異世界へ転生したらアニメキャラを召喚できました! 作:リーグロード
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目の前に広がるのは人の海―――既に草原の草はひとつ残らず踏みつぶされており、大地は鉄の鎧を武装した兵士によって埋め尽くされている。
これほどの軍勢ならば、例え伝説のドラゴンが襲ってきたとしても勝てると言えるだろう。
だが、その軍勢の兵士は一人残らず手と足が震えており、周囲にこの場から逃げ出せる道があったのならば、他のなにをおいても一目散に逃げだしていただろう。
そんな彼らが相手取るのはたったの1人だけ。だが、たった1人と侮るなかれ、その者は数多の英雄、魔王、忍者、海賊、死神、宇宙人とあらゆる規格外を呼び出すことができる。
それこそ、伝説のドラゴンであろうとも「瞬殺しょ!」と難なく言えるレベルといえばその凄さとヤバさが理解出来るだろうか?
「うはー!いるいる、ぞろぞろと数だけは一丁前に揃えてるけど、この中に俺達を相手にまともに戦うことができる強者はいるのかな?」
丘の上で1人の男がピクニックにでも来ているかのように、気楽な声で目の前に広がるを品定めするように軍勢を見下ろしている。
その顔からは余裕とこれから起こる出来事にワクワクしていうことが読み取れる。
そんな男の存在に真っ先に気が付いたのは、軍勢の中心に建てられてある小屋ほどの大きさのテントの入り口に立っている他の者よりも立派な鎧を着こんだ騎士団長の役職を与えられていた男だった。
「王よ、あの男が戦場に現れました」
テントの中にいる自らの主に、今回戦う敵が現れたと伝える。その瞬間、テントの中にいる王や大臣などが怯えを包み隠さず、観念したように「遂にこの時がきたか…」と死刑宣告された囚人のようにうなだれながらテントから続々と出ていく。
テントの外には自分を守る為に集まった兵士がほぼ隙間なく隊列を組んで待機していたが、これから戦う相手を思えばどれほど心細いものか…。
王を含めてテントから出てきた者は騎士団長から丘の上でコチラを見下ろしている男の存在を指差しで教えられる。
「あそこに見えるのが我々が戦うべき敵です」
「あれが…、どこからどう見てもただの青年にしか見えないが…、あれが
確かに、丘の上に立つ男はお世辞にも軍を動かして敵対せざるを得ない化け物にはとても思えない。だが、それでも胸の奥から絶え間なく湧き続ける恐怖の感情は止まることを知らない。
それもそうだろう。この場にいる者のほとんどは一度…たった一度だけだが、あの男の力の一端を味わったことがあるのだから。
その時は決して敵対してはならない化け物だということを深く胸に刻み込んだ。それが、何故こんなことになっているのか?そんな自問自答をしても答えは一つしか出てこなかった。自分達の上に立つ者があの男に愚かにも喧嘩を売り飛ばした。
そして、それをあの男が獰猛な笑みと共に喜んで買い取ったのだ。
もし自分がその場にいたならばその愚か者を殴り飛ばしてでも土下座させて許しを乞うていただろうと、拳を握りながらこれから訪れる最悪の未来から目をそらすように頭の中でもしもの世界を考えながら現実逃避をする。
ちなみに、その愚か者は既にこの世には存在しない。何故なら、その愚か者は王の手によって直々に死刑を執り行われたのだ。そう実の親の手によって民衆の前で憎悪の感情が込められた罵詈雑言の嵐の中で首を斬り落とされたのだ。
もちろん、それで相手は納得することはせず、『喧嘩という名の戦争を始めよう!』と男の友人と名乗る人物によって戦争をすることが国中に広まったのだ。
そのことでいち早く動いたのは他国にもコネや伝手などがある貴族達だったのだが、そういう目的で国を出ようとすればたちまち霧に包まれ、もと来た道に逆戻りしてしまう不可思議な現象に毎回のように遭遇してしまう。
そこでようやく皆が気づくのだ、あの男は…あの死神は自分達を決して逃がす気はないのだということを。
その為、ある者は自身の保身のために、ある者は大切な家族のために、ある者はどうせ死ぬくらいなら、と各々の様々な目的で強制的にこの戦争に参加させられたのだ。
ここに集まっている人間のほとんどが嫌々で来ているのであって、好き好んでここにいるのは狂人かあの男の力を知らない無知な者のみだ。
すでに戦場にあの男がやって来たということは、もう
