CUE!~Si Vis Pacem, Para Bellum~ 作:ラッキー
リフォームが終わって1週間も経っていないエールブルーの寮の敷地内には本棟の他に別棟という形の管理人室が存在する。
洗濯物などを干す為に物干し竿が設置されている芝生が植えられた庭の隅ーー寮から渡り廊下を進んだ先にあるのが管理人室である。
室内の広さは19㎡程度だが小さいながらもバスルームと洗面所、トイレ、簡単な調理スペースは完備されている。一人暮らし用の1K程の間取りだと考えれば良い。
警備員と寮の管理を兼ねた仕事をマネージャーと同時に遂行するーーなんとも無茶苦茶な事を真咲は言うモノだ。
とはいえ彼女曰く佐々木が同じ敷地内とはいえ寮に住むのは「万が一が起こった際の対応要員」という名目である。
それは理解出来たのだが彼が最も懸念するのはーー寮へ住む所属声優達の存在だ。有り体に言えば女性ばかりなのである。色々と反対意見が出ないか、と真咲へ尋ねたのだがーー
「ーー間違いは犯さないでしょう?なら問題ないんじゃない?」
それはそうなのだが、そういう意味ではないのだーーと彼は声を大にして言いたかったが、その分の特別手当は給与へ含めるの一言で渋々ながら頷いてしまった。意志が弱いのか、それとも給与の上下に関わる事だからかなのか。自身で頷いてしまった事とはいえ、自嘲の溜め息が漏れたのは言うまでもない。
真咲と雇用契約を交わし、無事に入社となれば今度は大家と賃貸契約の解消へ動く事となる。幸いにもこちらはスムーズに話が進み、約3ヶ月しか住んでいなかったのもあって特に高額な退去費用は請求されなかった。
電気やガス、水道も無事に止め、白いボディの愛車であるパジェロへ世辞にも多いとはいえない荷物などを詰め込んで寮への引越しが始まった。
「…どっこいしょ…」
愛車から最後の荷物を降ろし、寮の中を通って管理人室へ辿り着くとそれをフローリングの床へ静かに置いた佐々木は一息吐いた。
特別に丸一日を休日にして貰い、明日からは続々と入寮する声優達のマネージャー兼寮の管理人として慌ただしい毎日が始まるとの事で彼は今日の内に引越しを済ませなければならなかった。
備え付けのクローゼットの扉を開け、ハンガーへ通されたままの私服やスーツの類いを収め終わり、少し休憩しようと管理人室の外へ出た。
肌寒さは少しずつだが増している外気の中で佐々木は愛煙の煙草を銜えて火を点けて紫煙を燻らせる。
当然だが寮内は禁煙だ。煙草を吸う為には外しかない。
とはいえ庭先に物干し竿がある以上、洗濯物が掛かっている場合はここでも吸うのは憚られるだろう。
持ち込んだ蓋付きの灰皿を手に掴みながら紫煙を燻らせ、灰を叩き落としているとーー寮内から渡り廊下を歩いて来る人影が現れた。
「ーー引越しは進んでる?」
「ーー社長、お疲れ様です。えぇ、順調ですよ」
スーツ姿の真咲が現れ、佐々木は軽く頭を下げながら吸い掛けの煙草を消そうとするがそれを彼女が制した。
「気にしないから大丈夫よ。それと…前にも言ったけど佐々木くんも私の事は真咲で構わないわ」
所属声優達やチーフマネージャーとなった りお からは基本的には“真咲さん”と呼ばれ、コーチの桐香からは呼び捨てだ。社長と堅苦しく呼ばれるよりもそちらの方が好み、と告げられると彼も頷く。
「分かりました真咲さん。…引越しの方はほぼ終わりました。荷解きにも時間は掛からないので…それが終わったら寮内の点検と掃除でもする予定です」
「ゆっくりして構わないのに…」
「じっとしているのが退屈なだけです」
肩を竦めながら佐々木は愛煙の煙草を手早く吸い終えると火種を潰しつつ吸殻を灰皿へ放り込み、蓋を閉めて鎮火させる。
