面倒くさいので、取り敢えず寝る(完結) 作:とんこつラーメン
前回は香川県の讃岐市で美味なるうどんを堪能した私。
意外な出会いがあったけど、そこまで気にするような事ではない。
あの女が他者を見下しているように、私もまたあの女に対して微塵も興味を持っていないのだから。
全ての元凶。諸悪の根源。その認識さえあればいい。
で、あれからまた私は国内旅行へと向かった。
今回向かった場所は長崎県のハウステンボス。
全国的にも有名な、オランダの街並みを見事に再現したテーマパークだ。
前々から一度は行ってみたかった場所でもある。
初めて見る木製の風車に、色鮮やかなチューリップ。
私だって立派な女の子なのだから、コレ系の事には凄く興味がある。
そして、今は昼食を食べる為にテンボス内にある佐世保バーガーのお店のテラス席に座って、目の前にある出来たてほやほやの佐世保バーガーを食べようとしている…のだが……。
「あの……」
「なんだい? 可愛らしいお嬢さん」
「…………」
いきなり、私の座っている席に相席するようにして、謎の銀髪の女の子が座って来た。
しかも、めっちゃこっちを見てニコニコしてくる。
見た感じでは外国人だけど、妙に日本語が流暢だ。マジで何者?
「えっと……なんか用?」
「フッ……特にこれといった用事は無いさ。強いて言えば、君の美しさに魅了されて、思わずここまで来てしまった…ってところかな」
微笑んだ瞬間に歯がキラーンって光った。
うん。こいつは私が苦手なタイプだ。悪い奴じゃなさそうなのが質が悪い。
「もしかして…ナンパされてる?」
「私が、そんな下卑た事をするような人間に見えるのかい?」
「いや、そうとしか思えない言動だから言ったんだけど……」
「なんと……私は単純に美少女との楽しいひと時を過ごしたいと思っただけなのに……」
…コイツ、基本的に人の話を聞かないタイプだな。
「そう言えば、まだ名を言ってなかったね。私は『ローランツィーネ・ローランディフィルネィ』。オランダから来たんだ」
何にも聞いてないのに勝手に自己紹介しやがった。
こっちも自己紹介しないと、なんか失礼な奴になっちゃうじゃないか…ったく。
「…相良加奈だよ」
「サガラ・カナ……君に相応しい美しい名前だ」
「さいですか」
生まれてこの方、一度も自分の名前にそんな感想を抱いた事は無いよ。
しっかし…オランダか。
「え? なんで私が日本にいるかだって? フフ…そこまで情熱的に尋ねられたら答えない訳にはいかないな」
「誰も聞いてねーよ」
幻聴でも聞こえてるのか? だとしたらヤベーな。
「まず、私はオランダの代表候補生なんだ」
「代表候補生……もぐもぐ」
ってことは、こいつも専用機を持ってるのか?