「諸君!怯えるな!我々は何のためにここにいる?奴を倒すためだ。君たちの恐怖も恐れも分かる。だが!奴は君たちに一切の慈悲などかけはしないだろう。ならば、その恐怖を!恐れを!勇気に変えるのだ!そして、その勇気を力に変えて奴を討つ武器にせよ!」
騎士団長の演説に震えていた者は互いに顔を見合わせて、おおぉぉ!!!!と雄たけびと共に手にした武器を天に掲げて勇気を奮いあげる。もしかしたら、ひょっとしたら、そんな勢いだけの希望が皆の脳裏によぎった。
それを感じ取った騎士団長や他の指揮官である者がすぐさま突撃の号令をかける。
「行けぇ!戦士達よ、あの邪悪な死神を討伐するのだ!!!」
「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」
その号令に勢いづいた兵士たちが一斉に丘の上に立つ男目掛けて走りだしていった。そこには隊列や作戦など一つもない。
例え数多の屍の山を築き上げたとしても、たった1人でも奴の元に辿り着き、その首元に剣を突き刺せれば勝利というなんとも単純で、そしてなんともか細い希望の糸を掴むための苦肉の策である。
もし、少しでも作戦と違う動きが出れば正式な訓練を受けた兵士ならばともかく、今回の戦争のために急増で増やした一般人の兵士ならば慌てふためきすぐさま混乱に陥るだろう。それならば、何も考えずに特攻をかけさせた方がまだ勝利の可能性があるというものだ。
すでに丘までの距離は800mをきっている。全身を鎧で武装しているために兵士たちの足はさほど速くはないが、のんびりしていればあっという間に詰められるだろう。それに、先頭には馬に乗って向かって来る武将クラスの兵が何人か迫ってきている。
このままいけばあと十数秒で剣が届く位置まで来れるだろう。
だが、それでも男は余裕の笑みを浮かべたまま、そこから一歩も足を動かさなかった。
「かっはっはっは!よく漫画やアニメじゃ、ラスボスの力に圧倒されて絶望してしまうが、最後の最後で主人公たちは勇気を武器に勝利を得るってのは鉄板だよな!」
今から自分を殺そうと決死の覚悟で迫ってくる軍隊にたいして、まるでアニメの脚本をバカにするかのように高笑いを続ける。
そして、高笑いから誰もが見て分かる邪悪な笑みを浮かべて、ようやく迎撃の態勢に移行する。
「けどな、現実はそう上手くはいかねぇんだ。いかに勇気を持とうとも、いかに数を揃えようとも、アリが恐竜に勝てる道理なんて一つたりとて無いってことを骨の髄まで…いや、魂の奥底まで刻んでやるよ!なあ、
男の後ろには誰もいなかった筈だが、男が名前を呼ぶと、それに答えるように空間に闇が広がり、そこから夜を思わせる漆黒のマントに、十本の指全てに到底値などつけられぬ指輪をはめた骸骨のマジックキャスターが現れる。
「そうだな我が友よ。いかに勇気を持って数で攻めかかろうとも、レベル20にも届くか届かないかの連中が、カンストしたプレイヤーには決して勝てないという当たり前の事実を理解させねばな…」
そこには一切の慈悲なぞなく、逆らう者への見せしめだといわんばかりの冷酷な姿の魔王がいた。
「超位魔法『
アインズ・ウール・ゴウンが腕を一振りすると、それに合わせて10メートルにもなろうかという巨大なドーム状の魔法陣が展開される。
その光景に兵士たちは驚きの声と共に足がゆっくりとなっていくのを感じた。これは別にあの魔法陣の効果ではない。これは、ついに相手が攻撃を開始したということを理解したために、足が敵に向かっていくのを拒んでいるのだ。
それはまさに、非力な子供がナイフを持ったヤクザに向かっていく心境と言ったら分かりやすいだろうか。
とはいえ、このまま手をこまねいていれば確実にあの魔法陣は完成ししまう、そうなってしまえばその後の結果は言うに及ばないだろう。
「怯えるな!奴らはまだ何もしてこん!あの魔法陣が完全に完成する前に、何としてでも奴らを討ち取るのだ!!!」
先頭を馬と共に駆けていた武将の1人が声を大にして叫びを上げ、意気消沈しかけた兵を奮いたたせる。
そして、後ろの兵が後に続くように、自らの足が止まらぬように、ありったけの勇気を腹の底から絞り出さんと雄たけびを上げながら前進する。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!その首もらった!!!」
腰にぶら下げた剣を抜き放ち、一直線に骸骨を無視して隣に立つ男の首目掛けて剣を振るう。
『鉄塊』
キイイィィィン!!!!
