面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
そして同時に、変態三人組の運命が決定的になる話でもあります。
自分の知らない間にベリアルが駒王学園の校長になっていた。
全く与り知らない事実に、サーゼクスは口を開けたまま固まってしまう。
「その様子だと、本当に知らなかったみたいね。報告とか受けてないのかしら?」
「ど…どうして、そんなことに……」
「前の校長がベリアルの個人的な知り合いだったみたいでね。学校に関して色々と相談を受けていたみたいよ? 主に、学校運営に全く協力してくれないくせに、何か問題があればすぐに力づくで揉み消そうとする無能な理事長について…みたいだけど」
「うぐ……」
名前を出してはいないが、それが誰の事を指しているのかはすぐに分かった。
ルシファーのストレートな言葉に、思わずサーゼクスは胸を押さえる。
「ねぇ…どうして理事長なんてしようと思ったわけ? あんた、教育に関する知識なんて全く無いでしょ? つーか、それ以前に教員免許すら持ってない癖に」
「そ…それは……」
「当ててみせましょうか? まず一つ。他の三人も魔王業以外にも色々とやっていたから、自分も何かしなくてはいけないという意味不明な強迫観念に駆られたから」
「…………」
彼女の指摘にサーゼクスは何も言わずに無言を貫く。
その沈黙こそが肯定していると分かっていながら。
「もう一つは、愛する妹が駒王学園に入学をしたから。少しでも目を離したくないと思ったから…って所かしら?」
「はい……」
「けど、実際にはアンタは理事長として何もしていない。それどころか学校の敷地内にすら碌に足を運んでないでしょ」
「魔王としての仕事が忙しく、それで……」
「言い訳としては下の下ね。本当に王に相応しい者なら、ちゃんと魔王としての仕事と理事長職を兼任出来る筈よ。それが出来ていない時点で、自分の無能っぷりを大衆に晒しているようなものね。少なくとも、レヴィの後継者の…セラフォルーだったっけ? あの子の方がまだマシよ。だって、ちゃんと副業の方も兼任出来てるから」
セラフォルー・レヴィアタン。
四大魔王の一角であり、紅一点。そして、ソーナの実の姉でもある。
『魔王少女』を自称していて、よく魔法少女のような恰好をしているのだが、それとは別に外交官としての顔も持っている。
性格はハイテンションでキャピキャピしている感じ。
「それに比べてさ…アンタは何? 自分でやると決めた事すら碌に出来ないってのは最悪よ? それぐらいは分かってるんでしょ?」
「は…はい……」
もう変な言い訳も出来ず、サーゼクスは『はい』しか言えなかった。
それだけルシファーの言っている事は的確で、同時に彼女の迫力が凄まじいと言う証拠でもあった。
「だからこそ知らないんでしょうね。去年から、あの学園に大きな問題が発生していた事を」
「も…問題?」
「そうよ。とんでもない変態三人組が入学して来て、毎日のように女子更衣室を覗いているらしいわ。そしてそれは、進級した今でも続いている」
「そ…それは犯罪なのでは……」
「そう…立派な犯罪よ。でも、アンタはそんな連中がいた事も、そんな事が頻繁に起きていた事も知らなかったでしょう?」
「はい……たった今…知りました……」
学園で何かトラブルが起きていること自体はなんとなく知っていた。
だが、どうせ人間のする事だから大した問題ではないだろうと思い、碌に調べもせずに全ての処理を前任の校長に任せていた。
それが自分の首を絞め、最悪の事態を招く事になるとも知らずに。
「そして今…ついさっきの事だけど、そいつらは現行犯で捕まっているわ。傍には警察も駆けつけている徹底っぷり」
「警察まで…!?」
「前の校長がストレスによる体調不良で入院をして、その後任としてベリアルを指名した。あいつはちゃんと教員免許を持っているし、アンタとは違って本物のカリスマも持っているから適任よね。それはアンタが一番よく分かっているでしょ? ベリアルの教え子の一人だったアンタなら」
「えぇ……」
まだサーゼクスが幼かった頃、冥界の学校にてベリアルが教師を務めて彼に様々な事を教わった。
悪魔としてのイロハや、戦士としての心得。戦い方などの全てを。
故に知っているのだ。彼の凄さを。強さを。
あらゆる分野で絶対に勝てないと。心の底から思い知っていた。
「…で、これがその映像」
ルシファーが指を広げて魔力による投影型映像を出すと、そこには数多くの生徒や警察官によって包囲され拘束されている三人の男子生徒達がいた。
「因みにこれ、私の使い魔が映している映像ね。もう見ただけで分かるとは思うけど、既に王手な状況になってる」
「は…はい……」
「そうだ。これも言っておかないと。この捕まってる三人組の真ん中のツンツン頭の子ね、アンタの妹の眷属なんだって」
「リ…リアスのッ!?」
妹から『変わった眷属を手に入れた』と報告は受けていたが、まさかそれが例の覗き魔だったとは知らなかった。
自分の妹の眷属が警察に捕まる…それは由々しき事態だった。
「リアスはこのことは……」
「知らないと思うわよ? それどころか、こいつらが覗きをしている事すら知らない可能性があるわね」