にしても、バーガーめっちゃ美味い。
「それで、本当はIS学園に転入する予定だったんだよ」
「…マジか。けど、だったって事は……」
「そう。止めたよ。一度、入学前に見学をさせて貰えたんだけどね……」
「どうだった?」
「教師の方々も生徒の諸君も美女や美少女ばかりで目移りしてしまったが…それだけだった。正直な感想を言わせて貰えば、あの学園を怖く感じたよ」
「……そっか」
…どうやら、私の観察眼もまだまだみたいだ。
こいつは…ローランツィーネはこのご時世には珍しく、周りに流されずに真実を見極める目を持っている人間だ。
「祖国オランダで、私はISに関する様々な事を友達と一緒に学んだ。基礎的な事は勿論、どれだけISが危険な物なのか、不用意に使えばどんな被害が出るのか。ある意味で最も大事な事を徹底的に教育してくれるんだ。時にはISの被害に遭った人物と話したりもしていたし、実際に現場に出くわしたこともある」
「それが普通なんだよ……」
ヤベ…佐世保バーガーとコーラの組み合わせが最強すぎる。
なんか、もう一個食べたくなってきた。
「だが、IS学園にはそれが無い。授業も見学させて貰ったが、ISの機能やいい部分だけを教えて、危険な部分には軽く触れるだけで終わっている。あれではいずれ必ず取り返しのつかない事故が発生するよ」
「あそこはそういう場所さ。ISという名の新興宗教の信者を育成する機関。もしくは、IS依存者を収容している病棟と表現すべきか」
「その言い方…もしかして、君もIS学園の…?」
「そ、生徒だよ。一応ね」
「一応とは?」
「訳あって政府の連中に無理矢理、あそこに入学させられてね。だから授業はサボりまくりだったし、最近じゃ教室にも入ってない」
「それは…大丈夫なのか?」
「へーき、へーき。少し前にちょっとしたトラブルがあって、理事長直々に私に『助けてほしい』って言ってきたんだ。最初は断ったんだけど、何度も何度も言ってきてさ。んで、痺れを切らした向こうがある条件を提示してきたんだ」
「条件?」
「もしも助けてくれたら、全ての単位&出席日数を全て免除する…って。在籍さえしてくれれば、後はもう好きにしてていいってさ」
「成る程…平日にも関わらず、こうしてココにいるのは、そう言う訳だったのか」
…なんで私、こいつにこんな事を話してるんだろ。
一概に部外者とは言い難いからかな。
「今頃は多分、学年別トーナメントが開催されてる頃なんじゃないかな。興味ないけど」
「私もさ。明らかにIS学園はおかしい。生徒達の目も、なんだか曇っているように見えたしね。あの目は何にも見えていない目だ。ISの事を軽視して、最も大切な事を何も理解していない目だ」
「だからこそ、私はこうしてIS学園を飛び出したんだよ」
「フフフ……加奈と私は気が合いそうだね」
「うぐ…悔しいけど、否定は出来ない……」
私もまさか、ここまで意見が合う人間がいるとは思わなかった。
こりゃ…ボッチ卒業の時が来たのかもしれない。
「ところで…君が食べているバーガー…とても美味しそうだね。私も注文しようかな……」
「いいんじゃない? ボリュームがあって食べ応えあるよ」
「みたいだね。では…少しいいかな?」
彼女は近くを通りがかった店員さんを呼び止めてから、私と同じものを注文した。
ふむ…こいつが大口を開けてバーガーを食べている姿が想像しにくい。
「そっちが日本にいる理由は分かったけど、なんでハウステンボスにいるの?」
「私の事はロランでいいよ。皆にもそう呼ばせている」
「ふーん…分かった。で、なんでなの?」
「少し前にネットの記事で、日本に我が祖国オランダの街並みを再現した巨大なテーマパークがあると知ってね。もしも日本に行く機会があったら是非とも遊びに行きたいと思っていたのさ」
「へぇ~…」
その気持ちはなんとなく理解出来るかもしれない。
日本人が外国で日本食のレストランとかに行ってみたいと思う気持ちと同じなんだろう。
「本来の目的はIS学園だったが、見学だけですぐに終わらせてしまったからね。時間が余りに余っていたんだ。このまま無為に使うのも勿体無いと思った私は、折角だし前々から興味があったハウステンボスに行こうと思い至り……」
「こうして来てる訳ね」
増々、私と気が合うんだけど……。
どうしよう。普通に友人になれそうな気がしてる自分がいる。
「お待たせしました」
「ありがとう」
あ。ロランが注文したバーガーが来た。
…人のを見てると急にお腹が空いてくる…。
「すいません。もう一個同じのをいいですか?」
「畏まりました」
頼んでしまった……。
後でちゃんと運動しよう。
「確か…こうしてから……あむ」
おぉ~…綺麗な顔をして、思い切り行くのね……。
「お味は?」
「とても美味だよ。君と一緒にいるから尚更ね」
「あっそ」
息を吐くように恥ずかしい台詞を言うよね…。
ロランには羞恥心というものが無いのか?