馬に乗ってすれ違いざまに剣を男の首を斬り落とさんと万力の如き力で振り切ったというのに、剣が当たる直前に男はただ一言『鉄塊』と呟くと、剣からまるで鉄の塊にぶつかったような金属音が辺りに鳴り響いた。
そして、男の首を斬ったはずの剣には刃こぼれが出来ており、逆に男の首はまるで無傷だった。
「そ…んな…、バカな!?」
必殺と確信した一撃を避けもせず、ましてや受け止める素振りもなかったというのに、まるで効いた様子もない事態に、男の首を狙った武将はおろか、その様子を見ていた兵達もが希望を容易く折られた事実に足を止めて呆然と立ち止まる。
「サービスとして一撃は受けてやったがこれ以上のサービスはしてやらんぞ。アインズもういいぞ。この戦争を終わらそう」
「ああ、ようやっとか。まったく、サービス精神もいいが、こんな茶番劇を見せられる私の身になってほしいものだがな…」
そんな中、アインズは友の娯楽ともいえる敵に対する残酷なサービス終了の一言で、己の手の中に握られてある小さな砂時計を握り潰した。
砕いた砂時計の中身の砂がアインズの魔法陣に流れ込んでいく。
「さて、アニメで見たことはあるが、あの時は興奮したものだが。現実にこの魔法を見れる日が来るなんてな」
「それはあの王国とのカッツェ平原との戦いのときか。あの時は私も興奮したものだよ。ユグドラシルでは打ち立てられなかった黒い仔山羊の五体召喚を成し遂げることができたのだからな。ふふ…、今回は一体何体召喚できるか?楽しみだ。…ああ、楽しみだ!」
隣でこれから起こることに笑いを浮かべる友のアインズを見て、男も自然と口角が上がり、小さな邪悪の笑みを浮かべる。
「俺も楽しみだよ、それじゃあ…」
「ああ、そうだな。それじゃあ…」
お互いこれから始まる出来事に、胸を躍らせながら絶望の一言を宣言する。
「「蹂躙を始めようか!」」
その瞬間、魔法陣が完全に完成し、その魔法の効果である黒いものが周囲に吹き抜けた。
それは2人の近くに立っていた兵達は勿論、丘の前に迫っていた兵にも効果を及ぼし、全軍の3分の1の兵が糸の切れた人形のように地面に倒れ伏す。
◆
「一体何が起きたのだ?」
砂粒ほどの希望を信じてこの戦争の行く末を見守っていた王は、自身の兵の1人があの死神の首を斬り落とす未来を幻視した。だが、その儚くも夢のような未来はたった一つの金属音によって掻き消えた。
首を確かに斬られたあの死神は、まるで何事もなかったかのように悠然と立っており、その後、隣に立つ骸骨と何か話す素振りをした後、骸骨が手に持っていた物を砕いた瞬間に、
「あれが、あの噂に名高い絶望と狂気の死神か…。なるほど、その力を私は見ていなかったが、これならば国が恐怖で膝を折るのも理解できるというものだ…」
あれほどの理外の力を見せられたというのに、騎士団長はまるで見世物を見たかのように、敵の力量を冷静に測る。いや、この冷静さこそが彼を騎士団長という位にまで就かせたのかもしれない。
確かに強力な一撃ではあったが、あれほどの力をそう何発も撃つことはできまい。
もし仮にできたとしても、あれには放つ為の準備時間が相応に必要であると推測できる。
さらに、即座に使用するには遠すぎて見えはしなかったが、あの骸骨が砕いた何らかのアイテムが必要になる筈だ。
あれほどの強力な魔法を速攻で使えるようにするアイテムなど、そう数があるはずがない。