「そ…そんな……」
己の眷属が逮捕されようとしているのに、それに気付きすらしないなんて。
しかも、その素性を調べようとすらしていない。
余りの事に愕然となり、サーゼクスは下を向いた。
「これも全部、アンタ達が甘やかし過ぎた結果よ。未熟以下の小娘だってのに、無許可で勝手に町一つを管理させようとしたのも『自分の妹なら大丈夫だろう』という意味不明な根拠があったからじゃないの?」
「僕は…リアスを甘やかしたりなどは……」
「自覚が無いってのが一番厄介よね。そのせいで堕天使達の侵入なんて許して、それを知覚すら出来てないんだから。兄が無能なら妹も無能って事かしら。よく似た兄妹ですこと」
いつもならば、妹の事を馬鹿にされて怒るサーゼクスだが、今回ばかりはそうもいかない。
相手は圧倒的強者のルシファーなのだ。
怒りに身を任せて飛び掛かったりなんてすれば、その瞬間に自分は殺されてしまう。
しかも、彼女の言っている事は何一つ間違っていないとサーゼクスも理解しているから、反論をしたくても出来ないのだ。
「って、アンタの妹の事は今はどうでもいいのよ。問題はこっち」
両手の指で映像を広げるようにして拡大をし、それをサーゼクスの目の前まで持っていく。
そうすることで、彼はその映像から目を背けられなくなる。
「さて…ここからアンタに尋ねるんだけど…こいつら、どうする?」
「どうする…とは…?」
「こいつらはまず間違いなく裁判に掛けられる。証拠も揃っているし現行犯逮捕だから言い逃れは出来ないでしょうね。となると、必然的に被害者の女の子たちに対して慰謝料を払わないといけなくなる」
「慰謝料……」
それを聞き、サーゼクスは猛烈に嫌な予感がした。
まるで背骨に氷柱でも入れられたのような感覚。
こんな気持ちになったのは、嘗ての戦争にて二天龍と相対した時だけだった。
「駒王学園って少し前までは女子高で、今は共学になってるんですってね。でも、それをし始めたのはつい最近の事で、まだまだ男子の数は少ない。確か、全校生徒の約二割ぐらいだったかしら? で、駒王学園は今時の高校にしては珍しく在校生の人数が多くて、約500人ぐらいってベリアルが言ってたわ。って事は、単純計算でも400人ぐらいの女子がいるって事よね」
嫌な予感が加速する。聞きたくない。でも、聞かなくてはいけない。
「あいつ等はほぼ全ての女子の着替えの覗きをしたって事になる。その女の子たち全員の家族に慰謝料を払ったりしたら…どれぐらいの金額になると思う?」
「確実に…日本円にして億は超える…と思います…」
「正解。んじゃ、もう私が何を言いたいのか…分かったわよね?」
「…………」
やっぱり、この方は魔王だ。自分ですら容易に屈してしまうほどの大魔王だ。
そうでなくては、こんな選択を迫ったりはしない。
王としても、悪魔としても、彼女には到底及ばないと確信した。
「理事長最後の仕事としてこいつらの億越えの慰謝料を肩代わりして払ってやるか。それとも、無慈悲な悪魔として見捨てるか。私は別にどっちでもいいわよ? これに関しては強制はしないわ。好きにしたらいい。グレモリー家の資産があれば、数億ぐらいは簡単に支払えるでしょ? まぁ…あなたたちグレモリーの経済状況にはかなりのダメージになるとは思うけど」
その通りだ。その気になれば払えない事は無い。
だがそれは同時に、グレモリー家の大きな弱体化を意味していた。
顔も名前も知らない生徒を取るか。自分の家族を取るか。
生徒達の一人は妹の眷属とは言え、一度も会話すらしたことのない相手をどうにかしてやろうという気持ちは中々に湧き難い。
「当然だけど、答えを決めた瞬間にあんたには駒王学園の理事長を辞任して貰うから。後任は好きに決めたらいいわ」
「僕は…僕…は……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
舞台は戻り、再び駒王学園の校門前。
抑え込まれて地に伏している一誠達の前に、スマホを持って座っている丑嶋がいた。
「さぁて…どうなるかねぇ…」
親指と中指だけでスマホを支えてブラブラとさせていると、いきなり着信が来た。
誰から来たのかを確認すると、丑嶋は眼鏡の奥で目を見開き、その口を怪しい笑みに変える。
「あぁ~…もしもし? そっちはどうでした? 姐さん」
『姐さん』と呼ぶ相手と受話器越しに話を始める丑嶋。
その一言一言が絞首刑台へと続く階段の足音のように聞こえた。
「くく…ははは…! そっかそっか…成る程ね。別にいいんじゃないか? どっちにしても俺に損は無い」
その笑いがどこまでも怖く、もう丑嶋の姿が死刑執行人にしか見えない。
これが『裏社会』に属する人間の怖さか。
「あぁ…分かったよ。それじゃ、今後とも御贔屓に」
通話を切り、スマホをポケットに戻してから一誠の髪を掴み、グッと顔を近づけて『結果』を報告した。
「お前らの理事長サンさ……テメェらを見捨てるってさ」
「「「え?」」」
「自分の家族を犠牲にしてまで億越えの慰謝料なんて払ってられないってよ。残念だったな。これで三人揃って借金確定だ」
頭の中が真っ白になる。理事長が自分達を見捨てた? なんで?
