面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
皆さんが望むような結果になるかどうかは分かりませんが。
さっきまではまだ厳しいながらも僅かに人間らしい優しさが滲み出ていた八皇だが、本題に入った途端、急に雰囲気が変わってリアスの事を鋭く睨み付けた。
「余り回りくどい事を言っても話が長くなりそうなので、ここはストレートに我々…というか、日本神話や妖怪を初めとした全ての『日本勢力』側の総意とも呼べる、彼らが僕達に頼んだ依頼内容を教えましょう」
「何よそれは……」
どうせ碌な事じゃないんでしょ。
そんな事を考えているリアスだったが、彼女の頭にはもう既に先程のサーゼクスとの電話で話した内容が完全に消えている。
あれをちゃんと覚えていれば、彼らが自分達に何を要求するのかなんて一発で分かりそうなものなのに。
「『駒王町なる地を我が物顔で徘徊し、自分勝手に居を構えて管理をしているなどとほざいている無礼千万なるリアス・グレモリーと呼ばれる悪魔と、その眷属たちを排除、もしくは冥界へと送り返せ。その際の手段は問わない』…です」
「自分勝手…無礼千万ですって…! 大した歴史も持たない小さな島国の神の分際で…魔王の妹であるこの私に対して何て言い草よ!! 無礼なのはそっちでしょうがっ!!」
「「はぁ……」」
「そもそも、どうして私が出ていかないといけないの! 私は駒王町の管理者なのよっ! 何もしていないのに出て行けなんて横暴だわ!!」
さっき起きた事もスッカリ忘れ、またもや好き放題言っている。
もうサーゼクスは魔王じゃないのに『魔王の妹』とはこれいかに?
(リ…リアス…なんてことを…! このままじゃ確実に殺されるわよ…!)
この中で一人、朱乃だけがリアスの言動がどれだけ拙い事なのかを正しく理解していた。
転生悪魔ではあるが、神社に住んでいる家系なので、そっち方面の知識はオカルト研究部の面々では一人だけ抜きん出ていた。
だからこそ分かってしまう。
リアスが怠った事がどれだけヤバすぎる事なのかを。
流石の朱乃も、彼女がここまで身の程知らずだとは想像していなかった。
(リアス…お願いだから素直に謝って…! じゃないと、どうなるか本気で分からないから…!)
歴史が浅い。島国の神と言ってはいるが、この世で最も残酷で恐ろしいのは日本の神々なのだ。
その強大さだけならば、ギリシアの神々や北欧の神々にだって決して引けは取らない。
状況によっては、彼らすらも凌駕する可能性すら秘めているのだ。
そもそも、リアスは全く知らない。
日本という国には『八百万の神々』の概念がある事を。
この国にいる以上、他国などから来た亜人などの類は日常的に幾多の神々によって監視されているという事を。
「八皇くん。どうやら、このお嬢さんはまだ自分が置かれている状況を正しく把握していないようだ」
「そうみたいですね。こっちが優しく言っている間に大人しく消えればいいものを……」
ダンッ!!
