面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
その頃、冥界では……?
舞台は再び冥界のグレモリー家屋敷へと戻る。
ルシファーの使い魔が見せている映像にて、三人組が逮捕されている様子が克明に分かった。
「思ったよりも随分とあっさりと見限ったのね。意外だわ。無駄にお人好しのアンタことだから、てっきり私財を全て投げ打ってでも助けるとばかり思ってた」
「…僕はそこまでお人好しじゃないですよ」
この瞬間、サーゼクスは自らの意志で理事長ではなく、一人の悪魔としての意志を尊重したことになる。
それは同時に、理事長と魔王の立場を捨てると決めた事にもなる。
「ま…別にいいけどね。どっちにしても結末は変わらないと思うし。後は……」
ここでルシファーが最近になって密かに購入しておいたスマホが服のポケットの中から鳴って着信を知らせる。
誰からかと思って確認すると笑みを浮かべ、意気揚々に電話に出る事に。
「もしもし? うん…うん。成る程ね。分かったわ。こっちとは違って話が早くて助かるわ。え? 向こうも終わってるの? 意外ね…もうちょっとぐらいは粘ると思ってたんだけど。うん…もう大丈夫よ。問題無いわ。それじゃ、頼むわよ」
ピッ…と通話を切ってから、誰からの電話か知りたがってそうな顔をしているサーゼクスの疑問に答える事に。
「今のは……」
「他の魔王達の所に行った子達からの報告。と言う訳で…はい」
地上の駒王学園の映像を映している物の隣に、新しく二つの投影型の映像が映し出される。
そこにいたのは、サーゼクスの同志であり四大魔王の一角でもあるセラフォルーとアジュカの二人だった。
「ま…まさか…ここにルシファー様が来たように、あの二人の所にも……」
「そ。レヴィ…レヴィアタンとベルゼバブが行って話をしているわ」
「やっぱり……」
少し考えれば予想が出来た事。
現在、魔王は四人存在しているのだ。
自分の所にだけ来るのは明らかにおかしい。
他の三人の所にもそれぞれに誰かが向かうの当たり前だ。
『あっ! お姉さま~! やっほ~!』
「レヴィ、そっちの方はどうなってる?」
『思ったよりも聞き分けが良い子だったから、かなりスムーズに話は進んだよ。ほら』
横から割り込むような形で、紫がかった髪を持つ少女が画面に映る。
彼女こそが『大罪の魔王』の一角、嫉妬を司る魔王『レヴィアタン』である。
ルシファーを深く愛し、心の底からゾッコンのレズビアンなのだが、それとは別に魔王としての実力もちゃんと備えていたりする。
『あ~…サーゼクスちゃん? ごめんね~…私…今日限りで魔王少女を引退します!』
「セラフォルー…」
自分のように迷ったような素振りも無く、呆気なく魔王引退を宣言した。
まさか、ここまで簡単に言ってのけるとは思いもせず、サーゼクスは一瞬だけ呆気にとられてしまった。
『レヴィアタン様と色々と話したんだけどね…やっぱり私って魔王って感じじゃないな~って思って。そもそも、私って可愛さはあっても威厳とかは微塵も無いしね! 王様よりは魔法少女の方がいいかな~って思って。あ、魔王辞めても、ちゃんと外交の仕事は続けていくから安心してね。そこら辺はレヴィアタン様に任せて貰えることになってるの。寧ろ、魔王を辞めた事でコッチの仕事に集中できるから、今までよりはマシになるかもしれない。ソーナちゃんも色々と頑張ってるみたいだし、これからはセラフォルー・シトリーとしてお姉ちゃんらしく頑張らないとね! それじゃ、そゆことで~♪』
『また後でね~! お姉さま~!』
ここで一つ目の通信が切れる。
彼女には彼女なりの考えがあり、その後の事も自分以上にしっかりとしていた。
もう一つの映像…アジュカの方を見ると、彼は申し訳なさそうにしながら後頭部を掻いていた。
その隣にいる黒髪でツインテールのメイド服を着た少女が、暴食を司る大罪の魔王『ベルゼバブ』だ。
悪魔たちの中で最も謎に包まれた存在で、詳しい事はルシファー達でさえよく把握していない。