「…廊下を中心にワックス掛けが不充分に見えたので塗り直しと…ポリッシャーでも掛けようかと」
箒やモップ、バケツなどが仕舞われている掃除用具室の中にポリッシャーやワックスを発見した為、声優達が入寮する前に寮内を綺麗にすると彼は告げる。
「私は綺麗だと思ったのだけど…」
「塗られていない場所を何ヵ所か見付けてしまったので気になってしまうんです」
その気になってしまう原因を作ったのは彼の前々職ーー自衛隊の新隊員の頃であるのは言うまでもない。
「…そこまで言うのならなら…お願いするわ。でもあまり念入りにはしないでね。基本的にはあの子達の自主性に任せたいから」
「分かりました」
彼女へ頷くと佐々木は引越し作業の続きに戻ると告げて管理人室に戻る。開いた扉から真咲が室内を覗き込むとーー違和感を覚えた。
「…ん?」
「ーーどうかしましたか?」
狭い玄関で革靴を脱いだ佐々木は首を傾げた。狭いキッチンスペースの側に隣接したバス、トイレへ通じる扉がある短い廊下の先ーー本来であればベッド、テレビなどの家具がある筈のフローリングを眺める真咲は拭い切れない大きな違和感がなんなのか察しが付いてしまった。
「…佐々木くん。ベッドは?フローリングだけど…もしかして布団派なのかしら?」
「…いえ、どちらでも眠れますが…寝袋がありますので…」
「……テレビは?」
「スマホとノートパソコンがありますし…」
圧倒的に家具が少ないーーただ眠りに戻る為だけの部屋へ成り下がる可能性が非常に高い、と真咲は瞬時に理解してしまった。
テレビがなくともスマホやノートパソコンがあれば情報収集には問題こそないのは真咲も同意出来るがーー流石に寝袋で眠る事については論外だ。頭痛がしてきたのか彼女は額を押さえつつ佐々木に声を掛ける。
「……はっきり言うわね佐々木くん。…ベッドを買いなさい。睡眠の質が違うわよ。むしろ買ってちょうだい」
「ベッドを?…布団や枕も買わなければなりませんし…それなら寝袋の方がスペースも取らないので効率的です。手入れも楽ですし」
「……私が社長命令を出さない内に買いなさい。ニノリかイキアへ行って…」
「……はぁ……」
問題ないのだがーーと佐々木は不思議でならなかったようだ。
結局、真咲が仕事へ戻る為に寮を去った後、彼は愛車へ乗り込み、ネットで検索した店舗で言い付け通りにシングルベッドとセットで布団類も購入する運びとなった。
鼻歌混じりに寮の廊下や共用スペースへワックスを掛け、乾いた後に軽くポリッシャーを掛け終わると仕事も一段落だ。
片付けも終わり、一服済ませたら夕食を食べに出掛けようと考えた頃、黒いジャケットの内ポケットへ収めていたスマホがバイブレーションを起こす。着信はメールであると気付きながら渡り廊下を歩き、庭先へ出た彼はスマホと共にソフトパックを取り出す。まずは煙草を銜えて火を点けてから携帯の着信をチェックするとーー真咲からのメールであった。
〈お疲れ様。急で申し訳ないけれど佐々木くんの歓迎会をスタッフ一同でやるから19時に神瑞駅前に集合してね〉
19時ーーあと2時間ほどか。秋が深まり始めた季節は夕暮れも早ければ夜の帳が降りるのも早い。西日は大きく傾き、18時を迎える前には夜を迎えそうだ。
集合時間を確認すると彼は了解の返信を打ち込んで真咲宛へ送ると紫煙を吐き出した。
準備を早く済ませようと佐々木は一服を終えると直ぐに管理人室へ入り、着衣を脱いでバスルームへ入った。基本的に彼はシャンプーやボディーソープは使わない。全身を泡立てた石鹸で洗う事にしている。理由はーー楽だからだ。
シャワーで泡を洗い流し終えるとフェイスタオルで水気を拭い取る。バスタオルも持っていないのだ。
ミニマリストを気取っているつもりは毛頭ないが、使う可能性が低いならば持っていても無用の長物。それが彼の意識であるようだ。
