女達の着替えを覗く事だ。
自分達と同い年ぐらいの少女達の痴態を眺め鼻の下を伸ばす。
当初は覗くだけで何もしてこなかったので、精々が後を追い掛ける程度で済ませていたが、それに味を占めた彼らは増長し、更にエスカレートしていった。
まず、堂々と学校にエロ本を持って来て教室で読む。
更には、どう考えても卑猥としか思えない会話を女子達の目の前で大声でし始める。
それに対して文句を言えば、反撃として名指しで卑猥な言葉を浴びせる。
塵も積もれば何とやら。
そもそも、塵の一粒一粒が非常に大きかったので、それが積もりに積もった時の大きさは言うまでも無いだろう。
彼らはやり過ぎた。調子に乗り過ぎた。
もう少し冷静に考えるべきだったのだ。どうして、こんな事を繰り返しているのに自分達にはお咎めが無いのか。
誰かに、何者かに何らかの理由で守られていると考えるのが普通だ。
だがしかし、彼らは覗きの夢中になり過ぎる余り、その事を全く考えなかった。
否、考えようともしなかった。
彼らは知らない。もう自分達を守る物は何も無いと。
この学園には敵しかいないのだと。
己のしてきたツケを支払う時が遂にやって来たのだ。
「誰かいるか?」
「いや…まだだ」
下の方にある小窓を開き、そこから中を覗く三人。
もうコソコソとする気すらないのか、それともいざとなれば、また逃げればいいだけだと考えているのか。
どちらにせよ、彼らは自分達の存在を隠す気が全く無い。
だからこそ気が付かない。だからこそ分からない。
この場に多数の高性能防犯カメラが設置してあり、自分達の姿を映しだし、それがリアルタイムでネット上に晒されている事を。
「おっ! 誰かが入ってきたぞ!」
「だ…誰だ?」
「ここからじゃ、よく分らない…。けど、中々のスタイルと見た」
声を潜めつつ、彼らは覗き行為に集中していく。
そんな最中にも、カメラは静かに回り続ける。
勿論だが、彼らの会話内容も一言一句漏らさず収録され、映像と一緒に記録され続けていた。
「ス…スカートに手を掛けた…!」
「下からいくのか…!」
「おぉぉぉぉ…!」
中にいる女子のスカートのファスナーが開かれ、そのまま脱ぐ…かと思われた時、突如として彼らの肩を叩く存在が現れた。
「ちょ…邪魔すんなよ。今いい所なんだからよ」
「見逃したらどうするんだっつーの。ったく……」
「お…おい…イッセー…松田……後ろ……」
「「後ろ?」」
元浜に言われて二人が後ろを振り向くと、そこには腕を組んだ状態で仁王立ちをしている三人の警察官が立っていた。
「お前達、そんな所で何をやっているんだ?」
「な…何ってそれは…その……」
女子更衣室で着替えを覗いてました、なんて言える筈も無く、三人は揃って激しく冷や汗を掻きつつ視線を泳がせる。
動揺しまくり、どうして校舎内に警察官がいるのか…なんて疑問は一発で吹き飛んだ。
「いや…言わなくてもいい。お前達がここで何をしていたのか、それはもう分かっているからな。そうだろう?」
「「「「「はい!!」」」」」
「「「いっ!?」」」
警官が中庭にある茂みに向かって話しかけると、そこから鬼の形相をした大勢の女子達が出現してきた。
「その三人が私達の話した覗きの常習犯です!!」
「一年以上も覗きをしてたんですよ!」
「早く捕まえてください!」
この場にいる全ての女子達が警察官たちに向かって訴える。
完全にアウェーな状況に、思わずいつもの調子で一誠が反撃に出た。
「お…俺達が覗きをしたって証拠がどこにあるんだよ! 出鱈目を言うんじゃねぇ!!」
「そ…そうだそうだ! 俺達は落し物をして、この辺で探していてだな…」
「証拠ならあるわよ」
「「「え?」」」
その声は、中で着替えをしていた女子だった。
外側に面している窓から顔を覗かせてから斜め上を指差す。
三人は揃ってその方向を見ると、そこには一台の防犯カメラが。
「「「あっ!?」」」
「それだけじゃないから」
今度は斜め下。
傍にある茂みの中に紛れて二台目の防犯カメラがある。
「因みに、まだ他にもあと二つあるらしいから」
「そ…それじゃあ…まさか……」
「アンタらのやった事は全部見られてたってわけ」
「「「う…嘘…だろ…」」」
愕然となって思わずその場に座り込む三人。
だが、これだけでは終わらない。
「ついでに言っておくけど、この光景は現在進行形でネットにアップされてるから。勿論、モザイクとかは無しでね」
「んなっ!? ふざけんな!」
「ふざけてるのはそっちでしょうが!!」
「それだけじゃありません!!」
またもや一人の女子が茂みから姿を現す。
その手には一台のデジカメが握られていた。
「念には念を入れて証拠写真も撮影しておきました!」
「ついでにボイスレコーダーもね!」
「これでもまだ言い訳をする気?」
「「「う…うぅぅ…」」」
万事休すか。
観念したと判断し、警察官たちは一誠達へと近寄ってくる。