これらの推測から取れる対応は、残りの兵の気持ちを再び奮い立ちあがらせ、再び襲撃をかける。
そして、もしあの骸骨が再び魔法陣を使用する気配を見せたら、即座に撤退の合図をかける。
あの魔法は確かに強力だが、効果範囲がある。この障害物も何もない草原ならば、多数の兵という邪魔者を除けば、速やかな撤退ができる。それさえ上手くいけば、ある程度はあの魔法の犠牲を減らせる筈だ。
こちらも大きなリスクがあるが、あちらも相応の消費はするはずだ。
だが、まだこちらには残り3分の2の兵士たちが残っている。
どうせ、ここにいるのは死ぬ覚悟を大なり小なり済ましてきた者たちだ。またほんの少しの希望を見せれば、再び立ち上がるだろうと、甘い考えを頭の中で考えていると、騎士団長の目に…否、生き残った者たち全ての目に再び絶望が強大な姿で現れる。
◆
「随分と数が減ったな。死んだのはおよそ10万人といったところか?」
「いや~、こんだけ多いと、おおよその数を出すのも難しいな。とはいえ、確かに6ケタくらいの死人は出たんじゃないか?皆生きる為に必死で迫ってきていたし、結構な数が犬死したぜ!」
アインズは冷静に、死神と呼ばれる男は楽しそうに死んだ人間の数を予想する。
「ならば、今回も新記録が更新できるかもしれないな?」
「いや~、黒き豊穣の母神様も子供を5人…いや、5匹までしか産めないんじゃないかな~?」
これから始まる更なる絶望の宴の主役が一体何体現れるのか、2人は子供のように楽しそうに話す。
そんな2人の期待に応えるかのように、死んだ兵たちの上空に黒い巨大な玉が出現する。
◆
「なんだ!?あれは一体何なんだ!もう、…これ以上我が国の人間を殺すのを…やめてくれ…」
王はすがるように、決して声の届かぬ遠い距離に立つ男に向けて、その頭を下げて地に這いつくばる。
もうこれ以上の虐殺を目に入れない為に、もうこれ以上の理解の及ばない光景を視界に映すのを拒むように……。
「一体何が始まろうというのだ?まさか、あの魔法の効果はあれだけではなかったというのか!?」
王が崩れ落ちるように地面に倒れるなか、騎士団長は即座に全軍に指揮をとれるように、これから起こる事態に目を逸らさまいと、食い入るように黒い球体の動きを見つめる。
やがて、黒い球体が地面に触れると、シャボン玉のようにパッと破裂し、中身の黒い液体が地面に横たわる死体の海を喰らいつくしていく。
黒い液体のような何かは一切の光を通さず、飲み込まれた死体がどうなったのかは見ているだけでは何も分からない。
だが、一つ確実に言えるのは、これから遠くない近い未来に再び逃れようも抗えようもない最悪の絶望が襲いかかることだけは理解できた。
それでも、兵たちは動かない。いや、動けないのだ。恐怖と未知の絶望が兵たちから現実感を忘れさせ、まるで出来の悪い悪夢を見ているかのような感覚に陥らせているのだ。
そして、黒い液体が地面に転がった死体全てを飲み込むと、その中心からぽつんと一本の黒い木が生えてきた。
最初は木?と混乱していた兵たちだったが、それを皮切りに次々と同じようなものが生えだしてようやく気付いたのだ。あれは木なんてありふれた物ではないと――。
『メェェェェェエエエエエエエ!!』
戦場に似つかわしくない可愛いらしい山羊の鳴き声が聞こえてきた。普段ならばその声に癒されもするだろうが、その声を発している存在を目にして、癒されるとは正反対の恐怖を覚える。