八皇がテーブルに足を置き、前に乗り出しながらリアスの髪を掴んでから自分の方に引き寄せながら、今までとは全く違う強い口調で言い放った。
「お前は真正の馬鹿か? だったら分かり易く言ってやる。お前に突き付けられている選択肢は二つ。大人しく冥界に帰って大人しく余生を過ごすか、それともここで俺達に殺されるか。このどっちかだ。好きな方を選ばせてやる」
「なっ…!」
八皇は本気になった。
猶予時間はこれで終わり。
ここから先は、少しでも言葉を間違えたら、即座に排除されてしまうだろう。
「さっき、お前は『何もしていない』と言ったな? その通りだ。お前は何もしていない。していないからこそ追放されるんだよ」
「ど…どういうことよ……」
「まだ分からないか? 他勢力の連中が地上で活動をし、拠点などを築いたりする場合は必ず、その地の神々などに挨拶をし、正式な許可を貰う必要があるんだよ。その際、ちゃんと滞在用のパスなども申請しなくていけない。これぐらいは常識中の常識だぞ?」
聞き分けの悪い教え子に言い聞かせるように言う八皇だったが、当のリアスは何を言っているのか全く分からないといった様子。
「そ…そんなの知らないわよ! 誰も教えてくれなかったわ!」
「当たり前だ!! 仮にも一つの街を管理しよういうのなら、これぐらいは自分で調べるものだ!!」
「実際、同じような立場のソーナ・シトリーは自力で全てを調べて勉強し、親や姉などに色々と教わり、地上に来た際には真っ先に自分の足で京妖怪たちの元まで赴いて日本の神々との梯子役を頼んだという。その際にはちゃんとした貢物も持ってな」
「嘘…いつの間にソーナが……」
同じ立場、同じ身の上だと思っていた親友が、自分の知らない間にいつの間にかやるべき事をちゃんとやって、ずっと先まで行っていた。
消滅の魔力を持つが故に自分の方が格上だと確信していたリアスにとって、この衝撃はかなり大きかった。
「同じ若手悪魔でもここまで差が出ると哀れになってくるな」
「彼女の努力を認め、日本神話や妖怪たちは悪魔たちの中でも数少ない例外として、シトリー家の者達は自分達の同志同然の扱いをすると約束している。それに比べ貴様は……」
「ちゃんとした手続きもせず、それどころか他勢力を貶めるような事しかしない。まるで自分の所有物であるかのように町中を徘徊し、挙句の果ては堕天使達の侵入を許してしまう始末」
「これでは殺されても文句は言えんな。で、返事を聞こうか。ここで俺達に殺されるか。それとも大人しく冥界に帰るか」
本当ならば恐怖に震えて大人しく従うところだろうが、リアスの中にある無駄に高いプライドが恐怖を悪い意味で乗り越えてしまった。
「どっちもお断りよ…! 私は三つ目の選択肢を選ぶわ!」
「なに?」
「ここであなた達二人を倒して、地上に居続ける!」
掌を八皇に翳して、そこから消滅の魔力を発射する!…かと思いきや、そこからは何も出る事は無かった。
「……え? な…なんで……」
「『なんで消滅の魔力を放てない』…か? それは簡単だ。お前が消滅の魔力の使い方を忘れてしまったからだよ」
「私が消滅の魔力の使い方を忘れた…? そんな馬鹿な事があるもんですかっ!」
「それがあるのだよ。本当に愚鈍な小娘だ」
後ろに控えていた根呂がシルクハットを被り直しながら、リアスにも分かるように説明を始めた。
「貴様等と話している最中、密かに八皇くんは貴様に対してとある『音』を発していたのだ。脳内から記憶の一部のみを消すという『音』をな」
「記憶を消す『音』…?」
「そうだ。それにより、お前は消滅の魔力の扱い方を完全に忘却してしまった。だが、魔力自体は未だにその体の中にある。さて…どうする? 我らを倒すのではなかったのか? 下手に暴発でもさせれば、消滅するのは逆に貴様の身体の方になるぞ?」
「わ…私の…魔力が……」
自分の最も誇れるものが使えなくなってしまった。
消滅の魔力が使用できなければ、リアスなんてそこら辺にいる少女達と全く大差は無い。
もし仮にリアスが思惑通りに消滅の魔力を放てたとしても、結局は無意味に終わるのだが。