「そうだ。色々と話した以上は、アルの事も紹介しないと」
「アル? 誰だいそれは?」
「私の大切な相棒。アル~」
『呼びましたか?』
「この声は……」
私の隠れている義眼から聞こえてきた声にロランが驚く。
実に普通の反応をありがとう。
因みに、今までずっと反応が無かったのは、ネットの海に潜っていたから。
アルの密かな趣味の一つなのだ。AIに趣味という概念があるかは置いといて。
『軍曹殿。この女性はどなたですか? 先程まではいなかった筈ですが……』
「アルが潜ってる間に会ったんだよ。オランダから来たっていうローランツィーネ・ローランディフィルネィだよ。ロランって呼んであげて」
『了解しました。お初にお目に掛かります。軍曹殿の専用機『ガーンズバック』のサポート用AIのアルと申します』
「じ…人工知能搭載型のIS…そんな物が存在していて、しかも加奈がその持ち主だったとはね……専用機を持っている事も合わせて驚いたよ……君は一体何者なんだい?」
「不登校生活を満喫している普通の女子高生だよ」
そうとしか言いようがないしね。
「えっと…アル…だったかな?」
『はい。ミス・ロラン』
「私にミスはいらないよ。気楽にロランと呼んでくれればいい」
『承知しました。ロラン』
人工知能と話すって事自体が驚きの筈なのに、もう普通に会話してるし…。
ロランってかなり適応能力が高い?
「そういや、本場オランダの人間から見て、このハウステンボスってどうなの?」
「非常に素晴らしいよ。まるで祖国に戻ってきたかのような錯覚さえ覚えてしまうほどに。しかも、ここは一つの街としても機能しているというじゃないか。そんなテーマパークが存在していること自体が驚きさ。しかも、観光客用のホテルがあるだけでなく、夜も楽しめるようになっている……ここに来ようと思った私の考えは間違いじゃなかった」
「…日本人として、そこまでベタ褒めされると…なんとも嬉しく思うね」
『驚きました。軍曹殿にも愛国心があったのですね』
「んな物は無いよ。けど…なんでか嬉しかったんだから仕方がないじゃないのさ」
まだ私にも人間らしい感情が残されていたとはね。
こっちの方が普通に驚きだわ。
「ところで、どうしてアルは加奈の事を軍曹と呼ぶのかな? 彼女は従軍経験が?」
「まさか。渾名みたいなものだよ。軍に所属なんて絶対にしたくない」
この私とは致命的に相性が悪い職業だからね。
軍人と話すと思うだけでも吐き気がする。
「加奈はこの後、どうするつもりだい?」
「ん? もう少しだけブラブラとしたら、今度は新地中華街の方に行ってみようと思ってる」
「ということは、ここのホテルに泊まるわけじゃないんだね?」
「そうなるかな」
余りにも豪華すぎると、却って寝付けなかったりするし。
程よい感じが丁度いいんだよ。
「では、私もついていこう」
「『え?』」
「言っただろ? 私も暇してるんだ。それに、君と一緒ならどこに行っても楽しめそうだ」
「はぁ……好きにすれば?」
「喜んで、そうさせて貰う。あむ……うん、美味い」
こうして、旅の仲間が増えてしまいましたとさ。
それを決して悪く思っていない自分が意外過ぎて自分で驚いてるよ……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その後。私達は予定通りにバスに乗ってから中華街までやって来た。
「ア…アルくん? 目の錯覚じゃないよね…? この超絶美味そうなちゃんぽんの上にちょこんと乗っているのって…まさか……」
『紛れも無く『フカヒレ』ですね』
「こ…これがジャパニーズちゃんぽんなのか…! フカヒレと言えば、誰もが知っている高級食材…それを惜しげも無く乗せるとは……」
長崎でフカヒレにお目に掛かるとは…めっちゃ驚いてるわ……。
私とは縁が無い食べ物だと思ってたのに……。
「ロラン…これの値段って幾らだったっけ……」
「…1350円だ」
「……安すぎじゃね?」
長崎中華街……恐るべし。
因みに、このちゃんぽんは冗談抜きで最高でした。
その後に食べた角煮まんじゅうも絶品だったと言っておこう。