見れば木だと思っていたものは、先程聞こえた山羊の声で鳴いていた化け物の触手の一部だった。
その化け物は全身が黒一色で、体にあるのは無数のデカイ口と根っこのような触手の塊だった。
そんな化け物が戦場に現れた数は合わせて5体。
どうやったって人間が適う領域の生き物ではない。そう本能で悟ると、仲間の死でギリギリだった心のダムはあっけなく決壊した。
隣に立つ者か、あるいは自分自身の声だったのかは分からないが、恐怖の声が化け物の鳴き声と変わらない大きさで戦場にこだました。
それをきっかけに僅かな砂粒ほどの希望はあっけなく恐怖の声と共に体の外へと飛び出し、動かなかった足はひとりでに動き出し、考えるよりも先に化け物とは反対方向へ走りだしていた。
「うわああああああ!!!」
「こ、こんなところ来るべきじゃなかったんだ!!!」
「死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
「速く!もっと速く!あの化け物が追いつかない場所に!!??」
既に戦場は阿鼻叫喚の地獄へと変わり果て、皆着ている鎧や手に持つ武器を無造作に放り投げ、少しでも身軽になって逃げだそうと、涙ながらに叫んでいる。
ある者は後ろから押し寄せてくる無数の味方に圧し潰されて、ある者は誰かが投げ捨てた鎧や武器に足を取られて転び、ある者はせめて楽に死ねるようにと舌を嚙み切る。
化け物は産まれてきた場所から一歩も動くことなく、大量の兵を殺すことに成功する。
「さて、我が友よ。いつ子山羊たちを動かすつもりだ?」
「待てアインズ。まだ絶望の時は終わっていない。俺に喧嘩を売ったんだ。それ相応の地獄ってのを見せてやらねぇといけねぇ!」
丘の上で子山羊たちに待機命令を出したまま、2人は逃げ惑う人間たちを観察する。
それは、敵も同じだった。出現した化け物が動かないことに気づいた騎士団長は喉が張り裂けんばかりの大声で兵たちを落ち着かせようとするが、誰も彼もが恐怖の声を上げて一斉に動いている為に、その耳に騎士団長の声は全く届いてはいなかった。
「っく!兵たちよ落ち着くのだ!!!恐怖で視界を狭めるな!敵はまだ動いてはいない!冷静になって足を止めよ!!!――ッッックソォぉ!!!どいつもこいつも役に立たん!!!」
荒波に小石を放り込んで鎮めようとするくらい意味のない行為だと理解すると、恐怖で逃げ惑う兵に悪態をついて頭に被っていた兜を地面に叩きつける。
これからどうするか?あの化け物と戦うか、このまま兵に紛れて逃げ出すか?この二択は実質この状況では一択しか選択しようがないが、あの化け物や死神が簡単に逃がすとは考えづらい。
それに、何故あの化け物たちは追撃を仕掛けてこないのか?それが恐ろしく、このまま逃げた先に何かがあると歯をかみしめながら確信する。
「なんだこれは!?」
「おい噓だろ!!?」
「霧が!?霧が出てきやがった!!?」
その異変に真っ先に気が付いたのは軍の最後尾に配置された兵で、逃げ出す兵の最前線で走る者たちだった。
草原を抜けて森に入ろうとしたとき、突如として先が見えないほどの濃い霧がどこからともなく発生して、森に入る兵たちを飲み込んでしまう。
そして悲劇が巻き起こる。
この霧が例のあの霧だろうとそうでなかろうと、今はただ遠くへ逃げなくてはならない。