そもそもの話、お互いのスペックが違い過ぎるのだ。
消滅の魔力を放っても、彼らの体に当たる前に自然と消え去るだろう。
まるで、海の中に塩の塊を落とすかのように。
強すぎる力の前では、どれだけ凶悪な属性の魔力であったとしても、実力不足な一撃なんて全くの無力なのだ。
「未然に防がれてしまったとはいえ、彼女が抵抗しようとしたことは紛れもない事実。こんな時はどうするんでしたっけ?」
「実力行使で『適当』にやれ…だった筈だ」
適当。
それは文字通りの意味ではない。
『自らの持てる力と権限の全てを行使して、最善の結果に導け』という意味だ。
つまり、リアスが抵抗することが、彼らが『その気』になる合図でもある。
「おい…サーゼクス。お前の妹は俺達の言葉を無視して抵抗した。これは即ち、グレモリー家の日本勢力に対する宣戦布告と見なすぞ」
『ま…待ってくれ! リアスの無礼に関しては僕から謝る! 必要ならば、今すぐにそっちに行って土下座でもなんでもする! だから頼む! リアスの命だけは助けてあげてくれ!!』
「本人ではなく、兄のお前が命乞いか。正直、気に食わない事この上ないが…いいだろう。命だけは助けてやる。命だけは…な」
『あ…ありがとう……』
「ただし、それ相応の制裁だけはさせて貰うぞ。そうしなくては他の馬鹿な悪魔どもに示しがつかないし、日本の神々も絶対に納得はしないだろう。これすらも拒否した時は、日本神話は本気で『グレモリーに属する悪魔』だけを一匹残らず殲滅するだろう」
本当は妹に対する制裁なんて絶対に許可できない。
だが、これは最後にして最善の妥協点なのだ。
ここで拒否をしたが最後、それこそこの世からグレモリーの名は完全に消滅するだろう。
一切の慈悲も容赦もなく。徹底的に。
『わ…分かった。ただし、酷い事はしないでく…』
サーゼクスの許可だけを聞き、八皇はリアスの手から携帯を取り上げてから強制的に通話を切ってからソファの上に放り投げた。
「と言う訳だ。年貢の納め時だな、リアス・グレモリー」
「遠慮はいらんぞ。厚顔無恥で慇懃無礼な悪魔に掛ける情けは無い」
「分かってますよ。けど、その前に……」
「あぁ。そこで無言で固まっている眷属共に邪魔をされては面倒だ」
周囲を見渡してからギロリと朱乃達を睨み付けると、根呂は合掌をしてから秘文を唱え始めた。
「謹んで勧請し奉る。御社無き此の所に降臨鎮座し給いて神祇の祓いを可寿可寿平らげく安らけく聞こし食して願う所を感応納受なさしめ給え! 誠惶誠恐惶裂来座! 敬白。大いなる哉賢なる哉乾元享利貞如律令!」
詠唱が終了した瞬間、室内の空気が僅かではあるが震え始めた。
ずっと部屋の中を監視しつつ潜み眠っていた低位の神々や精霊たちが、根呂の呼びかけに応じる形で蠢き始めたのだ。
「お前らのような矮小な悪魔には勿体無いが、仕方があるまい。貴様等に見せてやる…我が秘術の真髄をな」
「こ…これはまさかッ!?」
朱乃だけは、根呂がしようとしている事がなんとなく想像が出来た。
もしもこの予想が当たっているのならば、自分達はもう逃げる事も攻める事も、身動きをする事すら不可能になる。
そんな彼女の焦燥など知らず、根呂は名簿のような物を取り出してから、そこに書かれた名前を次々と読み上げていく。
それは、室内に存在しているありとあらゆる物に宿っている神々の名前。
猛スピードで読み上げて行き、それと同時に呼ばれた者達が彼の召喚に応じていく。
全てを読み終えると、根呂は呼び出した神々に対して二度の礼をし、全員の注目を集めるかのように二回手を叩いた。
「皆様方。それではお約束通り、お願いいたします」
「あれ? 前はもっと長ったらしい事を言ってませんでしたっけ?」
「本来はそうするべきだが、今回は別だ。この方々もグレモリーの横暴っぷりには怒りを感じていたようでな、昼間に一度召喚して頼んだだけで、後は特に礼などもいらないと言って下さったのだ」
「このバカ女に報復さえできれば満足って訳か。フッ…リアス・グレモリー。どうやらお前は、この室内にある家具たちからも嫌われていたようだぞ?」