一つだけ判明している事があるとすれば、それは超人的なまでの大食漢と言う事だけである。
『ルシファー。こっちの話も終わったよー』
「どうだった?」
『ちゃんと話せば分かってくれた。頭がいいと話も早いから楽でいい』
「それは何より」
『お腹空いた。早く帰ってご飯にしたい』
「はいはい。ちゃんと『あの子』に連絡して、夕飯を作っておくように言っておくから。もう少しだけ我慢して」
『分かった。もう少しだけ我慢する。加奈のご飯…楽しみ。じゅるり』
見た目とは裏腹に非常に大人しく、ちゃんと話は聞いてくれる。
ある意味、曲者揃いの七人の中で最も話が通じる相手かも知れない。
『…済まなかった、サーゼクス』
「アジュカ……」
『今まで俺は、君との友情と悪魔の未来を考えた上で『悪魔の駒』を開発、製造してきたが…それは間違いだったようだ。ベルゼバブ様に諭されて気が付いたよ。自分のしている事は、腐った連中を無駄に増長させた挙句、自分達の首を絞めているだけに過ぎなかったんだとね』
淡々と話すアジュカは、サーゼクスがよく知っている普段の彼と全く同じだった。
つまり、彼もまた魔王を辞めるという事に付いて特に思う事は無いと言う事になる。
『元々、俺が魔王になったのも君が魔王になったからという部分が大きいからな。魔王らしい仕事なんて碌にしていないし興味も無い。というか、正直言って面倒くさい。だけど、今までは状況じゃ状況だけに辞めるに辞められなかった。そこに、大罪の魔王の方々の生存&帰還が判明した。ならばもう俺が魔王を続ける意味は無い。申し訳ないが、俺はここらでリタイアさせて貰うよ』
友人だと思っていたアジュカの本当の気持ちを初めて聞かされた。
もしかしたら、自分は知らず知らずのうちに多くの者達に無理を強いていたのかもしれない。
今更になって、そんな事に気が付き始めた。
『これからは地上に拠点を移してから、『悪魔の駒』を除去する道具の開発をしようと思っている。まずは、自分のしてしまった過ちのツケを払わないといけないからな。それでは…さよならだ』
『ばいばーい。アジュカ、夕飯の前におやつ食べたい』
『え…? さっきあれだけ食ったのに、まだ食べるんですか…? 流石は暴食を司る魔王…物凄い食欲だ…』
なんか、最後は妙にイチャついていたように見えるが、気のせいだという事にしておこう。
ともかく、これで四大魔王の内、確定で二人が辞めることが決定した。
「まさか…ファルビウムも……」
「そのまさか。さっきの電話がそうよ。アスモデウスが直接向かって話をして、彼もまた魔王を辞める事を了承したそうよ」
「…………」
もう何も言えない。
同志と思っていた者達が全員揃って自分の前から去って行った。
ここで魔王を辞めたくないと主張しても、それは無意味な事だろう。
自分の治世では同族を、冥界を護れなかった。
守った気になっているだけだった。
「今までの頑張りは認めるけど、何事にも向き不向きはあるのよ。あんたの場合、王という立場が致命的に向いていなかっただけ。もしも他の立場だったなら、アンタがもっと身内に毅然とした態度でいられたなら、違う未来もあったでしょうね」
流石に不憫と思ったのか、珍しく情け深い言葉を投げかけるルシファー。
母となった事で彼女の心情も変化しているのかもしれない。
「最後に一つだけ忠告をしておくわ。今すぐにでもアンタの妹…リアスだったっけ? そいつを冥界に戻しなさい」
「リ…リアスまでっ!? どうしてですかっ!?」
自分だけではなく妹まで巻き込まれる。
この原初の反逆者は、そこまで無慈悲だったのか。
だが、それはサーゼクスの早とちりだった。
「確かに、碌な手続きも知識も得ずに適当な管理しか出来ていない小娘なんて、悪魔の印象を下げるだけしかしないから、とっとと消えて欲しいと思うけど、それとこれとは別。これは私なりの慈悲なのよ?」
「慈悲…ですって?」
どうして慈悲で妹を地上から追放するような事になるのか。
ルシファーの真意が全く読めないでいた。
