面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
といっても、やる事は『現状維持』なんですけどね。
リアスが見るも無残な姿になって冥界送りにされたと同時に、眷属たちの記憶と『悪魔の駒』が抹消された頃。
校門での騒動を終えたソーナは疲れた顔を見せながら生徒会室へと戻って来ていた。
「はぁ…これでやっと、この学園も静かになる……」
溜息を吐きながらドアを開けると、そこには心配そうに彼女を出迎える生徒会メンバー…もとい、シトリー眷属の面々。
その中でも黒一点である『兵士』であり二年生の『匙元士郎』。
密かにソーナに対して恋心を抱いている少年ではあるが、その思いは全く伝わっていない悲しき少年でもあった。
「あ…会長。お帰りなさいっす」
「只今帰りました。こちらは何もありませんでしたか?」
「これといって特には何も。でも、会長にお客が来てます」
「私に客?」
自分への客とはまた珍しい。
他の生徒達とはそれなりに交流をしているつもりだが、基本的に話すのは眷属の皆を除けば、リアスやその眷属の面々、後は彼女の想い人である加奈ぐらいだ。
そんな自分への客とは一体誰だろうか?
見たところ、その『客』とやらはソファに座っているようなので正面に回ってから顔を伺おうとした。
その顔を見た途端、ソーナの表情が一気に固まるのだが。
「初めまして。支取蒼那さま」
「か…加奈さんっ!? …じゃないですね。気配が余りにも希薄過ぎる。どなたですか?」
ソファに座っていたのは、加奈と全く同じ顔をした少女。
だが、学園内で誰よりも加奈の事を知っている(と自負している)ソーナには一発でそれが別人であると見抜いた。
「私は、加奈さまが使役していらっしゃる『式神』の一体にございます」
「式神…? まさか、加奈さんは陰陽術が使えるのですか?」
「はい。決して陰陽師という訳ではありませんが、その手の術式ならば、巷に溢れている者どもよりも遥かに優秀であると思います」
「知らなかった……」
ベリアルの義娘である時点で普通ではないと思っていたが、まさか陰陽師としての高い能力を秘めていたとは。
それが自分達に対して向けられていないのは不幸中の幸いなのか。
「お義父上であらせられるベリアルさまが『学園で起こる諸々が無事に収束するまで、念には念を入れて暫く休みなさい』と仰ったのですが、この時期に出席日数が取れないのは危ないと判断なさったようで、ご自分の代わりとして私がこうして登校している…という事なのです」
「成る程…。確かに、私がもしベリアル様と同じ立場ならば、似たような事を言っていたに違いありません」
それに、式神ならば万が一の時も色々と対処のしようはある。
流石は加奈。見事な判断だ…と思い、表情を崩さないまま心の中で加奈に対して惚れ直していた。
「因みに、これまでも加奈さまは体調不良などでお休みなさった際にも、今回のように私のような式神を用いて代理登校を何度かなさっていました」
「そうだったのですね…。道理で、加奈さんがこれまで一度も遅刻も欠席もしていない筈です」
学園内では余り目立たない加奈ではあるが、実は地味に教師達の中では有名人だったりする。
成績優秀で遅刻も欠席もしない模範的な生徒。
本人は自覚していないが、内申点はかなり高い。
「あ…あの~…会長? さっきから普通に話してますけど、この人は一体…?」
「あぁ~…えっと……」
完全に匙を初めとして、他のメンバーを置いてきぼりにしてしまっていた。
加奈はこれまでに一度も生徒会室に来たことが無いので、当然のように眷属たちとも交流は無い。
なんて説明をすれば考えていると、いきなり生徒会室の扉がノックされた。
「いきなりで申し訳ないですが、失礼しますね?」
入ってきたのは、先程までオカルト研究部の部室にいた八皇と根呂、それから彼の犬神であるセントバーナードの『パトラッシュ』だ。
犬神という霊的存在であるにも拘らず、パトラッシュはまるで実体があるかのように歩いている。
これは偏に、自身の主人である根呂に対する絶対的な忠誠心が成せる業である。
「あ…あんたらは…さっき生徒会室に来た……」
匙が驚いたように立ち上がり二人を見る。
彼らは旧校舎に行く前にも一度、この生徒会室へと立ち寄っていて、校長であるベリアルとは別に許可を取りに来ていた。
勿論、色んな意味で問題児であるリアス達をどうにかしてくれると言われてソーナが拒否をする訳もなく、二つ返事で呆気なく了承。
「おや? もしかして取り込み中でしたか?」
「いえ…大丈夫です。相席のような形となりますが、どうぞこちらにお座りください。椿姫、お茶をお願いします」
「分かりました、会長」
ソーナに言われて返事をしたのは、副会長にして『女王』でもある『真羅椿姫』。
眷属の中では彼女が最も信頼している右腕的な存在で、はぐれ悪魔退治の時などもよく背中を任せている。
「君は…もしや、加奈さんの式神ですか?」
「はい。ご無沙汰しております。柊八皇さま。根呂さま」
「うむ。流石はベリアル氏のご息女…相変わらず見事な式神よ。一介の女子高生にしておくのが惜しすぎる。もし幼少期から鍛えていれば、超一流の霊媒師になっていただろうに……」
「根呂さん。その話題は……」
「おっと…そうだったな。すまん。今のは忘れてくれ」
「承知しました」
もしや、彼らは加奈の隠された過去を知っているのか?