「家具から嫌われるって…意味不明なのよ…って、キャァァァァッ!?」
突如として、リアスは後ろの壁に大の字で張り付けられるような格好になり、小猫はカーテンに巻きつけられ、祐斗は床に敷いていた絨毯に巻きつけられ、朱乃に至っては飛んできた箪笥に押し潰されてしまった。
これこそが根呂の秘術。
万物に宿る神々の力を借り受け、目的を達する彼だけの能力。
それは、彼女達の着ている服でさえも例外ではない。
「こ…これは一体…!」
「動けません…!」
「低位の神々を傭兵のように雇い入れてから使役する…! 並の霊媒師には絶対にできない芸当だわ…!」
転生悪魔ゆえの体の頑丈さが辛うじて三人の意識を支えていたが、もしもそうでなければ一瞬で気を失っていただろう。
特に朱乃の場合は致命傷になっていた危険性もある。
「な…何よコレ…! どうして私がこんな…!」
一切の邪魔が入らなくなったところで、壁に貼り付け状態になったリアスに、ゆっくりと八皇が近づいていく。
そして、彼女の顔面をガシッと摑んでから押し付ける。
「お前…自分の美貌とスタイルに絶対の自信があるんだって? まぁ…確かに見た目だけで言うならお前は美人だよ。だからこそ……」
その先は言わないでほしい。
だが、八皇は止めない。リアスにとっての最大の罰を彼は知っているから。
「その自慢の美しさを全て失った時、お前はどんな顔になるのかな」
『音』が響く。
脳内に。体中に。全ての神経に。
リアス・グレモリーを構成する全てに『音』が鳴り響く。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
普段ならば絶対に出さないような叫び声。
『音』が強くなるにつれて、徐々にリアスの顔に、全身に変化が訪れる。
「あ…あぁぁ…あぁぁぁぁぁ……」
腕や足が急激に細くなり、まるで枯れ枝のようになっていく。
それに伴い、真紅に輝いていた髪は真っ白になり、頭頂部は禿げ上がる。
そして、歳相応の色艶を誇っていた肌は見る影も無く皺だらけに老いていく。
最終的には、その自慢の美顔が齢百歳以上と見間違いそうな程の老婆の顔へと変わった挙句、その歯が全て抜け落ちた。
「『お』は『恐れ』の『お』。『お』は『怨』の『お』。『お』は『老い』の『お』。そして『お』は…『終わり』の『お』でもある」
八皇が手を離すと、もう自分の足で立ち上がる事すら出来なくなった、醜い老婆へと姿を変えたリアスが床へと倒れ込んだ。
見た目だけではもう誰も、彼女をリアス・グレモリーであると認識できない。
「サーゼクスとの約束通り、殺しはしない。だが、それだけだ」
「お…おぉぉ…」
弱々しく手を伸ばし、まるで助けを求めるような姿勢をするリアスだが、その手を取る者は誰もいない。
「容姿だけは老婆になったが、お前の場合はそれだけだ。実年齢は一切変わっていない。つまり、変わったのはお前の見た目だけという事だ。貴様はまだ18歳の少女のままだよ。どれだけ容姿が老婆になってもな」
「だ…ず…げで……」
「お前はこのまま、残りの人生を生きていけ。最低限の礼儀すら忘れ、己の立場と家柄に胡坐を組んだまま何もしようとしなかった貴様の怠慢がこの結果を生んだ。全ては自業自得。日の本の神々の怒りと恨みの炎は貴様が死ぬまで延々と、その身と魂を焼き続けるだろう」
八皇がパチンと指を鳴らすと、リアスの足元に転移用の汎用の魔方陣が展開され、彼女の体を瞬間移動させた。
その行先は勿論、冥界のグレモリー領である。
急激な老いによる記憶の混濁と肉体の大幅な弱体化によって、彼女はもう二度と自分の足で立ち上がる事すら叶わず、死ぬまでベットの上での生活になるだろう。
自分の兄の事も、実の両親の事も認識できないまま、残された時を静かに過ごすのだ。
その命果てる時まで……永遠に……永遠に……。
これが私なりの結論です。
殺すのではなく、命以外の全てを奪う。
死んだ程度で収まる程度の怒りなら、こんな事にはなってないよってことで。
次回は眷属たちの話になります。
本当は今回で一気にすませたかったんですけど、またもや話が長引いてしまって…。