どうしてこんな事になった?
「因みに、ウチは基本的に『トゴ』だから。そこんとこよろしく」
「ト…トゴ…?」
「『十日で五割』って意味だよ。つまり、十日過ぎれば一気に数千万の利子が増えるって事だ」
「と…十日で……」
「五割…っ!?」
なんだその超理不尽な使用は。幾らなんでも酷過ぎる。
余りの衝撃に、三人揃って絶句するしかなかった。
「そうそう。ソーナちゃんに報告することがあるんだけど」
「なんですか?」
「理事長サン、辞任するってよ。で、その後任には相良さんを指名するらしいぞ。あの人なら、理事長と校長を兼任できるだろうからって」
「妥当ですね。私としても、幽霊理事長には一刻も早くいなくなってほしいと思っていたところです」
「そいつはよかったな。これで駒王学園も少しは平和になるってもんか」
微塵も遠慮も情け容赦もいらない債務者が三人も増えて、どこか丑嶋はご機嫌だった。
といっても、表情には決して出さないが。
「お巡りさん。こいつらはこのまま連行すんだろ?」
「はい。パトカーもそこに停めてあるんで」
「なら、俺はこいつらの家に行って、家族に話でもしてくるか。お宅らの息子さんがとんでもない事になってますよってな」
ポケットに手を入れながら、後ろ手に手を振って校門から丑嶋は出て行った。
それだけで場の空気がかなり軽くなったが、一誠達には全く関係が無い。
もう既に判決は下っているも同然なのだから。
「ほら立て! 手を前に出せ!」
警官の一人が手錠を掛けようとして松田の手を握ると、遂に精神の限界が来たのか、号泣しながら叫びだした。
「ち…違う!! 違うんだ!! 俺は悪くねぇっ!! 俺は悪くねぇっ!!」
「そ…そうだそうだ! 俺達はただ、男として当然の権利をだな……」
松田の反撃に乗じて一誠も一緒に叫ぶが、次の瞬間に彼の顔は凍りつくことになる。
「全部、一誠の奴が悪いんだ!!」
「………は?」
一瞬、本気で意味が分からなかった。
今…なんて言った? 俺が悪い?
「俺達は一誠の奴に騙されて来てしまっただけなんだ!! 俺達も被害者だ!!」
「その通りだ!! そもそも、最初に俺達を誘ったのだってコイツだ!! 諸悪の根源は一誠なんだ!!」
「ちょ…待てよ! なんでそうなるんだよ!! お前らだってノリノリで覗いてたじゃねぇかっ!!」
「うるせぇっ!! テメェが悪いったら悪いんだよっ!!」
「こんな事になるんなら、お前なんかと…友達になるんじゃなかったっ!! このクソッタレがッ!! 死ねっ!!!」
「松田…元浜…テメェら…っ!! ぶっ殺してやるっ!!!」
「やれるもんならやってみろっ!!」
「逆に俺達がテメェをぶっ殺してやるよっ!!」
一度でも燃え上がった感情は消えることなく、遂には喧嘩にまで発展してしまった。
暴れ回る三人を取り押さえようと、警官と運動部の生徒達が体を押さえるが、それでも彼らは止まろうとしない。
「くっ…! いい加減にしろっ!! どう言い訳をしようが、お前らが覗きをしたことには変わりはないんだっ!!」
「おい! 応援を要請しろ!」
「分かりましたっ!」
そうして、一誠達三人はその後に駆け付けた大勢の警官たちによって無理矢理に取り押さえられ、手錠を掛けられてから三人バラバラにパトカーに乗せられてから警察署に連行されて行った。
その様子を見て、改めてその場に集った生徒達は心からの安堵の表情を見せていた。
次回もまた冥界から始まるかもです。
まだまだサーゼクスを追い詰めていきますよ~。