思わずソレを尋ねたい衝動に駆られたが、どうやら聞いてはいけない事のようなので、ここは我慢をして耐える事に。
「けど、どうして式神がここに…」
「それは……」
先程と全く同じことを二人にも説明をする。
それを聞かされて、八皇たちは納得したように頷いた。
「英断だな。他の生徒達とは違い、彼女は狙われる可能性がある。かといって出席日数は落としたくはない。となれば必然的に……」
「式神を自分の代わりに学園に行かせればいい。実に加奈さんらしい」
本来ならば戦闘時のサポートとして使うべき式神を、こんな風に使うのは加奈ぐらいだ。
荒事を嫌う加奈らしいと、思わず微笑んでしまう八皇だった。
「お待たせしました。粗茶でございます」
「「ありがとう」」
「私にまで…ありがとうございます」
人間である八皇たちだけでなく、式神である彼女にまでちゃんと茶を出す。
因みに、式神と言ってもちゃんと飲み食いは出来る。
「あなたにはコチラを」
「えろうすんまへん。ありがとな」
「「「「「喋った!?」」」」」
椿姫がパトラッシュに皿に入れたミルクを差し出すと、まさかの返事が返ってきた。
しかも、何故か渋い声の関西弁で。
流石の彼女達も、これには大きな声で驚いてしまった。
「我が愛犬のパトラッシュにまでこのような気遣いを…感謝する。あの愚かなグレモリーの連中とは天と地ほどの差だな」
腕組みをしながら満足そうに首を振る根呂。
彼の中でソーナたちへの評価が爆上がりする一方で、グレモリー眷属たちへの評価は地の底にまで落ちていた。
「それで、皆さんはどうしてここに?」
「僕たちは、グレモリー達に対する報告をしに」
「私は、支取蒼那さまから校門での出来事の話を聞きたいと思いまして」
「そうでしたか。では、それぞれに情報交換と参りましょう。皆もちゃんと聞いておくように。いいですね?」
こうして、生徒会室にてグレモリー眷属&変態三人組へ行われたことに対する報告会が始まった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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「そうですか…リアスは冥界に……」
「えぇ。彼女には反省する気が全く無かった。そればかりか、こちらに向かって攻撃してこようとする始末」
「故に、然るべき『罰』を与えた後に冥界のグレモリー領へと強制送還した。こちらはあくまで『話』をしに来たというのに、真面な会話すら成り立たなかった」
「当然の末路…ですね」
正直、リアスに対する『可哀想』という気持ちは微塵も無かった。
ソーナ自身も昔からリアスの我儘には振り回されてきた経験があるからだ。
同じような身の上故に仲良くなるのは普通かもしれないが、リアスの場合は一方的な友情だった。
実際、『友人』を自称しているのはリアスだけであって、ソーナの方からは一度もそんな事を言った覚えはない。
「…で、例の兵藤一誠とその他二人は警察に連行された挙句、莫大な借金を背負う事になった…と」
「そうです。彼らが幾ら未成年だったとしても、やったことが重すぎます。しかも、本人達は反省をするどころか自分が犯罪をしたという自覚すらない始末。裁判ではほぼ間違いなく有罪確定で、その後は……」
「少なくとも、もう二度と日の光は浴びれないでしょうね」
「丑嶋さんの事ですから、今頃は彼らの家まで行って事情を説明した後に、そのまま御家族も警察に行っている頃でしょう」
話を聞きながら、この場で唯一の男子生徒である匙は、逮捕された一誠達に対して少なからず同情をして……はいなかった。
彼だって男なのだから、気持ち自体は理解出来る。理解出来るが、それを実行してしまっては御終いだ。
発情期の野生の獣のように衝動的になるのではなく、ちゃんと高校生らしく自制をして行かなくては。