クリーニングを済ませている新しいワイシャツとスラックスを纏いーー拘りでもあるのかデザインは同じだが、彼は下着類を洗濯籠の中へ詰め込んで寮内にある洗濯室へ運び、持参した洗剤と柔軟剤を入れて洗濯機を回した。
洗濯が終わるまでにーーと管理人室へ戻れば革靴をブラシや靴墨、コットンで磨き始める。汚れをブラシで落とし、靴墨は別のブラシに適量を取って入念に革靴へ馴染ませつつ擦り付ける。乾燥した所でブラシを交換して光沢が出るまで磨き上げた。爪先は別の靴墨をコットンへ水も含ませつつ円を描くように慣れた手付きで磨き上げればーー鏡の如く自身の顔が映るまでになった。
暇潰しであるのもあり、たっぷり30分ほど掛けて革靴を磨き終えるとそろそろ洗濯機が止まる時間帯だ。腰を上げて佐々木は洗濯物を回収へ向かい、それを洗濯籠へ放り込むと洗濯ハンガーへそれらの皺を伸ばしつつはさみ込み、庭先の物干し竿へ掛けて乾かし始める。
これで暇潰しも終わりだ。出発する前にジャケットと外套を着込み、クリーニングへ出す衣類を片手へ吊るすと寮内の電気を全て消し、玄関の施錠を確かめてから出掛けるのだった。
「ーーそれじゃ新しく入社した佐々木くんの前途とエールブルーの益々の発展を祝して…かんぱーい!」
待ち合わせ場所へ真っ先に到着したのは佐々木が最初だった。今回の歓迎会に参加するというスタッフーー真咲、りお、そして桐香が到着したのは予定していた時間の10分前である。
予約をしていたという個室の居酒屋へ辿り着き、まずは全員が飲み物や軽食を注文し、それぞれの品物が運ばれると真咲が音頭を取って歓迎会が始まった。
取り敢えず最初は生ビールの中ジョッキなのは何処の業界の歓迎会でも同じなのだろうか、と佐々木は考えつつ三人のジョッキと自身のそれを合わせてから白い泡と黄金色の液体の比率が完璧な生ビールを嚥下する。
そういえばアルコールを飲むのは久しぶりだな、とここ数ヶ月の記憶を思い出しーー空になったジョッキを卓上へ静かに置いた。
「ーー早っ!?」
「佐々木くん、良い飲みっぷりだけど明日に引き摺らないでね?」
「そういうのは無しよ桐香。今夜は無礼講だから佐々木くんや二人も気にせず飲んじゃって」
「…良いのですか?」
「良いの良いの。若いんだから宴会のお金の事は気にしないの。ーー次も生中で良い?」
乾杯と言われたから“乾杯”しただけなのだが、一気に飲み干した彼に並んで腰掛ける桐香とりおは驚きながらも彼が早々に酔い潰れないか心配する。しかし佐々木の隣へ腰掛ける真咲は気にする素振りも見せずに次の注文を彼へ尋ねる始末だ。ーーウィスキーのロックにしようか、と一瞬脳裏を過ったが、まだ他の三人がビールなのに別の飲み物を注文するのは憚られ、真咲へ頷いてみせる。タッチパネルが真咲の手で操作され、次の注文が確定すると佐々木は手を伸ばして塩茹でされただけの枝豆を摘まむと鞘の中から豆を出して口に運んだ。
「佐々木くんはお酒は強いのかしら?」
「…人並みだと思いますが…限界に挑戦した事がないのでなんとも…」
中ジョッキを両手で掴んで静かに生ビールを嚥下する桐香が尋ねると彼は咀嚼した枝豆を飲み込んでから返答した。実際、あまりアルコールは好きという程ではないのだ。せいぜい飲んでも良いなら飲む、程度の好みしか持ち合わせていない。
「え~?でも自衛隊の飲み会っていうか宴会って…めっちゃくちゃ飲むイメージあるんだけど」
「…部隊によって宴会の頻度や規模は変わるかと思いますが…飲み放題プランの時は…最初はピッチャーに注がれたビールを飲み干してから注文をするシステムの店も駐屯地や基地の近くにはあると聞きますね」
「…ピッチャーって…これ?」