あの化け物の手が届かない何処か遠くへと――、その思いで走り続けていると、霧の中からこちらに向かってくる人影が薄らと見えてくる。
「うわぁ!なんで前から後ろの奴らがやってくるんだよ!?」
「知るか!お前らこそなんであの化け物のいる方に戻ってくるんだ!?」
「やっぱり!この霧は巻き戻しの霧なんだ。もう誰もここから逃げられないんだ!」
誰もかれもがこの事態に困惑や怒りなど、様々な負の感情を言葉に乗せて仲間であるはずの存在にぶつけ合う。
その様子を遠くの丘から眺めていた者たちがついに動き出そうとしていた。
「ふ~む、ここまでして王国騎士団長の動きはなし。他にも警戒に値する者はおろか、立ち向かおうとする勇者も存在せずか…」
「やはりがっかりか?このような予想通りの結末に?」
「ああ、ハッキリ言って物語とかじゃさ、こんな絶望的な状況で主人公が覚醒やら作中最強クラスの人物が助っ人として登場が定番だからさ。俺だってほんのちょっとは期待したんだぜ?けどよ、やっぱり現実は無情だよな。こうして絶望を希望に変える勇者は現れず。待っているのは死が確定した未来のみ…」
つまらない結末に心底ガッカリしたように隣に立つアインズに指示を出す。
「もういい。見るべきものは見た。あの中に子山羊たちを突撃させてくれ」
「了解した。それでは、行け子山羊たちよ!進軍を開始せよ!」
『メェェェェェエエエエエエエ!!』
ついに動き始めた子山羊たちに逃げていた兵士たちは更なる悲鳴を上げる。
「もうダメだ!皆ここで死ぬんだ…」
「ちくしょう!俺が一体何をしたっていうんだ!?」
「どうせ死ぬんなら、せめて優しく殺してくれ」
膝をついて泣き叫ぶ兵たちの声を聞きながら、離れた場所で戦況を見定める騎士団長はもはやここまでかと隣でふさぎ込む王を抱え上げる。
「な、何をする!?」
「もはやこの戦争に勝ち目は一切ありません。ここは兵たちを囮にして逃げることだけに徹しましょう」
「何をバカなことを!?国のために命をかけてこの馬鹿げた戦争に参加してくれた民たちを置いて逃げられるものか!」
「そうですか。ならば、ごめん!」
「ぐふぅっ!!?」
抵抗する王の首元を殴りつけ気を失わせると、そのまま王を抱きかかえたまま逃走ルートを模索する。
あの化け物たちから逃げ出そうにも、森は決して抜け出せない巻き戻しの霧が立ちふさがっている。
ならば残るはあの丘の向こう側しかあるまいが…。
無理だろうな。ハッキリといってあの化け物たちを相手にする方がまだ希望がありそうだ。
つまり、現状ではこの場を抜け出ることは不可能に近い。
このまま化け物が兵を殺している隙をついてどうにかできるか?
考えれば考えるほどこの戦場から抜け出すののが不可能に思えてくる。
かつては、戦場の獅子とまで恐れられた私がこうも何もできないとはな。
本物の化け物を相手にすればいかに敵から怪物だと恐れられたこの剣技も所詮は人間の枠を出ない程度のものだと思い知らされる。
情けなさと悔しさが胸中で渦巻くが、そんな不安定な精神状態でも生き延びるために、戦場のどんな動きも見逃さまいと全神経を集中させている。
が、それでもアリ一匹逃げ出せる隙が見つからない。あの化け物たちの群れを抜けて森に向かうのも至難の業だが、その向かう森の霧の対処すらどうすればいいか分からない?