少なくとも、匙は我慢をして妄想や本などで我慢をしている。
「ということは、学園内における『問題』は解決したと見てもよろしいのですか?」
「そうでしょうね」
「了解しました。帰宅の後に加奈さまにご報告致します」
「よろしくお願いします」
まるで機械的に受け答えをする式神。
人間ではないのだから仕方がないとはいえ、加奈と同じ顔と声をしているので反応に困ってしまう。
「ところで、眷属の皆はどうしているのですか? 記憶まで消したという事でしたが……」
「今頃は部室にて寝ている頃でしょう。記憶に関しても問題はありません。ちゃんと空白の部分は『補完』をしておきましたから」
問題は、その『補完』の内容なのだが、なんだか嫌な予感がしたのでソーナは敢えて聞かない事にした。
「塔城小猫に関してなのだが、彼女は私が京都に連れて行こうと思っている」
「京都に?」
「あそこには彼女の姉であり元はぐれ悪魔の黒歌が京妖怪たちによって保護されている。グレモリーによって意図的に真実を歪められていたのだ。それから解放された今、生き別れとなった姉妹を会わせてやらねばなるまいよ」
「そういえば…前にそんな噂を聞いたことがあるような……」
根呂自身は『化け猫専門の霊媒師』ではあるが、だからと言ってなんでもかんでも容赦なく葬るという訳ではない。
ちゃんと霊視によって良し悪しを判断し、その上で然るべき対処をするように心掛けている。
今回の場合、黒歌と白音の姉妹はグレモリーの犠牲者とも言える立場だったので、こうして彼なりの温情を掛けているのだ。
「もしかしたら、そのまま転校ということになるやもしれんが」
「その時はその時でしょう。本人がそれを望んでいるのなら、こちらがどうこう言う権利はありません」
ソーナとて、生き別れとなった姉妹を再び引き裂くような真似はしたくない。
自分にも姉がいる身なので、その気持ちはとてもよく分かるから。
「他の二人は…このまま在籍という形になるでしょうね。あと、最後の一人の彼ですが……」
「あの小僧は、そのまま故郷に返してやるべきだろう。そもそも、奴はグレモリー達によって半ば無理矢理に近い形で日本に来たも同然だ。あんな性格をしていなくても心細くなるのは当然だ。それを碌に対処もせずに勝手に封印するなど…」
「あの神器だって、暴走するのは彼が慣れない環境にいて精神不安定になっているからでしょうしね。そんな簡単な事にすら気が付かない時点で、リアス・グレモリーに主の資格も器も無い」
「それには激しく同感です」
実際、町の管理をしていたのはソーナなのだ。
リアスは気紛れに町に出て見廻りごっこをしていただけ。
はぐれ悪魔を討伐した回数だって、リアスよりもソーナの方が遥かに上なのだ。
「表向きの管理者がいなくなった以上、恐らくは町の管理者は自動的にソーナさんになるでしょう」
「私は一向に構いません。別に今までとやる事は変わりませんから」
今までは裏方に回っていたのが、今度からは堂々とやれるようになるだけだ。
そこに大した違いは存在しない。
「残った問題は、グレモリー家が事実上の機能不能になった事による日本に残る元眷属の皆さんの生活基盤ですが……」
そこでまた生徒会室のドアがノックされる。
今度は誰かと思っていると、扉を開けて入ってきたのは相良校長ことベリアルだった。
「突然ですが失礼しますね。おや、皆さんお揃いで」
「「「「「校長先生!?」」」」」
「「お久し振りです」」
「お邪魔しています」
生徒会室が増々カオスな空間となっていく。
昼休みはまだ終わらない。
またもや長くなってしまったので、グレモリーへの『ダメ押し』の話は次回に。
やっと主人公たちを再登場させられるかも…。
一通り終わったら、後はISの時のように諸々のイベントを一足飛びで消化して行こうと思います。
といっても、聖剣騒動に関しては少しだけ長引く可能性が……。
ちゃんともうオチまで考えてるんですけどね。