りおが目を丸くしながら卓上の隅に置かれている氷水が入った1L程度のピッチャーを指差した。
「えぇ。まぁ三名で2Lのピッチャーを飲み干してから次の注文に入れた、と東北の部隊にいる同期からは聞きました」
「やっぱりメッチャ飲むじゃん!」
「同期は下戸だそうですよ。中ジョッキ5杯でダウンだそうです」
「それ下戸じゃなーい。下戸ってぜんっぜん飲めない人のこと~」
一般的な人よりも弱い程度ではないか、それで下戸呼ばわりされたら大半の人間が下戸扱いとなってしまうとりおがほんのりと上気を始めた頬を染めながら告げていると店員が新しい中ジョッキを携えて席へ運んで来た。空いたジョッキと交換して受け取ると佐々木は届いたばかりのそれの縁へ口を付けて三口ほどを嚥下する。
それから時は流れーー2時間コースでの飲み放題プランだそうだが1時間を超える頃には彼を除いた3名は出来上がり始めていた。
りおは普段の性格が反映されてか笑い上戸になりつつあり、桐香も微酔い気分なのかいつにも増して笑顔を浮かべているのだがーー
「ーーあんの音響監督…いつもいつもうるさいのよねぇ。“もう少し声を若く”ぅ?好きで年取った訳じゃないわよ!」
ーー真咲の愚痴が止まらなくなって来ているのだ。社長でありながら、現在も業界の第一線で活躍する声優である彼女だがアルコールが入ったのもあって普段の鬱憤が洪水のように漏れている。
「…あの真咲さん…水飲みましょう?」
一応は新人歓迎会ーー自分の歓迎会の筈なのだが何故自分が気遣わなければならないのだろう、と疑問を抱きながらも佐々木は水を注いだグラスを真咲へ差し出した。
「あ~ありがとう佐々木くぅん。優しいわねぇ…あなたの優しさをあの監督に分けてあげたいわぁ…」
「あの監督ねぇ…私が現役の頃も色々と無茶ぶりが多かったわ。要求に応えないと癇癪起こして仕事放棄しそうになるし…」
「ホントよ全く…人に物事を要求するなら筋を通せって話よ。道徳の時間、寝てたのかしら」
一応、真咲と桐香も声優としてはキャリアを積んでおり、現役と引退した違いこそあれ、人気声優と言って差し支えないのだとネットサーフィンや先輩マネージャーとなる りおからの話で聞いていた佐々木だがーーこの場面はファンの面々にはとても見せられない気がしてならなかった。
既に生ビールだけを7杯飲み干しており、そろそろ限界値が近くなる。飲んだらその分だけ出さなければならないのだ。
「……ちょっと失礼します」
「お手洗い?気を付けてね~」
ーー確かに中座するのはそれが目的だが、真咲の良く通る声で言わなくても良いではないかと佐々木は思いつつ店内のトイレへ向かった。
用足しを済ませて席へ戻ろうとするがトイレの直ぐ横に隔離された喫煙所を発見し、一服もしていこうと扉を開ける。
アルコールを摂取するとニコチンも欲しくなる衝動へ従い、佐々木は愛煙の煙草を銜えてジッポで火を点けた。
先程までの席で少し話に出た程度だが、ここでの飲み食いが終わったら次は二次会へ突入すると耳に挟んだ。
世間は花金ーー言葉自体はだいぶ古いが、兎も角として世間は金曜日の夜を迎えている。明日が土曜日という事もあり、学校が休みとなる日を狙って入寮する声優達の迎え入れを図ったのだ。
つまり彼は明日はチーフマネージャーであるりおと共に声優達の迎え入れに忙しい。あまり酒を明日に残したくないのが本音だがーー歓迎会を途中で退席するのは礼儀としてどうかと考えてしまう。
これも給料の内だ、と付き合う事を決心した佐々木は短くなった煙草を灰皿へ揉み潰してから喫煙所を抜け出て席へ戻ったのだがーー
「ーーあ、お邪魔してま~す」
「ーーはじめまして~」