「今言った通り、私達悪魔が日本に拠点を作る場合、日本神話の神々や土地神などに贈り物などをしたり、然るべき手続きなどをしてパスを作らないといけない。それはアンタだって分かってるわよね?」
「は…はい。悪魔たちの中では常識ですから……」
「そのリアスって小娘は、その常識を全く守らずに我が物顔で駒王町に居座っているのよ」
「な…なんですってっ!?」
てっきり、その程度の事は自分で勉強するなり調べるなりして、ちゃんとしているものとばかり思っていた。
まさか、それらを全て怠っていたとは。
「その事で日本の神々や妖怪たちの逆鱗に触れてしまったみたいね。特に、八百万の神々はかなりご立腹よ。急がないと、本気で殺されてしまうかもしれない」
「ま…待ってください! 確か、駒王学園にはセラフォルーの妹も通っていた筈です。彼女は……」
「あのソーナって子? あの子は立派よ。ちゃんと手続きも贈り物も完璧に行って、足を運んで直接挨拶にまで行ってるんだから。流石は外交官の妹ね。全てが完璧よ。文句のつけようがないわ。その成果なのか、シトリー家は悪魔の中でも例外として好意的に見られているみたい」
あの傲慢の魔王であるルシファーがここまで誰かを褒めるのは非常に珍しい。
それだけソーナの対応が素晴らしく、何もしていないリアスは危ないという事になる。
「一応、私やベリアルが話を付けて辛うじて悪魔全体を敵視する事はだけは避けられてるけど、あの小娘だけは無理でしょうね。恐らく、悪魔全体ってよりは『グレモリー』のみを敵として認識している可能性だってある」
「なんてことだ…!」
ここまで行けばサーゼクスも全てが理解出来た。
最悪の場合、リアスが原因となって悪魔たちと日本神話との全面戦争に発展しかねないという事が。
他の悪魔たちはいざ知らず、仮にも魔王だったサーゼクスは日本神話の恐ろしさを良く知っていた。
例え何があっても絶対に敵に回す事だけはしてはいけない相手であることを。
「急いで妹と眷属たちを冥界に連れ戻して、その後でアンタがグレモリーを代表して日本神話に対して詫びを入れに行くしかないわね。私達がしても意味が無い。兄として、グレモリーの当主としてサーゼクス…アンタがしなくてはいけないことよ」
「くっ……!」
ここまで事態が発展して初めて自覚する。
自分達はリアスの事を余りにも甘やかし過ぎたと。
蝶よ花よと愛でながら育てた事は間違いだったと。
多少厳しくても、ちゃんと育てるべきだったと。
今更何を思っても、完全に後の祭りだが。
「それと、あの変態の眷属が捕まった事をアンタから報告してやんなさい。アンタが見捨てたんだから」
「分かっています……」
それもまた『兄』としての役目だろう。
全ては遅すぎた。
一体我々は、どこから間違っていたのだろう。
どれだけ考えても答えは出ない。
「それじゃ、私はそろそろ帰るから。民たちにもその口で言いなさいよね。今回の顛末の全てを」
「承知…しています……」
去り際に氷のような冷たい視線を投げかけてから、ルシファーは地上へと転移して行った。
彼女が消えたことで、ようやくサーゼクスは息も出来ないようなプレッシャーから解放される。
(なんて恐ろしい方だ…。嘗て、私の実力がルシファー様よりも上だなんて根も葉もない噂が立ったことがあるが、とんでもない…! あのお方の実力は今も昔も僕などよりも圧倒的に上だ…! いや…あの戦争の時よりも今の方が遥かに強くなっているような気さえする…! ルシファー様がああなら、他の大罪の方々も同等レベルになっている可能性が高い…。万が一にでも逆らえば、死ぬことよりも遥かに恐ろしい目に遭うに違いない…)
どれだけ年月が経過しても、原初の魔王は健在だった。
万物の創造主である神に逆らい、天から堕ちた原初の魔王。
彼女にだけは何があっても勝てる気がしない。
久々にそれを思い知ったサーゼクスであった。
最初は色々と理不尽な理由でリアスを冥界に返すつもりでいましたが、途中から予定変更して、日本の神様がプッツンオラした事で危ないからって理由にしました。
それで大人しく帰るようなキャラではないでしょうけど。