完全に手詰まりとなったなか、あの化け物たちが兵を蹂躙していくさまを見ながら、こちらを眺めている死神を恨めしく思う。
そんな視線を受けている死神は、ただ呆然と目の前の景色を眺めている。
なぜこのような地獄が巻き起こったのか、それ時が遡ること17年前――
死神と呼ばれた俺はかつては日本という国で生まれ育った。そこには戦争もなく飢餓もない、およそ平和と呼べる安全な国だった。
そこで俺は23年間生きてきたのだが、ある日の深夜に俺はコンビニで酒の肴を買おうと出歩いていたら、突然眩しい光りがしたと思った瞬間に、体中から激痛が走り一瞬の浮遊感に襲われた。
最初は何が起こったのか分からなかったが、しばらくして気が付いた。
ああ、これ車に跳ねられたんだなって。
そこから先のことはよく覚えていない。ただ苦しいのと恐ろしいという思いで一杯だったというのはなんとなく覚えている。
それから気がつくと、俺はこの世界に立っていた。服はボロボロの麻布で、周りはコンクリートではなく土の地面で、家は木で出来た簡素なものだった。
そこからしばらくは苦労の連続だった。言葉は通じるが互いの常識のすれ違いや、貧しい故の心の余裕のなさによる理不尽な扱いや暴力が俺の中の常識をだんだんと変えていった。
頼る者もおらず、何かができる知恵も力もなかった俺はただひたすらに走り続けた。口に入れるのは地面から這い出てきた虫や、泥で汚れた汚水という最低以下の食事だった。
日本人だった俺の精神は何度も拒否したが、腹に何も入っていない体はそれを無視して口に放り投げた。
何度も嘔吐し、何度も涙を流していた。周りを見ても、俺と同じ食事をするのは極わずか。上等な物を食べているというわけではないが、それでも食べ物とかろうじて表現出来る物を食べている。
最初はそれを少しでもいいから恵んでもらおうと声を掛けたが、案の定断られた。更には、親の仇とも呼べるような目でこっちを睨んで叩く蹴るの暴行を喰らわされた。
やせ細り皮と骨だけの体で大人?(おそらく栄養が足りてないため背が低い)に殴る蹴るをされれば痛みは尋常ではなかった。
それからは他人に近づくことすら恐怖の対象だった。他人の目を避け、恐怖と空腹に怯えながら暮らす日々は確実に俺の精神を破壊していった。
最後にはただ笑うことだけが幸せとなり、空を見上げて不気味に笑うことが日課となっていた。
だが、そんなことで空腹は紛れもしないし、体も癒せはしない。
とうとう俺は何もない場所で倒れこみ、残った力で仰向けになって空を見上げる。
そこには青空と風に乗って流される雲が見える。
こんなにもいい天気だ。死ぬには絶好の日和だなっと苦し紛れの言い訳をするも、心の中では悔しさに満ちていた。
「くそっ、もう涙すら流せる水分も残っちゃいないや…」
かさついた声で、涙すら出ないカラカラのミイラみたいな体に文句をつける。
「いい天気だ。こんな天気だ、そ~らを自由に飛びたいな…助けてドラエモ~ン」
ふとこんな青空を自由に飛べたら気持ちいいだろなと思うと、小さい頃に見ていたアニメの主題歌を思い出し、青いネコ型ロボットに助けを求めてみる。
「ふふ、なんてな…」
いい歳した大人がアニメキャラに助けを求めるなんて恥ずかしいと思い眼を瞑って楽になるのを待つ。
「ん?誰か呼んだ。って、わあ!?君こんなところでどうしたの!!?」
誰かが騒いでいる。なんだか懐かしい声だ。聞き覚えのある高い声。どこで聞いたっけかな?ああ…、そうだ。思い出したドラえもんだ。
こんな最後で聞く声がドラえもんだなんておかしな話だ。どうせならこのまま困っている俺を助けてくれたらな、なんて都合のいい話が――!?
「ぐもっ!!?」
突然口の中に何かの液体を流し込まされる。不意の事だったから何の抵抗もできずに、謎の液体をがぶがぶと飲んでしまう。
「ぶはっ!!!誰だいきなり!?」
目を見開いて起き上がるとそこには信じられない者が立っていた。
「ああ、よかった。目が覚めたんだね」
青と白の体色で赤い鼻に3本髭が生えた、お腹に特徴的なポケットをつけた俺もよく知る国民的アニメキャラでその名前は――
「僕の名前はドラえもんって言います。君の名前は?」
子供たちの夢を叶えてくれるドラえもんだった。
異世界の悪役キャラといえばアインズ・ウール・ゴウン様なのは絶対である。
異論反論は却下する。