ーー増えてる。具体的に言えば見覚えのある物腰が柔らかそうな茶色の髪を背中ほどまで伸ばした女性、そして初対面の黒い帽子を被り、長い金髪が腰まで届いている女性が何故か佐々木の不在中に増えていた。
「あ~戻ってきた戻ってきた。ちょーど佐々木くんの話をしてたのぉ」
「こちら夜峰さんと日名倉さん。二人ともエールブルーの所属よ」
「二人で飲みに来てたら私達の声が聞こえたみたいでね~」
真咲、桐香、そしてりおが順番に佐々木へ説明や女性達を紹介すると件の二人は小さく頭を下げる。
「…はじめまして…と言っても夜峰さんには以前お会いしましたね」
「うっそ!美晴、このイケメンと会ってたの!?ずるいじゃん!」
「違うわよ莉子。りおさんとスカウトをしている佐々木さんから声を掛けられただけ。ーー改めまして夜峰美晴と申します」
「皆が新しいマネージャーのこと話してたから気になってけど…まさかこんなイケメンだとは思わなかったなぁ。日名倉莉子でーす」
「ご丁寧に。佐々木 政敏です」
自己紹介を交換しながら彼は席に腰掛ける二人を観察する。どちらも属性は違うようだがーーいわゆる“お姉さん気質”と言えば良いだろうか。世話焼きの雰囲気が嗅ぎ取れる。事務所へ所属している声優達のプロフィールは流し読んだが記憶にある限り、この二人は他の面々よりも歳上だった筈である。世話焼きの雰囲気を感じ取ったのはそれも原因だろうと佐々木は考えた。
「真咲さん達はあと何時間で退店ですか?」
「え~?うーんと…あと50分ぐらいかしらねぇ」
「おっ、あたし達と同じぐらいじゃないですかー」
「このお店出たら二次会でカラオケにでも行こうかと思ってたんだけど二人も来る~?」
「それは良いわねぇ!桐香にボイスレッスンで鍛えられた歌声を聞かせて欲しいわぁ!」
「真咲ったら飲み過ぎよ、水を飲みなさい」
これは妙な流れになって来たーーと彼は咄嗟に今すぐハンガーへ掛けた外套を回収し、さっさと帰りたい衝動に駆られてしまう。
これからマネージャーとして仕事をしていく身であるにも関わらず親睦を深める努力を怠るのはなんという事だ、と何処からか怒られる可能性もあったがーー彼として親睦はゆっくり時間を掛けて深めて行きたい派なのだ。
そんな彼の想いはーー当然ながら程度の差こそあれ、酔いが回っている彼女達へ通じる訳がない。比較的、素面に近い桐香でさえ、目の下の頬が色付いている始末だ。
「ーーならお会計が終わったら店の前で合流ね~」
「やったー!じゃあ待ち合わせまで飲み直してますね」
「それじゃあまた後で。失礼しますね」
「美晴は次、なに飲む~?」
「…うーん…芋焼酎かなぁ?」
腰を上げた二人を見送る彼の耳が美晴のおっとりとした口調の声を捉え、その意味を理解すると思わず二度見をしてしまう。ーー芋焼酎と言ったか、と言わんばかりの視線を彼女の細い背中へ注ぎながら別の個室へ向かう二人を見送った。
「……芋焼酎…彼女…夜峰さんは九州の生まれですか?」
「確か…福岡だったかなぁ。良く分かったねぇ?」
りおが正解だと告げると彼はやはりと溜め息を漏らす。勝手な認識をしているがーー基本的に九州人は酒好きが多いイメージがある。癖が強いだろう芋焼酎も男女問わずに飲んでいる印象が佐々木の中ではあるのだ。無論、個人差はあるのだろうが。
その後、会計を済ませた一同は待ち合わせ場所であった店前で合流する。
そこで莉子が自身のスマホで面々の顔から下を撮影し「これから新人マネージャーの歓迎会の二次会です」という一言を添えてSNS キュイッターに投稿。
彼女が投稿した呟きと写真を目にした所属声優達のいいねが時間を追う毎に増えていったという。
ヒロインはまだ決めていませんが私の推しは、ほのかです。
マネージャーの皆さんの推し声優はどなたでしょうか?