「お前達については彼女達に色々と聞かされた。どうして今の今まで表沙汰になってなかったのかはまだ分からないが、ここで見逃すわけにはいかない」
「初犯だったのならば未成年という事もあって厳重注意程度で済ませるところだが……」
「一年以上ともなれば話は別だ。それはもう立派な犯罪…しかも重罪だ。歳などに関係なく現行犯逮捕だな」
手錠を持ち、逮捕五秒前になる三人。
このままでは自分達の人生は完全に破滅だ。
そう考えてしまった途端、一誠は自棄になる。
「い…いやだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うおっ!?」
「ま…待てっ!!」
「逃げるな!!」
忘れられているかもしれないが、今の一誠は転生悪魔。
並の人間よりは身体能力が高く、幾ら相手が警察官とはいえ、全力で走れば簡単には追いつけない。
「大丈夫です!」
「こんな事もあろうかと思って!」
「色んな人達に助っ人を頼んでますから!」
「助っ人?」
全く慌てる様子の無い少女達に首を傾げる警察官たちを余所に、一誠は校門に向かって走っていく。
そんな彼に便乗し、松田と元浜も隙を突いて逃げ出した。
「へへ…ここまで来ればもう……」
「大丈夫なわけねぇだろうが!!」
「「「いっ!?」」」
彼らが向かった校門前で待ち構えていたのは、格闘技系の運動部員&ラグビー部員の面々。
実は女子達に頼まれて、万が一にも三人がもう門に向かって逃げ出した時に備えて待機をしていたのだ。
因みに、他の場所にも別の運動部部員達が門番の如く待っているので、どちらにしろ逃げ場は無いに等しかった。
「このクソったれな変態共が!! 逃げられると思うんじゃねぇぞ!!」
「「「ぐぎゃぁぁぁぁっ!?」」」
車も人間も転生悪魔も、走れば急には止まれないのだ。
全国大会にも出場経験のあるラグビー部の渾身のタックルが炸裂し、一誠達は派手に吹き飛ばされた。
だが、それだけでは終わらない。
「もう逃がさねぇぞ!!」
「大人しく観念しやがれ!!」
「「「いだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!?」」」
地面に倒れ込んだ三人に対し、柔道部の部員達が寝技を掛ける。
唯でさえ、男に引っ付かれるのは彼らにとって苦痛でしかないのに、それ以上にガチガチに体を固められて痛みで全く身動きが取れない。
「おーい!」
「みんな~!」
そこへやって来た警察官たちと女子達。
完全に追いつかれ、今度こそ詰んでしまった。
「君達、よくやってくれた!」
「これぐらい当然っすよ!」
「ダーリンさっすが~♡」
ラグビー部部員の一人に抱き着く女子。
その一言で一誠達は全てを察した。
「ま…まさか……」
「そうだよ。ここにいるの全員が付き合ってる者同士なんだよ。分かるか? 自分達の彼女が着替えを覗かれて泣いている姿を見た時の無力感と怒りが!」
「どれだけ俺達が訴えても、少し前まで学園側は何もしなかった! けど、もうそんな事は無い!」
「新しい校長先生が駒王学園を改革してくれた。もうこれ以上、お前達の好きにはさせねぇってことなんだよ!! この蛆虫共が!!」
「そ…そんな……」
ここで初めて彼らは知る。
自分達をずっと守ってくれていたのが学園だったという事を。
校長が変わって、その守りが完全に無くなってしまった事を。
どうして自分達が守られていたのかという答えには辿り着けなかったようだが。
「皆さん。よくやってくれました。ありがとうございます」
いきなりの声に全員が視線を向けると、そこには生徒会メンバーを引き連れてきたソーナの姿が。
真剣な顔で腕組みをしている様子からして、彼女も相当に怒っているようだ。
「せ…生徒会長!! 助けてくれ!!」
「会長なら生徒を助けるのが仕事だろッ!?」
「生徒を助ける…確かにその通りです。だからこそ、私はあなた達以外の大勢の生徒達を助ける為に、こうして密かに動いていたのですから」
「「「ひっ!?」」」
氷のように冷たい瞳で見下ろされ、思わず悲鳴を上げる三人。
角度的に一誠からソーナのスカートの中身が少しだけ見えて、その顔がだらしなくなる。
「…どうやら、反省の色は全く無いみたいですね。情状酌量の余地は微塵も無いと判断します」
隣にいる副会長である真羅椿姫から、とある書類の束を手渡されて、それを一誠達に見せつける。
「これは全校生徒に書いて貰った署名です。この通り、99.9%の生徒が三人の処分を望んでいます。つまりどういう事か…分かりますね?」
「「「…………」」」
ソーナの目は微塵も笑っておらず、どこまでも冷徹に光っていた。
だが、これはまだ序章。
彼らへの罰はここから始まる。
そして一誠は知る。
どれだけ仲が良くても人間は所詮、人間なのだということを。
まさかの主人公が未登場。
彼らの断罪すると、必然的に加奈の出番が減る事に…。
ここからが本番です。